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魂の叫び~響け、届け。~
パピヨン PHASE-6
ブリッジへと続く通路では、聞き慣れぬアラートに隊員たちが右往左往している。
まさに混乱の極み、だ。
その隙間を縫うようにしてすり抜けると、
兵士達に『大丈夫だ』と視線で応えながらブリッジへと飛び込んだ。
「状況を報告しろ!」
「はっ!」
舞うようにして中央へあがった指揮官の鋭い語調に、
オペレーターは緊張した面持ちでめまぐるしく変化する情報を必死で追う。
「我が軍の防衛ライン上に複数のMS機影と民間のシャトルを確認。
シャトルより救難シグナルをキャッチ」
「・・・民間のシャトル?プラントのものか?」
「いえ!――――出ました!オーブのようです」
「何ぃ?オーブだと?」
「はい!MSに追撃されている模様」
ブリッジの扉が開いた気配に視線を動かすと、
金の髪の副官に続いて赤服5人が次々滑り込んで来る姿が目に入った。
キラはシャトルが映し出された画像を食い入るように見つめ、
音もなくメインモニター前へと舞い降りる。
「オーブ?あれは・・・あの紋章は・・・」
俺の記憶が確かならあの紋章はアスハ家のものだ。
「――――MSの数は何機だ?」
「5時の方向に4、5、・・・全部で7機。うち2機はジンです!」
「隊長!ゴンドワナより入電、MS部隊が砲撃を開始したようです!」
「くそっ、撃って来たか!こちらもMSで出るっ!!発進準備を急がせろ」
「了解!」
「・・・シャトルと通信を繋げられるか?」
「はい!通話可能です」
そうか、と無言で頷くとモニターの前へと足を進めた。
「こちらザフト軍ヴォルテール。
繰り返す、こちらザフト軍ヴォルテール、ジュール隊だ。
そちらはオーブのアスハ家専用シャトルとお見受けするが間違いはないか?」
よく通る凛とした声がブリッジに響くと、
ほどなくして返って来たのは甘いテノール。
『ジュール隊?イザークか?!
こちらはオーブ、アスハ代表補佐官・・・アレックスだ』
「・・・」
視界の端で、キラの表情が瞬時に強張ったのが見てとれた。
「アス・・・いや、アレックスか。
貴様は民間人の分際でこんなところで何をやっているっ!」
「隊長!デュエル、バスター発進スタンバイ完了しました!」
ブリッジの片隅でどうしたものかと顔を見合わせている赤服パイロット達を一瞥すると、
ディアッカは親友にだけ聞こえるように声を落として耳打ちした。
「“赤”のやつらはまだ実戦経験ないんだろ?」
「ああ、俺とお前の2機で出る」
連れ立ってエレベーターへ向かう背中に声が掛けられたのはその時だった。
「使えるMSはありますか?・・・・僕も出ます」
「キラ!この馬鹿っ!お前何言ってんだよっ」
金銀の上官達の間を割り込むようにしてキラの腕に飛びついたシンが、
強い言葉とは裏腹に縋るような目を向けた。
「ありがとう、シン。でも僕は大丈夫だから」
歌うような声でシンを宥めると、
瞠目して見つめるイザークへと視線を動かす。
「僕はこの艦を、みんなを守りたい。お願い」
向けられたアメシストの眼差しは静かな輝きに満ち、
決意の深さを湛えていた。
「隊長!イエロー、デルタに新たな機影出現!」
「ちっ、まだいたのか!・・・ディアッカは先に発進していろ。
オペレーターはゴンドワナ艦長に指令を出せ!
至急接舷、フォーメーションFと言えばわかるはずだ」
「オゥケイ!じゃ、キラ、後でな」
ディアッカは軽く敬礼をすると、
ウィンクをひとつ残してエレベーターで降下して行った。
「・・・キラ、ついて来い!」
「うんっ!」
手早くパイロットスーツを身に着けると、
キラはイザークに促され、接舷された空母ゴンドワナへと足を踏み入れた。
―――カタパルトデッキ。
デュエルと共にスタンバイされているMSを見上げて息を呑む。
「フリーダム・・・!?どうして・・・ここに?」
「クライン嬢からの預かり物だ。
お前が必要になった時に渡して欲しいと」
ラクス・・・
脳裏に桜色の少女を思い浮かべると、キラは祈るように瞼を閉じた。
* * * * * * * * * * * * * * * * *
「シエラ・アンタレス・ワン、
イザーク・ジュール、デュエル出るぞっ!」
「キラ・ヒビキ、・・・フリーダム行きます!」
漆黒の宇宙へ閃光を描きながら飛翔する2機をモニターで確認すると、
ディアッカは通信回線を開いた。
「で?どーする隊長?」
「ディアッカはあの大馬鹿野郎のシャトルをヴォルテールへ誘導。
収容確認後は損傷艦の援護にまわれ!
キラは左翼に接近中のMSを迎撃しろ!
俺は艦隊右翼に張り付いてるMS部隊を叩く。
―――死ぬなよ!これは命令だ!散開っ!」
「了解!」
「了解です!」
数に差があると言っても、敵は正規に訓練を積んだ兵士ではないようだ。
動きにムラがある上、連携もままならない相手に遅れを取る訳もない。
ディアッカとキラがそれぞれの任を果たし、
イザークと合流するまでにさほど時間はいらなかった。
「これが背中を預けられる戦闘ってやつか。なるほど、面白い」
イザークは近づいて来た友軍2機を眺めて口元に笑みを刷くと、
誰に言うでもなくひとりごちた。
* * * * * * * * * * * * * * * * *
■PHASE-7■へ続く
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