病原体として知られているウィルスだが、太古から共に地球に存在し、同じ時代を生きてきた生き物として捉えると、いろいろな側面が見えてくる。
母親の胎内で発育する胎児は父親と母親の遺伝形質を受け継いでいる。その、父親の遺伝形質は母親の免疫系にとっては異物であるため、母親の免疫反応で拒絶されるはずである。その拒絶反応から胎児を守るのに重要な働きをしているのが、合胞体栄養細胞であり、これはヒト内在性レトロウィルスの被膜(エンベロープ)にあるシンシチンと呼ばれるエンベロープ・タンパク質の作用により作られることが、2000年、試験管内の実験で明らかにされたという。
合胞体栄養細胞の層が集まってできた一枚の膜が、胎盤の中で母親の血液循環と胎児の血液循環の間を隔てており、母親のリンパ球が胎児の血管に入るのが阻害されるのだ。一方で胎児の発育に必要な栄養分や酸素はこの細胞膜を通過する。その結果、胎児は拒絶されることなく発育し、無事生まれてくると考えられている。
この胎児の保護に重要な合胞体栄養細胞が妊娠とともに形成される機構は長い間謎であった。
妊娠すると、それまで眠っていたヒト内在性レトロウィルスが活性化されて大量に増えて、その際にシンシチンが作られ膜融合を起こしているものと考えられている。
また、ウィルスが宿主の生命体に利益をもたらしている別の例がある。
北米の大西洋沿岸のカナダからフロリダにかけてエリシア・クロロティカと呼ばれる木の葉のような形をしたウミウシが生息しているのだあ、この動物は植物のように光合成で生きている。
エリシア・クロロティカは卵から孵化するとすぐフシナシミドロという緑藻を食べるのだが、この際、葉緑体だけは消化されずに丸ごと取り込まれて表皮のすぐ下に送られるという。この葉緑体が光合成を行ってウミウシに生きるためのエネルギーを供給しているのだが、葉緑体は機能を発揮するのに必要なタンパク質の遺伝情報は約10パーセントしか持たない。緑藻の体内では緑藻の核ゲノムに依存して光合成を行っているからだ。
つまりエリシア・クロロティカも、光合成に必要な緑藻の核の遺伝子をゲノムに持っているということである。
これは植物の遺伝子が動物に水平移動していることを示している。これがどのようにして起きたのかまだ証明されていないが、ウミウシには内在性レトロウィルスが見つかっており、これが光合成遺伝子を持ち込んでいる可能性が推測されているという。
ところで、ウィルスは生物と無生物の中間に位置するような不思議な生命体であり、生物の定義からはみ出している部分もある。
RNAウィルスが増殖する場合、ウィルスのRNAの情報から子ウィルスが作られる。ところが、同じRNAウィルスでもレトロウィルスは逆転写酵素という、RNAをDNAに移し替える働きをする酵素の遺伝子ももっており、感染したウィルスのRNAは一旦DNAの形になって細胞の核内に組み込まれる。
このDNAからウィルスのRNAが転写され、これから先は普通のRNAウィルスと同じように子ウィルスが産生される。
レトロウィルスの多くでは、ウィルスDNAは体細胞の核内に入りこむが、生殖細胞の核内に入るウィルスもある。
たとえば、HIVは体細胞に入り込んでウィルス増殖が起こり、放出されたウィルスが感染を広げていく。このようなウィルスは外来性レトロウィルスと呼ばれる。
一方、生殖細胞に入り込んだものは、内在性レトロウィルスと呼ばれており、宿主のゲノムの一部となって子孫に受け継がれていく。
しかし多くの場合、内在性レトロウィルスは子ウィルスを産生することなく潜んでいる。
内在性レトロウィルスは、数千万年前に外から感染した外来性レトロウィルスが長い年月の間に安全なウィルスとして増える能力を失ったものである。これまで外来性レトロウィルスが内在性レトロウィルスに変わったもっとも新しいものは豚内在性レトロウィルで、約5000年前と推測されていた。ところが、おそらく20世紀に内在化したと考えられる例が見つかった。
それはオーストラリアのクイーンズランド州のコアラで見つかった内在性コアラレトロウィルスである。
過去40年ほどの間にオーストラリアで白血病、リンパ腫、免疫不全などで死亡するコアラが増え始めたことである。病気のコアラの血液や組織では電子顕微鏡でレトロウィルスの粒子が見つかりコアラレトロウィルスと命名されたのだ。このウィルスは精子の中に組み込まれていることが確認されない内在性レトロウィルスと判断された。
普通、内在性レトロウィルスは眠った状態で存在していて感染を起こすことはほとんどないが、 コアラレトロウィルスは現在でもコアラの間で感染を起こしている。そのため、このウィルスの内在化はいまだに 進行中と考えられている。
進行中。 つまり、今後もウィルスが遺伝子に内在化することが起こり得るということであり、進行の過程では感染症が発生し続ける可能性があるということだ。
ヒトゲノムの構成要素で、 タンパク質産生のための情報を持つ機能遺伝子はわずか1.5パーセント に過ぎないという。34パーセントはレトロトランスポゾン、9パーセントがヒト内在性レトロウィルスとそのゲノムの一部であるLTRと呼ばれる塩基配列、3パーセントがDNAトランスポゾンであるという。
そして、聞き慣れないこの「トランスポゾン」というのは、 生物種の間を自由に移動できる因子 の総称。
レトロトランスポゾンは逆転写酵素によりRNAがDNAに移し変えられて ゲノムに挿入されたものである。
DNAトランスポゾンは、そのままの形でゲノムに挿入されたものである。
要するに、遺伝子の一部になってしまっているウィルスということだ。
DNAトランスポゾンはDNAウィルスが起源ではないかと推測されてきた。2011年に、原生生物のひとつストラメノパイル群の鞭毛虫カフェテリア・レンベルゲンシスから分離されたカフェテリア・レンベルゲンシスウィルスに寄生していたMaウィルスが発見されている。
このウィルスの遺伝子構造がトランスポゾンの一種マベリックスによく似ていたことから命名されたもので、マベリックス・トランスポゾンはかつて感染したMaウィルスの祖先に由来する可能性が指摘されたのである。
進化でのウィルスの役割を考えた場合に注目されるのは、霊長類が進化してくる過程でトランスポゾンに大きな変動が見られることである。DNAトランスポゾンも哺乳類から霊長類が進化してきた過程で盛んに活動していることが見られることから、この際に霊長類のゲノムに組み込まれたことを示唆している。これらのトランスポゾンの組み込みはウィルス感染により起きたものではないかという。
更に、生後一週目の乳児のおむつの糞便を調べてみると、さまざまなウィルスが見つかり、これらは母乳や粉ミルクには含まれていないもので、食事以外から入り込んだものと推測されている。
成人の腸管については、健康な四組の一卵性双生児の女性と母親の糞便を一年間に三回検査したところ、見つかるウィルスのほとんどがファージであった。腸管には腸内細菌が多くすみついているので、それらに寄生しているウィルスと考えられる。ファージには細菌を攻撃して溶かしてしまうタイプと平和共存する穏やかな性質のタイプがあるが、腸管で見つかったウィルスの多くは穏やかな性質のものであったそうだ。
これが何を意味するのか。
腸内には100兆個もの細菌がすみつき、それを上回る数のウィルスが共生している。これらが腸内細菌とどのような相互作用を行っているかは、まだ分からないということだ。
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