K/Night

K/Night

第2回 THINK


空に溶けたら何色に見えるのだろうか…?

『第2回 THINK』

城のテラス。
そこにあるのは1つの人影。
「曇ってきたな…」
先程まではあんなに晴れていたのに…
ぼやきながら空を見上げていると背後に気配が立った。
振り返ると漆黒の髪が風に揺れている。
「そこは私の席だぞ?セル」
笑いながらの言葉だから別にここにいる事に依存はないようだった。
セルヴェイスは眉を上げて見せるとテラスの柵に体を傾ける。
「シェイル、お前は何処へ行きたい?」
「……」
シェイルス・シェインは眉間に皴を寄せると自らも柵に体重を預けた。
「…彼が…死んだ場所には行きたくない」
本来なら騎士の仕事に私情を挟むなどもっての事だろう。
だがセルヴェイスは敢えてそれを聞く。
「…分かった。お前は姫の救出に向かってくれ。姫にとってもお前が行った方が良いだろう」
「…すまない」
普段からは考えられないくらい小さく弱々しい声に、セルヴェイスはシェイルスの肩を軽く叩いてテラスを出て行った。
「……」
シェイルスは空を仰ぐ。
「…どうして貴方は私を置いて行ったの…?」
溢れそうになる涙を隠すように瞳を閉じて、灰色に染まっていく空に問うた。

「えーっと…」
入り組んだ細い路地裏。
先程来た場所にエルフィード・レインは再度来ていた。
辺りを見渡しても壁だらけ。
気配からして人はいないようだった。
「お礼が言いたかったんですけどね」
残念そうに溜息を吐く。
ここに来ればあの人物に会えるかと思ったのだが…
流石に通りかかっただけの人物に同じ所であえるはすもないのか、エルフィードは肩を落とす。
すると上空から聞いた事のある声が降ってきた。
「誰にお礼を言うんですか?」
「あ、さっきの…」
壁の上に座る、エルフィードが探していた青年。
エルフィードがここで迷った時に助けてくれたのが彼だった。
しかしこの青年、何故ここまで気配がないのか…
今でも気配が殆んど感じられなかった。
「あの時はありがとうございました」
多少気にしつつもエルフィードは丁寧に頭を下げた。
青年は壁の上から飛び降りて目の前に立つ。
ふわりと、青年の茶色の髪が靡いた。
「俺の事、ずっと探してたんですか?」
「お礼が言いたかったんで」
微笑む青年に、微笑み返すエルフィード。
暫くそうして、青年は唐突に、
「そういえば、名前、聞いてませんでしたね」
教えてくれますか?と聞いた。
特に拒否する理由も見つからず、
「エルフィード・レインです」
また頭を下げながら答える。
「じゃあエルフィードさん、お茶でもいかがですか?」
「…は?」
「すぐ近くに美味しいケーキのあるお店があるんです。俺を探してくれたお礼です」
お礼を言いたいのはこっちなのに、何故お礼をされなければならないのか?
疑問に目を丸くするエルフィードに青年は微笑む。
指を指して方向を示すと、
「行きましょう?」
と促した。
慌ててエルフィードは青年を呼び止めた。
「あの!名前、まだ聞いてません!」
取り敢えず一番の疑問はそれだから、と尋ねる。
青年は暫く沈黙を保つと、口を開いた。
「レイトです」
「レイト…さん?」
「呼び捨てて良いですよ」
さん付けで呼ばれるのは苦手なんですと青年は言う。
「じゃあ私の事はエルで良いです」
「エルさんですね」
分かりました、と言う青年の笑顔は子供のようで。
一体幾つなのかとまた疑問。
その青年はエルフィードを案内して路地裏を進んでいく。
迷いやすいと自身が言っていた路地裏を、この青年はいとも簡単に抜けていく。
相当慣れているのだろう。
「…特別な人以外で、俺の姿を一日に2回も見て、しかも名前を知ったのはエルさんが初めてですよ」
前を進んでいく青年の口がそう語ったのを、エルフィードは聞き逃さなかった。

肩を叩かれ、一応気配で分かったものの振り向かないのは失礼だと考えブラインドネス・レイは体を反転させた。
「ワンアームさん」
「おっと、ワンで良いぜ?ブラインド」
「…犬の鳴き声」
「あぁ?何か言ったか?」
明らかに不機嫌になった同僚の志願者であるワンアーム・ロンドに、ブラインドネスは、
「冗談ですよ」
肩を竦めて見せる。
「で、どうしたんですか?ワン」
まだ不機嫌そうに眉を寄せていたワンアームだったが、ブラインドネスの言葉に表情を変えた。
「あぁ、お前さ、何処選ぶ?」
先程のセルヴェイスの話の事を言っているのだろう。
突然の質問に嫌な顔1つせず、ブラインドネスは暫し考えると、
「どうしてですか?」
逆に尋ねた。
ワンアームは逆に質問された事に、急な言葉は思いつかず、頭を掻く。
「いやさ、どうせならお前と一緒のルートに進みたいなと思っただけさ。ほら、何かあった時近い状況の人間が傍にいた方が良いじゃんか」
「…素直に気になるって言えば良いのに」
「何か言ったか?」
「いえ、なんでもありませんよ」
照れている雰囲気は良く感じ取れる。
内心小さく笑いながら笑みを絶やさず、ブラインドネスはワンアームの横を通り過ぎる。
「おい」
無視かと思われたその行動にワンアームは声を掛ける。
しかし返ってきたのは想像とは違う言葉。
「貴方の部屋、確かこっちですよね?」
兵士に案内された時、ブラインドネスより先にワンアームは部屋を与えられた。
それを感じていたから場所が分かる。
「一緒に何処へ行くか考えましょう」
「…!あぁ」
ワンアームの声の調子が上がったのを聞いてブラインドネスは笑みを濃くした。
そんな2人の背中に声をかける。
「ちょっとそこのお2人さん」
「あ?」
「貴方は…」
ロビン=カリファは輝かんばかりの笑顔を振り撒くと2人に近寄った。
「ロビン=カリファよ。宜しくね?」
うきうきと胸の前で手を組みつつ自己紹介。
笑顔に気圧されたのか、
「ワンアーム・ロンドだ。宜しく」
「ブラインドネス・レイです。宜しくお願いします」
2人も素直に名前を告げる。
気を良くしたロビンは更に笑顔を濃くする。
「ねぇ、お2人さん、トランプゲームしないかしら?」
「は?」
「トランプゲームですか?」
今やロビンにとってワンアームとブラインドネスはカモにしか見えないのだった。

ふと、窓の外を見た。
「…あれは」
王の隣にいた騎士ではなかったか?
確かシェイルと呼ばれていた…
サナカミは剣を掴むと急いで外へ向かった。
騎士服を着ていない、シェイルスの後を追って…
「…ここは…」
シェイルスが中へ入った場所―――そこは城下の一角にある闘技場だった。
「こんな所があったのか」
強者を求めているサナカミにとってそこは自身にとっても好都合の場所だ。
躊躇いもなく入っていく。
入り口近くに矢印が書かれた紙。
辿って行くと登録所が目に入る。
ここで、登録すると闘技場で試合が出来る仕組みらしい。
「試しに登録してみるか」
腕試し、安易に考えて1歩足を出した。
その途端、襟首を掴まれて引き戻される。
「―――っ?!」
「こんな所で何をしているんだ?」
サナカミを覗き込む顔は、シェイルスのものだった。
「私がお前の気配に気付かなかったとでも思ったか?ったく、こんな所にまで来て尚且つ試合なんぞしようとして…お前にはまだこの世界は早いだろう、サナカミ」
志願者の一覧に目を通したのだろう、シェイルスはサナカミの名を呼ぶと襟首を離した。
「―――っ…お前はどうなんだよ」
気配を感じられなかった自分に苛立ちながら、眉間に皺を刻んで聞くと、
「私は元闘技者だ」
平然とした口調で返ってきた。
「お前、志願者だって事覚えているのか?今こんな所で怪我をしたらどうするんだ」
呆れを含んだ声は溜息を吐く。
しかしサナカミも引き下がらない。
「そんな事分かってる。でも俺は強者を求めてるんだ。こんな所でなんか負けない」
「…怪我をしても責任は取らないからな?」
「何を…?」
盛大に溜息を吐きながら、シェイルスはサナカミを通り過ぎ登録所の前に立つ。
その背中を訳が分からないとばかりにサナカミは見つめた。
「登録する。シェイルス・シェインだ。それと、タッグを組む。相手はサナカミ」
「お!シェイルス、久しぶりだな。お前、タッグを組むのか?珍しい事もあるもんだ」
「五月蠅い。今日は気まぐれだ。早くしろ」
シェイルスは不機嫌に急かすと登録料を投げて男に渡す。
登録所の男と顔見知りという事は本当に常連だったのだろう。
彼女が言っていた事はどうやら本当のようだ。
シェイルスは眉間に皺を寄せながら登録を済ますとサナカミの前に戻ってきた。
「1試合だけだ。お前と私でタッグを組む。2人で試合に臨むという事だ。初心者だからタッグバトルの方が無難だろう。相手はまだ決まっていないが、同じくタッグ相手か、もしくはそれなりの実力をもった人間になる可能性が高い事を始めに言っておく。因みに勝敗は相手、タッグを組んだ者がどちらも降参、気絶した場合が負けになる。殺しは法度だ。分かったか?」
簡潔かつ簡略に説明して闘技場の中央部に入っていこうとする。
扉に手をかけていざ開けようとした時、それは起こった。
「あーあー、只今マイクのテスト中…さぁさぁ皆さん!今日は久しぶりの人物のお出ましだ!その名もなんとシェイルス・シェイン!なんと今回はタッグを組んでの試合に挑む!!これはこれは、なんとも楽しみな試合になってきたー!!…あ゛ー??!」
ガシャンという音と共に場内に流れていた音声は途切れた。
事を終わらせたシェイルスは爽やかに笑みを浮かべつつ、
「こっちから行こうか、サナカミ」
先程とは別な方向を指して歩いて行った。
後に残ったのは無残に破壊された登録所の残骸だった…

城内のある一室―――
「…面倒だ…」
文句を零すのはXI。
彼女は今、師匠からもらった両義眼を手入れしていた。
国王の話の間はどうにか堪えていたのだが、それも限界に達し、こうして手入れをしているのである。
こんな所、人に見られたらホラーものだ。
XIはなんとか苦心しつつも手入れを終えると大きく伸びをした。
外を見るとまだ十分夜まで時間がありそうだ。
「城内でも散策するかな?」
1人呟き部屋を出る。
そこでばったり出くわしたのは、
「あれ?キミは…」
XIよりも幾分背の低いフロッグズ・ルーだった。
フロッグズは何時も通りの笑顔を向けて頭を下げた。
「君も同じ志願者ですよね?僕はフロッグズ・ルーといいます。宜しくお願いしますね」
「こちらこそ宜しく。XIだ」
手を差し出て握手を交わす。
「では、僕はこれで」
ペコリと頭を再度下げて、フロッグズは廊下の奥へと消えていった。
辺りを見回しているから城内でも散策しているのだろう。
XIはフロッグズとは逆の方向へ向かった。
取り敢えず、初めに出くわした角を曲がってみる。
「…っと」
「…!」
危うく人とぶつかりそうになり、XIは慌てて身を引いた。
顔を上げると、
「セルヴェイス…さん」
書類を手に持ったセルヴェイスが立っている。
「すまない。大丈夫だったか?」
「大丈夫だ」
「君は…XIだったな?」
「あぁ」
「丁度良い。君に聞きたい事があったんだ」
セルヴェイスは難しそうな顔を見せる。
身構えるXI。
しかし内容は、
「君の名前は何て読めば良いだろうか?」
予想とは全く違うものだった。
生真面目な性格なのだろう。
性格に名前を知らないと気がすまないらしい。
「ザイ、で良いのか?」
「それでも構わないが…」
今だ難しい表情のセルヴェイスに呆れながらXIは相槌を打つ。
だがさらにセルヴェイスは難しい顔をする。
「それでも、という事は本当の読み方があるんだな?」
「でもさっきので良い」
「そうもいかない。良ければ教えてくれ」
「…クシー」
セルヴェイスの迫力に根負けしたようにXIは本来の発音を告げる。
その言葉に満足そうにセルヴェイスの顔は晴れやかになった。
「クシーか。良い名だ。すまなかったな」
これから宜しく頼むよ、言って肩を軽く叩くと背を向けて元来た道を戻って行った。
どうやらこの為だけにここに来たようだった。
XIは頭を掻いて呟く。
「…変な奴」

フロッグズは落ちてきた太陽を見ながら城下を歩いていた。
目に付いた店に立ち寄っては其処の菓子を買っていく。
「これだけあれば十分ですかね?」
もらった金の半分は使ったのではなかろうか。
大きな袋を持ちながら1人呟く。
「そういえば、バナナはおやつに入るんですかね?」
目の前の店に並ぶ色鮮やかなバナナを見て、なんとなく思った。

「…どうしよう」
城内に支給された部屋から出て、アイアイは1人悩んでいた。
志願者だといった周りの人間は明らかに腕にそれなりの覚えがありそうだった。
薬師を目指しているアイアイにとって、自分がここにいるのが不似合いに思えた。
「…どうしよう」
このままここにいても良いものだろうか。
どれだけ自分は役に立てるのだろうか。
アイアイは傍の外に繋がる扉を開いてテラスへ出る。
風が冷たく感じた。

「勝者!シェイルス・シェイン、サナカミ!!」
アナウンスが2人の名を告げる。
息一つ乱さず、シェイルスは、
「…流石にこれ以上の試合はやらんぞ」
同じく息一つ乱していないサナカミに忠告した。
「…分かった」
不満ではあったがサナカミは同意する。
なんだかんだ言って3試合も立て続けにやれたのだ。
上出来な方だろう。
「帰ろう。これ以上城を空けているようだと彼奴にどやされる」
思い出したくない事態を思い出してシェイルスは苦虫を噛み潰したような表情を作ると、自身が壊滅させた登録所にサナカミを連れて行った。
「今日は帰る。サナカミもだ」
「なんだ、もう帰っちまうのか…まぁ仕方ないな。ほら、今日の稼ぎだ」
包帯でグルグル巻きになった男は心なしか青ざめた表情で笑みを見せると、袋をシェイルスに手渡した。
「…因みに、修理代は頂いたからな?」
後、治療代、モゴモゴと口の中で話す男にシェイルスは一瞥をくれると袋を持って、サナカミを外まで連れ出す。
外へ出てから止まると、シェイルスはサナカミに先程男からもらった袋を手渡した。
「…何だ?」
「賞金の分け前だ。後は口止め料」
眉根を寄せるサナカミにシェイルスの口は弧を描く。
「賞金は全部やる。代わりにここに来た事は誰にも言うな」
「…分かった」
袋を受け取ってサナカミは頷く。
シェイルスは剣を差し直すと、
「じゃあまた明日」
別れを告げて1人城下の中へと消えていった。
「……」
サナカミも袋が邪魔にならないように腰に吊るしてから城下の中へと姿を溶かしていった。
もう大分、日が落ちて来ている。
随分長い間あそこにいたのかと、空を眺めながら思った。

アイアイは意を決して扉を叩いた。
低い声が入る事を承諾する。
「失礼…します」
恐る恐る中を覗くと、セルヴェイスは椅子から立ち上がった所だった。
「どうかしたか?何か相談でも?」
「あ…はい」
アイアイを中に入れて残る席に勧める。
勧められるままにアイアイは椅子に座ると所在無さ気に俯いた。
「あの…志願の事なんですけど」
「その事でここに?」
「はい」
落ち着かせるためだろう、セルヴェイスはお茶を入れてアイアイの前に差し出した。
しかしそれを飲む気にはなれない。
「…志願を辞退したいんです」
「……」
ゆっくりと告げた言葉にセルヴェイスの言葉はない。
それでも尚、アイアイは続ける。
「皆を見て、自分が無力だって思った。役に立たないんじゃないかって。それなら辞退した方が良い気がして…」
「…そうか」
「…っ…怒ります?」
恐る恐る不安だった事を尋ねるとセルヴェイスはまるで心外だという表情を見せた。
「怒る理由は何処にもない。残念な事に変わりはないが、君が決めた事だ。私がどうこう言う事ではないからね」
うっすらと微笑を浮かべながら、再度お茶を勧める。
今度はアイアイは勧められたお茶を手に取った。
フワリと漂う湯気に上がっていた心拍数が落ち着いていく。
「本当にごめんなさい」
「謝る事ではない。むしろ私達が感謝しなければならないんだ。一時でも、君が志願してくれた事に」
「…ありがとうございます」
ペコリと小さく頭を下げ、アイアイはお茶を口に含む。
「これからどうするのか聞いても?」
同じくお茶を飲みながら、セルヴェイスは遠慮がちに尋ねる。
「あ、まだ決めてないんです」
「そうか…なら途中まで私達と一緒に来てはどうだろうか?」
一度席を立って机から何かを持ってくるとテーブルにそれを広げる。
ここ一帯の地図だった。
「私達は明日、ここへ向かう」
指が指す場所はラングレスより西に位置するミッドルという街。
「我が国を除いたら一番の発展街だ。ここからなら何処へ行くにしてもそれなりの安全が保障されるだろう」
「分かりました。そこまで一緒に行っても良いですか?」
「あぁ。其処まで私達が送ってあげよう」
「ありがとうございます」
アイアイはもう一度、頭を下げた。

フロッグズは扉の前に立つ。
大きく息を吸ってから、握った拳で扉を叩いた。
「…誰だ?」
奥から聞こえてきた声に、部屋にいた事が分かって安堵し、フロッグズは見えない相手に向かって笑顔を浮かべる。
「同じ志願者のフロッグズという者です。入っても良いですか?」
「……」
ほんの少しの沈黙の後、扉が薄く開いた。
「お邪魔します」
様子を伺いながらソロリと中に入ると、目的の人物、サナカミはベッドに座ってフロッグズを見ていた。
自分の部屋にも関わらず剣を抱えているサナカミに、少しばかり苦笑する。
「初めて会った時はどうもです」
心ばかりに頭を下げるとサナカミは小さく首を傾げた。
それから思い出したように、
「あぁ、あの時の」
小さく呟く。
「それでですね。ちょっとお願いがあって来たんですよ」
サナカミの前まで歩を進め、フロッグズは立ち止まった。
近づく度に首をもたげるサナカミの雰囲気には、未だ警戒心は消えていなそうだ。
そんな状況にもフロッグズは焦りさえも感じていない。
「明日から、一緒に行動しませんか?」
「…は?」
思ったとおりの反応に、自分の顔が綻ぶのが分かる。
ルートが一緒になれば“共に行動する”事になる訳だから、何故フロッグズがこう言うのかがサナカミには分からないようだった。
「同じルートに進むっていうのもそうなんですけど、“団体”で行動するよりも“パートナー”で行動する方が色々と気遣いとか手助けとかやり易くなるじゃないですか。団体の中でパートナーとして行動したらより危険は少なくなると思いますし。それに、君と僕、同じ位の年齢っぽいんで友達になりたいなって思ったんです」
「……」
笑みを浮かべるフロッグズに対して、サナカミは沈黙を守る。
「どうでしょうか?」
あくまで柔和に尋ねてくるフロッグズをサナカミは一瞥すると、フと息を吐き出した。
「俺はエイグの討伐へ行く。それでも良いのなら構わない」
「なら決まりですね」
絶やさぬ笑みをさらに濃くし、フロッグズはサナカミに手を差し出す。
「フロッグズ・ルーです。宜しくお願いします」
「…サナカミだ」
釣られるように小さくサナカミも笑い、その手を握った。

「どうか神の加護があらん事を」
薄く差し込む光の中で、言葉は静かに発せられ消えていった。

早朝。
志願者はパラパラと玉座の間へとまた集まって来ていた。
その中で朝から憤慨している者が1人。
「あんのロビン!やられた!もらった金の半分も持っていきやがった!」
「まあまあ、ワン、落ち着いてください。ロビンも何か困ってやったのかもしれませんし」
憤慨しているのは、ワンアーム。
そしてそれを宥めているのがブラインドネスである。
彼らは昨晩、ロビンとトランプゲームをしてもらった準備金を半分も取られていたのだ。
不謹慎だが、酒の足しにしようと思っていたワンアームにとっては痛手である。
「んな事言ったってなぁ!あれは絶対詐欺だ!じゃなきゃ30戦全勝なんてありえねぇ!」
「ただ単にワンに運が無かっただけかもしれないですよ」
「んな!そんな事は絶対にねぇ!」
断固ブラインドネスの言い分を認めようとはしないワンアーム。
そんな中にロビンが何も知らずに入ってきた。
「あら~お2人さん。おはよう」
何事も無かったかのような言葉に勿論の如くワンアームを神経を逆撫でし、
「くぅおら、ロビンッッ…!」
今まさにロビンに掴みかかろうとする瞬間に、ブラインドがワンアームの鳩尾に一発剣の柄を突き込んだ。
「ぐふっ!」
急所を突かれて身を曲げるワンアーム。
そうさせた張本人は至って涼しげである。
「ありがとね、ブラインドネス」
「いいえ」
フフ、と微笑みながら礼を述べるロビンに、ブラインドネスもやはり微笑む。
「今日は止めましたけど、今度は何かあっても止めませんからね?『ああいう事』は程々にしておいた方が良いですよ」
「まぁ気を付けるわ」
穏やかに忠告するブラインドネスに、不敵に微笑むロビン。
目が見えない分だけ気配を感じ取れるブランドネスには昨晩のロビンの手段が良く分かっていた。
しかしここで敢えて何も言わないのは彼女の今後の為だった。
「ここで一悶着起こすのも仲間同士、今後に差し支えるでしょうし、ワンは取り敢えずこちらで宥めておきます。また後程」
「えぇ、宜しく頼んだわ」
確かにブラインドネスの言い分には一理あって、ロビンは素直に頷くと離れて行く2人を見送る。
十分離れたと考えた後、元の通りにロビンが体を向けると、拍子に誰かにぶつかった。
「すまない」
XIは幾分自分よりも低いロビンを見下ろして小さく頭を下げる。
「こちらこそごめんなさいね」
例の如く微笑んで謝ると、XIも僅かに微笑む。
そして頭を上げると扉の方面を見た。
「どうやら出発らしいな」
国王とセルヴェイス、そしてシェイルスが玉座の間に入ってきた。
国王が座る玉座を挟み、セルヴェイスとシェイルスが立つ。
騎士2人はそれぞれ小さいながらの荷物を持ち、服は騎士服ではなく旅人が通常着用しているような軽く丈夫な簡素な服を着込んでいた。
「さて」
セルヴェイスは1人の兵士から書類を受け取り、ざっと目を通すと口を開く。
「君達には先程どのルートに進むか決めてもらったと思う。今からそのルートの指揮を取る者を話しておく。指揮とは言ってもまとめ役みたいなものだ。命令を下したりする者ではない。お互いが同じ位置で、そして助け合っていく事が何よりも大事だ。それだけは覚えておいて欲しい」
一度全員を見渡し、誰も難色を見せる者がいない事を確認するとセルヴェイスは話を続ける。
「まずはエイグ討伐のメンバー。サナカミ、フロッグズ・ルー、エルフィード・レイン、XI。指揮は私、セルヴェイスが取る。宜しく頼む」
次々と書類に書かれた名前を読み上げ、最後に自分の名を読むと一歩前に進み出て小さな礼を取る。
そして下がると書類を捲った。
「次はシーナ姫の救出メンバー。ブラインドネス・レイ、ワンアーム・ロンド。指揮はシェイルス・シェインが取る」
「頼りなく見えるだろうが宜しくお願いする」
同じく一歩進み出て、シェイルスも小さな礼を取った。
「人数が少なく困難な道のりのなるかと思うが、姫を宜しく頼むぞ」
「御意」
少し青ざめた表情で懇願する国王に、シェイルスは深く頭を下げる。
それから頭を上げると元の位置に戻った。
「陛下の護衛にはロビン・カリファともう1人…いるか?」
「…ここに」
ロビンを認めて、セルヴェイスは空に視線を漂わす。
するとその背後から黒い塊が突如現われた。
ザワリと湧き出す声に、
「静粛に」
シェイルスが動じていない声で皆を諌める。
「彼は敵ではない。陛下の影として陛下の身を守る者だ」
何も知らない兵士にも説明しながら、セルヴェイスは塊に視線を移す。
すると塊は小さくその体を動かした。
目深に被ったフードを取り去ると、茶色い髪が現われる。
「…あ」
その姿にエルフィードは思わず声を漏らした。
「レイト・シルフォードと申します。陛下護衛の任を任されています。以後お見知りおきを」
流れるように礼を取り、そして心中の奥底を見せないような微笑を浮かべる。
彼は確かに、あの青年だった。
唖然とエルフィードが見つめると、気付いたレイトが苦笑する。
『後で』
口が声を出さずに言葉を象った。
「最後にもう1人、実は志願者を辞退するになった」
名前を呼ばれていない者。
それはアイアイしかいない。
一番後ろで立っていたアイアイは申し訳なさに顔を俯かせる。
「私は彼女の意志を尊重したい。寧ろ感謝をしたい。彼女は我々と共に先の行き先である『ミッドル』まで共に行く予定だ。短い期間だが彼女も仲間。宜しく頼む」
最後に一同を見渡し、セルヴェイスは書類を近くの兵士に手渡した。
シェイルスと視線を交わし、再度口を開く。
「これから2部隊に分かれて『ミッドル』へ進む。1つは街道を、1つは傭兵が知る森道を。どちらかに分かれて欲しい。合流は後日、『ミッドル』にて落ち合おう。陛下の護衛の詳しい事はレイトから聞いてくれ」
その言葉を合図に、志願者共々自らの荷を手に持った。

次回アクト
【A:街道を進む
 B:森道を進む
 C:王の護衛をする
 D1:志願者をやめ、放浪
  2:志願者をやめ、エイグ側に付く】
*討伐、救出コースからのCコース変更も可能です
 *アクト選択後、行動詳細を細かく(もしくは多く)書くと出番が多くなったりします。ただし全部が採用されるとは限りません(以後アクトでも同様

登場NPC
セルヴェイス/人間/男/29歳/近衛騎士隊長
シェイルス・シェイン/人間/女/17歳/近衛騎士副隊長
ブラインドネス・レイ/人間/男/21歳/剣士
ワンアーム・ロンド/人間/男/26歳/傭兵
青年=レイト・シルフォード/人間/男/21歳/斥侯


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