医学が進歩に対して、医者自身は少しも進歩していない、まずその事実をきちんと認識するのが、スタートです。
医学が進歩したところで、医学研究を行う医者も、それを利用する医者も進歩していないために、とかく医療も間違うのを避けがたい。
『65歳からは検診・薬はやめるに限る!—高血圧・糖尿病・がんはこわくない』や『医療の現実、教えますから広めてください!!』などの著者、名郷直樹氏はおっしゃいます。
まず、早期発見が害になるがんの“過剰診断”の問題があります。
つまり、がんの診断が正しく、がんに対する治療の害がないとしても、早期発見のためにかえって害を及ぼしてしまうことがあるといいます。
たとえば50歳でがん検診により早期がんを発見し、誤診もなく、治療の副作用もなく、治癒することができた人がいたとします。
その見つかった早期がんが、進行してその人を死なせるまでに30年かかる進行の遅いがんだったとしたら。がん検診を受けなかったら、治療のために仕事を休み、お金を掛け、定期健診のために通院を続け、がん再発の不安におびえることなく、30年という月日をより幸せに送ることができたのではないでしょうか。
こうしたがん検診での発見例を「過剰診断」と呼びます。この過剰診断の問題は、いくら診断が正しく、それ以降の治療が有効でも避けることはできないのです。
そして、早期発見のがんほど、メリットを実感しにくいという現実があります。
何故なら、早期発見であればあるほど、症状もなく、日常生活に何の問題もない状態でがんと診断されるわけですから、治療で少しでも悪い面が出ると、その悪い面が強調されるわけです。そもそも自覚的な不都合がない状態で入院し、治療しなければならないだけで精神的な苦痛が始まるということです。そこですでにマイナスなのです。
例えば、60歳で何の症状もなく、元気なうちに早期胃がんと診断されたとします。すぐに内視鏡で切除しようとしたところ胃に穴が開き、全身麻酔で胃の3分の1を取ることになってしまった。その結果、食事があまり摂れず体力もなくなり、食べる楽しみを奪われ、気力も萎えてしまう。そして結果としてうつになり引きこもってしまったという場合。手術の際の医療ミスの有無というよりも、手術に踏み切ったことの是非を問いたくなるように思います。
がん検診を受けるかどうかを考えるときに、こうした視点も考慮する必要があるのですが、そこはむしろ伏せられている面があり、大きな問題だといいます。
助かるのであればがんは「遅く」見つかった方が良いと名郷氏は言う。
具体的な例で、がんが1mmの大きさで見つかっても、10mmの大きさで見つかっても、50mmで見つかっても、治療によってその後は同じような寿命が得られるとしたら。
1mmから10mmになるまで10年、10mmから50mmになるまで5年を要するがんだとすれば。1mmで見つけた場合、10mmで見つけるより10年、50mmで見つけるよりは15年長く「がん治療と付き合って生きて行かなければならない」という負の面があるともいえます。
さらに、この人が10年目で心筋梗塞によって突然亡くなってしまったとしたら。1mmのがんを内視鏡検査で苦しい思いをして診断を受け、切除をした。しかし、結果的にはその人の寿命に関係なく、検査や治療で無駄に苦しんだということです。
無駄な医療を受ける可能性が高くなるのも、がん検診の負の側面の一つです。
更に、検診そのものの必要性を考える上で、がん検診で見つかるがんは進行が遅いということがあります。
1年ごとのがん検診で見つかるがんは、1年以内で進行してしまうようなものは少なく、「より進行の遅いものが見つかりやすい」といいます。
逆にがん検診ではなく、症状が出てから見つかるようながんでは、より早く症状が出やすい進行の早いがんの割合が高くなる、つまり、検診の意義はそもそも何であろうか、ということになるのです。
進行が遅いがんとして、乳がん検診2つの害があります。偽陽性と被爆の問題です。
マンモグラフィーによる乳がん検診により、「乳がん死亡が減ることを示す研究がある」一方で、「その効果は小さく、質の高い研究に限ればはっきりしない面もある」というのが現状です。
その小さな効果に対して、「害」のほうは、2つの問題があります。マンモグラフィーで乳がんの疑いとされたにも関わらず、精密検査でがんではないと診断される「偽陽性の問題」と、X線を使うことによる「放射線被ばくの問題」です。
被爆の影響については、明確な研究結果は示されていませんが、少ない被爆でもがんの危険が確率的に上昇するという仮定に基づいた場合、30代前半で2倍、30代後半では5倍、乳がん死亡率減少の効果が放射線被ばくによるがんの増加を上回るという微妙な結果になるといいます。
そして、がんの早期発見は誰にでもメリットがあるとは限らない。
たとえば、60歳の女性ががん検診で早期の乳がんと診断されたとした場合、乳房の一部を手術し、放射線治療をして、抗がん剤の投与を受け、その後も通院を続け、再発の恐怖を常に抱えて生活していくことになります。
一般的に乳がんの進行は遅く、早期がんから進行がんになり、末期がんに至って死をもたらすまでには、数十年の年月を要する場合も多くあります。たとえば、進行がんに至るまでに10年、死に至るまでには20年かかるとすると、先の60歳の患者さんは、検診を受けずにがんの治療は一切せず、もしかして75歳の時に乳がんではなく心筋梗塞で死を迎える—というような結末もあり得ます。
進行の遅いがんの例として、前立腺がんもあります。
前立腺がんは、高齢者により多く、もっとも進行の遅いがんの一つです。さらに、病院で亡くなった人を解剖して調べてみると、20%以上の人でその人の生死には関係のない前立腺がんが見つかるといいます。
50歳で見つかった早期前立腺がんは70歳になっても大して進行していない場合も多く、検診でがんが早期発見されたばかりに、50歳からの20年を前立腺がんとともに暮らさなければならないという“負の部分”もあるのです。
高齢者に多いがん、進行が遅いがんのがん検診は、「利益」に比べて、相対的に「害」のほうが多い可能性が高いのです。
最後に、名郷氏がお勧めする検診があります。
それは、「便潜血による大腸がん検診」です。これは、苦痛なく簡便に行うことができ、「大腸がん死亡を減らす」という、複数の研究があるということです。
著書にもある通り、名郷氏は、そもそも検診にはメリットがあまりないということをおっしゃっております。特に高齢になってからのがんの検診・治療は意味がないというのはその通りだと思います。
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