回答の仕方を聞いていた。
が、龍太郎はよそを向き、視線をアンケートからそらせた。
近くにいた龍之介はそれに気が付き、間をみて、知人のおじさんとバトンを交換した。
龍太郎は知人のおじさんの説明では理解できなかったのだ。
そもそも最初に龍之介でなく、知人のおじさんに聞くということは
親子関係の現状を物語っている。
龍太郎は今、中学3年生で高校進学を目の前にしているのだが、
差し詰め、野球をつづけるか否かで悩んでいるようすで、それに
よっては希望する進学校も大きく変わってくる。
恐らく、辛く、怒られてばかりの野球をする意義が今後あるのか
悩み、やりたいことをしたい感情が芽生え、野球や勉強から逃避
したい本音があるのだろう。
そんな悩みや相談事をお父さんにすると、意に反する、下手をすれば
幼少の時のように怒られるトラウマがあるのかもしれない。
だから、知人のおじさんを頼ったのだ。
しかし、知人は他人である。
龍太郎の将来の心配など真剣に考えるはずはない。
そこで、やはり最後はお父さんにたどり着いたのだ。
「お父さん ここどうやって書いたらいいの?」
いくつかの解答欄を埋めて、龍太郎は姿を消した。
間もなく、今度は龍之介のお父さんが突然笑顔で現れた。
その姿は若々しく、やや痩せていて背が高く見える。
そうして、まんべんの笑みを浮かべてこちらに近づいた。
「龍之介 帰ってきたよ。」
驚いた龍之介であったが、すぐ我に帰り、喜んでお父さんに駆け寄った。
「お父さん 逢いたかったよ。」
龍之介はお父さんの胸に顔をうずめ、ギュッと抱きしめた。
そしてあの懐かしいお父さんの臭いを嗅いだが、何故か無臭である。
「痛い、痛い。なんか足が痛い。」
龍之介は痛がるお父さんを持ち抱えて、弱音となる本音を打ち明けた。
「お父さんいなくなってから、ずっと淋しかったんだよ。
なんかあっても、相談もできないし、一人でなんとかするしかない。
俺はもう無理だなんて投げだしそうになったことだってある。
お父さん、お願いだからそばにいてくれよ。」
龍之介は泣きくずれて、抱きかかえていた腕を緩めて
ついに父から手をゆっくりと放してしまった。
顔を上げるとお父さんはもういない。
龍之介も幼少の時には父によく怒られ、ゲンコツを喰らわされた
ものだが、結局父が大好きでたまらなかったと言える。
この歳になっても恋しくてたまらない。そばにいてほしい。
いや、もしかしたら、本当はそばにいてくれていて、ずっと
見守ってくれていて、応援してくれているのかもしれない。
この父の様に、子供(龍太郎)から愛される父親(龍之介)には、
現状ではなれていない、ほんと馬鹿な親(龍之介)だが、それでもいつかは
龍太郎に愛されることを信じて見守って、応援し続けようとしている龍之介であった。
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