【要旨:中鎖脂肪酸は、ココナッツや母乳に多く含まれる成分で、一般の食用油に多く含まれる長鎖脂肪酸よりも速やかにエネルギーになる】
一般の食用油に多く含まれる長鎖脂肪酸は、小腸の毛細血管から吸収された後、静脈とリンパ管を通って脂肪組織、筋肉、肝臓に運ばれ、必要に応じて分解されてエネルギーになったり、脂肪酸から脂肪(中性脂肪)に再構成されて貯蔵されたりします。
中鎖脂肪酸の運ばれ方は長鎖脂肪酸と異なり、小腸の毛細血管から肝臓へ通じる門脈を経て直接肝臓に運ばれ、長鎖脂肪酸よりも速やかに分解されてエネルギーとなります。
ココナッツや母乳に多く含まれる中鎖脂肪酸は、「速やかに分解されてエネルギーとなり、蓄積されにくい」という性質により、脂質代謝能力が十分ではない未熟児や腎臓病患者・高脂肪食を必要とするてんかん患者・長鎖脂肪酸を利用しづらい消化器系の手術を行った患者等への栄養補給法として、40年以上前から医療現場で使われてもいます。
また、脳は活動エネルギーのほとんどをブドウ糖から得ており、アルツハイマー病では脳がブドウ糖を利用する能力が衰えている事が報告されていますが、不足する脳の活動エネルギーを、中鎖脂肪酸が速やかに分解される際に生じるケトン体(※)で補う事により、症状を緩和する事ができるという報告もあります。
(※ケトン体の基礎知識)
ブドウ糖が枯渇した状態で脂肪酸が燃焼するとき、肝臓ではケトン体(アセト酢酸とβ-ヒドロキシ酪酸)という物質ができます。
通常、脳は活動エネルギーのほとんどをブドウ糖から得ています。脂肪酸は血液脳関門を通過できないので、脳は脂肪酸を直接エネルギー源として利用できません。肝臓で脂肪酸を分解する過程で生じるケトン体は水溶性で細胞膜や血液脳関門を容易に通過でき、脳は、ブドウ糖が枯渇したときの言わば「非常用」のエネルギー源として、ケトン体を利用します。
(※中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸だけでなく、短鎖脂肪酸も人体内で重要な働きをしていますが、短鎖脂肪酸についての話は別の機会にします)
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