抵当権を設定した建物の価値を毀損する行為への対抗措置は?
高額な借金をしている人が、債権者に対する借金の担保として自分の所有している建物に抵当権を設定することがよくあります。
抵当権を設定した後は、担保の価値が維持されなければならないため、担保の建物の価値を毀損する行為があると、抵当権者は対抗処置をとることができます。
(最終更新日付:平成29年10月23日)
抵当権を設定した建物に対する毀損行為
仮に、借金の担保として自分の建物に抵当権を設定した債務者をA、債権者(抵当権者)をBとします。
Aが通常の利用方法を逸脱し、建物を毀損する行為をした場合、Bは抵当権に基づく「妨害排除請求」をすることができます。
抵当権は非占有型の担保物権であるため、抵当権者Bは抵当権設定者Aの目的物の利用について、原則として干渉することはできません。
しかし、抵当権は目的物の交換価値から優先弁済を受けられる物権であるため、目的物の交換価値が侵害されるような場合は、物権的請求権を行使し、侵害を排除することができます。
第三者の不法行為による損害賠償
仮に、第三者の不法行為によって建物が破損した場合、建物の所有者Aは第三者から損害賠償金を受け取ることができますが、その受け取る予定の損害賠償金に対して抵当権者Bは、「物上代位」を行使して差押えをすることができます。
民法では、何らかの形で抵当権の目的物の価値に滅失があった際に、債務者が第三者から受領する金銭等があった場合、抵当権者はその金銭等に対しても権利を行使することができます。これを物上代位といいます。
★民法第304条 :先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
例えば、火事によって建物が焼失した場合は保険会社から保険金が下りますが、その保険金に対しても物上代位によって差押えが可能です。
簡単に言えば、担保の対象が建物という価値から保険金という価値に代わったということです。
ただし、物上代位をするためには、払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければなりません。すでに、Aが保険金を受領した後では、Bは物上代位をすることができません。
抵当権設定後に締結された短期賃貸借契約
抵当権設定者Aが当該建物を第三者に賃貸し、賃借権の設定登記をしたとします。抵当権が設定されたとはいえ、目的物の使用収益権は抵当権設定者に残されているため、Aは抵当権付き建物でも賃貸することができます。
ただし、賃借権が抵当権に対抗できるのは、抵当権設定登記前に賃借権が登記された場合に限られ、賃借権の登記が抵当権の後だと、原則として抵当権に対抗できません。
また、抵当権設定登記後に賃借権を登記する場合は、抵当権の実行による競売手続きを妨害する意図の含まれていることが少なくありません。
そこで、第三者の占有により建物の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態がある時は、抵当権者は占有者に対して抵当権に基づく妨害排除請求をすることができます。
抵当権の消滅時効
抵当権の消滅時効の期間は20年ですが、AのBに対する債務が時効によって消滅した場合は、抵当権も消滅します。ただし、抵当権が被担保債権と独立して消滅時効になることはありません。
★民法第396条 :抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。
396条からいえるのは、抵当権が時効により消滅するのは、被担保債権が時効消滅した場合に限られるということです。これを抵当権における消滅の付従性といいます。
なお、被担保債権の消滅による抵当権の消滅は、抵当権設定登記の抹消登記などをしなくても、第三者に対抗できます。
抵当権者の優先弁済権
抵当権によって担保され、優先弁済が受けられる債権の範囲は、抵当権設定契約によって定めます。元本、利息、遅滞損害金は登記事項とされており、登記の限度で対抗力を生じ、その範囲で優先弁済を受けることになります。
元本については、通常その全額が優先弁済を受けられますが、利息や遅延損害金、違約金などについては、その満期となった最後の2年分についてのみ優先弁済を受けられる、という規定があります。
ただし、抵当権者が1人だけで、後順位抵当権者がいない場合には、満期となった最後の2年分を超える利息についても弁済を受けることができます。
抵当権は抵当権設定者がそのまま建物の使用を続けられることが大きな特徴です。よく比較される同じ担保物権の質権の場合は、不動産の占有を質権者に移転することが効力発生の要件とされています。
また、抵当権設定者は債務者である必要はなく、第三者でも抵当権を設定できます。
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