奇跡
少女の木の姿が見え、演奏が始まった瞬間少年の心に衝撃が走った。
「あぁ、なんてことだ・・」
少年は、ステージに釘付けになっていた。
「あの笑顔と、踊りと、それから・・・」
もうコトバでは表現する事が出来なかった。
だが久しぶりに、少年は心からの幸せと、正に生きた心地のする世界に
足を踏み入れていた。
自分の周りが一瞬明るく光った。
そして何かが、少年の木に・・・
少年の木に <幸せの粉> が降り注いだ。
少女の歌声が少年の木に変化をもたらしたのだ。
萎えていた少年の葉は、あおさを取り戻し、枝の先の方にまで
力を感じさせた。
ステージ終了後、少年は夢から覚めたような感覚に襲われ、
体に痛みを感じた。
おそらく、公共の場から遠ざかり過ぎていたからであろう。
少年は少女に声をかけ、先に帰る事を告げた。
すると少女が言った。
「今日は来てくれてありがとう」
少年は何も言えなかった。
帰り道、四角い箱の中、少年が心の中で言った。
「僕の方こそありがとう」
少年の心に消えかけた希望が少しずつ戻っていった。
そしてもう一度、見に行けることを少年は確信していた。
たどり着くまでの道のりがどんなに辛くとも。