機械のジャングル
浜野興産は今は郁美の夫が経営の中心になっていて、俺はどちらかと言えば浜野不動産のクライアントのような立場になっていた。俺は相変わらず忙しかったが、特に可もなく不可もなく平穏無事な家庭生活だった。もう、53になった。梨央も45だ。世間的にはもう立派なおばさんだった。
義母は相変わらず義父の世話に明け暮れていた。梨央が時々庭掃除やバラ園の世話を引き受けるが家の中は一人で頑張っていた。梨沙ちゃんは株式会社えり兆の社長になって、こちらも多忙だった。最近は詩音が有名になって自宅にアシスタントが付くようになった。梨沙ちゃんが二人の食事の準備をして家を出るらしい。
会社の会議中に梨央から電話が入った。義母が倒れて救急車で運ばれた。脳溢血だった。俺が病院に着いたときには義母は手術中だった。梨沙ちゃんは気丈にふるまっていたが梨央は泣いていた。義父は病院の車いすに乗せられていた。相当ショックだったようだ。詩音も緊張した顔で何も言わない。
梨央を待合室に読んで容態を聞いた。生命の保証はできない、助かった場合には何らかの障害は覚悟してほしいといわれたらしい。手術がおわって義母は集中治療室へ移された。俺はこういう場所へ来るのは初めてだった。義母は何本ものチューブにつながれていた。
チューブの多さにも驚いたが、機械音にも辟易した。常にさまざまな機械音がなっている。俺たちは20分位その音を聞いていたが耳障りで不愉快だった。義母は外国人と間違えるような彫り深い美貌だ。それもチューブやテープでわからなくなっていた。全く知らない人のように見えた。仕切りはカーテンだけで常に人に見られている状態だ。義母は今は意識がないから気づかないだろうが意識があれば、あの環境で何日も眠っていれば精神的に参ってしまうだろうと思えた。
その夜は皆家に帰った。病院に居ても何もすることがないからだ。しばらくは見舞いに行ってもただ大きな傘の中にいて動かない義母を見るだけなのだろう。いつ、あの機械のジャングルの中から脱出できるのかもわからなかった。
続く
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2019年10月31日
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