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2022年08月14日

HARMをMigから撃てるのか

早速ですが、巷で話題となっているウクライナで見つかったHARM(AGM-88)の話。
どうやって(どのプラットフォームから)発射されたかが謎となっています。




この記事では、ウクライナ空軍が保有するMig29から撃ったのではと推定されており、それ自体は難しくないと述べています。

Ukrainian Jets Are Firing American Anti-Radar Missiles

It’s not hard to imagine American technicians remotely assisting Ukrainian engineers to add the HARM gear as the latter rebuild their aging MiGs for the DEAD mission.

引用先: https://www.forbes.com/sites/davidaxe/2022/08/11/ukrainian-jets-are-firing-american-anti-radar-missiles/?sh=281802c031a9


では、旧東側の機体にHARMを搭載することは簡単なのでしょうか?

ミサイルを機体へ搭載するには少なくとも以下の4つの検証(いわゆる母機適合性)が必要になると思います。

1. 機械的インターフェイス
2. 電気的インターフェイス
3. 搭載時の飛行特性
4. 発射する際の安全性(投下特性等)

1はHARMとその専用ランチャーであるLAU-118/Aが機体のパイロンへ装着できるかという問題です。通常、緊急時の投棄のために、エジェクターラックを介して機体に搭載することになると思いますから、適合するエジェクターラックが無い場合はミサイル、ランチャー、エジェクターラックを機体へ搭載できるかという話になります。そして、出来れば緊急時の投棄時の投下特性も検証したいところです。因みに、XAAM-5試験時にはパイロン、ランチャーアダプター、ランチャー、ミサイル(模擬弾)込みで投下試験を行っています。

2は厄介です。記事の中にも触れられていますが、HARMを発射するとしたらAN/ASQ-213 HARM Targeting Systems (HTS)を使わず、ミサイル自身が持つシーカーによりLOBL(発車前ロックオンで撃つことになると思います。では、機体とミサイルの間でどのような信号がやり取りされるかですが、残念ながらHARMのインターフェイス情報は見つからなかったので、手持ちのASM-2Bの仕様書を参考例として出してみます。

入出力信号.jpg

引用先: 93式空対艦誘導弾(B)仕様書(CP-Y-0067L)

余談ですが、この仕様書上からASM-2BはLOBL(発射前ロックオン)が出来ることが確認できます。

通常、ミサイルと機体ではこの位の信号のやり取りをしています。特にHARMの場合はMIL-STD-1553B/1760で機体とやり取りしてますから、機体側にはそれに対応したインターフェイスと機器が必要になります。

MIL-STD-1553Bについてはこちらの ページ をご参照ください。ナセルさんの非常に秀逸な解説があります。

データバスを既存の機体へ導入するのは今まで幾つか例がありますが、規模にもよりますが言われるほど簡単ではないというのが正直なところじゃないかと思います。

ところで、HARMの製造会社である米国レイセオン社は面白い特許を取得しています。

WIRELESS PRECISION AVIONICS KIT

US20120150365A1_ページ_04.jpg
引用元: https://patentimages.storage.googleapis.com/eb/b2/5d/b7d2d964b9a8e2/US20120150365A1.pdf

これは内容から行くとPaveway用みたいですが、機体と誘導爆弾の間をワイヤレスで繋げてしまおうというものです。実際にWiPAKとの名称で、西側と言えど若干毛色が違う(データバスも違うかも)フランス海軍のラファール戦闘機に搭載してテストされている模様です。

Rafale_M_Paveway_French_Navy.jpg

引用元: https://www.navyrecognition.com/index.php/naval-news/naval-news-archive/year-2012-news/july/490-raytheon-demonstrates-wipakr-wireless-paveway-avionics-kit-on-french-navy-rafale-aircraft.html

もし、今回のHARMにこの技術が使われているとしたら、非常に興味深い話になります。

3は機体にミサイルを搭載されたときにフラッターなど危険な現象が出ないかどうかの確認が必要になります。出るとしたらどのような状況で発生し、その回避策(飛行制限等)を確認する必要があります。

4はこのミサイルはレールラウンチですが、発射時に機体へ悪影響が無いかを確認する必要があります。特に発射の際にブルーム(噴煙)が機体を直撃すると非常に危険(特にエアインテイク)です。
射出式発射ですが、F-14はAIM-7の発射試験時に射出力不足でミサイルが充分に機体から離れず、その噴煙を吸い込んでエンジンがストールして墜落する事故を起こしています。

【写真】AIM-9Lの噴煙を浴びるF-14A

800px-F-14A_VF-1_firing_AIM-9L_1989.jpeg
引用元: U.S. Navy National Museum of Naval Aviation photo No. 1996.488.022.053

以上を勘案すると、 ウクライナでMigにHARMを搭載するなら米国側で充分な検討が為され、その整備マニュアルと共に機材が送られたのではないかと推測します。(必要ならエンジニアも)













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