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February 5, 2008
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カテゴリ: 一期一会

自分に移る世界。








不意にテレビをつけると、

かなりの確率でタイミングよく見られる番組がある。



それは、NHKの「プロフェッショナル」。



好きな番組だから、

タイミングが合うともいえるのだけど、

そうはいっても、

毎回見ているわけでもなくて、

あまり興味のない内容のときは、

案外見逃している。








今夜もふとテレビをつけたら、

その番組が始まるところだった。



今回は、先日ミシェランの三ツ星を獲得した、

若きフレンチシェフ。



その彼が口にした言葉が、

最近の私の中で、

大きくこだまし、響いてくる言葉、

「情熱」



そう、彼はまさに、

「プロフェッショナルとは、

高いモチベーションを持ち、それを維持する、

持続する情熱」

だと言った。







昔から、この「情熱」という言葉に、

とても心動かされるものがあった。



しかし少し前まで、

それは、

なかなか自分の中で確かなものにならず、

つかみどころのないものだった。



間違いなくあるのに、はっきりしない。

明確な確信に繋がらない。



そんなじれったい思いが、

ほんの少し前まで、

心の片隅でくすぶっていた。



でも、今ならなんとか、わかる。



私の中の「情熱」。



この情熱に突き動かされて、

今、私はしたい仕事をしている。








ところで、このフレンチシェフの

今までの機軸を辿る再現ドラマの中に、

私にもかつて同じ経験があったのを思い出した。



若きフレンチシェフは、

20歳台半ばにして、単身パリへ修行に出た。

お金もなく、あてもない、

そんな状況の中、本場パリでの修行。

それを迷わず選び、行動に移すのは、

はやり「情熱」の賜物なのだろう。



そして、この人だ!と思うシェフを見つけ、

そのシェフの下で働き出す。

あるとき、魚料理を任されるようになるが、

作るたびに師匠であるシェフに捨てられてしまう。

何故そうされるのかわからないまま、

そんなことをするシェフに腹を立てながら、

荒れていく自分がいた。

それからしばらくして、

彼がいつものように魚を焼こうとすると、

シェフがやってきて、彼の目の前で焼いて見せた。



その魚料理は、

自分の作ったものとは桁違いに美味しそうで、

事実、本当に美味しかった。



それを見てからというもの、

彼は、自分の中の考え方をいっさい捨てて、

料理への向き合い方がまるっきり変わったという。








実は、私にも似たような経験がある。



20歳代前半、

それまで地元の会社に勤めていた私が、

転職して、

都心にある会社のOLになったときのことだった。



就職した先は、

さほど大きな会社ではなかったので、

OLといってもいろんなことを任された。



所属していた部署は経理部なのだが、

経理の仕事以外にも、

営業事務もアシスタントも配送手配も、

時には、受付や秘書の役目まで、

仕事は山のようにあった。



就職して数日後から、

帰りはほとんど終電ギリギリの、

残業、残業の毎日。







当時、幾つか年上の先輩女性が、

私の上司として業務指導してくれた。



が、最初の数週間は、

一緒に仕事をしながら教えてくれたのだが、

その後は、ほとんどの仕事を私に任せて、

彼女はのんびりと暇をつぶしていた。

というか、私にはそう見えた。



隣のデスクで、

山積みの仕事を四苦八苦しながらこなしている、

そんな私の横で、雑誌を眺めたり、

営業マンと談笑したり。



それでも、最初のうちは、

仕事を覚えることに精一杯で、

そんな先輩上司のことなど、

気に留める余裕などなかった。



そんな私も就職して2ヶ月を過ぎた頃、

ある程度、仕事を覚えて、

なんとかこなせるようになって来ていた。



そうなってくると、

今まで気に留める余裕のなかったものが、

いろいろと目や耳に飛び込んでくる。



私の横でのんびりしている先輩のことが、

腹立たしく思うようになり、



『どうして私ばかりに任せるの!』



『なんで同じ社員なのに、

こんなに仕事の量が違うんだろう。』



『これじゃ、彼女がいたっていなくたって、

ひとりでやってるのと変わらないじゃないか。』



と、怒りにも似た愚痴を、

心の中で呟いていた。








あるとき、

仕事にイレギュラーが発生した。



すると通常の業務のほかに、

更にまた仕事が増えて、

多少なりとも仕事に慣れた私であっても、

あまりの仕事の量に慌てふためいていた。



せっせとこなしても、

全然底が見えてこない、仕事の山。



今までにないイレギュラーな仕事に、

不安も見え隠れしていた。



そんな最中、

彼女が私のデスクにやってきた。



「今、どれやってるの?」

「どこら辺まで終わったの?」



デスクの上から目を離さないまま、

手短に答える私。



忙しいのに!というエネルギー全開で。








すると、上司の彼女はおもむろに、

私の隣で山積みになった仕事をこなし始めた。



仕事をこなす彼女を見て、私は愕然とした。



彼女のこなす仕事の早さ、正確さ、丁寧さ、

どれをとっても、

私とは比較にはならないほど。



彼女のおかげで、

いつ終わるかわからないと思われた仕事も、

なんとか期限までに収めることが出来た。








私は、ショックだった。



そして、情けなかった。



彼女の半分も出来ていない自分が情けなかった。



そして、そんな自分をわかっていなかったことが、

恥ずかしかった。



出来ていない私が、

口には出さなくとも、彼女のことを批判した。



そんな自分が恥ずかしくてたまらなかった。



今思えば、

彼女は遊んでいたわけでも、

サボっていたわけでもなかったのだろう。



私がこなした以上の仕事を、

それ以上の能力でこなしていたからこその、

余裕だったのだと、思う。








帰り道、私は電車の中で泣いた。



駅を降りてからも、ずっと泣き続けた。



いつまでもいつまでも、涙が溢れてきた。



それでも、人には見られまいと、

下を向いて歩いていると、

なおさら湧き上がる思いが胸に詰まって、泣けてきた。



悔しかった。









家に着くと、母が出迎えてくれた。



泣きながら帰宅した私を、

両親はとても心配した。



それはそうだろう。

連日、深夜の帰宅の上に、

今夜は泣いて帰ってきたのだから。



若い娘をそんな思いまでさせて、

こんな遅くまで働かせることに、

両親は心を痛めていたのだろう。



母が、

「辛かったら、辞めていいんだよ。」

と言った。



父こそ何も言わないが、

きっと母には同じことを言っていたに違いない。



真剣に、無理しなくていいと言ってくれた。



そんな両親の気遣いがありがたかった。



それと同時に、

心配をかけてしまったことに、

申し訳なさを感じた。



辛くて泣いたわけじゃない。



太刀打ちできないことが、

悔しかったのだ。



そんな自分が情けなかったのだ。



何もわかっていなかった自分が、

恥ずかしかったのだ。



だから、泣けた。



両親には、

辛いわけではないのだと話して、

「今のままでは辞めたくない。

どうしても続けたい。」

と説得した。



先輩の彼女に追いつくまで、

いえ、せめて彼女にもう少し近づくまで。

一人前の口が利けるまで。

それまではどうしても辞めたくなかった。








次の日から、私の態度は一変した。



黙々と仕事をこなし、

一つ一つの仕事に対して、

どうしたら能率が上がるかを自分なりに考え、

先輩にアドバイスを自ら求めに行った。



それから半年後、

先輩の彼女は、

結婚を機に退社していった。



そして私は、

今までの仕事の上に、

さらに彼女の仕事も引き継いだ。



すでに、

これまでの仕事は難なくこなすようになっていた。



だから、彼女の仕事を引き継ぐ余裕があった。








結局、

そんな風に仕事量を増やしていったので、

残業時間はまったく減らなかったが、

それでも、

私は多くの実績と経験を手に入れたし、

仕事のノウハウも、

他の同僚より少しだけ多く身につけることが出来た。



なにより、

私の中で芽生えたもの、

「情熱」



それこそが、

これからの私の人生の中で、

仕事をするということの多くの意義と、

それに注がれるエネルギーの熱さを感じるきっかけとなる、

大切なものを手に入れた。







そして、

今ならわかる。

今なりにではあるが。



出来ないうちに見えるものと、

出来るようになって見えるもの。




同じものでも、

自分に映る世界は違うのだということを。








パリ旅行の思い出日記を少しずつ更新しています。

ご覧になる場合は、タイトルをクリックして下さいね♪




「パリの終着駅。」



「古きよき情緒。」










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最終更新日  February 22, 2008 12:26:27 PM


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