本気のキューピット
梨央はまるで自分が惚れた男のように、あのオッサンに未練を持った。俺は金の計算をしていた。
確かに画家で十分な生活をするのは難しいかもしれない。しかし、現実的には義姉には田原家の財産の半分は入るわけだ。無茶をしなければ一生食べていけるだけのものはあるはずだった。ただし、それは相続をしてからの話だ。それでも現実に義姉が会社を継げば給与も相当なものになるだろう。
それに、オッサンの実家も資産家に違いなかった。あのビルの名義は誰なのだろうと人の家の資産を詮索した。兄弟は多いのか?相続はどうなるんだ?たしかに、呉服店は今後経営は難しくなるだろうが、需要がなくなるわけでもないだろう。やり方じゃ儲かる仕事にならないんだろうか?あのカフェは儲かってないのか?
いろいろ考えた結果、あのオッサンの画家としての収入がなくても食べるには困らないと答えが出た。あのカフェさえ利益を落とさなければいい訳だ。食べるに困らないでは義父は許さないだろう。豊かな暮らしをさせたいのが親心というものだ。義姉を会社の役職に就ければ解決だ。義姉は能力があると見た。
人の金について悶々と考えている俺こそがあのオッサンに未練を持っている。もう一度会おう。そう決めた。単刀直入に話をしてみよう。本気のキューピット役をやってみようと思った。いかつい風体の画家は人たらしだった。
その週の水曜日には東京本社に出勤した。午後二時には、えり兆ビルについていた。カフェに入るとオッサンはボーっとコーヒーを飲んでいた。こんにちはと店へはいると、義母が おやという顔をした。注文を取りに来るついでに「あれから何があったのかさっぱりわかりませんのよ。一体どうなったんでしょうかね。」という。
とりあえずコーヒーを注文した。コーヒーはオッサンが持ってきた。テーブルに置くや否や、「あんたもう来ないでくれ。引っ掻き回さんでくれ。」といわれてしまった。さすがにムッと来た。
「あんたこそ、もっと素直になれないのか。」と気色ばんだ。ほかの客が一斉にこちらを見た。
義母が気を使って、カフェの奥の従業員用の小部屋に入れてくれた。「お前ね、この機会を逃すとホントに梨沙ちゃん、どっかへお嫁に行っちゃうよ。いい年なんだからもっとしっかりしとくれ!周りに心配かけんじゃないんだよ。」とこの前とは打って変わった江戸っ子口調で言い捨てていった。
「ガラの悪い婆さんだ。」とオッサンがため息をついた。
「あんた、惚れてるんだったら素直になればいいじゃないか?何をそんなにぐずぐずごねる必要があるんだ。」というと「あんたにはわからない事情ってもんがあるんだよ。口ださないでくれるかなあ。」といわれて負けているわけにもいかないんで、「事情って何だい。金の計算ならおれの方が得意だよ。」というと「金の問題だけじゃないんだよ。」
「年か?」
「ああ、それもある。金なしで爺さんじゃかわいそうだろ。」
「それは本人が納得してるんだから問題にならんだろ。それに、あっちは資産家だ。画家のパトロンにはうってつけだ。」
「しつこいなあ。こちとら、身体が良くないんだよ。健康上の都合だよ。わかったら帰ってくれんかな。」
「がんか?」
「なんでそんなに単純なんだ。世の中にはがん以外にも病気はあるんだよ。」
「何の病気なんだ?」
「お前と関係ないだろう。」
「なんでそんなにかたくななんだ?梨沙ちゃん涙ぐんで、吹っ切れたっていってた。いっつもああいう風に無理ばっかりしてるんだ。うちの女房は自分が迷惑をかけてるからほっとけないんだよ。」
「ないんだよタネが。」
「何のタネ」
「子ダネだよ。前の女房とはそれで離婚した。もうたくさんなんだよ。ああいうゴタゴタは。」
「そりゃ辛いな〜。あの、立ち入ったこと聞くんだけど出来ないのか?」
「できないから調べたんだよ。おんなじこと何遍も言わせんな。」
「いや、悪い悪い、そっちじゃなくて夜の方。」
「お前ほど失礼な奴にあったことがない。してなかったらできない理由は調べんだろうが。してるのにできないから調べたんだ。」
「あ、そうか。どっちにしても、それをあの子に説明してみたらどうだ。嫌なら本気で吹っ切れる。あんた卑怯なんだよ。絶対ダメならなんであの絵を渡した?あの子は吹っ切れたフリをしなきゃいけないんだ。吹っ切れないんだよ。あんなもの渡されちゃ。そうだろ?そんなことわかってるだろ?あんたいい年じゃないか。田原社長に説教食らわせたんだろ?なにいい人ぶってるんだよ。そんなことしてる暇があったら、あんたの方からあの子に事情を打ち明けて、あんたがフラれてやれよ。それが年長者の務めってもんだろ?いうこと言ったからな。一週間以内にあんたがなんにもしなかったら、クラムボン捨ててやる。本気で吹っ切るってそういうことだろ?」
俺は精一杯けしかけた。これで進まなきゃホントにクラムボンをオッサンに返そうと思っていた。梨沙ちゃんに恨まれるかもしれないが、これが本当の親切というものだ。オッサンはしゃべらなくなってしまった。
梨央には一応の説明はしておいたがオッサンの健康上の秘密は言わなかった。梨央は「あなたは、私が思った通りの人だった。とっても優しい。本当に信頼してる。」とお褒めの言葉を賜った。俺は自分がいい人になってきていることを自覚していた。
その翌日、義父から会社に電話があった。「君、この間、例の画家と会ってくれたのか?」と聞かれたので言いよどんでいると「すまんね。面倒掛けて。梨央が君にお願いしたのかな?申し訳ないね。忙しいのにお世話をおかけして。まあよろしく頼む。君はしっかり者だからな。君の眼を信じるよ。まあ、とにかくお礼の気持ちを伝えたかった。ありがとう。」といわれた。
賛成とも反対とも言われなかった。君の眼を信じるって、なんて卑怯な言い方なんだと思った。人が悪い。俺だけがいい人だった。
続く
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2019年09月13日
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