※このコラムはネタバレがあります。
2023年の「私だけの特捜最前線」コラムのスタートは、初期の作品 「初指令・北北東へ急行せよ!」を紹介します。他の刑事ドラマでは見られない、これぞ特捜というエッセンスが詰まった作品です。
一家心中目前の夫婦は見つかるか?
正月の放送ということで、神代課長(二谷英明)宅で 「かるた会」を催すというほのぼのとした場面が登場します。船村刑事(大滝秀治)も、留守番の桜井刑事(藤岡弘、)に浮かれ気分で定時連絡しています。
課長宅を訪問する前、妻と娘と食事をした船村は、隣席で食事をした子連れの若い夫婦の忘れ物に気づき、届けるため自宅を訪れます。そこで、一家心中をほのめかす遺書を発見したのです。
忙しさにかまけ、所轄署のやる気のなさに怒りをぶつける船村を見ながら、神代は「ほかがやらないことをやる。でなければ、特命課を設けた意味がない」と言い切り、早速部下たちに夫婦探しを命じるのです。
忘れ物を探しに来た夫婦の子供を見つけるなど、地道な捜査で夫婦の足取りを追いかける刑事たち。心中の動機も、経営していた会社の清算のため、暴利のサラ金に手を出したからだと分かります。
あたりが暗くなる中で、船村は水門から川に飛び込もうとした夫婦を発見。生きることに絶望する夫婦に 「意気地がないことも時には罪になる」などと熱弁を振るい、思いとどまらせる船村でした。
神代課長と高杉刑事の印象的なシーン
このドラマは「一家心中を企てる夫婦を探す」という、事件ではない非常に地味なテーマを丹念に描いています。ドラマの中で、とくに印象に残ったシーンを二つ拾ってみたいと思います。
足取りを追う捜査で、夫婦が難民募金に全財産を寄付したことが判明します。どう思うか問われた玉井婦警(日夏紗斗子)は「人の善意が光ったみたいで感動した」と話しますが、神代の見方は違っていました。
「警察官は状況分析をすることが先だ」と言い、「人は金銭に執着があるうちは死なないが、それを捨てたということは、いよいよ死ぬ気になった」と語ります。 神代の洞察力を示すエピソードです。
夫婦から取り残される形になってしまった幼い兄と妹が、死ぬことを悟って泣いてしまうシーンがあります。そんな二人を見て、声を掛けずにはいられなくなったのが 高杉刑事(西田敏行)です。
子供たちに優しく寄り添い、一緒になって涙を流す高杉。西田さんだからこそ、この場面が生きてくるのです。人間ドラマの色彩が濃い作品に、ちょっとしたエッセンスを加えるのはさすがですね。
正月なので、ラストは「希望」に
特命課によって命長らえた夫婦は、待っていた子供たちを抱きしめます。その姿を見ながら船村は「これから、あの親子はどうなるのだろう。何もできない我々は無力だ」と複雑な表情を見せます。
そこに、かつて経営者の元で働いていた従業員が駆け付け、「今度は私たちが恩返しをする番。みんなで助け合いましょう」と励まします。船村も表情が緩み、妻と娘に朗報を知らせるのでした。
このドラマは1987年の正月に放送されました。社会派の特捜らしい重苦しいテーマを描いてきたわけですが、ラストに 「希望」をつなぐシーンを持ってきたところは見事でしたね。
ところで、夫婦役を演じたのは 上村香子さんと横光克彦さんです。横光さんは、のちに紅林刑事として、特命課のレギュラーとして登場します。もしかすると、テスト的な出演だったのかもしれません。
本年も特捜最前線コラム、よろしくお願いいたします。
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