人のいない路地をゆっくりと歩いた。
アイサツを交わすと、子供は無邪気に手を振り、
親は熱心にマウル(韓屋)を眺めている、という家族連れが多い。
オリンピックが行われ、
仁川空港というアジア屈指のハブ空港が完成し、
ワールドカップが開催され、すっかりこの国は国際色豊かになっている。
街なかは観光客ばかりでなく、駐在や出張の外国人の姿も多くなった。
マウルは小高い丘にあるため、クルマがあまり入ってこない。
その上、ひと気がないので、ゆっくり写真が撮れる。
地べたに寝そべって撮っても気兼ねがないし、ヘンな人として見られることもない。
すっかりマウルと自分の世界に入り込んでいたが、それはあっさり打ち崩された。
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大通りに止まった大型輸送車は次々に兵隊を吐き出した。
威勢のいい指揮官の掛け声にあわせるように軍勢がマウルの狭い路地に押し寄せる。
旗を振る指揮官が決まったところで足を止めると集団に向かって声高に叫び声を上げた。
その声を待っていたかのように軍勢は一斉射撃をはじめる。
軍勢は少し歩いては集団を形成し、また道いっぱいに広がっては移動を繰り返した。
バスから降りた団体客だ。
おかまいなしに記念撮影を繰り返しては、大声で笑いあいながら歩みを進めていた。
マウルの路地は思いっきり日本語で埋め尽くされた。
日本人のツアー客に限らず、中国系だろうが、アメリカ人だろうが、
ツアー・グループってやつはひと塊でやってきては傍若に歩き回ってゆく。
雰囲気も空気もへったくれもなくて、
声高なガイドの説明と、
半ば意地で撮っているのかと思われる整列式の記念撮影を繰り返していく。
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なんともまあフシギな集団。
かつてはその集団を束ね歩いていたのだから、なんともまあフシギな仕事をしていたものだ。
こういうところに一人出歩いていると、かなり奇異の目で見られたりする。
ツアー・グループは一人旅の者をを訝しげに眺め、
一人旅の者はツアー・グループを煙たがる。
元「先導者」としては、そのあたりは気にせず、フランクに話し掛けたりしてみる。
「ドコからデスカ?」なんて尋ねると
「あら、日本人?」なんていわれたりことはよくある。
グループの人たちには「日本の人はツアーで旅するもの」という頭があるらしい。
「一人で歩いているんです」なんていうと植村直己張りの冒険者に見られたりする。
アメリカ人やヨーロッパの人の場合、アイサツを交わすと、
「ドコからですか?」なんて尋ねてみる。
その街の名物をあげてみるとこれがかなり喜ばれる。
どこの国の人も自分には思い入れが強いのですね。
アメリカ人の場合はそこのプロ・スポーツ・チームがわかりやすく、
ヨーロッパの場合はその街の有名な食べ物がウケがいい。
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中国系やアジア系の場合、
海外旅行に馴れてない、というのもあるだろうが、
基本的にシャイなので、話し掛けると驚かれることが多い。
なので会話で判断して、「ニイハオ」とか「ネイホー」「テレマカシー」なんて、
その国の言葉でイキナリ話し掛けると、ウケる。
観光地でウケをとる必要はないのだけれども、グループを見ると血が騒ぐのだろうか。
職業病が残っているのかもしれない。
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