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2018年09月18日

数学: 基本の復習 (7) ── 図式の極限

極限 (limit) の定義を復習する.

まず, 図式の定義は次のようなものだった.

定義: 図式 (diagram).$\,$ $\mathscr{C}$ を圏, $\mathscr{I}$ をグラフとするとき, グラフ準同型
\begin{equation*}
\newcommand{\Ar}[1]{\mathrm{Ar}(#1)}
\newcommand{\ar}{\mathrm{ar}}
\newcommand{\arop}{\Opp{\mathrm{ar}}}
\newcommand{\Colim}{\mathrm{colim}}
\newcommand{\CommaCat}[2]{(#1 \downarrow #2)}
\newcommand{\Cone}[2]{\mathrm{Cone}(#1,#2)}
\newcommand{\Func}[2]{\mathrm{Func}(#1,#2)}
\newcommand{\Hom}{\mathrm{Hom}}
\newcommand{\Id}[1]{\mathrm{id}_{#1}}
\newcommand{\Mb}[1]{\mathbf{#1}}
\newcommand{\Mr}[1]{\mathrm{#1}}
\newcommand{\Ms}[1]{\mathscr{#1}}
\newcommand{\Nat}[2]{\mathrm{Nat}(#1,#2)}
\newcommand{\Ob}[1]{\mathrm{Ob}(#1)}
\newcommand{\Opp}[1]{{#1}^{\mathrm{op}}}
\newcommand{\Pos}{\mathbf{Pos}}
\newcommand{\q}{\hspace{1em}}
\newcommand{\qq}{\hspace{0.5em}}
\newcommand{\Rest}[2]{{#1}|{#2}}
\newcommand{\Sub}{\mathrm{Sub}}
\newcommand{\Src}{d^{0,\mathrm{op}}}
\newcommand{\Tgt}{d^{1,\mathrm{op}}}
D : \Ms{I} \rightarrow |\Ms{C}| \qq\text{または単に}\qq D : \Ms{I} \rightarrow \Ms{C}
\end{equation*} を $\Ms{C}$ における 図式 (diagram)と呼ぶ. $\Ms{I}$ を 添字グラフ (index graph)と呼ぶ. 添字グラフ $\Ms{I}$ が有限個の対象と射からなるとき, 図式 $D : \Ms{I} \rightarrow |\Ms{C}|$
有限グラフ (finite graph)と呼ぶ.

図式間の自然変換を定義する.

定義: 図式間の自然変換.$\,$ $D, E : \Ms{I} \rightarrow \Ms{C}$ を $\Ms{C}$ 内の 2 つの図式とする.
\begin{equation*}
\left\{\, \lambda(i) : D(i) \rightarrow E(i) \,\right\}_{i \in \Ob{\Ms{I}}}
\end{equation*} を $\Ms{I}$ 上で定義された $D(i)$ から $E(i)$ への射の族とする. $\Ms{I}$ の各々の射 $e : i \rightarrow j$ に対して, 図式
\begin{equation*}
\begin{xy}
\xymatrix@=48pt {
D(i) \ar[d]_{D(e)} \ar[r]^{\lambda(i)} & E(i) \ar[d]^{E(e)} \\
D(j) \ar[r]_{\lambda(j)} & E(j)
}
\end{xy}
\end{equation*} が可換になるとき, $\lambda : D \rightarrow E$ を図式 $D$ から図式 $E$ への 自然変換 (natural transformation)と呼ぶ. 特に $\Ms{C}$ の任意の対象 $C$ に対して図式 $D : \Ms{I} \rightarrow \Ms{C}$ で, 各々の $\Ms{I}$ の対象 $i$, 射 $e : i \rightarrow j$ について,
\begin{equation*}
D(i) = C, \quad (D(e) : D(i) \longrightarrow D(j)) = (\Id{C} : C \longrightarrow C)
\end{equation*} として定義されるものを $C$ に値をとる定図式 (constant diagram)と呼び, 単に $C$ で表わす.

次に圏における可換錐を定義する.

定義: 可換錐.$\,$ $W$ を圏 $\Ms{C}$ の任意の対象, $D : \Ms{I} \rightarrow \Ms{C}$ を $\Ms{C}$ 内の任意の図式とする. $\alpha : W \rightarrow D$ を $W$ に値をとる定図式から図式 $D$ への自然変換とする. すなわち, 各 $\Ms{I}$ における任意の射 $e : i \rightarrow j$ に対して図式
\begin{equation*}
\begin{xy}
\xymatrix@=24pt {
~ & & D(i) \ar[dd]^{D(e)} \\
W \ar[urr]^{\alpha(i)} \ar[drr]_{\alpha(j)} && ~ \\
~ & & D(j)
}
\end{xy}
\end{equation*} が可換になる. このような $\alpha$ を $W$ を頂点とする図式 $D$ 上の 可換錐 (commutative cone)と呼ぶ.

$W$ を頂点とする図式 $D$ 上の可換錐全体からなる集合を
\begin{equation*}
\Cone{W}{D}
\end{equation*} と表わす. このとき, $\Ms{C}$ の任意の射 $h : W' \rightarrow W$ は $\Cone{W}{D}$ から $\Cone{W'}{D}$ への射
\begin{alignat*}{2}
\Cone{h}{D} : \Cone{W}{D} & \,\longrightarrow\qq & \Cone{W'}{D} \\
\alpha \hspace{8mm} & \,\longmapsto\qq & \alpha \circ h \hspace{6mm}
\end{alignat*} を与える. これによって $\Cone{-}{D} : \Opp{\Ms{C}} \longrightarrow \Mb{Set}$ は反変関手となる.

定義: 極限.$\,$ 圏 $\Ms{C}$ において, 関手 $\Cone{-}{D} : \Opp{\Ms{C}} \rightarrow \Mb{Set}$ に対する普遍元が存在するとき, それを $\Ms{C}$ における図式 $D$ の極限と呼び
\begin{equation*}
\lim\, D
\end{equation*} によって表わす.

圏 $\Ms{C}$ の図式 $D : \Ms{I} \rightarrow \Ms{C}$ が常に極限を持つわけではない. しかし米田の補題より関手 $\Cone{-}{D} : \Opp{\Ms{C}} \rightarrow \Mb{Set}$ について自然な同型
\begin{equation*}
\Nat{\Hom_{\Opp{\Ms{C}}}(V, -)}{\Cone{-}{D}} = \Nat{\Hom_{\Ms{C}}(-, V)}{\Cone{-}{D}} \stackrel{\sim}{\longrightarrow} \Cone{V}{D}
\end{equation*} が成立する. さらに普遍元が存在するのは, $\Nat{\Hom_{\Opp{\Ms{C}}}(V, -)}{\Cone{-}{D}}$ に属する自然同型
\begin{gather*}
\lambda : \Hom_{\Opp{\Ms{C}}}(V, -) \stackrel{\sim}{\longrightarrow} \Cone{-}{D}, \\
\text{i.e.} \\
\lambda : \Hom_{\Ms{C}}(-, V) \stackrel{\sim}{\longrightarrow} \Cone{-}{D},
\end{gather*} が存在して, 各対象 $W \in \Ob{\Ms{C}}$ に対して同型写像
\begin{alignat*}{2}
\lambda W : \Hom_{\Ms{C}}(W, V) & \qq\stackrel{\sim}{\longrightarrow}\qq & \Cone{W}{D} \hspace{8mm} \\
(h : W \rightarrow V) & \qq\longmapsto\qq & \Cone{h}{D}(\beta) = \beta \circ h
\end{alignat*} が定まる場合である. このとき特に
\begin{equation*}
\lim\, D = (\beta : V \rightarrow D) = \lambda V(\Id{V}) \in \Cone{V}{D}
\end{equation*} が成り立つ.
また, 逆変換 $\lambda^{-1}W : \Cone{W}{D} \rightarrow \Hom_{\Opp{\Ms{C}}}(V, W)$ は, 各可換錐 $\alpha : W \rightarrow D$ に対して,
\begin{equation*}
\Cone{h}{D}(\beta) = \beta \circ h = \alpha
\end{equation*} を満たす一意的に定まる射 $(h : W \rightarrow V) \in \Hom_{\Ms{C}}(W, V)$ を対応させるものである.
\begin{equation*}
\lambda^{-1}W(\alpha) = h.
\end{equation*}

圏 $\Ms{C}$ の図式 $D : \Ms{I} \rightarrow \Ms{C}$ が極限を持つとする. 定義より, ある対象 $V$ と $V$ を頂点とする図式 $D$ 上の可換錐 $(\beta : V \rightarrow D) \in \Cone{V}{D}$ が存在して, この $\beta : V \rightarrow D$ が図式 $D$ の極限である.
\begin{equation*}
\lim\, D = (\beta : V \rightarrow D).
\end{equation*} 読んでいる本では対象 $V \in \Ob{\Ms{C}}$ のほうを $\lim\, D$ と呼び, $\beta : V \rightarrow D$ は $V = \lim\, D$ に伴う一意的な可換錐と呼んでいることが多い. 一旦厳密な定義を理解した後ではこちらの使い方のほうが便利な面もある. それほどの混乱は無い.

ただし, ここでは定義に従って $\lim\, D = (\beta : V \rightarrow D)$ とおく.

普遍元を特徴付ける必要十分条件を用いると, この極限は次の性質を満たす.

任意の $W \in \Ob{\Ms{C}}$ と, 任意の $D$ 上の可換錐 $(\alpha : W \rightarrow D) \in \Cone{W}{D}$ に対して, $\Ms{C}$ の射 $u : W \rightarrow V$ で
\begin{align*}
(\alpha : W \rightarrow D) &= (\Cone{-}{D}(u : W \rightarrow V))(\beta : V \rightarrow D) \\
&= \Cone{u}{D}(\beta) \\
&= (\beta \circ u : W \rightarrow D)
\end{align*} を満たすものが一意的に存在する. すなわち, 図式
\begin{equation*}
\begin{xy}
\xymatrix@=48pt {
W \ar[d]_{u} \ar[dr]^{\alpha} & \\
V \ar[r]_{\beta} & D
}
\end{xy}
\end{equation*} を可換にするような $\Ms{C}$ の射 $u : W \rightarrow V$ が一意的に存在する.

次の文章では, 具体的な図式の極限の例をいくつか挙げてみる.
posted by 底彦 at 20:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | 数学
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