この広告は30日以上更新がないブログに表示されております。
新規記事の投稿を行うことで、非表示にすることが可能です。
広告
posted by fanblog
2019年07月27日
THE THIRD STORY純一と絵梨 <22 受胎告知>
受胎告知
最近、絵梨が少し痩せてきた。父に慎むように叱られた。こんな時、僕の立場はややこしい。普通、義父が婿にそんなこというか? 父親が息子の嫁が少しやせたことに気付くか? 僕の父は、母よりもおせっかいなのかもしれない。過干渉だと思った。ただ、絵梨自身は幸福そうだった。
その、幸福そうな絵梨が、その日は朝起きるのが遅くなった。ふと見ればうたた寝をしている。朝食を作るのもやっとだった。父が言うようにやりすぎてしまったのだろうか?と反省した。「疲れてる?今日はゆっくり休めばいいよ。洗濯、僕が帰ってからやるから。夕飯はなんかとろう。」と言って出勤した。
その日、会社から帰ると絵梨はソファに座ったまま「お帰りなさい。」といった。本当に体調が悪いのだと思って心配になった。が絵梨はにこにこしていた。ソファからおいでおいでをする。僕は腹が減っていた。ちょっとイライラした声で「なんだよ。」と絵梨に近づいた。
絵梨が立ち上がらないので、絵梨の隣にどさっと座った。その時、絵梨がしなだれかかってきて僕の手を自分の胸に抱いた。疲れて帰ってきていきなりは無理だと焦った。絵梨が小さな声で、「受胎告知です。私たち夫婦は天から授かりものをしました。」といった。
ジュタイコクチ?なんだそれ?脳内変換に時間がかかった。やっと漢字変換ができたが、あまり実感がなかった。絵梨が「おめでとう。あなたはパパになりました。」といった。「ほんと?」というと「今日病院に行ったの、3カ月だって。」といった。
よくテレビドラマでやっている感動的な場面が現実に僕に起こった。こんな時、ドラマのように喜んで飛び上がるのかと思ったが、そんな風にはならなかった。絵梨の前では喜んでみたものの、それほどの感慨は湧かなかった。その日は、近所の蕎麦屋から出前してもらった。僕の子供の門出は地味な食事から始まった。
本当に感動が押し寄せてきたのは絵梨が風呂から出てきた時だった。絵梨の体をバスタオルで拭いてバスローブを着せて髪を乾かした。その間、僕は聖人君子のようにふるまった。しばらくは、きつく抱きしめてはいけない。無茶なことをさせてはいけないと思った。
喜びが込み上げてきた。このお腹の中に子供がいるんだ。子供ができたんだ。子供が生まれるんだよ。と何度も心の中でつぶやいた。いや、声に出していたかもしれない。絵梨が、クスクス笑った。僕は、実家に電話しようとしたが絵梨はしばらく二人だけの秘密にしようといった。僕は、だらしなくにやにやした。
その週の週末には両親を夕飯に招待した。絵梨は食事の支度をしかけたが、僕はイタリア料理屋のテイクアウトを提案した。最近評判になっている店だった。その料理を見て、父は一瞬つまらなそうな顔をした。僕は「絵梨は料理するっていったんだけど、僕が止めたんだ。」と絵梨の代わりに言い訳をした。
父は心配顔になり、母はすぐ具合はどうかと尋ねた。絵梨が、ちょっとむかつく程度だと答えると「いつ分かったの?」と聞いた。母はいかにも物知り顔でわざと父にわかりづらく話した。父もやっと事態を察したようだった。途端に笑顔がこぼれて、「おめでとう。大事にしないとな。」といった。
その日から、僕たちは絵梨のお腹の子供を守るためだけに動いた。母は毎日僕達の家に来て家事一切を引き受けた。絵梨も慎重に生活した。一日に何度か庭周りを散歩したが外出は控えた。少し、神経質かとも思ったが、何としても無事に出産したいという強い決心だった。
僕は相変わらず聖人君子だった。絵梨の検診に付き添って心音を聞かせてもらった。小さな小さな米粒のような影が映っているだけなのに、ドクドクドクっと心音が聞こえた。生きているんだと実感した。
こんなに短期間で人生が一変することがあるのだと思うと感慨深かった。あの時、叔父夫婦がうちへ縁談を持ってこなかったら、僕らは、この幸福をつかむことがなかったのかもしれない。
あんなに悩んだ恋愛も結婚してみれば、ごく平凡な夫婦だ。あの長い10年間は何だったのだろうと不思議になった。
続く
最近、絵梨が少し痩せてきた。父に慎むように叱られた。こんな時、僕の立場はややこしい。普通、義父が婿にそんなこというか? 父親が息子の嫁が少しやせたことに気付くか? 僕の父は、母よりもおせっかいなのかもしれない。過干渉だと思った。ただ、絵梨自身は幸福そうだった。
その、幸福そうな絵梨が、その日は朝起きるのが遅くなった。ふと見ればうたた寝をしている。朝食を作るのもやっとだった。父が言うようにやりすぎてしまったのだろうか?と反省した。「疲れてる?今日はゆっくり休めばいいよ。洗濯、僕が帰ってからやるから。夕飯はなんかとろう。」と言って出勤した。
その日、会社から帰ると絵梨はソファに座ったまま「お帰りなさい。」といった。本当に体調が悪いのだと思って心配になった。が絵梨はにこにこしていた。ソファからおいでおいでをする。僕は腹が減っていた。ちょっとイライラした声で「なんだよ。」と絵梨に近づいた。
絵梨が立ち上がらないので、絵梨の隣にどさっと座った。その時、絵梨がしなだれかかってきて僕の手を自分の胸に抱いた。疲れて帰ってきていきなりは無理だと焦った。絵梨が小さな声で、「受胎告知です。私たち夫婦は天から授かりものをしました。」といった。
ジュタイコクチ?なんだそれ?脳内変換に時間がかかった。やっと漢字変換ができたが、あまり実感がなかった。絵梨が「おめでとう。あなたはパパになりました。」といった。「ほんと?」というと「今日病院に行ったの、3カ月だって。」といった。
よくテレビドラマでやっている感動的な場面が現実に僕に起こった。こんな時、ドラマのように喜んで飛び上がるのかと思ったが、そんな風にはならなかった。絵梨の前では喜んでみたものの、それほどの感慨は湧かなかった。その日は、近所の蕎麦屋から出前してもらった。僕の子供の門出は地味な食事から始まった。
本当に感動が押し寄せてきたのは絵梨が風呂から出てきた時だった。絵梨の体をバスタオルで拭いてバスローブを着せて髪を乾かした。その間、僕は聖人君子のようにふるまった。しばらくは、きつく抱きしめてはいけない。無茶なことをさせてはいけないと思った。
喜びが込み上げてきた。このお腹の中に子供がいるんだ。子供ができたんだ。子供が生まれるんだよ。と何度も心の中でつぶやいた。いや、声に出していたかもしれない。絵梨が、クスクス笑った。僕は、実家に電話しようとしたが絵梨はしばらく二人だけの秘密にしようといった。僕は、だらしなくにやにやした。
その週の週末には両親を夕飯に招待した。絵梨は食事の支度をしかけたが、僕はイタリア料理屋のテイクアウトを提案した。最近評判になっている店だった。その料理を見て、父は一瞬つまらなそうな顔をした。僕は「絵梨は料理するっていったんだけど、僕が止めたんだ。」と絵梨の代わりに言い訳をした。
父は心配顔になり、母はすぐ具合はどうかと尋ねた。絵梨が、ちょっとむかつく程度だと答えると「いつ分かったの?」と聞いた。母はいかにも物知り顔でわざと父にわかりづらく話した。父もやっと事態を察したようだった。途端に笑顔がこぼれて、「おめでとう。大事にしないとな。」といった。
その日から、僕たちは絵梨のお腹の子供を守るためだけに動いた。母は毎日僕達の家に来て家事一切を引き受けた。絵梨も慎重に生活した。一日に何度か庭周りを散歩したが外出は控えた。少し、神経質かとも思ったが、何としても無事に出産したいという強い決心だった。
僕は相変わらず聖人君子だった。絵梨の検診に付き添って心音を聞かせてもらった。小さな小さな米粒のような影が映っているだけなのに、ドクドクドクっと心音が聞こえた。生きているんだと実感した。
こんなに短期間で人生が一変することがあるのだと思うと感慨深かった。あの時、叔父夫婦がうちへ縁談を持ってこなかったら、僕らは、この幸福をつかむことがなかったのかもしれない。
あんなに悩んだ恋愛も結婚してみれば、ごく平凡な夫婦だ。あの長い10年間は何だったのだろうと不思議になった。
続く