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2022年06月15日

(転載)大相撲夏場所総括〜激化する若い部屋持ち親方たちの戦い

大相撲夏場所後に誕生した新十両力士に、新たな潮流が浮かび上がっていた。

欧勝馬(鳴戸部屋)と豪ノ山(武隈部屋)はともにそれぞれの部屋で初の関取となった。

角界で「資格者」と呼ばれるように、十両に上がってやっと力士として??一人前?≠ニ見られるようになる。

それだけに本人にとっては格段の喜びであると同時に、部屋にとっても実入りが増えるなど単なる一力士の昇進以上の価値がある。

師匠同士の競い合いという点からも意義深い昇進劇だった。







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▽背負うハンディ
 特に欧勝馬の師匠、鳴戸親方(元大関琴欧洲)はブルガリア出身ということもあり、外国出身ゆえの大変さを乗り越えたというストーリーがある。



朝青龍や照ノ富士、逸ノ城のように近年は高校から日本に相撲留学した後で角界入りするパターンが増えているが、以前はスカウトされて来日し、いきなり相撲部屋に入るのが一般的だった。



母国でレスリングに打ち込んでいた鳴戸親方は先代の佐渡ケ嶽親方(元横綱琴桜)に見いだされ佐渡ケ嶽部屋に入門した。

言葉や生活習慣からまるっきり違う中で、まず力士として強くなることから一苦労で、鳴戸親方も昔はご飯に牛乳をかけて食べ、体づくりに励んだ逸話もある。



  大相撲には昔から「江戸の大関より故郷の三段目」という言葉があるように、力士は地元から熱心に応援される対象となってきた。

関取ともなれば当然、故郷で後援会が発足することもあるが、外国出身力士はそうはいかず、親方になってからも影響がある。

新弟子をスカウトする際に地元の人脈は強力な武器になるが、生まれ育った場所が日本にはないため、ハンディを背負っている形になる。 



規則上、現役を引退後に親方として日本相撲協会に残るには、日本国籍取得という条件があり、人生を変える決断を迫られる。

その上、現在は薄まっているが、外国出身者が部屋を持つこと自体が難しいとされる雰囲気があった。



海外から来て初めて師匠になったのは、米ハワイ出身の人気力士だった元関脇高見山の渡辺大五郎氏。

東関部屋を興すとき、「どうせ関取を育てられないだろう」などと陰口をたたかれたという。

渡辺氏がかつて「駄目みたいに言われたけど、自分で力士を育てるんだと強く思っていた」と語っていたように、並々ならぬ決意や行動力が必要になってくる。







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▽経済効果
 現在、外国出身者で、先代師匠からの継承によって部屋を持っている高砂親方(元関脇朝赤龍)や大島親方(元関脇旭天鵬)らと違い、鳴戸親方は佐渡ケ嶽部屋から独立した。



欧州出身初の師匠として最初は小所帯からスタートし、稽古ではまわし姿になって弟子に胸を出しながら強化。



一方で自らの手で弟子を増やす活動も怠るわけにはいかない。

鳴戸親方は以前からアマチュアの大会に細やかに顔を出したり、地方のイベントやあいさつ回りを欠かさなかったりして地道な努力を続けてきた。



今や東京スカイツリー近くに立てた立派な部屋の主となっている。 



 欧勝馬との巡り合わせも自らの活動が生きた。

ブルガリアの体育大学を中退して来日した親方は一時期、トレーニング方法や栄養学などを学ぶために日体大に編入していた。

その縁もあり日体大とパイプができ、在学中に学生横綱になったモンゴル出身の有望株の入門につながった。



2017年4月の部屋創設から5年での関取誕生に、鳴戸親方は「いろんな大変なことがあったけど良かった。

あんまりしんどいことは思い出したくないですね」と、ここまでの苦労をのみ込みながら感慨に浸った。 

 部屋全体にとって大きな節目で、経済的な効果も期待できる。



関取を輩出することで部屋の後援会からご祝儀が入るのはもちろん、通例だと昇進パーティーが盛大に開催され、力士によっては新たに後援会が発足する可能性もある。



また、お米や肉、野菜など普段の差し入れも増えたという部屋もある。

相撲協会からは関取を育てるごとに「養成奨励金」という名目の手当が場所ごとに支給され、弟子育成のインセンティブの一つとなっている。



  普段の稽古場も様子が違ってくる。

稽古用のまわしは幕下までは黒色で、関取衆になると白に変わる。

鳴戸親方は、欧勝馬に関して楽しみなことを聞かれ「私以外が部屋で白まわしを着けること。どんどん部屋を引っ張っていく存在になってほしいです」と語った。



単に色が異なるだけでなく、関取の象徴である「白まわし」の重要性を念頭に置いての言葉だ。

白いまわし姿の力士が新たに出現すること自体で活気を醸し出しやすくなり、同時に他の力士にとっては一緒に汗を流す仲間が関取になったことによって自分たちにもできると自信をもたらすことが少なくない。

加えて、部屋の関取の知名度が上がればファンが増え、将来的には新弟子勧誘の際の後押しとなり得る。






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▽激化必至の競争
 もう1人の部屋の関取第1号となった豪ノ山の師匠は元大関豪栄道の武隈親方。



こちらは今年2月に境川部屋から独立したばかりで、鳴戸部屋を上回る新しさ。

豪ノ山は中大出身でこちらもアマ時代に鳴らした強豪で、角界でのたゆまぬ鍛錬が結果につながった。



  近年は部屋の独立が目立っている。

2017年に鳴戸親方が創設した後でも、藤島部屋から巣立った元大関雅山が師匠の二子山部屋、田子ノ浦部屋から独立した元関脇若の里の西岩部屋や元横綱稀勢の里が師匠の二所ノ関部屋、尾車部屋出身の元関脇豪風の押尾川部屋が新たにできた。



二所ノ関部屋や押尾川部屋などにも学生相撲を経験したホープが在籍している。

中卒たたき上げの弟子を一から育てるという以前の主流から、世の中の流れもあって昨今は相撲経験者が高校や大学を経て角界入りするトレンドが色濃くなっている。



以上のような事情から、部屋をつくってさほど時間がかからないうちに新十両が生まれやすい土壌ができつつある。



  史上最多の優勝45回を誇る元横綱白鵬の間垣親方も近い将来に部屋を持つとうわさされている。

こうした30代から40代前半の若い部屋持ち親方たちが、かつてしのぎを削った土俵上から舞台を移し、今度は弟子育成の面で競争が激化していくことが予想される。



例えば武隈親方は「横綱を育てるのが夢」と気合満点。新型コロナウイルス禍に突入後、7月の名古屋場所は初めて観客数の制限なしで開催される。新型コロナ禍での興行が新たなステージに入り、相撲部屋情勢でも新しい潮流の到来を告げている。




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