弁解
義母が「どう考えたって真さんが良くない。ちゃんと謝らないと」といった。「真、いつも梨央にあんな口の利き方か?」義父の目が怒っていた。「いや、そんなことありません。話の流れでつい、すんません。」と義父に謝った。「いや、僕に謝ってる場合か!梨央に謝れ、あれはまずいぞ。」といった。玄関から梨央と真也が外へ出る音がした。俺は慌てて追いかけた。
梨央に追いついてすぐ「梨央、ごめん、あんな言い方して悪かった。」と声をかけた。梨央は「いいの、私が軽率だから。」と返事をしたが冷たい。家の玄関を入るとすぐに、「ごめん、イライラしてたんだ。」「イライラさせてごめんなさい。私は軽率なの。これから夕食の準備なの。真也を遊んでやって。」とキッチンへ行ってしまった。
俺のイライラの原因は遊園地だった。俺が不安にさいなまれていた時に父は別宅の妹たちを連れて遊園地ではしゃいでいた。それが許せなかった。母が亡くなってからの俺の子供時代は本当に孤独だった。祖母が亡くなってからは不安が上積みされていった。
やっと父に引き取られたときには俺は小さな資産家だった。そして、妹たちの存在が母を悲しませていたとわかった。俺はまともな育ちじゃない。そのことが大きなコンプレックスだった。
その妹の駆け落ち騒動の後始末を俺がするのかと思うと腹が立った。ましてやなんで妊娠中の妻がいる家で預からなければならないのかと思うとむかっ腹が立った。梨央に当たるのは筋違いだ。しかも梨央が俺のために言った言葉を強く否定して我ながら何てバカなんだと嫌になった。
食事中も「梨央、あの時ちょっといらだつ原因があったんだよ。梨央にイラだったんじゃないんだ。俺は自分の父親にイラだったんだ。ごめん。なんかお詫びしなきゃな。今度の休みに、新しい服を新調しよう。」というと「これからおなかが大きくなるんだから、今は服は要らないの。」
「じゃあ、どうだ、香水を買おうか?」「今つわりで気持ち悪いの。香水は要らないわ。」
「指輪はどうだ。ちょっといいのを買おうか?」「子供たちが小さいうちは指輪は使わないの。けがをさせちゃったらいけないから。」
「じゃあ、え〜と、う〜ん、何がいい?」と困っていると梨央が笑い出した。
「なんで、要らないものばっかり思い付くの?」といわれて、「わかってないオッサンなんだよ。ごめんな。お義父さんとお義母さんに怒られたよ。お義父さんなんか、いつもあんな口の利き方か?って真顔で言うんだよ。」梨央は「怒られればいいのよ。」と言いながら笑った。」いつもの、とろける笑顔だった。とりあえずは梨央の怒りの火は治まったようだった。
その夜ベッドで子供の時の話をした。ナイトランプの薄明りでも梨央が泣いているのが見えた。「かわいそうだったのね。真君は。でもね、今は真也がいて、もうちょっとしたらこの子も生まれて、あなたは二児の父よ。私もいるし、軽率だけど。あなたは、もう孤独とはお別れよ。これからは、いい加減に静かにしろ〜って叫ばなきゃならないわ。」といった。
「うれしいね。家族が増えるのは。梨央のおかげだ。本気でお手伝いさん探さなきゃな。」と言いながら抱きしめた。
続く
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2019年10月16日
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