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2019年07月05日
家族の木 THE SECOND STORY 俊也と真梨 <46 白いばら>
白いばら
僕は最近になって悪性のリンパ腫が見つかった。皮肉なことに実父と同じ病に取り付かれてしまった。病気は苦しいし悔しいが、それでも納得はしている。もう、77歳だ。孫たちの将来も見えてあまり心配事もない。
このごろ頻繁に昔のことを思い出すようになった。母につれられて母の実家に戻った日、僕はいつもの通りおやつを貰ったらそのまま母と家に帰るものと思っていた。母の実家には優しいおじいちゃんとおばあちゃんがいて、いつもおやつをもらう癖がついていた。
いつもは母は長居をしない。少ししゃべるとすぐに「ああ、早よ帰らんとまたお義父さんに怒られる。」とそそくさと帰ったものだ。それが、その日は夜になっても帰らなかった。僕はその日から僕の運命が大きく変わりだすことを知らなかった。
その日から母の実家で暮らした。それから1週間ぐらいたったある日、タクシーで港まで行ってフェリーに乗った。それから大阪で小さなアパートを借りて母と二人で暮らした。いったこともない保育園に通うようになった。
そんな時によく家に出入りするようになったのが大阪の継父だった。この人に巡り会わなかったら僕は今のような落ち着いた暮らしはできなかっただろう。母が継父と愛し合って再婚しなかったら真梨に会うこともなかっただろう。真梨に巡り合って僕は幸福な家庭人として終わることができそうだ。
あちらに行ったらまずは継父に挨拶をしよう。義理の仲の僕に愛情をもって養育してくれた。まぎれもなく僕の人生の大恩人だ。
その次には叔父と叔母に会いに行こう。二人は仲良く一緒にいるに違いない。僕の家庭生活を支えてくれた二人だ。
最後に僕の実父に会いに行こう。縁の薄い親子だったが僕の幸福を祈りながら暮らしてくれた。忘れてはいけない。
母にも挨拶が要るだろう。母には特別な挨拶が必要だ。あの長谷川の一件を問いたださなければ。いやいや、そんなことはもうどうでもいいことだ。継父と仲良くしているか、それだけを確かめよう。
できることなら叔父のように妻を看取ってから逝きたいと思っていた。寂しくて辛い思いをするのは僕でいい。だが、そうもいかないようだ。できることなら真梨の認知症が進んでほしい。僕の死に気付かないまま少女時代のように可憐なまま老いて、やがては僕のいるところへ来てほしい。あまり長い時間待たされるのはかなわない。
あっちの挨拶を済ませたら真梨を迎えに来よう。真梨が大好きな白いバラを持って迎えに来たら喜んでくれるだろうか?
白いバラは香りが強い。雨が降った後はなおさらだ。見た目が清楚な割には濃厚な香りを放つ。君は白いバラに似ている。
THE THIRD STORY 純一と絵梨 に続く
僕は最近になって悪性のリンパ腫が見つかった。皮肉なことに実父と同じ病に取り付かれてしまった。病気は苦しいし悔しいが、それでも納得はしている。もう、77歳だ。孫たちの将来も見えてあまり心配事もない。
このごろ頻繁に昔のことを思い出すようになった。母につれられて母の実家に戻った日、僕はいつもの通りおやつを貰ったらそのまま母と家に帰るものと思っていた。母の実家には優しいおじいちゃんとおばあちゃんがいて、いつもおやつをもらう癖がついていた。
いつもは母は長居をしない。少ししゃべるとすぐに「ああ、早よ帰らんとまたお義父さんに怒られる。」とそそくさと帰ったものだ。それが、その日は夜になっても帰らなかった。僕はその日から僕の運命が大きく変わりだすことを知らなかった。
その日から母の実家で暮らした。それから1週間ぐらいたったある日、タクシーで港まで行ってフェリーに乗った。それから大阪で小さなアパートを借りて母と二人で暮らした。いったこともない保育園に通うようになった。
そんな時によく家に出入りするようになったのが大阪の継父だった。この人に巡り会わなかったら僕は今のような落ち着いた暮らしはできなかっただろう。母が継父と愛し合って再婚しなかったら真梨に会うこともなかっただろう。真梨に巡り合って僕は幸福な家庭人として終わることができそうだ。
あちらに行ったらまずは継父に挨拶をしよう。義理の仲の僕に愛情をもって養育してくれた。まぎれもなく僕の人生の大恩人だ。
その次には叔父と叔母に会いに行こう。二人は仲良く一緒にいるに違いない。僕の家庭生活を支えてくれた二人だ。
最後に僕の実父に会いに行こう。縁の薄い親子だったが僕の幸福を祈りながら暮らしてくれた。忘れてはいけない。
母にも挨拶が要るだろう。母には特別な挨拶が必要だ。あの長谷川の一件を問いたださなければ。いやいや、そんなことはもうどうでもいいことだ。継父と仲良くしているか、それだけを確かめよう。
できることなら叔父のように妻を看取ってから逝きたいと思っていた。寂しくて辛い思いをするのは僕でいい。だが、そうもいかないようだ。できることなら真梨の認知症が進んでほしい。僕の死に気付かないまま少女時代のように可憐なまま老いて、やがては僕のいるところへ来てほしい。あまり長い時間待たされるのはかなわない。
あっちの挨拶を済ませたら真梨を迎えに来よう。真梨が大好きな白いバラを持って迎えに来たら喜んでくれるだろうか?
白いバラは香りが強い。雨が降った後はなおさらだ。見た目が清楚な割には濃厚な香りを放つ。君は白いバラに似ている。
THE THIRD STORY 純一と絵梨 に続く