気が付くと、お隣さんは異星人が住む、遠くて近い未来の日本。
二戸イチ県営住宅で小6のサトシと小1のチカを男手一つで育てるどこかの会社の中間管理職になっていた。
仕事に忙殺される日々を理由に育児に参加できず、共働きだった妻のミサコさんとは仲違いしてしまいチカが1歳の時に離婚をしてしまった。
サトシは知っているけど、チカは覚えていないと思う。
一度聞かれたことがあったけど、病気で亡くなったと言い聞かせている。
いつか、ちゃんと言わないとな…。
そう思いつつも、この子に本当に嫌われてしまうんじゃないかという不安のほうが大きい。
去年、チカの誕生日会のあとにサトシにそんなことを言ったら「頑張ってる今の父さんを見てるから、大丈夫」と言われて不覚にも泣きそうになってしまった。
小6にしてはすっかり寡黙になったサトシも、友達と遊びたい盛りなのに、家事と育児を手伝ってもらっているので申し訳ないと思う。
その後。
異星人さんの星を飲み込んだブラックホールが太陽圏に近づいていて、アインシュタインのような老人とお隣の異星人さんが開発した水羊羹が、地球滅亡の危機を回避するための最終兵器を操縦するのに不可欠な物であり、それを我が家が偶然食べてしまった。
ブラックホールが太陽圏から遠ざかる確率は低く、消滅させた場合に発生する爆発の衝撃波を避けるためにも、ブラックホールに向かって太陽圏が1列になる半年後がもっともベストだとアインシュタインのような老人とお隣の異星人さんは言う。
そんなこんなで宇宙ステーションでの訓練の日々が続き、明日はいよいよ出撃することになった。
シャワーを浴び終えたチカが全裸で駆け回る。
「こらー!!女の子がポンポン冷やすカッコで走りまわるんじゃなーい!!」
「ポンポーン♪ポンポーン♪」
「父さんもスッポンポン」
「上手いこと言ってんじゃないよ!!捕まえてー!!」
一応は軍の施設なのでこんな情景すらモニターで監視されているというのに…トホホ。
就寝前。
3人で地球が見えるカフェにきていた。
宇宙ステーションに来てからチカはしきりに星を見るようになった。
理由はなんとなく解る。サトシも解っているみたいだ。
「どこかにお母さんの星があるのかな?」
胸が痛んだ。
アインシュタインとお隣さんは絶対に大丈夫と言うけれど、それでも不安は拭えない。
出撃して本当のことも教えずに帰ってこれなかったらどうする?
この子の父親として胸を張れるのか?
そう思うと2人を抱きしめていた。
「…?」
「お父さん?」
「チカに謝らないといけないことがあるんだ、サトシは知っているだろう」
「…うん」
「どうしたの?」
「お母さんは生きているんだ」
「…」
「!!」
「生きている。今も見てる地球に、日本に住んでいるんだよ」
「…ほんと…?…どうして…?」
「仕事が忙しくて…いや、サトシとチカと向き合う覚悟が足りなくて、仕事に逃げたんだ。それでお母さんを怒らせてしまったんだ」
困難を2人で乗り越えると決意して結婚したはずなのに、現実に直面した自分の弱さに負けてしまった過去の自分に悔しくて涙が溢れ出た。
「お兄ちゃんは知ってたの?」
「チカが生まれてから、父さんと母さんは喧嘩しかしてなくて、あの頃の2人が怖くて大嫌いで、それをチカには絶対に教えたくないって思った。だから父さんに『母さんが病気で亡くなったことにして欲しい』って言われたときに僕はそうしたいと思ったんだ」
「私のせいなの?」
「違う!!お父さんのせいだ!!お母さんが出て行ってしまって、お前たちが俺の元に残って、初めてお父さんはお父さんになれたんだ!!」
「母さん、出て行ってから悔やんでてずっと心配してて、近くに1人で住んでるけど、父さんとチカに会うのはまずいからって、メールだけで定期的に連絡してる」
「お母さん、お母さん…」
静かに涙を流すサトシと泣きじゃくるチカを強く抱きしめた。
「この任務が終わったらみんなで母さんに会いに行こう。母さんが戻ってくれるなら、父さん地球が割れるまで土下座する!!」
「うん!!」
「父さん、それじゃ意味ないよ」
そんな感じで泣きながら目が覚めた。
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2019年10月23日
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