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2002.08.07

「今だからあかせる保健婦時代の出来事シリーズ」第２弾！

　昔、あるところに、たいそう評判のよいお医者様がいました。大きな近代的な病院にお勤めになられてます。大変研究熱心で論文もたくさん認められ、もちろん、みたては確かで、苦痛を伴いやすい検査もそのお医者様にかかればケロッと終わる、おまけに、お人柄もよろしくて患者には優しく親切、眉目秀麗で上品なお顔だちも評判のマト。大勢いらっしゃるお医者様の中で、たまたそのお医者様に当たって診てもらえた患者は、ラッキーさで、ますます命がのびる・・・とまで言えば、ちと大袈裟？

　そして、麗しい奥方との間には、４人もお子さまがいらして、絵に描いたようなマイホームパパらしいという噂も耳にはいってきました。理想的なお医者様であり、かつ、理想的な家庭人でもあるそのお医者様への好感度は増すばかり。

　保健所では、特定の地区で特別予算を組んで、住民検診を行うことがあります。担当スタッフは保健所の医療関係者だけでなく、地域のお医者様にも順番制（輪番制という）で入っていただくのです。

　ある日、その評判のよいお医者様が、初めて、このような特別住民検診での診察当番にあたられました。大勢の検診受診者が列を成す中、丁寧に一人一人の身体の具合をお尋ねになりつつ、それでもスムーズに診察は進んでいきました。

　が、ある受診者（患者とはいわない、あくまでも、健康診断受診者）の所で、妙なやりとりが始まったのです。何ごと？そばについていた保健婦は、すぐには事情が飲み込めませんでした。

　受診者のおじさん「時々お腹が痛むんや、ピッピになるんよ。」
　評判名医「ん～～～、そういう時は便秘になりやすいですね。」
　受診おじさん「いや、ピッピになるんよ、困ったもんじゃ。」
　名医「だから、便秘の場合は・・・」
　おじさん「便秘には滅多にならん。」
　医「？？？」

　おわかりでしょうか？

　この秀才で名高いお医者様は、お育ちがよろしすぎて、市井（しせい）にはびこる俗語などをご存じないのです。日頃、ホワイトジャイアントタワー（白い巨塔）で診療にあたられる時には、患者側もその端正な外観の病院にあわせて、知らず知らずのうちに言葉遣いは普通程度の丁寧さとなりましょう。が、古い公民館を臨時会場にした地元の検診場面では、受診者も気安さが手伝って、普段使いの言葉を使ってしまうのです。

　「ピッピ」が俗に言う「お腹くだし」のことだという常識（？）を、ご存じでないんだと気づいた診察介助の保健婦は、そっと、お医者様の耳元でささやきました。

「先生、ピッピとは下痢のことです。」と。

　育ちのよすぎるお医者様は、やっと心得られて「下痢と便秘を交互にくりかえす場合もあり・・・」と、表情をかえずにうまく話をあわされ、介助の保健婦は、ホッと胸をなでおろしました。実際、下痢と便秘とは表裏一体の症状であることが多く、その受診者の場合もそれが当てはまるような状況だったようです。

　診察介助についていた保健婦からその話を聞かされた某おちゃらけ保健婦は、３日３晩激痛で、いや、激笑で苦しみました。

　直接対応した者より、その場面を好きなように想像できる立場の方が、断然、笑えるのでありましょう。仕事着のまま首にタオルなどひっかけたざっくばらんなおじさんと、いつも通りの平穏で優しげな表情と物言いのお医者様。そばについてハラハラしてる我が同僚。どのパーツをとってみても、いろんな感情が微妙に交錯していて、大笑いはエンドレス。あーー、あの評判のお医者様のせいで、笑い死ぬとこやったと、今もキーを叩きつつ笑い興じる引退保健婦であります。

　あのようなお医者様が、もし、街中で開業されたら、診察介助ナースは、ヒヤヒヤのし通しで胃潰瘍になるかもしれん・・・とまで想像しては、また爆笑。やれやれ。

　評判のよい名医の唯一の欠点が「お育ちがよすぎること」だったというこの話は、その翌日には、全職員の知るところとなり、ますます、そのお医者様への敬愛の情が高まったのでした。

　１５年も昔のお話。

　めでたし、めでたし。

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