もしも願いが叶うなら

2008.09.21
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「わたしの珈琲(こひ)は小雨くらいで」湧はつぶやく。
思わずうらめしげに窓の外を見てしまう。

歩いている人は、傘をさす人が多くなって来た。
店内ではEaglesが、もう曇りの日なんかとか歌っている。皮肉だ。

「ユウ。外、雨になってきたから」仁戸さんがうながす。
外に出て、二人でお店の看板の位置をずらす。
歩道で傘がすれ違う時に邪魔にならないように。
「来ないみたいだね?」私を気遣うように明るく聞いてくれる。

そうなのだ、木々の緑がゆれる歩道から、彼が現れる。手をふる。
それがいつもだった。

ここはゆるくスロープした坂道の中程にある珈琲専門店
この地区では一号店になる。
ただコーヒーを出すだけでなく、コーヒー豆の由来などの
解説をちょこっとする。

「今日のブレンドはキリマンジャロにマンデリンをほんの少し加えてみました
 キリマンジャロは選りすぐりの指より豆です...。焙煎は」

せっかく憶えたのにな。
てゆうか、私の初ブレンドなんだぞ?

仁戸さんは私と入れ違いで別店舗に移った人だ。
今は店舗アドバイザーとして、各店舗のレイアウト設計までする。
同期だけど、勉強家の一つ上の姉御肌。
今日も新しくなったディスプレイの確認に来たのだった。
スリムでシュッとしててうらやましいスタイル。

「でも、このくらいの雨だったら来たんでしょ?」
 なんだか、ちょっと拗ねた言い方になってしまった。
「そうねー。大雪、大嵐。電車が止まりそうな時も来たかな?コーヒー飲みたさに」
「今日はきっと遅番なんだよ。ユウ。寝坊してこっちへ来る時間がないとか」

仁戸さんは本当に彼に詳しいな。そういうこと考えてて、答えが遅れた。
「そうですね。昨日もこれから仕事って言ってたし」
「あ、きのうも来たんだ。」
「ええ。」
ちょっとうれしい顔になってたかもしれない。

それにしてもこの差はなんなんだ。
そりゃここへ来るのはオマケかもしれないけど。

ちゃんとウォーキングしろよ。トム。

「サンズイに勇者の勇です。」
「いさましい名前なんだね?」
「心に勇気が湧くようにって、父が。たしかに女の子っぽくないですね」
彼に名前を聞かれた時の会話を思い出した。
「僕はトミオ。B型の本に書いてある通り小さい頃考えたサインが有るんだ」
さらさらっとTommyと書いた。
「じゃ略してTomでいいですよね?」
「えー。いきなり省略なの?」
「そうです省略形で。」
「ユじゃおかしいから、ユ~でいい?」
「ユウとどう違うんですか?変わんないじゃないですか」
「Youに近いよ」

たわいの無い会話。でも心の中で何度かころがす。
舌でコーヒーを確かめるみたいに。

「こひ こがすような アロマはこべよ かぜにのり きみのまどべに」





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Last updated  2008.09.23 01:54:34


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