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posted by fanblog
2018年06月15日
長期の安定的な取引を前提とした協力関係
自動車産業で多く見られる
日本の企業間取引は、長期持続的で安定的だ、とよく言われます。
それは昔多くの研究者が、日本の自動車メーカーと部品メーカーの間の
系列取引を研究していたからです。
実際、トヨタ生産方式とも呼ばれる ジャスト・イン・タイム(JIT)では、
後工程で使った部品の量だけを前工程で生産する かんばん方式がとられます。
この JITを基礎にしたフレキシブルな生産システムは
長期継続的で安定的な取引関係を前提にした部品メーカーの
協力なくしては成立しません。
さらに、部品メーカーはただ図面を与えられて
部品の製造だけを行う 貸与図方式だけでなく、
部品の開発作業の一部も担当するという
承認図方式も広く採用されています。
部品メーカー側のエンジニアが
自動車メーカーの社内に常駐して、
自動車の開発・改良に協力するという
ゲスト・エンジニア制を導入している所もあります。
ただし現実は厳しく日本の自動車産業ですら、
部品メーカーの多くが長年にわたり選別・淘汰されてきました。
たまたま、現在のメーカーを見たときに
長期継続的で安定なところというだけです。
製品の「機能」をどう組み立てるか
モジューラー型かインテグラル型か
「 アーキテクチャ」といえば、
コンピュータや建築を連想しますが経営学の世界では、
製品アーキテクチャという独特な使い方をします。
これは、製品全体の機能を各コンポーネントにどう分配し
コンポーネント間のインターフェイスをどう設計するか、
という設計思想のことです。
例えば、一般的には境界面を意味する インターフェースは、
製品アーキテクチャにおいては、コンポーネント間をつないで、
信号や動力をやり取りしている連結部分をさします。
パソコン周りのコネクター類が典型例で、
USBのようにインターフェースが共通化されていれば、
さまざまなメーカーのプリンタ、スキャナ、ハードディスク等々を
パソコンにつなぐことができます。
このようにインターフェースが標準化されていて、しかもシステム機能が
「診察機能はプリンタ」
「画像読み取り機能はスキャナ」
「入力機能はキーボード」
というように各コンポーネントに1対1に分配されていれば、
アーキテクチャは モジュラー型と呼ばれています。
それに対して自動車のように
製品の機能が複数のコンポーネントにまたがって、
複雑に分配されていたり、 インテグラル型と呼ばれます。
ある程度汎用的な部品の塊を作る
技術革新のきっかけになることも多い
前項で言及した モジュラー型では、
コンポーネント間の相互依存性が低くなっています。
こうした独立性・自律性の高いコンポーネントは モジュールと呼ばれます。
各モジュールは他のモジュールと
調性せずに独立に設計することができるので、
製品開発の分業が可能になります。
そのため、その気になれば、他を気にせず
そのモジュールだけをどんどん改良したり、
高性能にしたりすることも可能です。
こうして、製品アーキテクチャがよりモジュラー型に
なると、各コンポーネントの技術革新を促進することが多いのです。
こうしてモジュール化が進むと、
自社で全部のモジュールを開発・製造することはやめにして、
特定のモジュールに活動を絞り込んで特化し、
それ以外は市場から調達してしまったほうが、得策に思えます。
ところが、相互依存が低くなっているとはいえ
ゼロではないので、各モジュールで要素技術の技術革新が急速に進むと、
どこかの段階で、急にモジュール間の調整が必要になります。
この時はいろいろな要素技術の相互作用に関する知識が必要になるので
それまでにモジュラー型の製品アーキテクチャの利益を
享受して各モジュールに特化してしまったような企業では
お手上げになります。
これを モジュラリティの罠と呼びます。
複数メーカーから「同じような製品」の製造を受託する
さまざまなリスクを抑えられる
日産自動車の軽自動車は、三菱自動車が生産していた、
といったように相手先ブランドによる
製品供給を目的とすることを
OEM(Original Equipment Manufacturing)といいます。
もちろん三菱自動車は三菱ブランドの自動車も販売していました。
ところが、1990年代以降、自社ブランドを持たない会社が、
製造受託専業で事業を拡大していきました。
特にエレクトロニクス産業では顕著で、
複数の電機メーカーから、同種の電子機器などの
製造を一括して受託するビジネスが伸び始めます。
EMS(Electronics Manufacturing Service)です。
エレクトロニクス産業では、
製品アーキテクチャがより モジュラー型のなったことで、
主要部品に特化した専業部品メーカーが技術革新をしやすくなり、
陳腐化が早まりました。
そのため、なるべく市販の共通品を使ことにすれば、
部品の大量受注・大量購買で、
最先端の部品を安く調達することができるわけです。
しかも供給先同士がライバル関係にあり、
勝った負けたを繰り返していても、
供給量全体が安定していれば工場の稼働率を維持できます。
アメリカでは、製造部門を持たないベンチャーの起業は、
初めからEMSへの製造のアウトソーシングが前提になっていました。
つまり起業のインフラだったのです。