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こんにちは!ご訪問ありがとうございます。クルーズデビューは1999年12月シンガポール発「スーパースター・ヴァーゴ」。以来、ロイヤル・カリビアン社(エクスプローラ・オブ・ザ・シーズ)、プリンセスクルーズ社、コスタクルーズ社、シルバーシークルーズ、クリスタルクルーズ、シーボーンクルーズなど、国内では飛鳥・飛鳥?U・にっぽん丸・ぱしふぃっく・びぃなすに乗り、お手頃カジュアル船からハイクラスなラグジュアリー船まで経験してきました。
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2022年10月04日

富裕層に刺さる魅力的なコンテンツとは?

通常のインバウンド旅行者であれば、日本に来たからこそ体験できる、価値のある観光コンテン ツがあれば十分です。富裕層はそれだけではダメで、価値を提供する際に工夫が必要とされます。 どんなにいい食材があっても料理人が下手であれば美味しくないのと同じで、どんなに価値のあ るコンテンツでも、提供の仕方が悪いとその価値をちゃんとわかってもらえません。

例えば、通常の陶芸工房ではお弟子さんや一般の方がグループ単位で決まった時間に伝統工芸に ついて教え、体験してもらうというコンテンツが多いのですが、それでは富裕者層は満足しません。本物のプロから教わりたいという気持ちが強いのです。富裕層向けの取り組みをされている 岐阜県の加治田刀剣さんでは、刀匠自らがマンツーマンで教えるというスタイルを取っています。 誰にでもできる体験ではないので付加価値がつき、高価格でもとても喜ばれます。この体験コン テンツは1人10万円近い料金設定ですが、外国人が殺到しているそうです。このように人間国宝 から直接手ほどきを受けて何かを作る体験など、値段は高くても一歩踏み込んだ特別なサービス の提供が必要になります。

次に「融通のきく体制」もポイントになります。富裕層は、貸し切りたいとか、普段は非公開になっているところに入りたいなどの要求が強く、特別感を大事にしています。一般の旅行者と同じものを見るのではなく、自分だけのために開けてほしい。そういった高い要求のオーダーがある ので、柔軟に対応できるような体制を整えておくことも重要です。

あるホテルのコンシェルジュの方は、富裕層のお客様から「東京大学の〇〇先生が万葉集を研究していると聞いた。うちの娘が大学で日本文化を勉強していて、今日その教授から直接レクチャー を受けたいと言っている」といったオーダーを受けたこともあるそうです。想定外のカスタムオー ダーに対していかに柔軟な対応ができるのかというところで、ビジネスが左右されます。

さらに言えば商品性、つまり商品としてきちんと完成されているのか、たやすく手に入らない稀少性があるのかという点も重視されています。「1日1人限定」とか「高価である」ということが 重要です。日本人は高品質のサービスを安く提供したがる傾向にあります。実は、価値に見合った 料金設定が大事なのです。富裕層は価値のあるものに対してはいくらでもお金を払うので、決して 安売りをする必要はなく、自信を持って値段をつけることが大切です。

これは富裕層をターゲットにした『Luxury Travel』に限った話ではありません。地域のブランド を作っていくにあたり、まずは地域の観光資源についてしっかりと把握する必要があります。実 は今あるもので十分だということです。大事なのはそれをインバウンドのビジター、あるいは富裕層の心に刺さるよう磨き上げていくことです。また、点だけで旅行する人はいませんので広域で 連携することが大切です。何かひとつフックになるようなコンテンツをもちながら、広域で連携してルートを作り、シェアしていく必要があります。さらには、ストーリー性やその土地に根付い た歴史や文化をしっかりと伝えていくことで、日本ならでは、その土地ならではの魅力が生まれます。テクニカルな部分ではしっかりとターゲットを絞り込んだプロモーションを実施していくことも大切です。

コロナ感染症の影響で外国人消えたニセコ、それでも「ホテル続々」

「世界的にコロナ感染が拡大してからは訪れるのは国内のお客さんだけですね。外国人も国内在 住の方です。昨年の緊急事態宣言では、冬場だけ働いていていた外国人が帰国できず、『コロナ難民』と言われていたのですが、そのまま住み着いた人たちもいます」(地元観光業者)

国内外からの活発な投資を背景に、ニセコエリアの中心部にあたる倶知安町の2021年の公示地価 は商業地、住宅地ともに上昇率が日本一となっています。商業地は4年連続、住宅地は3年連続というから突出しています。北海道を代表する札幌の繁華街・ススキノ地区の地価が前年比で下落し たのとは対照的です。


ニセコでは高額な不動産物件も売りに出されています。

・かけ流しの天然温泉風呂(内風呂、露天風呂)完備のヴィラ
・茶室と専用ウッドデッキが備わった新築タウンハウスユニット
・倶知安中心部 国道5号線沿いの商業物件 (1階は回転ずしエリアと厨房など、2階は事務所、居住エリア)
・家具付き高級ブティック使用のコンドミニアム(1ベッドルーム) 4890万円

2030年度末には、北海道新幹線が延伸し、新函館北斗~札幌間の約212kmが開業予定となっており、この区間にはニセコエリアの倶知安駅も含まれ、駅前整備が予定されています。さらに、2030年札幌五輪誘致の動きもあります。大会概要案では、アルペンスキー競技を後志管内倶知安町とニセコ町で行うことになっています。

一時と比べると投資熱は落ち着いてるようですが、北海道新幹線延伸などを見越した海外富裕層 の投資活動は今も続いています。今年に入りマカオなどでカジノを運営する大手グループがニセコ でホテル等を開発すると発表しました。報道では投資金額は400億円とのことです。6月にはマ レーシア企業のコンドミニアム建設も報じられています。少し離れたエリアになりますが、外資系高級ホテル、パークハイアットニセコHANAZONOが昨年オープンしましたし、アマンニセコは 2023年開業予定となっています。


経営難の旅館を買収する富裕層、そしてニセコ

今は観光産業に暗い影が差していますが、今後インバウンドが回復する兆しも見えているのです。 インバウンドに詳しいクロスシーの執行役員の山本達郎氏によると、日本には来られないが、経営難の旅館を手頃な価格で買収している富裕層もいると言います。今後の日本観光の回復と発展 に備えたうえでの投資だとみられますが、地域全体の努力および積極的な情報発信に踏み出す価 値があることを示す、1つの動きとも考えられるでしょう。
堀江貴文氏と宮台真司氏がYouTubeで「日本が生き残る道」について対談をしていました。

水や食べ物が豊かで、平和で、かといってどこか『珍妙さ』が残る国、日本。その珍妙な存在が居続ける国のオリエンタリズムを売りにすれば観光立国となりうる、どこにでもあるものをクー ルに魅せることで勝負するのではなく、日本独特の『珍妙さ』で旅行者は刺激されるいうのです。かつて打ち捨てられていた町ニセコは、既得権益がなかった分思い切った改革ができた例とし て挙げられていました。

ニセコといえば国会議員の逢坂誠二氏がニセコ町長時代に、全国で初めて地方自治体の憲法とも いえる「ニセコ町まちづくり条例」を制定したことで有名です。ニセコ町視察に行きたいとなると、宿泊の手配と旅程調整は株式会社ニセコリゾート観光協会が窓口となりやってくれます。観光協会を株式会社にしたのはニセコ町が初めてです。町長を観光資源に据え、商品として視察をオー ダーメイドのパック旅行商品と捉えている点がとてもユニークです。先進的な取り組みをしていたり、人間的魅力のある首長がいる地方自治体には多くの人が訪れます。首長が人を引きつけてくれる、それだけでも経済効果があります。

ニセコの極上パウダースノーは、他に類を見ないサラサラの雪質が人気で多くの客足を呼び込んでいます。今や日本で最も国際的なリゾート呼ばれるほど知名度が上がりました。昔、誰も見向きもしないさびれた町だったのが嘘のようです。そのきっかけは、2000年頃にSNSを通じてオーストラリア人によってニセコの魅力が拡散されたことです。その後、フランス、イギリス、ドイツ、 北欧などのヨーロッパに広まり、アジア諸国からもスキーヤーが訪れるようになりました。ニセコはナイターも充実しており、温泉や北海道のグルメも満喫できるとあって、人気の勢いが止まりません。

ニセコは観光客の対象を香港・シンガポール・マレーシアなど、外国人の富裕層に特化している ことも成功の秘訣だと言われています。ニセコ地区では、外国資本による別荘や長期滞在コンドミニアムの開発、高級ホテルの建設ラッシュです。富裕層の外国人を相手にしているため、物価も世界の高級リゾート相場になっています。1泊50万円を超える高級ホテル、お寿司のランチは1万円 から3万円の価格帯も見られます。

ニセコの大自然に惚れ込んだ旅行客はビジネスチャンスを求めて、移住を決意する人もいるほど で急速に国際化が進んでいます。移住者向けのインターナショナルスクールやスーパー、レストラ ンも多く、ホテルのオーナーが外国人だったりと、国際的な雰囲気を醸しています。

「イミ消費」で世の中に役立つ旅行

イミ消費というのは、モノ・コト消費を超え、自分の消費行動によって世の中に役立つと思うこ とができる消費を指します。ミシュランで評価が高いレストランなどは、地元の農場やパートナー 企業を支えるための活動をしています。お手頃な価格のランチを提供することにより仕入れ量を増やしたり、地域を助けるための募金活動にも関わっています。街一丸となって万全を期して観光 客を迎えようとしている姿に、地域全体が支え合っていると感じて感銘を受けるのです。こうした 「一体感」に旅人は心を動かされ、来年も行きたいと考えるのです。海外でエンジェル投資家が多い理由に、「奉仕」「助け合う」などの宗教上のバックグラウンドがあるのですが、富裕層旅 行者にも、実は同様の理由があるかもしれません。

観光に詳しい三菱総合研究所の観光立国実現支援チームリーダーの宮崎俊哉氏は「今こそ日本観光産業の新陳代謝のタイミングだ」と主張します。

特に、日本でも地域やサプライヤーを巻き込んだ対策と発信を強化する必要があると言います。 星野リゾートグループが提案しているマイクロツーリズム(3密を避けながら近場で過ごす旅のスタイル)や、ホームページで自社施設内のコロナ対策を紹介している事例、コロナで困った農家や 生産者の商品を個人向けに販売するサイトの事例はありますが、国や地域、そして業界全体の取 り組み施策を発信している事例はまだまだ少ないのが現状です。

海外の富裕層も、今すぐ日本に行けると言われても、新型コロナの検査も対策も緩い日本への旅行を不安に思うかもしれません。以前宮崎氏が取材した年収2億円の30代女性は、「もしかしたら今行くと、訪日外国人に対し不安感を抱く日本の人々も多いかと思う。いつまた楽しく行けるかは不安だ」と本音を漏らしました。

だからこそ、海外へ積極的に情報発信することが大事になってくるのです。「店から地域全体の取 り組み」「イミ消費の促進」といった内容を、積極的に発信するのも重要です。こうしたことの積み重ねにより、日本への旅行を希望する富裕層への情報ギャップを減らし、コロナ後のインバ ウンド観光をスムーズに再開することができるのです。

求めているのは「本物の体験」

最近のトレンドとしては「本物の体験」を求める富裕層が多いです。インバウンド業界でよく話題 に上っている「モノ消費からコト消費」という傾向が、富裕層マーケットではより顕著に出てきます。お金を持っているので欲しいものは何でも手に入るわけですが、体験となるとその場所に 行かないとできないからです。これまで富裕層に人気だったのは、イタリアやフランスといった誰 もが知る観光地でしたが、最近ではキューバやアイスランド、クロアチアなど、これまで注目を 集めてこなかった国の人気が上昇しています。行ったことのない、何があるかもわからない国で新しい体験を求める傾向が強くなってきていて、日本も富裕層に人気上昇中の旅行先にランクイ ンしています。

富裕層が日本旅行に求めているのは食や文化、ホスピタリティなどです。訪日旅行をした富裕層に 日本旅行を選んだ理由を尋ねたところ、「本物の日本文化・伝統に触れたい」「日本人のライフ スタイルに触れたい」「日本食を楽しみたい」といったものが上位に入ってきました。そのため、日本ならではの魅力や日本でしか体験できないことを打ち出していくことが重要です。超富裕層の多い中東ですが、あちらの国では日本のことを「Planet Japan」と称することがあるようで す。日本に対して、地球外の別の惑星のように『未知なる国』というイメージを持っているそうで す。すごく神秘的で興味深く、極東の小さな国なのに独特な文化や歴史を持っていてすごいと思 われている一方で、遠すぎてよくわからないため、旅行先として候補になってきませんでした。

旅行の目的や興味関心は多様化してきているなかで、日本には、日本ならではの魅力や日本でしか得られない特別な体験など、多様な観光コンテンツが一定程度揃っているため、満足を得られているようです。一方で、今後はより幅広いコンテンツ(日本の伝統文化以外にも、自然や食、 モダンアートなど)の造成や整備を進めていくこと、また日本が発信している情報が少ない点など、今後の課題となっています。

第2章:Luxury Traveler が求めるもの 「クラシック型」と「モダン型」~ 富裕旅行者2つのタイプ

JNTOの独自ヒアリング調査で、富裕層には2つのタイプが存在していることがわかりました。1 つ目のタイプは「Classic Luxury(クラシック・ラグジュアリー)」といって、とにかく何にお いても贅沢で高価なものに価値を見出す典型的なお金持ちです。2つ目のタイプは「Modern Luxury(モダン・ラグジュアリー)」で、若い世代を中心に最近どんどん増えている新しいタイ プの富裕層です。彼らは豪華、権力、富といったキーワードよりも、文化、本物、体験といったものに対して価値を見出します。

なお、富裕者の消費に関しては、「All Luxury」と「Selective Luxury」に分類されます。前者 はとにかく何に対しても贅沢かつ豪華にお金をかける人たちで、後者は興味のないことには全く お金を使わないけれど、興味のあるものには徹底的にお金を使います。何にお金をかけるのかを 選んで消費するタイプです。

従来型の「Classic Luxury」の人たちは「All Luxury」の傾向が強く、最近のトレンドである 「Modern Luxury」の人たちは「Selective Luxury」の傾向が強いと言われています。

例えば「Classic Luxury」タイプは、常にブランド服や時計を身につけ、旅行でもビジネスクラ スにしか乗らず、5つ星ホテルにしか泊まりません。一方の「Modern Luxury」はFacebookの創業者マーク・ザッカーバーグのように、お金は持っているけれど興味のないものにはお金をかけません。

服装はTシャツに短パン、サンダルで、車にも乗らないけれど、サイクリングが好きだから何百万もする自転車は買う、日本に旅行した際は5つ星ホテルではなく日本でしか体験できない 高級温泉旅館に泊まる、といった具合です。「Modern Luxury」タイプは好きなものには徹底的 にお金を費やす傾向にあります。

自分の興味関心や本物の体験に対しては徹底的に投資するようです。タイプごとにアプローチ方法やプロモーションのポイントも違ってきますので、富裕層のインバウンドを誘致する際にはしっかりと把握しながら、それぞれに刺さるものを選んでケアしていく必要があります。

旅行費用1人100万円以上を使う富裕層とは一体どんな人たちなのか?

現在は新型コロナウイルスの感染拡大により大打撃を受けているインバウンド業界ですが、それ 以前の政府の取り組みに目を向けてみると、インバウド促進による経済活性化に注力し中でも1 人あたり単価の高い富裕層の誘致を盛んに行っていたことがわかります。富裕層とはどんな人々で、どういった思考のもと旅行をしているのでしょうか。そして、その富裕層は日本で満足をし、日本のインバウンド業界に恩恵をもたらすことになるのでしょうか。

JNTO(日本政府観光局)が膨大なリサーチをして捉えた世界の富裕層の姿、行動の実態について、またなぜ政府が『Luxury Travel』誘致に注力しているのか、JNTO市場横断プロモーション 部の小林大祐氏は次のように話しています。

政府は2020年に訪日外国人数4000万人、訪日消費額8兆円を目標に掲げています。しかし、 2019年の訪日外国人数は約3188万人、消費額は約4.8兆円という結果でしたので、特に消費額が 目標に届いていないという状況です。1人あたりの単価は中国人観光客の「爆買い」ブームをピー クに緩やかに下がっていますので、人数が増えても消費額全体は伸びないというのが現状です。そ こで、いかにして消費額を上げていくのかを考えた時に、1人あたり単価の高い「富裕層」というキーワードが浮かび上がってきました。支出する余力のある人たちは、旅行先でも価値あるもの に対してお金を惜しみません。こうした理由から、JNTOでは富裕層への取り組みに力を入れてい ます。

消費額が上がるという直接的な効果はもちろんですが、それ以外にも副次的な効果があります。 富裕層の中には社会で活躍している方々や芸能人など、トレンドを作っている人が多いため、トレ ンドセッター的な役割を果たしてくれます。彼らの間で特定の旅行先が流行りだすと、一般の旅行者や消費者もそれに追随するのです。富裕層マーケットの訴求キーワードには「特別な体験」や 「本物の価値」というものがありますが、日本はアジアの競合国をはじめとした他国にはない独 自の観光魅力を有しているため、富裕旅行者の取り込みが増加するポテンシャルは十分にあると考えています。

世界の地域別に見ると、富裕層が最も多いマーケットはアメリカで、次に多いのがヨーロッパです。そして最近勢いがあるのはアジアで、中国を中心にどんどんマーケットが大きくなっています し、将来的にはさらに市場が膨らんでいくという予測が立てられています。マーケットサイズは小さいけれど「超富裕層」が多く存在するのは、カタールやクウェート、UAEなどに代表される中東です。中東には超富裕層が多いため、富裕層の中でも1人あたり単価が特に高いということで す。

例えばUAEのエリートたちは大学を卒業した直後の初任給が約1000万円で、医療費や教育費、固定資産税、相続税などが一切かからないため、お金がどんどん貯まっていくそうです。彼らの中には、昼間からショッピングモールのカフェでのんびりしている人がすごく多い。なぜなら、お茶 をしながら電話で仕事の指示を出して、細かい仕事は部下や外国からの移民労働者に任せているからです。お金も時間もある彼らですが、イスラム教徒なので「お酒を飲んではいけない」「ギャンブルをしてはいけない」など、自国では厳しい戒律のもとで暮らしています。普段の生活では欲 求を制限している分、海外に出た時ぐらいは少し羽を伸ばしたいという方も実は多い。お金と時間があって旅行好きとなると、マーケットとしては非常に有効ですので、JNTOとしては昨年から 中東マーケットの開拓に取り組んでいます。

明確なプロモーションを打ち出すため、JNTOではまず調査に基づいたターゲットの定義づけをし ています。「お金を持っている」「海外旅行をよくする」「旅行先でお金をたくさん使ってくれる」 人に絞り込みます。さらに「海外旅行先で1人1回あたり100万円消費する人」をプロモーション ターゲトットとなる富裕旅行者と位置付けました。昨年の訪日外国人の1人あたり単価が約15万円でしたので、100万円という金額が現実からかけ離れているように感じられるかもしれませんが、調査によると実際にこれだけのお金を1回の旅行で使っている人がそれなりの規模で存在する ということもわかっています。

富裕層の多い「欧米豪」マーケットの中でもアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラ リアの5市場に限定した調査では、1年間で1回以上海外旅行をしている人が、約3億4100万人い たという結果が出ています。そのうち、1回あたり100万円を使った人は全体の1%、つまり約 340万人存在するという数字が割り出されました。3億4100万人の人が海外旅行で消費した額は 年間35.8兆円ですので、1%の富裕旅行者は全体の13%に相当する約4.7兆円を消費していること がわかります。JNTOではこの4.7兆円が狙いに行くマーケットだということを整理してプロモー ション活動をしています。

さらに国別の数字を見てみると、やはり最も大きな富裕旅行市場はアメリカで、人数・消費額と もに5カ国計(340万人、消費額4.7兆円)の半数以上を占めています。JNTOが行った調査では1 人あたり単価が1回136万円となっているため、現在の平均15万円と比べると約9倍であることが わかります。オーストラリアは数のボリュームは少ないのですが、1人あたり単価は296万円と なっています。


Luxury Travel(富裕層旅行)市場からの再興

コロナ禍がある程度収束したとしても、水際対策を考えると一気に数千万人規模の訪日客を受け入れることは現実的ではありません。富裕旅行者から段階的に受け入れを再開することで、国際観光を復活させていくのが合理的だと見込まれています。プライベートジェットや隔離された宿泊 施設など、安全な旅行手段を確保できる経済力があるからです。

彼らの多くは企業経営者や投資家でもあるため、日本に対する関心・好感度の向上は、日本への投資拡大につながると期待されます。またインフルエンサーである富裕層旅行者による発信は、効果絶大なプロモーションとなり、日本のブランド価値を高めることにも貢献します。

富裕層の旅行ニーズに対応するもっとも大きな狙いは観光収入の向上を通じた経済成長です。世界の富裕旅行市場は、国際観光の中でも高い成長率を示すセグメントになっています。

JNTOの調査でも、一般の訪日客の10倍以上を消費する旅行者が多数存在することが明らかになりました。

1000万円以上の消費行動が見られる層も一定数確認されています。実際、現代アートや古美術品、伝統工芸、高級衣服、宝飾品などを購買する主力は富裕層です。インバウンド富裕旅行の増加は地域の消費拡大、国民所得の向上に大きく貢献します。

2030年に訪日客数6000万人、15兆円

訪日観光はコロナ禍で壊滅的打撃を受けています。日本政府観光局(JNTO)が発表した2021年 12月の訪日外国人数(推計値)は、1万2100人でした。新型コロナウイルス感染症の影響が出る 前の2019年同月比では99.5%減に相当します。1月から12月までの累計は2019年比、99.2%減 (2020年比では94%減)の24万5900人となりました。

オミクロン株の登場で日本の水際対策は強化され、2021年11月30日以降は外国人の新規入国が 停止となっており、12月はその影響で前月を大きく下回っています。12月の訪日数を市場別に見 ると、中国からの1800人、インドの1200人、韓国の1100人、アメリカの1000人、それ以外は 200~300人で、二桁の国・地域も多くありました。

オミクロン株による感染再拡大で各国・地域から日本への直行便は引き続き大幅な運休・減便となっています。
2021年を1年間通して見ると、1月は4万人台、2月~6月は1万人前後と低迷、東京五輪の始 まった7月は年間最多となる5万人を超えたものの、その後は減少し、年間訪日客数の過去最低を 記録しました。 JNTOの統計にある最も古い記録は、前回の東京五輪開催の1964年、奇しくもそ の年の35万2832人をも下回る結果でした。


国・地域別では中国、ベトナム、アメリカ、韓国が2万人以上、そのほかは1万人以下でしたが、 トップ5常連の台湾や香港というヘビーリピーターのいる市場からの訪日が少なかったのが目立ち ました。総数的にはどこも2019年の1%に満たないところばかりでした。

しかしながら、欧米諸国と比べてコロナの被害抑制に成功したこともあり、各種メディアの調査 などでも、コロ ナ後に訪問したい国として日本は常に上位にランクインしています。コロナが収 束に向かえば、世界中から日本に観光客が押し寄せることが予想されます。2025年に予定されて いる大阪・関西万博で好機をつかみたいところです。

さて、政府は2030年までに訪日客数『6000万人』『15兆円』という目標を掲げていました。パ ンデミックという予想外の出来事で目標ははるか彼方に、オミクロン株による感染再拡大で、イ ンバウンド観光業界の明るい展望が描けない状況にあります。そんななか富裕層の『Luxury Travel』需要に期待が集まる理由があります。

スイートルーム、需要に追いつかず

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旅行業界には『リベンジ消費』の兆しはあるのでしょうか?

コロナ禍で変わった点について、パレスホテル代表取締役社長の吉原大介さんの談を紹介します。

「基本的には都心にお住まいの方が、週末利用あるいはステイケーション(近場で休日を過ごす旅行スタイル)で、ホテルでゆっくりされます。それにしても、インバウンドの穴埋めをするほどの需要はない。企業の出張もまだ制限されていますし。宿泊にリベンジ消費が起きている感はないですね。

唯一あるのは、通常の部屋と比べると、スイートルームの稼働率が高いことです。コロナ禍になって、あちこち観光するというよりもホテル滞在を旅の目的にする人が増えました。お客さまのホテル滞在時間がものすごく長くなったのが、何よりも大きな変化です。

そういった背景もあり、既存の客室を一部改装してスイートルームを増設しました。広さ90平方 メートルの「プレミアスイート」を新しく6部屋造ったことで、スイートルームが18室に増えました。

実はもともと、全客室数290のうちスイートルームが12室だけでは足りず、海外の富裕層を取り逃がしていたという課題があったんです。コロナ禍が収束したら、そこはしっかり取っていきたい。

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