「5秒前!!!」
練習ももう後半になり、メインメニューの最後にに差し掛かっていた。
「ラストいきます!よーいはいっ!」
太く芯が通った健吾の声が屋内プールによく響く。
密閉された空間で横一列に並んだ選手たちが聞く分には
十分すぎる響き具合だった。
健吾のスタートの声に合わせて、各コースに並んだ先頭の選手が水に潜り、
即座にストリームラインを組んで壁をける。
先頭で、泳ぎ競い合う選手たちの中には戸川先輩や桐川の姿がある。
戸川先輩は去年、県大会で8位以内という高い壁を突破し地方大会にも進んでいて、
うちの部活の中では、泳力が頭一つ抜けている。
すべての種目において、高いレベルのベストを持っているが、今日はFlyで練習していた。
地方大会に駒を進めることができたのはこの種目の100mであり
先頭を泳ぐ選手は、先輩以外皆Frを泳いでいる。その中でバッタが先陣を切っているのは異様な光景でもあるがこの部活ではすでに見慣れた光景でもあった。
その先頭をリードしようとする戸川先輩についていこうとする、
鋭いフォームでfrを泳ぐ選手の姿があった。
桐川だった。
(あいつはまた前半からとばしてるのか?後半も持たせろよ。。。)
50mの折り返しは二人ともほぼ同時だったが、
タッチターンとクイックターンの差で桐川が頭一個分前に出る。
(調子は悪くなさそうだが、戸川先輩はここから伸びてくるぞ。。。)
向こう側の壁で二人の75mにおけるターンがほぼ同時にされたのが見えた。
(んー。これはまたいつも通りの流れか)
桐川が先に浮き上がってくるのが見えるが、戸川先輩はまだ上がってこない。
と思いながらプールの水面を注視していると、
水面にだんだんと影ができ、少し水が盛り上がった。
10mあたりを過ぎたところで戸川先輩は
桐川の体半身分前でて浮き上がってきた
先輩は両手を大きな翼のように開き、テンポよくかつ大きく泳ぐ。
ガタイの良さと腕の長さを活かし、一回一回力強く水をとらえてストロークしている。
流石は地方大会出場経験のある選手だ、という泳ぎだった。
(予想通りだったな)
桐川はだんだんと乳酸がたまってきたのか、腕の回転速度は速いがストロークが小さくなり
戸川先輩に距離を離されていく。
そのまま戸川先輩は力強く両手で壁をタッチし、
続くように、桐川が動かない体を無理やり動かして何とかタッチする。
「戸川先輩57秒9!桐川8秒9!立花先輩9秒1! ・・・」
先頭が出てからから10秒後にスタートした、第二陣も帰ってくる。
健吾はその中にbaで異様なスピードにもかかわらず、
正確なストロークで泳いでくる選手がいることに気が付いた。
(うちにあんな早い選手いたか???)
その選手はフラッグを認識してから、ストロークを調節し、仰向けのまま、ちょうど手で壁を突き刺すようにタッチした。
よく見るとその姿は、
今日入ってきた新入部員の結城だった。
(こいつ早いな。。。)
(結城、3秒3!橘先輩、5秒5!俊平7秒5!・・・)
全力で泳いだにも関わらずに俊平はすぐに隣の結城の顔を見たのちに
すぐさま先についていた同じコースの桐川に話しかけていた。
「やべえぞキリさん!リョートのバサロ、マジでロケット並みだわ!」
「北朝鮮も真っ青だよ!」
桐川はもちろん無視だ
健吾は全力で泳いだ後に、北朝鮮のロケットを思いつくあたり「流石俊平だな」だと思った。
しかしまだ第3陣と4陣の選手たちが泳ぎ、壁をタッチしようと迫ってくる。
「俊平、泳ぎ終わったらコース開けろ!」
健吾は残りのタイムを計りボードに記録しなければならなかった。
不服そうな顔をしている俊平を無視して意識をプールとストップウォッチに戻した。