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サイモン・ラトル/ベルリン・フィル
2002年以降、ベルリンフィルに就任して初めてこの日本に来日してくれた。
現在世界の最高峰に君臨した音楽の醍醐味をと緊張に身を震わせて今夜のプログラムに耳を傾けた。
古くはハンスフォン・ビューローからニキュシュを経て、フルトヴェングラー、そしてカラヤン、アバドとここ100年くらいの歴史を垣間見ると2002年からラトルの就任は満を期してのタイミングといえるものである。このことに関しての詳細は後日記載することにする。
この日のプログラムはドボルザークの交響詩「野ばと」そしてマーラーの第五交響曲。オケの資質は演奏の始まる前の音あわせ前の自主トレで大凡オケのレベルは解るものである。ベルリン・フィルは世界で最も自主的な練習を絶え間なく続けているオケであるということが、初めてこの眼と耳で聴いた。それはまるで、聴衆がホールにいることを忘れているかのような音だしであり、各パートの音あわせ練習である。指揮者ラトルが現れるまでの数分なのであるが、ここにある姿は自由闊達、完全なるプロ集団をまざまざと見た思いがした....
一日送れてしまった。前回はオケの資質は音合わせの数分で分かると書いた。
それはこのベルリンフィルが最も自主的なオケであり、プロフェッショナル軍団であることは明白な事実である。
今日はラトルを迎え進化する演奏と今回の演奏曲目であった16日のマーラーの第5番のコンサートについて書こうと思う。
初の組み合わせの来日に興奮した会場の熱気が漂っていた。周りを見渡すと全体に男性の聴衆が目立った。大凡マーラーやブルックナーという演目の場合、意として男性が多いのは昔からである。東京文化会館は狭い。このフルオーケストラにはいささか小さめである。
ラトルが颯爽と姿を見せた。ドボルザークの交響詩野ばとが始まった。どちらかと言うと地味な曲であり、多くのコンサートで取り上げられるというものではない。だからさながら、新鮮であった。
休憩の後、マーラーの交響曲第5番。今日の誰もがこの曲を聴きに来たのは言うまでもない。
一楽章のトランペットの音から始まる独特な葬送の世界は多くのマーラーファンを唸らせる。圧倒的なハイコンプライアンスと驚異的な技術に呆然とするほど、舌を巻く上手さなのである。管楽器の音程の安定感と弦の厚み、音色の煌びやかさ、音色の美しさなど、どれをとっても世界最高水準である。その機能性の高さは比類なきもので、まさに最高峰と呼べるものである。そして曲もいい。
第2、第3楽章を経てアダージョの第4楽章にきて、最も荘厳で世俗的なマーラーの真髄が謳われた。全体のテンポはカラヤンの演奏に限りなく近い感じである。ルバートを奏し、審美的な美という観点もこのオーケストラに染込んだ演奏遍歴がフゥッと浮かんでくる。その中でもラトルの最大のコンセプトはリズムの取り方であった。
緩急自在に熟読された楽譜の構想は総譜の深い読み取りに違いない。それは彼が流麗な美しさよりも、旋律に酔う一歩手前のところでマーラーの音楽を客観視しているのが実に分かったからである。だからなのだろうか、どれをとってもこれ以上はない.....と思えるのに、何故かこちらの心に伝わってこないのである。これが不思議なのである。と同時に最も大切なものを見直す、聴き直す大きな啓示と思えた。
なかなか書く時間がとれないでいる。つしぞ尻切れトンボになってしまうのをお許し願いたい。
先だってNHKの教育テレビでラトルの来日コンサートの特集を短時間ではあったが放映していた。掻い摘むように観たが、その時に話していたラトルの話と自分の感想はまったく同じであった。
オケの資質とレベルの高さを維持し、それを継続出来ることは、指揮者の人間性によるとことが多大である。あらゆる偉大なる指揮者や音楽家はどちちらかというと普通ではない。もちろんいい意味でだが、型破りの欠陥があったとしても、それを補う、つまりはそれ以上のオーラがすべてを超えたところでの存在がものをいう。解る人が聴けば、指示されれば、閃きを得られれば、むしろその破天荒なオーラは神格化される。つまりは形こそ違えどもコミュニケーションの有りかたがとにかく素晴らしいのである。
そんな中でラトルは最も最もらしい人格を備えた指揮者と呼べると思うのである。納得のいくまでのコミュニケーション、何故そうするのかということを、こうしろという観点ではないところに、今までこのオーケストラの歴史の中ではなかったことである。メンバーの質の高さはそれを完全に習得してしまうが、もとよりその意の理解に導くのはかくいうラトルなのである。それが尚更素晴らしい。
では何故に心に伝わらなかったのか、これが問題である。
諸条件が概ねそろっていたにも関らず、こちらに向かって放った矢は当たらなかったか、外れたかである。陶酔こそ有っても深く根ざしてはいなかった。マーラーという作曲家であったがためなのであろうか。私個人としては最も好きな作曲家で有るが故、なおさら不思議でならない。未だにこの何故という真意が掴めないでいる。もう一度他の曲目の演奏に接して考えてみたいとつくづく思った。一つだけ言えるのは、上手くとも素晴らしくとも何かが欠けたように感じてしまうことは、世に多々あるということである。各人各様千差万別だが、私には届かなかったことは事実である。
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