高校2年生だった7月頃の話。
普段から人が少ない路線なのにさらに電車がガラガラだった。
音楽を聞きながら携帯を弄っていると、
向かいの座席にカップルが座ったのが視界の端で見えた。
最初こそ気にしていなかったのだが、
女の方が男の頬にキスをした。
それも何回も。
視界の端で見えただけだったが、
そこは思春期だった俺、ついつい見てしまった。
男は中肉中背のハゲたおっちゃん。
女は日本人ではなさそうなアジア系のお姉さん。
当時の俺は、外国人のパブのねーちゃんでも連れてるんだと思ったが、
どうも男は女のイチャつきに嫌そうな顔をしていた。
昼間の電車で堂々とキスって・・・、
国によっては普通なのかなと俺は考えていた。
しばらくチラチラ見ていると、
女がキスするのをやめて男に何か話しかけていた。
俺は音楽を聞いていたので内容は全く分からなかったが、
女が男の頬に顔を近づけたまま何やらブツブツと喋っている。
その時、
「あ、この女の人、変な人なんだ」、
そう思って目を逸らそうとした。
だが、ちょうど男と目が合った。
ちょっと気まずい感じがしたので、
また下を向いて携帯を弄ることにした。
周りの人は全く見ていなかった。
それでもやっぱり気になるので、
カップルを視界の端で見ていた。
それからしばらくすると、
女がキスをやめて俺の方をまじまじと見てきた。
向かいに座っていたからそう感じるだけだと思ったのだが、
顔を上げるとしっかりと目が合った。
それが不気味だったこともあり、
俺は地元の駅に着いた瞬間に急いで電車から降りた。
家に帰ってからは夜中まで翌日のテストの勉強をした後、
さっさと布団に入った。
すると、頬に何か当たった感触がした。
唇だ。
俺は怖くて目を開けられなかったが、
その唇の主が誰なのかはすぐに想像がついた。
数回キスが続いた後、頬のすぐ横でブツブツと囁き始めた。
日本語ではない言葉でひたすらブツブツと。
その時は、
「あぁ、電車で見たおっちゃんから移ったんだなぁ」とか、
「他の人は見てないんじゃなくて見えてなかったんだなぁ」とか、
「見えたのがバレたから付いて来たんだろうなぁ」などと、
もう怖すぎて逆に冷静に色々と考えていた。
気がつくと寝てしまっていたようで、朝になるとアイツは居なかった。
俺はそこから1ヵ月程、不定期に耳元で囁かれることになる。
気がおかしくなりそうだった。
3回のお祓いも意味がなかった。
でもある時からアイツは現れなくなった。
たぶん誰かが見たのだろう。
それでアイツは今も見た人を付け回しているのだと思う。
アイツが何を伝えようとしていたのかは、今となっては分からない。
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