魂の叫び~響け、届け。~

パピヨン PHASE-11


当分の間プラントのトップニュースを飾る事となる。





「・・・これが、世間で言うバカップルってやつなんですね」


めったに拝めない蕩けそうな笑顔を惜しみなく浮かべる上官を横目で見ながら、
シホは盛大な溜め息をついた。




「でっれでれのどっろどろに溶けきってるな、ありゃ」


「2人のいちゃつきっぷりに興奮して倒れるものが続出しそうですね。
 ・・・まぁおかげで私はいいモノ撮らせてもらえそうですけど。ふふふ」


裏ルートで出回ってる写真のカメラマンの正体に、
ディアッカの背筋を冷たいモノがつたい落ちた。



「アイツのあんな顔を見る日が来るとはなぁ~。
 初恋、だな、ありゃ」


「・・・そうなんですか?」


「アイツさ、
 基本的に上官以外の野郎相手への呼び掛けは“貴様”なワケ。
 それなのにキラに対してだけは最初っから・・・」

「“お前”ですね!そういえば!」

「そ! だからさ、
 初めてアイツら引き会わせた時にあれっ?って思ったワケよ。
 我ながらすげー洞察力だよな~」


「――――ご自分の事に関しては激ニブのようですけどね」

「・・・・え?」

「何でもありません。失礼致します」

「えぇ・・・?!」

ゆるく束ねられた黒髪は振り返る事なく遠ざかって行った。










*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  





「ジュール隊長、エルスマンさん、キラも・・・
 皆さん長期に渡っての駐留勤務、本当にお疲れ様でした」



イザークとディアッカに挟まれるようにして、
僕はラクスとの再会を果たした。

女性用に改良された議長服に身を包んだ姿は、
常よりも年長に見える。


「平和条約締結が成されても、すぐにはテロも収束しないでしょう。
 そして残念ながら・・・評議会内部にも火種がないとは言えません」


「納得いかぬ者達というのは、
 どんな結果にも噛み付くものだしな」

「今後、ジュール隊長には評議会議員として、
 正式に私の補佐をお願いする事になるでしょう」

「はっ、尽力させて頂きます」




そう、・・・だよね。



イザークは元々、アプリリウス市評議会議員の後継者だ。


ディアッカも確かお父さんがフェブラリウス市の議員さんで、
戦争が終わった以上、
みんないつまでもザフト軍所属って訳には・・・いかないんだ。


戦いが終わって平和になるのは本当に嬉しいし、
心から望んでいた事だけれど・・・


ラクスと、

ディアッカと、

―――イザーク、と、



離れ離れになる日なんて、僕は想像してなかった。

いや、想像したくなかったのかもしれない。





「なんだか、寂しくなるね」


声が震えないようにするのが僕の精一杯で。


「凄く夢見てるみたいに毎日楽しかった。
 これからみんな忙しくなって、
 なかなか会えなくなったとしても・・・
 ずっとずっと忘れないから。
 僕、ディアッカもラクスも、イザーク、も、
 みんな・・・みんな大好き、だから」



こらえきれずに膨らんだ雫は瞬きに弾かれ、
パタパタと音を立てては床へと落ちた。


「―――そう言えばキラ、
 お伝えするのを忘れるところでしたわ」


歌うような声に視線を彷徨わせると、
澄み渡る春の空色が柔らかく僕を見上げていた。


「・・・ラクス?」


「プラント最高評議会の決定で、
 あなたをザフト軍プラント本隊の指揮官に任命致します。

 これからは私の傍で、
 ジュール議員と手を携えながらプラントを支えて下さいな」


「え・・・?」


「赤服もよいですけど、
 白服もきっとお似合いになりますわよ」

「え・・・??」

ニコニコと満面の笑みを浮かべるのは、
恩人でもあり親友でもある桜色の歌姫。


「ああ、間違いないな。髪の色が良く映えるだろう」



真剣な顔でつま先から頭の天辺まで僕を眺め、
ふむふむと満足そうに頷くのは、最愛の恋人。



「一定期間の軍生活の後、隊長に昇進して議長付き・・・って話、
 もしかして・・・キラ、知らなかった・・・とか?」



口をパクパクと開け閉めするしか出来ない僕を見ると、
ディアッカの菫色の瞳には憐れみの色が浮かぶ。


「あ、ちなみに俺は家になんか帰る気ないから、
 当分はザフトに残留するぜ?宜しくなヒビキ隊長!」


「ええぇえ~?」




「言ったろ?ずうっと、一緒だと!
 俺はどんな手段を使ってでもお前を必ず傍におく。
 まぁ・・・覚悟しておけ」



イザークは口元をニヤリと歪めて笑うと、
キラの細い身体をぎゅうぎゅう抱きすくめて唇を寄せた。




「あー・・・・ゴホンゴホン!
 お取り込みのところ大変申し訳ありませんが、
 続きは自室でお願いできますでしょうかね、お二方!」





親友達のからかいも、恋人達はどこ吹く風。






どこまでも駆けて行こう


いつまでも共に歩こう






手を伸ばせば、いつもそこに君が在る。






もう、残像は追わない。







■Fin■




あとがき


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