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2016.06.02
平野遼 『H氏像』 30号 1971年作
カテゴリ:
カテゴリ未分類
1971年 大阪フォルム画廊 平野遼展に出品されたときの代表作です。
所蔵家の御厚意でお譲り頂くことができました。
1971年⇒2016年=45年の年月を経て二つの代表作を並べて展示することができました。
9月6日~17日 東京店
9月20~29日 名古屋店
10月1日~12日 大阪本店
10月18日~10月28日 福岡店
【この作品に付いてのコメント】
平野遼氏の個展によせて(原文のまま)
平野遼氏は、九州の小倉に住み、一般に言われる芸術活動の中心から遠く離れて、画業に精魂をかたむけておられる。
お会いして、そこに芸術家臭さも、インテリ臭さも感じさせない、むしろ土臭いものがある。
些細なことに過度に敏感な反応を示すことがない点でも、大陸的非日本的である。
全てにおいて先を行くが、それだけに表面的になり勝ちな大都会を離れ、じっくりと根本問題と取組んでいるのが、現在の平野氏であるといえよう。
近々、再び近作の個展が開かれるそうである。
二点を拝見させて頂いた。
一つは『窓』と題し、他は『H氏像』とある。
H氏とは平野氏御自身であろうか。
『窓』に画かれてある十数人も氏御自身の変容と思える。
肘をついて何かをみつめるH氏の視線は外を向いている。
十数の眼となった同じ眼が、『窓』で遠い将来までを凝視する。
幽かに画面の内から伝わって来る光りは、次第に影の深い面をも包み始めているかのようだ。
不思議である。
作品から、一瞬、暗い印象をうけないでもない。
だが、眼が色彩に慣れて来ると、画面にひそむ光明の動きに気付くのである。
この明暗こそ、平野氏の画業に氏独自の意味を与えているものではないだろうか。
ここに、氏の人間としても現代の世界に対する立場の表明が見られるのではないだろうか。
芸術と社会、芸術の社会的意義は常に問われて来た課題である。
現代、特にこの課題は各芸術家からの具体的応答を要求しているかにみえる。
しかし、それは何も塵埃と思える物質の塊りを展覧会場に持ち込むことによってのみ表示出来るというのではない。
平野氏はこの微妙な問題に、誠に思索的に応えておられる。
現代は大いなる過渡期である。
そして、過渡期に生きる人々は、過去に於いても、現代に於ける如く、人間そのものを問題としてきた。
個人の小さな世界ではない、人間そのものに大きな懐疑を投げつけ、それに解答を求めて血みどろになり、過去の全てを失うことも辞さない。
周囲は、その時、暗闇とみえ、絶望的状勢と思われる。
だが、それにも拘わらず凝め続ける者は暗闇のうちに、遠く微かに光の射すのを感じ始める。
人は待つことの意味と、時間の恐ろしさを知る。
人間はこうして深い絶望的過渡期を通り越して来た。
1971年の日本に生きる平野氏は、『窓』のうちで現代の闇と、悪を無言のうちに弾劾する。
しかし、同時に現代を超えた人間の遠い将来、人間の最期的運命に希望を感じる。
作品はそう語っている。
氏の深い人間に対する愛情を読みとることが出来る。
氏の作品は『私小説』的なものではない。
気軽に、無責任に観ることを許さないものがある。
現代精神を反映している。
画布上に歴史的精神をかくも表現し得る画家は、現代日本に少ないのではないだろうか。
しかし、氏の作品は単に現代の表現に留らぬ普遍性を持ち合わせている。
『H氏像』には、葛藤、苦悩の極地に於いて観喜を味わう体験の表示であり、芸術家として人間に啓示し得る永遠の一瞬の先取りであろう。
『芸術こそが存在の問題に解答を与える』と、ある西欧の哲学者は言っているが、再び平野遼氏の近作のうちに人間存在に対する深い思索の一端をうかがわせて頂く機会の与えられることを、心より喜ぶ次第である。
1971年9月 吉田 暁
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最終更新日 2016.06.02 20:29:00
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