もしも願いが叶うなら

2008.10.10
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ぎぃ~。カランカラン。

「あ、ニトちゃんいらっしゃい」
「いえーい。マスター。相変わらずひまそー。お客も居ないぞ?大丈夫?」
「だいぶ出来上がってるんだねー。どっかで飲んで来たの?」
「私だって、『一緒に飲もう』って言ってくれるやついましゅよっ」

ドタン
「そのイスだいぶ弱ってるから、そっと座ってね?」
「そんな事言うなら、ドア、カランカランっていうまえにねえ」
「え?」
「だからカランカランっていう前に」
「カランカランっていう前にギーって鳴っちゃうでしょ?カランカランの
 意味が無いじゃない?」
「そんな事無いよ。どんなものにも意味はあるよ?」
「意味無いもんもあるよ。言葉だけの優しさとか。」

「あー。言いたかった事は、入り口の扉をまず直せば?って。だって」
「カランカランっていうまえに?」
「ぎーって。お化け屋敷みたいでそ。話もぐるぐる回ってるね。ははは。」

コトン
「まだ何も頼んでないよークシャーテリア。」
「ブランデー入りのアールグレーの熱い紅茶だゾーリ虫」
「きゃはは。ぜんぜん面白く無いから。わははは。」
「まあ、飲んでみそ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「どうしちゃった?急に静かになっちゃって。」

「なんか心まであったまるよ。ズズズー」

「泣いてる?」

「ニトミツエは泣きませーん。」
「ニトちゃん。ミツエって言うんだ。」
「そうです。父がね、つけてくれたん、生まれた朝に庭の木がキラキラ
 光ってたんだって。光る枝って書いて、それで光枝」

「いい名前だね。初めて聞いたよ。」

「でもニトさんのところもコーヒー屋さんじゃなかったっけ?」

「いーでしょ?じゃなにかえ?そば屋の娘はうどん食っちゃいけねえとでも?」
「いや、そんな事ないけど、コーヒーの方が好きかな?って思ってさ。」

「マスターのいれてくれるお茶最高。コーヒーはうちの方がちょっと自信
 有るけど。へへへ。」
「ニトちゃん、こういう言葉知ってる?『ワンフォーミー、ワンフォーポッド』
 イギリスで昔から言われてる言葉。
 『自分にひとさじのお茶の葉、ポッドにもひとさじ』」

「あ、なんか良い言葉だー。意味は?」
「美味しい紅茶をいれるコツ。でも奥が深い言葉だね」
「メモメモ。あ、あいつに投げつけたんだった。ははは、はー。」

「でもほーんとに。」
「ん?」
「人に作ってもらうってそれだけで暖かくて美味しいよー。」

「人ってさ、ただいまーとか行ってきまーすとか、おかえりなさい
 行ってらっしゃいって言いたいから、一緒に暮らすんだよきっと」

「お、久々聞くね?ニトちゃんの恋愛論。
 でも、何があったか知らないけどさ、頭に血がのぼった状態で
 行動しない方が良いよ?相手にも悪気が無かったかもしれないしさ」

「わーかってますよ。前にマスターに教わったもん」
「なんだっけ?」
「50数えろ。って『頭に来たら、ゆっくり50数えろって。それから行動』」
「今のニトちゃん見てたら、50じゃきかないな。」
「判ります?わかるんだ。わかっちゃう。」
「なんとなく。じゃあ、特別に。」

nikolaschika
トン。
「んー。何か今日はサービスいいでっしゅね?琥珀色の液体。」
「さっきの紅茶に入れたやつ。ブランデーのカクテル。ニコラ。」

「いいんでしょうか?お酒の味判らない若輩に。なんか可愛いし」
「特別だよ。今日判るかも。」

「でも、これどうやって、いただけば?」
「レモンで上の砂糖をくるんで、キュッと口に絞って」
「こう?」
「で、サッとブランデーを流し込み。口の中でカクテル」

「うわーっ。良い香り~。心溶けそう。あー。マスター
 これで私の心つかもうとかしてない?」
「そうだね。その手も有ったか。でも前、一緒に来た。」
「あ、あいつ?思い出すだけで腹が立つ。」

「ほらほら50。」
「うん。50、49、48、47、46、45、44、
 43、46、45、あれ?、44、43、42、・・・・・。」

こうして静かな秋の夜は更けてゆく。






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Last updated  2008.10.12 20:32:39


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