龍太郎はめずらしく父を誘った。
というよりも、運転手として龍之介は雇われた
「エギングしたいんだけど、島に連れてってくれる?」
島と言っても、そこには最近できたばかりの大橋を車で渡れば
行けるところ。
「いいねぇ。でも、近づく台風はお構いなし」
喜んだ龍太郎は直ちに友達を誘い、運転手を含め5名で大橋を渡った。
その車上で、野球部の友達と、硬式野球クラブの事であるだろう
内容の話をしていて、龍太郎は積極的に質問をしていた。
練習試合のこと、友人たちの打席の結果などなど。
龍太郎はその硬式クラブの出席率が悪く、恐らく参加しても使っては
もらえまいと龍之介は思った。その思いは残念で、悔しい気もあるが、
今、体格も心も未熟な龍太郎を可哀想であると同情してしまった。
小さくても、誰よりもうまく、大きい選手に負けなかった過去のことなど
硬式クラブの指導者たちは少しも知らないし、何より、練習の出席率
が悪いのではそれも仕方がない。
そんな心配をよそに、雨の降り注ぐ中、子供たちは楽しそうに遊んでいる。
やっぱり、龍太郎には笑顔が似合う。
三連休も終わり、単身赴任先に帰宅しようとする龍之介は、嫁ちゃんにつぶやいた。
「龍太郎を頼むな。無理はさせないでいいから。
やっぱり、元気で明るい元の龍太郎のほうがいいわ。」
そういうと、なんだか野球をさせることに執着していた龍之介は
野球なんてどうでもいいかと少しだけ思えたのであった。
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