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タナカマツヘイ
総合診療科 医学博士 元外科学会専門医指導医、元消化器外科学会専門医指導医、元消化器外科化学療法認定医、元消化器内視鏡学会専門医、日本医師会産業医、病理学会剖検医

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2019年05月08日

ドラッグに翻弄される脳?F

最終的には、心の働きの脳内メカニス?ムについて述べていきます。

ドラッグに翻弄される脳?F

辞めたいと思ってもやめられない依存症を引き起こし、再発しやすいのは
なぜだろう
実は薬物は脳の報酬系という神経回路を変えてしまう
しかもその変化は乱用を止めた後でも長期にわたって続くことがわかってきた


E. J. ネスラー (テキサス大学)/ R. C. マレンカ (スタンフォード大学)

報酬系以外にも

ここまで、薬物が脳の報酬系に引き起こすドーパミン関連の変化に焦点を当ててきた。
しかし、脳の他の領域も思い出していただこう。
扁桃や海馬、前頭葉なども依存症に関係しており、これらがVTA(腹側被蓋野)や側坐核と互いに交信しているのだ。
これらすべての領域が、神経伝達物質グルタミン酸を放出して報酬回路と信号をやりとりしている。

乱用薬物がVTAから側坐核へのドーパミン放出を促進している時、同時にVTAや側坐核のグルタミン酸に対する応答性も数日の間に変化している。
動物実験によると、報酬回路のグルタミン酸に対する感受性が変化し、それがVTAからのドーパミン放出を促すと同時に、側坐核のドーパミン応答性を高めている。
それによってCREB(サイクリックAMP応答配列結合タンパク質)やΔ(デルタ)FosBの活性が高まり、これらの分子の持つ不幸な効果が現れるようになるのだ。
その上、グルタミン酸感受性が変わることによって、薬物摂取経験に関連した記憶が強まり、もっと薬物を探したいという欲求が高まる結果となる。

薬物が報酬回路のグルタミン酸感受性を変えるメカニズムについては、まだはっきりわかってはいないが、作業仮説が立てられている。
グルタミン酸が海馬のニューロンにどう作用するかという知識をもとにした仮説だ。

短期間の刺激が、グルタミン酸に対する細胞の反応性を何時間にもわたって増強するのだ。
この現象は長期増強と呼ばれ、記憶の形成を助けている。

その仕組みは、特定のグルタミン酸受容体タンパク質が、細胞内の貯蔵場所と細胞膜上を往復することにあるらしい。
細胞内にある時は非活性だが、膜上に出ると、シナプス間隙にあるグルタミン酸と結合して、一連の反応を引き起こす活性型となる。
乱用薬物は、報酬回路の受容体タンパク質の往復に影響を与えるのだ。
ある報告によれば、薬物は特定のグルタミン酸受容体の合成にも影響を与えるらしい。

これらを考え合わせると、ここまで述べてきた報酬回路に見られる変化は全て最終的に、耐性・依存・渇望感・再発、さらに依存症に認められる複雑な行動を促している。

多くの点が未解決だが、はっきり言えることもある。
薬物使用が長く続く間、そして使用が終わった直後には、報酬回路のニューロンの中でcAMP(サイクリックAMP)の濃度とCREBの活性変化が顕著になる。
これらの変化によって耐性と依存が生じ、薬剤感受性が低下し、依存症患者はうつ状態になって何もする気が無くなる。
薬物摂取を長い間ずっと止めると、ΔFosB活性とグルタミン酸シグナルの変化が主役になる。
これらは、患者を再び依存に引き戻すように働く。
薬物に対する感受性を高めるほか、昔のハイな気分の記憶とその記憶を思い出させるような事物に患者が強く反応するようになるためだ。

CREBやΔFosBの濃度とグルタミン酸シグナルの変化は、薬物依存をもたらす主な要因だが、これが全てではない。
研究が進めば、報酬回路や関連する脳領域で働いているその他の重要な分子や細胞適応が明らかになり、依存症の本質が見えてくるだろう。

参考文献:別冊日経サイエンス『最新科学が解き明かす脳と心』
2017年12月16日刊
発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社
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