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2016年09月20日

578話 哀愁の龍太郎

「お父さん 今日空いてる?」


龍太郎はめずらしく父を誘った。

というよりも、運転手として龍之介は雇われた


「エギングしたいんだけど、島に連れてってくれる?」


島と言っても、そこには最近できたばかりの大橋を車で渡れば

行けるところ。


「いいねぇ。でも、近づく台風はお構いなし


喜んだ龍太郎は直ちに友達を誘い、運転手を含め5名で大橋を渡った。


その車上で、野球部の友達と、硬式野球クラブの事であるだろう

内容の話をしていて、龍太郎は積極的に質問をしていた。

練習試合のこと、友人たちの打席の結果などなど。


龍太郎はその硬式クラブの出席率が悪く、恐らく参加しても使っては

もらえまいと龍之介は思った。その思いは残念で、悔しい気もあるが、

今、体格も心も未熟な龍太郎を可哀想であると同情してしまった。


小さくても、誰よりもうまく、大きい選手に負けなかった過去のことなど

硬式クラブの指導者たちは少しも知らないし、何より、練習の出席率

が悪いのではそれも仕方がない。


そんな心配をよそに、雨の降り注ぐ中、子供たちは楽しそうに遊んでいる。

やっぱり、龍太郎には笑顔が似合う。



三連休も終わり、単身赴任先に帰宅しようとする龍之介は、嫁ちゃんにつぶやいた。



「龍太郎を頼むな。無理はさせないでいいから。

 やっぱり、元気で明るい元の龍太郎のほうがいいわ。」



そういうと、なんだか野球をさせることに執着していた龍之介は

野球なんてどうでもいいかと少しだけ思えたのであった。


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