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2019年07月24日
家族の木 THE THIRD STORY 純一と絵梨 <19 絡み酒>
絡み酒
僕と絵梨の結婚セレモニーは入籍と親戚だけの簡単な披露宴で終わりだった。料亭の一室での宴会だった。その席にはタカシの新妻も同席した。賢そうな人だった。
僕たちは、その二日後にアメリカに新婚旅行に出た。2週間かけてウエストサイドを観光する計画だ。絵梨の希望だった。最初の夜は僕が住んでいた街だ。絵梨の希望だった。この街に来るのは抵抗もあったし寄ってみたい気持ちもあった。楽しくて明るくて前向きな恋を結局は苦い形で終わらせてしまった。でも、妻を紹介したい友人もいた。複雑な気持ちだった。
最初に絵梨からこの話が出たときには僕はそれとなく断った。ハワイの方が楽だし観光地も多いとか、ヨーロッパへ行ってみたいなどの提案もしたが絵梨はアメリカが希望だった。それは当然でもあった。
夫が婚前に3年間住んだ町に関心を持つのは当然だったし、絵梨にしてみれば僕に対する優しさでもあった。また行ってみたいだろう。会いたい友人もいるだろうと思うのは何も不思議なことではなかった。むしろ、それを拒否する方が不自然だった。
まさかこの街で僕が人目もはばからずに恋をしていたなんて絵梨は想像もしていなかっただろう。いや、その程度のことは分かっているのかもしれない。青春の思い出だと思っているだろう。半同棲の関係で移住さえも念頭に入れた関係だとは思わないだろう。しかも、別れる寸前に絵梨が原因になって大げんかをしていた。
しかし、その恋人はもうこの街にはいないはずだ。卒業したら故郷に帰って父親の会社に入るといっていた。ホテルは学生の頃の暮らしとはかけ離れた高級ホテルにした。ホテルに出入りするのはよそから来た人間だけだった。地元の人間には用のないホテルだ。友人に会う心配をしなくてよかった。
親しかった友人二人を招待して食事をした。二人とも近隣の都市でビジネスマンとして活躍していた。良識もあるし気配りもできる。ハネムーンの席で前の恋人の話をするような連中ではなかった。
最初は二人がお祝いをしてくれて楽しい会話が弾んだ。しかし、酔いが回ってきた頃話が妙な方へ向いた。その中の一人がシンシアと付き合っているらしかった。迂闊だった。まさかそんなことになっているとは夢にも思っていなかったのだ。
その話を聞いたときには驚いたが、特に嫉妬心などは起きなかった。むしろホッとしたぐらいだ。しかし、その男は酔いが進むにつれて目が座ってきた。
「シンシアはずいぶん苦しんだ。兄弟に恋をする男と恋愛関係にあったということが彼女を苦しめていた。しかも、その姉に負けたんだ。何のケアもせず帰国して、その上、その姉と結婚報告にわざわざこの街に来る神経が分からない。東洋人は不思議だ。」と絡んできた。
絵梨は真っ赤になってうつむいて黙ってしまった。姉が実は従妹だったことを何度も説明したが、要は絡み酒だ。もう一人の友人がとりなしてくれて、喧嘩にはならなかったが、早々にお開きになってしまった。アメリカに着いた最初の夜だった。
続く
僕と絵梨の結婚セレモニーは入籍と親戚だけの簡単な披露宴で終わりだった。料亭の一室での宴会だった。その席にはタカシの新妻も同席した。賢そうな人だった。
僕たちは、その二日後にアメリカに新婚旅行に出た。2週間かけてウエストサイドを観光する計画だ。絵梨の希望だった。最初の夜は僕が住んでいた街だ。絵梨の希望だった。この街に来るのは抵抗もあったし寄ってみたい気持ちもあった。楽しくて明るくて前向きな恋を結局は苦い形で終わらせてしまった。でも、妻を紹介したい友人もいた。複雑な気持ちだった。
最初に絵梨からこの話が出たときには僕はそれとなく断った。ハワイの方が楽だし観光地も多いとか、ヨーロッパへ行ってみたいなどの提案もしたが絵梨はアメリカが希望だった。それは当然でもあった。
夫が婚前に3年間住んだ町に関心を持つのは当然だったし、絵梨にしてみれば僕に対する優しさでもあった。また行ってみたいだろう。会いたい友人もいるだろうと思うのは何も不思議なことではなかった。むしろ、それを拒否する方が不自然だった。
まさかこの街で僕が人目もはばからずに恋をしていたなんて絵梨は想像もしていなかっただろう。いや、その程度のことは分かっているのかもしれない。青春の思い出だと思っているだろう。半同棲の関係で移住さえも念頭に入れた関係だとは思わないだろう。しかも、別れる寸前に絵梨が原因になって大げんかをしていた。
しかし、その恋人はもうこの街にはいないはずだ。卒業したら故郷に帰って父親の会社に入るといっていた。ホテルは学生の頃の暮らしとはかけ離れた高級ホテルにした。ホテルに出入りするのはよそから来た人間だけだった。地元の人間には用のないホテルだ。友人に会う心配をしなくてよかった。
親しかった友人二人を招待して食事をした。二人とも近隣の都市でビジネスマンとして活躍していた。良識もあるし気配りもできる。ハネムーンの席で前の恋人の話をするような連中ではなかった。
最初は二人がお祝いをしてくれて楽しい会話が弾んだ。しかし、酔いが回ってきた頃話が妙な方へ向いた。その中の一人がシンシアと付き合っているらしかった。迂闊だった。まさかそんなことになっているとは夢にも思っていなかったのだ。
その話を聞いたときには驚いたが、特に嫉妬心などは起きなかった。むしろホッとしたぐらいだ。しかし、その男は酔いが進むにつれて目が座ってきた。
「シンシアはずいぶん苦しんだ。兄弟に恋をする男と恋愛関係にあったということが彼女を苦しめていた。しかも、その姉に負けたんだ。何のケアもせず帰国して、その上、その姉と結婚報告にわざわざこの街に来る神経が分からない。東洋人は不思議だ。」と絡んできた。
絵梨は真っ赤になってうつむいて黙ってしまった。姉が実は従妹だったことを何度も説明したが、要は絡み酒だ。もう一人の友人がとりなしてくれて、喧嘩にはならなかったが、早々にお開きになってしまった。アメリカに着いた最初の夜だった。
続く