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お友だちの坂之上洋子さんのブログに「品がなくて朝日新聞の連載却下されたブランド論」というエントリーがあって、楽しく読ませていただきました。坂之上さんのボツ原稿は、しっかり単行本に収められているようです。実は私も、日本の某金融機関のPR誌向けにコラムの執筆を依頼されたことがあったのですが、「品が無い」というよりは、コンプライアンス重視の日本の金融機関ではとても出せない内容だったのか、ボツになってしまいました。ほとぼりも冷めた頃ですし、せっかくなので初稿のままブログのほうで公開させていただきます。出資先の中国企業の会議室に入ると、普段なら整然としている空スペースに、使い古されたサーバーが山積にされた異常な光景に遭遇しました。その会社のCEOは「ちょうど今日、運び出してきたんだ」と上機嫌に説明します。その日は、その会社の売掛金の評価について話し合うことになっていたのです。私たちが出資しているインターネット広告エージェンシーは、前年比数倍と言う驚異的な売上の伸びを遂げていましたが、それと比例して売掛金の残高も増えていました。しかも支払期限を半年以上も過ぎた売掛金が全体の1割ほどを占めるようになっていたのです。ここまで放っておいたのも、以前北京で総経理を務めていた広告会社の売掛金の回収も遅延気味でしたが、期の節目ごとに”気合いを入れて”対策に臨めば何とか回収できたと言う”成功体験”があったからでした。とは言え、顧客の多くが日系企業だった前職の時とは異なり、そのインターネット広告会社のクライアントは大半が中国企業で、しかも例えばオンライン・ゲームなど、インターネット上でのサービスを提供している新興企業が多いのも不安材料でしたから、支払期限を過ぎた売掛金について一つ一つ回収状況を確認する作業を始めたところだったのです。会議室に山積にされたサーバーは、売掛金の”形”として顧客であったオンライン・ゲーム会社から強制執行で運び出してきたものでした。多くの日本企業の皆さんが、中国での売掛金の回収を心配されているのではないでしょうか。中国では、日本のように請求書を発行すれば自動的に期日めでに送金されるようなことは滅多にありません。中国企業の会計責任者は支払を遅らせれば遅らせるほど評価されるのです。ですから支払期限が過ぎても入金されない場合には、仕入れの責任者に支払を督促しても埒が空かず、会計責任者に支払をお願いしなければならないようなケースに遭遇します。とは言え、私の経験上、支払期限が過ぎた売掛金であっても回収不能になることは滅多にありません。取引先が倒産した場合や、契約書に不備があった場合は別として、それなりの努力が必要な場合もありますが、何とか回収できるものです。コンシュマー商品を製造・販売する日本企業の多くは、中国における売上代金回収リスクを過剰に警戒して、ホールセラーやリテーラーに対し現金取引を前提としてきました。これは堅実な方法ではありましたが、商品の販売チャネルを絞り込む結果となり、外資系量販店や資金力のあるリテーラーの店頭にしか日本製品が並ばない、と言う状況を生み出すことにも繋がりました。いくら商品力に自信があっても、コンシュマーが手軽に手に入れられる環境を整えなければ販売は伸びません。せっかくテレビを使って広告活動を行っても、身近な店先で商品が見つからなければコンシュマーは買うことができないのです。メディアを使った宣伝よりも、店先に商品が並んで、それを購入するコンシュマーがいて、購入者がその商品を評価して、或いは友人・知人に口コミで評判を伝播することによって、ブランド力や商品力は高まるものです。ですから私はかつてのクライアントに、何百万元ものお金をテレビ広告に費やするくらいなら、そのお金を売上代金が回収できなかったときの損金に充ててでも、販売チャネルとの取引条件を緩和してより多くの店先に商品を並べるべきだ、とお勧めしてきました。そうは言っても、売掛金の焦げ付きは販売責任者にとって不名誉なことですから、多くのクライアントはリスクが顕在化しない広告宣伝のほうを選んだものです。結果として、日本企業の商品の多くは都市部のコンビニやスーパーやデパートでしかお目にかかることができず、中国のマーケットを”面”として攻略することができずにいます。もちろん富裕者層が多く生活する都市部に、リソースを集中投下する方向が間違いとは言えないでしょう。農村部の貧困地帯で代用教員を務めることになった少女とその教え子のこどもたちを描いた張藝謀監督の映画『あの子を探して』に、チョーク一本ですら貴重な貧しい農村のよろずやで先生と子どもたちが一本のコカ・コーラを買い、みんなで回し飲みするシーンがあります。貧しい村で暮らす子どもたちにとっては高価で容易には買うことができない”憧れ”の飲み物も、実は中国のどこに行っても売っているのです。欧米のコンシュマー商品の多くは、都市型マーケティングから脱却して広大な中国を”面”として捉えた戦略を取っています。もちろん、ホールセラーやリテーラーに現金前払いを強いたのでは販売チャネルは広がりませんから、市場導入時には取引条件を緩やかにして、売掛金の焦げ付き覚悟でも配荷率を高めていきます。そして、商品がマーケットに浸透した途端に取引条件を厳しくするのです。コンシュマーが買いたがる商品に成長すれば、販売店は前払いで仕入れてでもその商品を店先に並べておく必要に迫られるはずだからです。このように、販売当初は回収リスク覚悟で拡販に努め、売上が大きくなってから回収リスクを小さくしていく、と言う方法で成功している商品は少なくありません。さて話を戻しますと、私たちが出資したインターネット広告エージェンシーの”不良債権”の8割は、支払期限を最長で1年以上もオーバーしたものの、なんとか回収することができました。残りの2割クライアントが倒産したり、夜逃げしたりしたため回収が危ぶまれたのですが、その一部は冒頭のサーバーで現物回収して公的競売によって債権とほぼ等価の現金にすることができました。この会社の法務部には弁護士資格を有する社員がいて、契約書類がしっかりしていました。法廷に持ち込まざるを得なかった事案についても、自社弁護士を増やして迅速できめ細かな対応が取れたため、訴訟が長引くことは無かったのです。相手先の倒産のため回収不能と諦めていた債権に関して、CEOはトンでもない”裏技”を行使しました。クライアント(広告主企業)から回収不能に陥ったことを盾に、仕入先であるメディアと交渉し、その分の代金を帳消しにしてもらったのです。つまりデフォルトとなった売掛金と相応分の買掛金をデフォルトにしたわけです。こうした対応は、商品であるメディアの直接原価がゼロに等しい広告業界だからできる技でしょう。無形の商品を販売する以上、売掛金が回収できなくなったからと言って在庫商品を引き上げてくるわけには行きませんから、業界全体の暗黙の了解のもと、広告主から回収できなくなった代金はメディア側が面倒をみてくれるという”セーフティ・ネット”が形成されているのです。インターネットに限らず、テレビ局や新聞・雑誌社などのメディアであっても、日頃お世話になっているエージェンシーに対してはこうした措置を取ることもあるようです。期限を過ぎた売掛金問題が一段落したとき、買掛金が心配になりました。案の定、支払期限を過ぎた買掛金がたくさん存在することが発覚….。会計責任者に尋ねると「取引先のメディアから、まだ督促を受けていないから大丈夫。」とのこと。中国では、まだキャッシュフローが流暢な状態とは言えません。若い経営者の中には、キャッシュフローの重要性を理解した上で、期限どおりの入金と支払の管理を重視する人たちが増えてきましたが、売掛金と買掛金の管理を軽視する企業がまだたくさんあることも事実です。現金取引を原則としたり与信管理を厳しくしたりしてリスクを減らす方法もありますが、ダイナミックに展開するためには信用取引が必要になることもあるでしょう。その場合、机上のキャッシュプランどおりには運ばないことを念頭に入れた、余裕を持った資金計画も大事になるでしょう。最後のほうは、依頼もとの金融機関にも気を使ったつもりだったのですけど....。
2008.09.15
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とある中国の地方都市でボッタくられました。上海人と香港在住のマレーシア人と3人で、夜の街に繰り出そうとタクシーに乗り込んだのです。3人とも初めての訪問となるその都市には残念ながら日本語のフリーペーパーのような便利なツールが無いので、情報はホテルのコンシェルジュくらいからしか得られません。上海人の提案で、タクシーの運ちゃんに"良い店"を尋ねることにしたのです。中国には多少馴れているとは言え、日本人とマレーシア人は"客人"ですので、唯一の大陸出身者である上海人の彼が、私たち"客人"のために、タクシーの運ちゃんと相談し、案内されたお店の人と交渉してくれたのです。結果は散々でした。最初に行ったカラオケのサービスもいまいちで、当初約束した料金の二倍以上を請求されてしまいました。上海人の彼は、お店の"マミー"(女性従業員の管理者)やマネージャー(店長)を呼びつけて、あれこれ怒っていましたが、最後はお店の請求金額に従わざるを得なくなりました。ここで帰ればよいものを、私以外の二人は若いものですからおさまらず、やはり同じ運ちゃんに紹介してもらっていたサウナに寄ることになったのです.....。そして、ここでも酷い目に遭わされたのでした。(良い訳じみていますが、私は"大人"なので、またボラれると思い、早々にホテルに戻っておりました。)彼らの報告によると、サービスも料金体系もとんでもないものだったとのことで、マレーシア人の彼はお店の人と大喧嘩して、夜中の三時くらいにホテルに戻ってからも、悔しさと興奮で朝まで寝付かれなかった、とのことです。上海人の彼は事業開発のマネージメントをしているのですが、ビジネスの上で初めてとも言えるような困難に立たされていました。ポテンシャルの大きな提携先を自ら探し出して交渉も順調に進んでいたのですが、ここ最近提携相手の態度が変化してしまったのです。いま中国のWeb系の私企業は内外のVCの引き合いが多くバブっているのですが、この提携相手も"売り手市場"への変化に気がついたのでしょう。提携交渉の詰めが思い通りにならず、憤っているばかりか、提携相手に"騙された"などと愚痴をこぼすようになっていたのです。私が思うに、その上海人の彼は、大陸でのビジネスで大きな挫折を経験したことが無かったのだろうと。前職は、欧米系の大企業でセールスをしていたらしいのですが、お膳立てができているBtoBのルートセールスですから、大きなトラブルは無かったようです。その後、日本企業でキャリアアップしてマネージャーを務めるようになったのですが、"買い手"が強いマーケットに身を置いていたため、取引先の"裏切り"に遭うことなく順調に経験を積んできたのでしょう。確かに有能でスマートな上海人。上海であればウラのウラまで知っている遊び上手なヤング・エリートといった感じです。ですから、"アウェイ"とは言え地方都市でボッタくられた体験は、前述の提携相手とのトラブルと同じように、彼の"履歴書"の中ではあってはならないことだったのでしょう。「上海では、こんなことはあり得ない。」彼はそう言いましたが、自分のフィールドだけでビジネスが成り立つわけではありません。数日経って、ボッたくられたことが"笑い話"として話せるようになってから、私は彼にそう諭しました。聡明な彼は、理解してくれたようです。日本人が中国で騙されることがあっても、彼は中国では絶対騙されないと自信を持っていました。でも、ビジネスのフィールドが広がったり、環境が変化すれば、自分も"外地人"と同じなんだ、そう思ってビジネスに臨まなければならないんだ、と彼は理解したようです。地方都市でボラれた経験は、マレーシア人の彼の将来のビジネスにおいても、とても有益だったと思っています。彼は上海人の彼よりもっと若くて20代の前半。資産家の子息で日本に留学し社会に出たばかり。私に言わせれば"純粋培養"の王子様なのです。そんな彼が香港からではあるにせよ、いきなり大陸ビジネスに手を染めることになるのですから。有能な上海人は上海ではパーフェクトでしょう。同じように北京でのご接待は北京人にアレンジしてもらえば、何の不安もありません。でも、中国のスタッフを"アウェイ"(外地)に連れ出して、挫折を味合わせてみるのも悪くないと思います、夜のご案内だけではなく、ビジネスの世界でも....。日本人の中国での苦労を少しは理解してもらえるかもしれませんし、中国のスタッフにとっても、良い挫折経験になるかも知れません。ボラれることによって、ビジネスの上でも成長していくはずです....。
2007.05.16
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アジア・メディアは初値が672円、まぁこれは想定の範囲内だったのですが、その後買い注文が殺到し、上場二日目の4月27日の終値はなんと852円だとさ。公募価格から二日で33%も上昇しちゃいました。ちょっとショック。最近は、中国のネットやメディアの方々とお仕事をしているのですが、何だかすごくバブルです....。スタートアップ(設立)したばかりで向う1年は赤字見込みのネット系企業に、いきなり1,000万US$(12億円)規模のヴァリュエーション(企業価値算定)がついたりしちゃうのです....ふう。そんなんですから、マネージメント・クラスの人件費も高騰しています。ここのところ、北京でリクルーティングを行っています。一つはファイナンシャル・ディレクター(財務総監)、もう一つはビジネス・ディベロップメント・シニア・マネージャー(事業開発上級経理)。どちらも、手取りで月2万RMB(30万円強)が相場でした。所得税や福利厚生費やボーナス見込み分を計算すると、会社負担額は年間で40万RMB(約600万円)を越えてしまいます。インタビューを行ったキャンディティの中で、一番の高給取りは手取りの年収が60万RMB(約900万円)でした。3アメリカの大学でM.A.を取得し、中国とカナダの公認会計士(CPA)資格を持っていて、欧米系のメディア・エージェンシーでファイナンシャル・ディレクターを務めている、30代半ばの北京出身の女性でした。手取りの年収が60万RMBと言うと、会社負担は90万RMB(約1,400万円)を越えてしまうはずですが、特に吹っかけている様子も無く、そのくらいもらうのは当たり前、というご様子でした。事業開発系の人材でも、欧米系の会計事務所や法律事務所で働いている人たちは、30代前半でも平気で手取りで月3万RMB(45万円強)とかもらっているようです。まぁ、中国の日本企業で現地採用の中国人にこんなに払っているところは、ほとんど無いでしょうね。ただ、こういう人たち、レジメを見ると素晴らしい経歴ですし、インタビューしていてもしっかりしていて、人材としてはほんと魅力的ではありました。日本に戻ると、いまの会社、いろいろ事情があって、常時求人活動をやっているようで、職を求める中国人のレジュメがかなりストックされていました。国籍など関係なく、大学新卒の場合、年収はグロスで400万円弱くらいではないでしょうか。手取りにすると月20万円を切るくらいでしょう。日本の大学を卒業して、日本の会社で3~4年のキャリアを積んだ中国人でも、希望年収は400~500万円くらいだったりします。30代前半の社会人経験10年選手でも500~600万円くらいで働き甲斐のある職を探していたりします。こうした中国人を日本の本社で雇用して、中国に送り込んだほうが、現地で採用するより安く済んでしまいます。日本で採用すると、中国で働いてもらうときに、中国人であっても海外勤務扱いになり、諸手当や家賃補助などで費用がかさんでしまう企業が多いのかもしれませんが、こうした規定こそフレキシブルに運用しないと、逆に不公平を引き起こしちゃいます。北京出身の中国人が日本で採用され北京に赴任するときに、海外勤務手当てや家賃補助まで、日本出身の日本人並みに手立てしてあげる必要はあるでしょうか?現地採用の中国人との待遇格差が顕著になるだけではないでしょうか?日本の本社へのロイヤルティなども考慮すると、日本の本社で採用し、中国で勤務してもらうほうが有利であることは確かでしょう。しかも、現地採用のほうがコストセーブできる、というついこの間までの常識が、常識ではなくなりつつあるわけですから.....。ただ、日本で社会人経験がある人材が必ずしも優秀とは限りません。むしろ、中国で仕事の経験が無い(少ない)不利を考慮する必要があるでしょう。現地で働いていなければ得られない情報や経験はたくさんあります。たとえ日本の会社で中国のファイナンシャルの仕事をしていても、現地の税務当局などと直接遣り合う機会はほとんど無いでしょう。日本企業のトーン&マナーはわきまえていても、中国ではうまく機能しない場合が多いでしょう。マネージメント・クラスであれば、日本の本社採用にして現地に送り込んだほうが、現地で採用するより安く済む、と言う数年前では考えられないような状況になりつつありますが、いろいろ考慮すると、少し高くついても現地での経験が豊富な人材を雇用したほうが、うまく行くような感じもしております。
2007.04.27
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北京で中国人の知人が起こした会社を訪ねました。0歳から6歳までの乳幼児の両親をターゲットとするマーケティングとコミュニケーションの会社とでも言いましょうか。アウトプットとしては、ヴァイラル(クチコミ情報)をメインとしたポータルサイト、雑誌、ペイテレビ・チャンネルなどによって、ママやパパと子育て関係の商品やサービスを提供する企業との間に情報を流通させるというビジネスです。中国には6歳までの乳幼児が1億人近くいます。このうち約20%、2,000万人が貧困農村部以外に住んでいるそうです。そのうちの1割を顧客として取り組めれば200万人(世帯)。ペイテレビの視聴料を月10RMB(150円)として年間で120RMB、200万世帯なら2,400万RMB(約3億6,000万円)の収入になります。達成率3割とし、さらに広告収入や雑誌販売などの収入を控えめに見積もって、年間1億円ちょっとの収入があればペイできる、と言う比較的謙虚なビジネス・プランで進めているそうです。ご存知の通り、中国では"一人っ子政策"が続いていて、都市部の大部分の家庭では子どもを一人しか持てません。おのずと子どもにかける期待が大きく、期待に比例して子育てにかけるお金も大きくなります。0歳から6歳の子どもを持つ大都市の夫婦は1ヶ月あたり800RMB(約1万2,000円)以上費やしています。10RMBや20RMBくらいであれば、子育て情報に費やするのは惜しくないはず。雑誌などは既に出尽くした感じですが、ウェブやペイテレビ・チャンネルは発展途上の市場と言え、いいところに目をつけたなぁ、と言う感じです。オフィスを訪れて驚いたのは、こうしたサービスをすべてインハウス(自社内)で完結しようという姿勢です。つまり、アウトソーシングを一切考えていないのです。エディター(編集者)、記者、デザイナーはもちろんのこと、カメラマンや映像編集者、番組のディレクター、パーソナリティに至るまで、すべて自社で抱えているのです。設備も、ウェブやDTPの編集で使うパソコンはもちろんのこと、テレビカメラ、ライティング、スタジオまで、すべて一つのオフィスに収まっています。つまり、ポータルサイトもペイテレビの番組も雑誌もすべてワン・オフィスで完成してしまうのです(雑誌の印刷などはアウトソーシングしますが)。確かに、ビークルは違っても、情報の内容はウェブ、テレビ、雑誌ともほぼ同じはずです。昔と違って、1台のパソコンでウェブの制作もテレビ映像の編集も雑誌の編集もできちゃうのです。つまり、ウェブ制作事業もテレビ番組制作事業も雑誌編集事業も設備が共有できるということ。コンテンツ(行き交うデータ)は皆子育てに関するものですし。日本をはじめ欧米など多くの企業では、アウトソーシングを活用し、自社はコンパクトにするという経営が主流です。自社内で完結しようとすれば、多くの設備が必要になりますし、多くのスタッフを抱えることにもなります。商売がうまく行っている間は、コスト削減にも繋がるでしょうが、商売を縮小する必要が生じた場合、身動きが取れなくなってしまいます。固定資産が大きくなり、その償却のため利益が削られますし、余剰スタッフにも人件費がかかります。専門的な業務であればあるほど、スタッフの配置転換も難しくなります。こうしたリスクを回避するために、多くの企業はアウトソーシングします。ですから、工場を持たないメーカーやウェブ・デザイナーのいないウェブ制作会社などが存在します。日本の広告会社でテレビCMを作っていると思ったら大間違いです。アウトソーシングを重視する経営姿勢は株価向上のため、とも言われます。固定資産を小さく抑えることができ、豊富なキャッシュフローが生み出され、四半期や一年といった短いスパンで経営を管理し易いわけですから、EVA(Economic value added:投資した資本に対し一定の期間でどれだけのリターンを生み出すか)を重視する投資家にとっては魅力的な方向と言えるでしょう。経営者の知人に問い質してみると、中国の場合、サービス業を含むソフト系産業では、インハウス(自社完結型)のほうが有利だと考えているようです。いろいろ話したのですが、彼女の意見をまとめると、中国における固定資産と現金と人件費の関係にあるようです。中国では企業価値というと未だに固定資産を重視する傾向にあるとのこと。債権回収がシステマティックに行われていない中国においては、売掛金や買掛金といった帳簿上の資産や負債よりも、現金化可能な固定資産のほうが重視されているので、資本を固定資産化することを投資家は歓迎するそうです。ま、独自の技術だとか知的財産などが未だに価値として認められていないようなこの国ならではの事情かなぁ、と思います。次に、設備投資と比較して人材投資が圧倒的に安く済むということ。しかも、とりわけソフト系産業においては人材流動性が激しく、人件費を固定費として考える必要が無いということ。事業規模を縮小したときの社員削減コストも少なくて済みます。むしろ、成長性の無い会社なら自主的にスタッフが去っていきます。ですから中長期的にみれば、労働集約型のソフト系産業の場合、アウトソーシングに出さないでインハウスで行ったほうが圧倒的に有利、というのが彼女の主張でした。私としては納得できるような納得できないような感じですが、確かに知人の起こした会社は、複数の事業で設備やスタッフを共有できるフレームワークになっていて効率的です。しかも、オフィスのロビーがテレビ番組用スタジオと兼用になっていて、運転手さんが収録の音声スタッフ(マイク持ち)をやったりしていました(写真)。それでも、いきなり100人近いスタッフを抱え、この先大丈夫なのかなぁ、と心配もしつつ、日本の企業に居てはなかなか発想にこぎつけない、"自社完結主義"を応援したいと思っています。
2007.01.19
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11日に時事通信社が北京から伝えたきたニュース。日本の大手新聞各社はスルーしちゃったようですが、ニュースサイトに転載されていました(Infoseek楽天ニュース)。【北京11日時事】中国に進出した日本企業の総経理(社長)を含めた邦人計4人が2005年以降、輸入品をめぐる関税逃れなど「普通貨物密輸罪」に問われ、上海などの裁判所で相次いで有罪判決を受けていることが11日分かった。中国に製品や部品を輸入する際、価格の過少申告や輸入物品の虚偽申告で関税などを逃れようとしており、上海では今年9月、日本企業で総経理だった男性が懲役2年の実刑判決と350万元(約5250万円)の罰金を科され、控訴中で現在も拘束されている。関税逃れと言うことで摘発され、実刑判決を受け、拘束されている日本企業の総経理(経営責任者)が中国にいらっしゃると言う話です。"脱税行為"だから犯罪なのですが、きっとビジネスを成り立たせていく上で仕方なく行った行為なんだと思います。中国で製造やアッセンブリーを行っているメーカーさんにとっては、日本などから中国に輸入される原材料やパーツを、いかにスムーズに通関を通すかが命綱です。通関でもたついて予定期日を過ぎても原材料やパーツが工場に届かなければ、ラインは止まってしまいます。それでも、工場の労働者にはお給料を払わなければなりません。出荷も遅れるわけですから、販売店や顧客からの信頼を失い、多大な損害が生じることになります。日本のように、ある程度システマティックに通関業務が行われ、陸揚げされて中何日で通関完了と読めるのなら良いのですが、中国の場合はそんな甘くはありません。税関の方と"仲良し"にしていれば優先的に通してもらえたりしますが、"仲良しでない"と逆に意地悪をされてなかなか通してもらえないかもしれません。ときどき日本の時代劇で、関所のお役人さんに"袖の下"を渡してこっそり通してもらうようなシーンを見かけますが、まぁあ~いう感じもアリなのです。ですから、中国外からの輸入品を扱う企業の多くは、税関の方と"仲良し"になるために、ご飯をご馳走したり、キャバクラにご招待したり、最新のケータイをプレゼントしたり、本社のあるアメリカや日本やヨーロッパの国に視察旅行にお連れしたりします。これは贈賄行為とも言えますし、イケないことだと分かってはいるのでしょうが、「ウチの会社だけはそんなことはしない」と正義を振りかざしたとしても、通関が滞るだけ。ライバル企業のほうは税関の方と仲良くしているわけですから、仲良くしていなければ不利を被る可能性が大きくなります。通関業務をスムーズにしていただくための税関当局との"関係作り"あたりまでですと、まだ"グレイゾーン"なのかもしれません。けれども、企業側にも税関当局にも、更なる"欲"が出ちゃうわけです。企業側は関税をできるだけ安く済ませたいですし、税関の方はリッチな企業の皆さんともっと仲良くしたいと思っちゃうわけです。ライバル他社のように、輸入品の価値を過少申告したでも見逃してくれる、ような"理想的関係"を税関当局と築くことができれば、価格競争力までアップするはずです。本社から課せられた中国でのミッションを達成しようと真剣に頑張っている日本人マネージメントならば、そうしちゃうかもしれません。過少申告とか虚偽申請までいっちゃうと、さすがにグレイとは言い難いわけで、時事通信社の報道にあるように、"普通貨物密輸容疑"などで摘発されたりしまうのです。税関にもグルになっている方がいると思うのですが、そういう方々が収賄で摘発されたのかどうかは不明です(たぶん何らかの処分は受けてると思いますけど)。とりわけ税関-密輸となると、『アモイ事件(遠華密輸事件)』が有名です。7年前に発覚した事件でありながら、カナダに逃げ延びた主犯格の頼昌星さんが、中国共産党中央政治局常務委員で江沢民さんの仲間だった賈慶林さんのことを、胡錦濤さんたちにチクるのではないか、と言うことで、最近また話題を醸し出しているようですが(産経新聞中国総局記者・福島香織さんのブログ『北京趣聞博客』にわかり易い解説記事があります)、当局も過敏に反応しているのかもしれません。この手の脱法行為に関しては、日本企業だけではなく、中国企業も欧米企業も様々なところでいろいろと摘発されていますから、日本企業の総経理が実刑を喰らった、と言う日本向けのニュースだけで、また「日本企業潰しだぁ」などと決めつかないほうが良いと思いますけど。私が北京でお勤めしてたときは、あまり税関とはご縁が無くて助かりましたが、税務当局や工商行政管理局などのお役人さんと"仲良く"しておく必要はありました。ライバル他社がお役人と仲良くして優遇されているのに、こちらがキレイごとを通して意地悪されてしまっては、競争力に差がつき、大きな不利を被りかねませんから、これはもうある程度やるしかなかったのです。実刑になってしまった日本人総経理の場合もきっとそうだと思うのですが、日本人の責任者が率先して、お役人を接待しようと贈り物をしようとか、言い出すことはほとんど無いと思います。多くの場合、中国人の幹部やマネージャーが言いだしっぺであるはずです。「Aさんとの関係を強化するとうまく行く。私の知人のBさんが仲介できる。ライバル社はCさんと仲良くしているようだが、Aさんのほうが"実力がある"からライバル社より有利にしてもらえる....。」まぁ、例えばこんな感じでしょうか。もちろん、接待の場に日本人の責任者が連れ出されることも多いでしょうが、"実弾攻撃"のほうは中国人の幹部やマネージャーが"汚れ役"を演じるわけです(ピンハネなどによって"役得"になる場合もありそうですが)。日本人総経理はギリギリの判断を迫られるでしょう。日本の本社はコンプライアンス強化と言ってきているわけですし、"工作資金"の財務処理だって考えなければなりません。日本人の責任者に相談すれば「ダメだ」と言われると思い、或いは日本人をトラブルに巻き込まれたくないと言う気遣いから、中国人幹部が独断で"工作"を行う事だってあるはずです。日本人が直接関わっていないケースも多いはずです。それでも大規模な摘発があれば、経営責任者である日本人総経理(社長)が責任を問われることになるでしょう。「宮内さんが勝手に行ったことで、私は知りませんでした。」という感じで主張しても、総経理(社長)という肩書きを持っていたら、簡単には納得してもらえないでしょう。私は中国における違法行為や脱法行為を奨励する意図はありませんが、いまの中国で経済活動を行っていき、それなりの成果を挙げるためには、怪しげと思う領域に足を踏み込む必要が生じることになるかもしれません。日本の独資を含む中国の法人で総経理である日本人は相当な覚悟が必要だと思います。できることなら、信頼できる中国人幹部に総経理(社長)というタイトルを明け渡し、自らは董事長(会長)か副董事長(副会長)に棚上げされるのが良いかもしれません。総経理には日常的な業務の責任がありますが、董事長や副董事長にはありませんから。またこうしたコンプライアンス上のリスクを回避するために、日本側は敢えてマジョリティーを取らない(出資比率を50%未満におさえる)というのも手だと思います。中国人同士の話し合いで丸くおさめてもらいましょう.....。
2006.11.14
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一般に情報公開は、社外に対してだけではなく、社内に対しても重要ですし効果的です。お互いの部署の業務内容や成功例・失敗例を公開し、組織的に情報を共有することは、日本企業の"得意技"とも言え、ビジネス展開上で、たくさんのメリットがあります。担当外のスタッフや別の部署の方から思わぬアドバイスや有益な情報が得られたりしますし、ライバル部署のサクセス・ストーリーを参考に奮起することにもなります。また、会社の方針だけではなく、業績や財務指標、人事制度などについても、できるだけ詳細、正確かつタイムリーに、できるだけ多くの社員に公開することこそ、経営の透明度を高め、社員のモチベーション・アップにも繋がりますし、内部統制の強化にも繋がると言われています。とは言え、中国でも社員に対し積極的に情報公開すべきか、と言いますと、必ずしもそうとは思えません。情報の公開や共有だけでは無く、"情報の囲い込み"にもメリットがあることを忘れてはなりません。中国の人たちの多くは、歴史的に"情報の囲い込み"に馴れているようです。自分だけが持つ情報を最大限活用するほうが得意なようです。逆に言えば、公開された或いは共有された情報の活用にあまり馴れていないように思えます。まず、情報を公開或いは共有するにあたって、その情報発信者(提供者)に気を遣う必要があります。成功を自慢するのが好きな方は多いのですが、成功のポイントを他者に明かすことを嫌がる方が多いはずです。まして人的コネなどは個人のものであって企業のものではない、と言う考えを持つ方が多いのも事実でしょう。各個人の持つ情報や経験(もちろん会社のカンバンを背負って得たものがほとんどでしょうが)が、他のスタッフの業績に活かされるような場合には、何らかのインセンティブを与えることも検討すべきでしょう。また、日本人の上司が「公開或いは共有された積極的に情報を活用しろ」と抽象的に命じただけで、積極的に活用するスタッフは少ないのではないでしょうか。個人主義的傾向の強い中国のホワイトカラーは、"他人の褌で相撲を取る"ようなことをあまり好まないからです。情報を公開させるにせよ、その情報を活用させるにせよ、双方のメリットを明確にして、マニュアル化するなりシステム化するなりして、筋道を示してあげないと、なかなかうまく行かないように思えます。業務に関する情報ではなく、財務指標や人事制度などの企業内部情報の公開については、更に真剣にメリットとデメリットを考慮する必要があると思います。先ほどの話と矛盾するようですが、公開する側、つまり経営層の意図に反して利用される場合があります。また社内情報の社外への機密が保持が難しいのです。例えば、毎月の売上を社員に公表するとします。前年比で10%落ち込んでいる場合、経営層は社員に奮起を促すはずです。でもこうした情報に、決して多くの社員では無いと思いますが、ネガティブな反応をすることがあります。「会社の業績が落ち込んでいる」と言う話がいつの間にかライバル会社に伝わったり、このままでは給与が減らされてしまうかもしれない、或いはこの会社の将来は暗いなどと、転職を考えたりする社員も出てきたりします。逆に、前年比20%増で絶好調のような場合、経営層は社員に気の引き締めと更なる躍進を願うはずです。でも一部の社員は、給与の値上げや臨時ボーナスの支給を期待し、そうしたアピールに出るかもしれません。会社側にそうした用意があれば良いのでしょうが、そうでない場合は、一部の社員にとってはネガティブな情報でしかなくなります。売上くらいの情報ならまだましですが、総利益や最終利益あたりまで公表するのは更に危険だと思います。以前取引先ごとの総利益(粗利)を社員に公表したことがありました。「A社の総利益率が高いので、B社やC社の総利益率もA社並みになるよう頑張りましょう。」と言うのが、日本的企業人の発想です。ところが中国では必ずしもそうではありません。結果としてA社の総利益率が徐々に下がっていきました。ライバル社にウチの総利益率が筒抜けになってしまったこともありますし、最終利益が目標より多かった年には、社員から利益の再配分を求める声が高々に挙がったりもしました....。内部留保について説明して納得してもらうのにも一苦労です。そんなワケでウチの会社は、以前全社員に公開していた毎月の財務指標などを、ごく少数の中国人幹部社員のみに"囲い込む"ことにしました。そうした情報を活かす活かさないは、中国人幹部社員の判断に任せることにしたのです。機密漏えいなんて論外だ、と思われる方もいらっしゃると思います。ウチでも労働契約書に、機密漏えいに関する条項を設け、退社後一定期間効力を有することになっています。パソコンやメールの管理もかなり厳密にしています。そして退職届が提出されると同時に、その社員が使っていたパソコンを凍結するのですが、100%完璧とは行きません。これは情報に対する考え方の違いからくるものだと思っています。中国に限らず、情報の発信者が意図したとおりに受信者が活用することは、なかなか難しいと思います。日本企業の多くは、情報を広く社内外に公開する会社ほど"開かれた良い会社"と考えがちですが、特に中国の場合、充分デメリットも考慮する必要があると考えています。
2006.07.11
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中国において代金回収はとても頭の痛い問題です。中国では、お金の支払を引き伸ばさなければならない環境になっており、支払を遅らせることこそ経営手腕と見做される場合も多い、まさに構造的な問題なのです。コンシュマー製品を例に挙げますと、購入する消費者はニコニコ現金払いが通常ですが、小売店はその売上代金をなかなか問屋さん(中国ではメーカーが直接小売店と取引するケースが増えているので問屋さんが介在しないケースが多いのですが)に払いません。問屋さんはメーカーさんになかなか払いません。メーカーさんはパーツのサプライヤーさんに仕入れ代金をなかなか払いません。それで零細のサプライヤーさんの老板(社長)はその従業員になかなか給与を払いません。こんな感じです。こうした構造において、約束どおりきちんとお金を払いたいと思ったとしても、資金繰りがつかず払えないという状況に陥ってしまうわけです。ですから、どの段階でも約束どおり支払うことを躊躇わざるを得ないことになってしまうわけです。中国における構造的な問題ですから、中国企業だけではなく、中国で企業活動をしている外資企業や日系企業も巻き込まれていきます。「代金が回収できない」と言う被害者としての話題は良く出てきますが、一部の日系企業など外資企業も「約束どおり代金を払ってくれない」と言う加害者になっている場合もあります。そんな折、中国においてプレゼンスが高い欧米系広告会社オグルビー&メイザーが北京ベンツ・ダイムラー・クライスラー自動車有限公司を提訴したニュースが話題になっています(新浪網ニュース) / Do News)。2004年、上海オグルビー&メイザーは北京ベンツが生産する3ブランドの自動車(三菱ブランドと北京ジープ・ブランドでメルセデス・ベンツは含まれていません)の広告サービスとメディア買付けに関する覚書を取り交わしました。ところがその費用のうち1,262万RMBが未払いのままになってしまったそうです。オグルビー&メイザーは遅延利息を含めた1,359万RMBの支払を北京ベンツに求め北京市第二中級人民法院に提訴したということです。広告業界の場合も、同じような構造問題を抱えています。約束どおり広告費用を広告会社に支払わないクライアント(広告主)がたくさんいるのです。そして、広告会社が広告枠の買付け代金をメディア(テレビ局や新聞社など)に支払う場合も、約束の期日まで支払わない場合も多いのです。これには当然のことながら"力関係"が影響します。"力"を持ったメディアは前払いしないと広告枠を売ってくれないこともありますし、"力"や"信用"を持った広告会社であれば、広告掲載の3ヵ月後とか半年後とか1年後の支払いであっても、"力"をあまり持たないメディアから"取引停止"にさせられるようなことは無いわけです。中国のメディア業界は過熱競争気味ですから、"力"のある広告会社やクライアント(広告主)が予定通り代金を支払わないとしても、"泣き寝入り"場合が多いようです。広告会社のほうも、クライアント(広告主)との取引が継続している限り、代金の支払が遅れたとしても、大きく騒ぎ立てず、じわりじわりと督促・回収する場合が多いようです(まぁ、日本においてもこうしたケースが無くは無いでしょうが....)。オグルビー&メイザーがベンツを訴えるに至ったのは、既に取引関係を打ち切った、ということ、しかも将来的にも当面は取引を再開するつもりが無いからでしょう。両社ともグローバル展開をしている企業ですが、中国以外でも当面取引を行う意志が無いことの表れです(なお北京ベンツは、今でこそダイムラー・クライスラー傘下の外資企業ですが、もともとは北京ジープという国有自動車工場でした)。要するにオグルビー&メイザーにしてみれば、北京ベンツは喧嘩別れしても痛くも痒くも無い(少しは痛いでしょうが)クライアントであるということでしょう。経営が傾きかけている取引先などにはこうした強硬手段も取れるのでしょうが、取引を継続していきたいと思っている場合には、訴えたりすることはなかなかできない、と言うのが実態ではないでしょうか。どのあたりで"見切り"をつけるか、と言う判断が重要になってくるわけですが、中国の信用情報は必ずしも正確であるというわけではありませんし。以前にも書きましたが、第一にきちんと契約書を取り交わすこと、取引を証明するエビデンスをきちんと保管しておくこと、が基本だと思います。こうしたエビデンスが用意できなければ、訴訟に持ち込むにも時間がかかりますし不利に展開するでしょう。第二に余裕のある資金計画を心がけることでしょう。契約書どおり入金されるなんて考えないで、入金が少しくらい遅れても資金繰りに大きな影響を受けないくらいの手元資金を確保しておきたいところです。可能であればあらかじめ資金調達コスト分くらいは上乗せして値決めするのが理想的ではあります。最後に、ある程度の回収不能を見越して、"心の中で"引当金を見積もっておくことです。年間のPLでたくさんの利益を確保できた経営者であっても、あまり調子に乗らないほうが身のためかもしれません。翌年、翌々年にその利益を呑み込むくらいの不良債権を処理しなければならなくなるかも知れませんから....。日本の本社で中国現地法人を管理する側の皆さんも、回収の遅れと回収不能について、"心の準備"をしておいていただくのが良いと思います。どんなに有能な経営者であっても、中国では避けられない問題だと思うからです。もちろん、すべてニコニコ現金前払いで取引が成り立つような"力"のある企業であれば別ですが。私個人としては、中国の大企業との取引において、支払遅延はあったとしても、取引が継続している間は、"取りっぱぐれ"(回収不能)に陥るケースは非常に少ないと考えています。経営状態が危なくなってしまった取引先の売掛金が焦げ付くのは、何も中国に限った話ではありませんし....。
2006.05.29
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日本企業の中国現地法人では、大企業なら部長クラス、中小企業なら総経理(社長)を中国人に委ねています。マネージメントに中国人を登用することと『現地化』は決してイコールではないと思いますが、中国で中国人マネージメントを登用することは、ビジネスの成功に不可欠な必要条件ではあります。さて、中国人マネージメントの登用の仕方にも、大きく分けると二つの方法があります。一つは、日本の本社で仕事をしてきた中国人を中国の現地法人に駐在させる、と言う方法。もう一つは、中国で採用した有能な現地社員を登用する、と言う方法です。前者には、日本に留学し日本の別の企業で経験を積んで、日本で中国要員として転職し、ほぼすぐに中国に派遣されるケースなどもありますし、後者には、その現地法人の中で長年働いている社員が昇格する場合もありますし、いきなりヘッドハンティングで幹部に登用するケースもあります。様々なケースがありますが、日本の本社からの派遣か現地での登用か、の二つに分けてお話を進めてみたいと思います。中国人幹部を日本の本社から派遣する魅力は、何といっても会社に対するロイヤルティ(忠誠度)ではないでしょうか。これは、日本の本社社員が海外に駐在する場合と同じ待遇であることが前提ではありますが。お給料も評価も、自分の人生も、みんな日本の本社に依存することになりますから、日本の本社にとってマイナスになるような行為はあまりしないはずです。また、日本本社の企業理念、企業文化、社風などを理解している場合が多いので、中国の現地法人に日本の本社のそれらを導入する場合は、大きな力になるはずです。さらに、日本流のビジネスの仕方をわきまえているはずですから、中国における日系企業との取引などにも力を発揮できると思いますし、日本の本社との連絡、報告、交渉においても、うまく行くでしょう。日本の本社や現地法人の日本人にとっては、比較的安心感があると思います。しかし、これらのメリットはまた、デメリットに変わりかねない危険性をも秘めています。まずは待遇格差。日本の本社社員としての待遇と現地法人の幹部としての待遇には、多くの場合、雲泥の差があります。前者の場合、給料は日本本社の体系に基づきますし、海外勤務手当てなども上乗せされるでしょう。さらに、中国での住居や日本への帰国も会社費用で賄われる場合が多いはずです。現地採用の有能な幹部に、現地法人がいくら優遇したとしても、月5万RMBも払える日系現地法人は稀でしょう。年収60万RMB(約900万円)は、中国都市部のビジネスマンの中でもかなり高給取りに属すのでしょうが、同じポジションで日本の本社から派遣された中国人幹部の場合は、いろいろ含めるとこれ以上の報酬を得ているはずです。一般的には月2~3万RMBあたりが限界線でしょう。しかも、日本本社では成果や実績に関わらない(ほぼ)固定給が未だに主流ですが、中国の現地法人では成果報酬制を採用している企業も多いはずです。日本の本社からどんな待遇を受けているのか、現地法人の社員は知るはずもないだろう、考えるのは少し甘いと思います。給料や待遇のことなど筒抜けになってしまうのが中国の現状です。無理に隠そうとすれば、正確でない大袈裟な噂が立つことになるかもしれません。もちろんその中国人幹部が、現地法人の中で活躍して、成果を挙げ、現地法人のスタッフに評価されているのであれば、大きな問題にはなりません。中国では成果主義が根付いていますから、報酬に相応しいほどの活躍をしているのであれば、"本社待遇”であろうがなかろうが、現地法人のスタッフは納得するはずです。けれとも、そうで無いケースが意外に多いようなのです。その原因こそ、皮肉なことに日本流のビジネスの仕方をわきまえていることや、日本本社の事情をよく理解していることの"反作用"だったりします。つまり、日本に留学したり、日本の会社で働いている間に、中国の事情に疎くなってしまう場合が多く、中国の現地法人に赴任しても、現地でのビジネス経験の豊富な現地採用の中国人幹部ほど能力が発揮できず、なかなか成果を挙げられないケースがあるということです。。中国の変化は日本と比べものにならないくらい速いのです。5年、10年、日本で生活しているうちに、いろんなことが変化してしまいます。許認可や手続きのシステムやマーケットの状況などであれば、日本からでも情報収集できますが、中国ビジネスで重要な"人間関係"の形成に空白期間ができてしまいます。効果的な"人間関係"は主として実践を通して形成されていきます。中国で働いていれば、政府関係者にせよ、取引先にせよ、どんどん人脈を広げ深めることが可能ですが、日本に居る期間が長いほど、中国での人脈が細くなっていきます。日本本社から派遣された幹部は、中国人でありながら中国の事情に疎く、有効な人脈をあまり持たない人材と言うことになりかねないのです。ですから、現地採用の幹部よりも成果が挙げられないということにもなりかねないのです。さらに、日本流のビジネスの仕方に馴れてしまって、中国風のビジネスの仕方に馴染めないというケースもあります。日の本社が、日本流のビジネスの仕方を貫き通しほしい、と願ってくれても、"郷に入れば、郷に従え"です。中国で中国人が日本流のビジネスの仕方を貫き通して、うまく行くケースは稀ですし、マイナス面のほうが多いと思います。こうして、"待遇の割には使えないヤツ"という評判が現地採用のスタッフの中から沸きあがってくるケースがあります。こうなってしまうと、日本本社とのパイプの太さが、現地法人の内部での軋轢を生む原因になっていきます。日本から派遣された幹部なら日常的に本社とコミュニケーションできます。相談や報告が"的を得たもの"であれば良いのですが、自己保身のために、現地スタッフのよからぬ話をレポートするような場合もでてきます。現地採用の幹部のほうはダイレクトに日本の本社とコミュニケーションする機会が少ないでしょうし、日本側も本社から派遣させている中国人幹部の報告を信用しがちです。一方、現地で育成或いは採用した幹部は、中国や業界の事情に詳しいはずですし、中国のビジネス習慣をわきまえながら仕事を進めていくでしょうから、大きな成果を期待することができるかもしれません。でも日本の本社に対するロイヤルティ(忠誠度)はあまり期待できないでしょうし、リベートやバックマージンはおろか、ウラで自ら会社をつくって"ピンハネ"するようなリスクも否定できません。日本流のビジネスの仕方が理解できず、日本の本社としてはコントロールしにくいでしょう。現地法人の中国人幹部。日本から派遣する、現地で調達する、どちらの場合でも、メリットとデメリット(リスク)があります。もちろん、こうしたリスクの心配が要らないくらいの有能な人材が居れば、本社派遣だろうが現地採用だろうが、どちらでも構わないのですが、なかなか見つけることは難しいと思います。
2006.04.25
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以前、中国側パートナーを軽視したため董事会で中国側から解任動議を出された日本人総経理のエピソードをご紹介しました。今回はどちらかと言うと逆の例です。日本の本社から派遣されて現地法人を委ねられていたにも拘らず、現地幹部とうまくやってきたが故に、日本の本社の不評を買い、帰任してしまった日本人総経理と取り残された幹部社員のお話です。その現地法人は世界的にも著名な日本企業がマジョリティを握っており、中国側パートナーはほとんど経営には関与せず、配当だけ入ってくれば良いような感じだったそうです。中国側から派遣された老齢の副総経理は、自分の子どもくらいの年頃の幹部社員の意見や方針に逆らうことなく、目を細めて見守っているような人でした。その日本人総経理は、中国側総経理のメンツにも気を遣いつつ、現地幹部社員をうまく取り込み、短期間で業績を拡大していきました。更に現地幹部社員のモチベーションを更に高めるため、昇格や昇給など待遇の改善も行いました。ここまでは理想的な展開と言えるでしょう。ところが意外なところから綻びが生じ始めるのです....。その日本人総経理と日本の本社との関係がギクシャクし始めるのです。いろいろあったようですが、一例として挙げるなら、現地人幹部社員を優遇し過ぎている、と言う批判が浴びせられたのです。日本の本社はこの現地法人以外にも複数の現地法人を中国に抱えています。部品と製品、生産と販売などそれぞれ役割は異なりますし、経営規模や利益水準、現地社員の待遇も違います。しかし、本社からみれば業績を比較し、派遣した総経理などの幹部社員を評価するわけですから、ある意味でライバル企業同士とも言えるのです。ですから、私の推測ですが、他の中国現地法人の日本人から足を引っ張られたという可能性もありそうです。その日本人総経理は、本社の方針よりも現地人幹部の意見を重視し過ぎている、他の現地法人と比較してその会社の現地人幹部の待遇が良すぎる、などと非難されるようになり、業績が好調なのにも拘らず、予定任期を1年残しての帰任と言うことになりました。総経理帰任とその理由を知った現地人幹部は動揺しました。自分たちが最も能力が発揮できる環境が脅かされると察したからでしょう。日本企業の中国現地法人は、ローカル化などと口にしながら、重要判断は日本の本社が行うケースがほとんどです。しかし中国の会社法では総経理に日常的な会社経営に関する絶対的な権限があります。資材の調達先を新たに開拓するとか、仕入れ価格を決定するような話にまで、本社の決裁が必要なような状況では、"飾り物の総経理"でしかなく、現地幹部社員の信任すら得られないでしょう。中国のホワイトカラーの働き場としての日系企業の人気が低いのは、こうしたことも影響しています。現地への権限委譲が進まなければ、配下の社員も働きにくいのです。その日本人総経理は、そうした事情をわきまえて、"飾り物の総経理"に留まることなく、できる限り現地判断で経営を遂行したようです。幹部社員の意見や提案を尊重し、もちろん自分なりの検証を行った後に、日本の本社にいちいちお伺いを立てることなく、バシバシ進めて行ったので、現地の幹部も働き甲斐があったでしょうし、社員から尊敬と信任を得られたのでしょう。その結果として業績も拡大したのです。彼(女)らは、そうした"老板"(親分)のもと自己実現に適した場の提供を受けて、楽しくも一生懸命働いてきたわけです。もちろん一方では、一般的な日系企業の堅苦しさも知っていたでしょうから、彼(女)らの多くは日本人総経理の帰任後の"反動"を心配して、その現地法人から去ることになりました。傍観していた中国側副総経理も、いよいよ会社の行く末を心配して、中国側パートナーの上層部より日本人総経理の帰任を棚上げするように日本側にリクエストしたらしいのですが、日本の本社は聞く耳すら持たなかったそうです。旧正月で帰国した際、その元総経理にお会いしました。「(中国のスタッフは)皆、会社のブランド力や知名度に惹かれて働いているのだと思っていた。自分についてきてくれたのも、自分があの会社の看板を背負っていたからだと...。ボクが中国を去ったとき、彼(女)らの多くが現地法人を離れてしまったのは、意外でした。」私には良くある顛末に思えました。日本企業に限らず、総経理の入れ替わりとともに、中核社員も入れ替わってしまうことなんて、中国ではよくある話です。中国のホワイトカラーの多くは、自己実現し易い環境で働きたいと思っているようです。自分の能力が如何なく発揮でき、尚且つ更に伸ばせるような環境を求めています。そうした環境を提供してくれるのが、会社なのか上司なのかはあまり重要なことではないのです。特に上昇志向の若い人たちは、会社の知名度よりも職場の環境を重視します(もちろん待遇も重要です)。働き易い環境を提供してくれるのが、会社ではなくて上司だと知れば、彼らのロイヤルティーは自ずと上司のほうにシフトしてしまうでしょう。特に日系企業は、中国の若者に自己実現しにくい働き場所だと思われがちです。日本に帰任した元総経理は、会社の看板ではなく、尊敬と信任できる親分のもとで働きたいと願い、転職したそうです。以前より更に輝いてみえました。
2006.03.30
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懇意にしていた日本の大手メーカーの中国現地法人の日本人総経理(社長)が突然帰任することになりました。その現地法人は日本側の出資比率が過半数を占め、名実とも日本メーカーの子会社なのですが、外資規制などいくつかの理由があり、中国の国有企業との合弁会社になっています。年に1回開催される"董事会"(日本で言うと"取締役会"と"株主総会"を兼ねたようなもの)で、中国側"董事"(日本で言うと"取締役"のようなもの)から、"総経理解任動議"が提出されたようです。出資比率同様、董事会においても日本側がマジョリティーを占めていますから、その場で否決されてしまうのが本来の姿であるはずなのに、日本側董事(つまりは日本の親会社のトップたち)が本国に持ち帰ってから検討するということになり、結果として日本側も総経理の解任に同意してしまいました。つまり、この日本人総経理は出身元の日本の本社からはしごを外された格好になってしまったのです。この総経理が、業績を上げられなかったのか、或いは業務怠慢だったのか、というと、私のみたところ、決してそうではありません。プレイング・マネージャーとして土日を惜しまず仕事をこなし、業績を向上させていました。まぁ、私にしてみれば、そのことが"アダ"になってしまったのではないかと分析していますが.....その会社は、日本の国際的ブランドの製品を中国でも製造販売するため設立されました。製造管理もマーケティングやセールスも日本側に任せる、という合弁条件を中国側が受諾し、総経理(社長)も日本側が本社から送り込むことになりました。中国側の合弁相手は、地方政府機関がお膳立てした"お見合い"で半ば強引に結び付けられた国有企業。広い意味で同業種ではありますが、業績もパッとせず、製造ノウハウはもちろん、中国市場におけるマーケティングやセールスのインフラもあまりあてにはできないような企業にみえました。そうした状況を目の当たりにしたその日本人総経理は、既に海外において市場開拓経験のある方でしたので、中国側合弁相手に頼らないマーケティングやセールスの体制を築いていきました。中国側合弁相手から派遣されている副総経理(副社長)には、ほとんど何も相談せず、独断で進めてきたことは、当然のことながら"ワンマン経営"に見えたでしょう。けれども市場参入から3年、売上も市場シェアも順調に伸ばすことができたのです。その会社が製造販売する製品の市場でのプレゼンスが大きくなり、事業規模が拡大すれば、"利権"が生まれてきます。例えば、資材や原材料の調達にしても、立ち上げの頃は良い取引条件を引き出すために数多くのアウトソーシング先を訪ねてギリギリの交渉でコストダウンをしなければならなかったのですが、事業が順調に拡大していけば新規取引を狙った様々な会社から頻繁に"売り込み"が来るようになります。あちこちを飛び回って不在がちの日本人総経理ではなく、閑職の中国側副総経理のほうに"売り込み"が集中することは容易に想像できます。発注者としての権限を持つこと、イコール"権益"を握ることですから、そうした"権益"を中国側合弁相手が奪還しようと考えるのも良くある話です。中国側合弁相手は、董事会で日本人総経理解任の理由について、ワンマン経営を第一に挙げたそうです。合弁会社であるのに中国側から派遣されている幹部には何も相談せず、すべて独断で行っている。権限が集中して、取引先との関係が不透明だ。そして、中国のことは中国に居る者が関わるべきだ。最後の「中国のことは中国に居る者が関わるべきだ」については、私がこのブログの中でも常々主張していることではありますが、立ち上げで苦労しているときに傍観していた中国側の方たちに主張されては、違和感を覚えてしまいます。さて多くの日系合弁会社と同様、この会社の日本側董事は総経理を除き、日本本社の社長や海外事業担当役員など重役が名を連ねています。中国側董事も出資元企業のトップや重役が就任するのが一般的で、そうしたう方の中には政府機関や共産党の幹部役職を兼務しているケースが多いのです。日本側董事すなわち本社の重役たちは、中国側董事のこうした"肩書き"に過剰な期待を持つことが多いわけです。また、表向きであっても合弁事業が円滑に進められているときの董事会は、年に一回の"日中友好宴会"みたいな感じになりがちです。董事会そのものは、一般的な日本の株主総会の如く「異議無し」の連発で恙無く終了し、その後食事会みたいなものが用意されていて、お互いが相手先を喜ばせるような趣向を凝らしたりします。日本側董事は年1回の董事会の折に、中国側合弁相手のVIPに"骨抜き"にされることになります。「もっと中国側のリソースを活用できるはずだ」「現地の総経理が報告を上げてくることと違う印象を持った」などなど....多くの中国人は接待上手ですから、たまにしか会わない日本側トップに、中国側を胡散臭いなんて思わせる隙すら与えないはずです。現地を任されている部下の日常の苦労話などどこ吹く風のように消え去り、中国側合弁相手への信頼感のほうが増してしまうことすらあるわけです。そんな董事会でいきなり提出された"解任動議"。さすがに日本側トップは、その場で受諾することは避けましたが、結果的には受け入れてしまったのです。その総経理がワンマンだったのは事実だと思いますが、理由は明確ですし、最初の2年間は中国側も面倒な責任と仕事を押し付けられず喜んでいたフシすらあるのです。日本の本社は、現地で苦労してきたその総経理=自社社員の"言い分"などよりも、あまり役には立たないはずの"大切な"中国側パートナーの意見のほうを選択してしまったわけです。後任の総経理も日本から送り込まれてくるのですが、権限は大幅に削がれるようになるでしょう。「現地化」とよく言われます。マネージメントを現地人にするのも現地化の一つだと思いますが、根本理念は(日本人であろうが現地人であろうが)「現地を預かっている責任者を信頼する」と言うことではないかと思います。もちろん内部統制上、本社の関与は必要ではありますが、可能な限り「現地判断を尊重する」ことこそが「現地化」のファースト・ステップだと思います。重要案件が最終的に日本本社の判断となることは致し方ないにせよ、年1回程度の中国側パートナーの"心地よい応対"に惑わされて、モノゴトの全体像を把握できないような日本の重役の方が決めてしまうのは、どうかと思ってしまいます。多くの中国人は、プロコトルの使い方に秀でています。七夕みたいなお付き合いしかなくとも、”非公式の場"では日本側トップ(決定権者)の好評価を獲得します。そして董事会での解任動議のように"公式の場"の権威性を巧みに利用します。普段日本にいらっしゃるトップや重役の方の多くが、そのワナにハマってしまい、"ビジネス"よりも"友好"のほうに傾いてしまいます。なんだか、日本の外交にも似ているような気がしますが.....
2006.02.06
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足掛け9年も北京で仕事をしていると、中国でお仕事していると言う緊張感にふとした緩みが生じることがあるようです。ちょっとしたヘマをしてしまいました。スタッフへの指示がきちんと伝わっていなかった、と言うごく初歩的なミスです。でも、原因はハッキリしています。私が文字で指示しなかったから、つまり口頭指示で済ませてしまったからです。お気づきの方が多いかもしれませんが、中国ではやたら「サイン」をする機会が多いと思います。契約書や見積書は当然としても、例えば発注数量やスペックや納期の変更なども口頭では無くて、書面にするからサインして送り返してくれ、などといわれたりします。会社内部でもそうです。日本の会社でも、稟議書や出金伝票などにハンコは必要(いまでは社内LANによる電子決裁が主流です)ですが、ウチの場合は購買部門が営業部門のために用意する社内原価見積にも、それぞれの部門のマネージャーのサインが必要だったりします。北京に来たばかりの頃、書面化やサインにある種の面倒臭さを感じていましたが、徐々にその必要性を痛感するようになりました。この国のビジネスは書面化しなければ、正式には動かないのです。例えば昔こんな出来事がありました。クライアントのプロモーション用にギブアウエイ(ま、粗品です)を発注することになり、サプライヤーと契約書を締結しました。数量5万個、納期○月○日という風に。契約が済んだ後、クライアントのリクエストで数量を2万個追加することにしました。サプライヤーの担当者は追加発注をたいへん喜んで、納期も問題無い、単価も○○RMBくらい安くなるだろう、と話してくれました。「それでは7万個でお願いします」「分かりました」と言う商談を終えたわけです。ところがいざ納品日になってみると、5万個しか作っていない、と言うことが発覚。サプライヤーの担当者は「そんな話知らない」の1点張りです。すったもんだした挙句、サプライヤーのボスが出てきたのですが、「ウチは契約書どおり仕事をしています。追加発注の指示書の控え、お持ちですか?」と言うことになってしまいました。カチンと来ましたが、おっしゃる通り。サプライヤーの担当者クンが「そんな話知らない」とのたまう以上、追加発注を証明することはできません。もうそんな会社と取引しなきゃいいだろう、と思われるかもしれませんが、"後の祭り"です。別なサプライヤーに2万個だけ発注すると、ウチは大赤字になってしまいますし、納期も大幅に遅れてしまいますから、冷静さを取り戻して、そのサプライヤーと追加発注の契約を結びました。こんな失敗をいくつか繰り返して、とにかく書面にする、と言うことを学びました。これは自分のための"防御"でありますが、何か問題が生じたときに相手に対する"攻撃"の材料にもなります。そして何よりも「言った、言わない」という不毛な論争を回避して、円滑にビジネスを進めていく上での"潤滑油"ともなり得るのです。取引先や会社内部においてはもちろんですが、私個人としては、スタッフへのどんな些細な指示も必ず"文字化"して記録に残るようにしています。これで「聞いていない」「言っていない」「知らない」と逃げられることも、私が「今週中に」と指示したはずなのに「来週の月曜日までと言ったはずだ」と言うような言い逃れから、だいぶ解放されるようになりました。具体的には、社内Emailが最も手っ取り早い方法です。「いつまでに何をどうするように」と言う簡単な指示でも必ず"文字化"するのです。くどいようですが、メールを送った後には確認の電話を入れます。「メールを受け取っていない」とか「メールの調子が悪くて」と言うような"言い訳"を与えないように、「もし受信できなかったら、連絡してください」と付け加えます。もちろん、ミッションが完了するまで送信済みのメールは保存しておきます。メール中心ではスタッフとのダイレクトなコミュニケーションが疎かになるので、面と向かって打ち合わせをしたり指示を出すように心がけていますが、その後も必ずメールでフォローするようにしています。社内向け企画書や資料も、ミーティングなどで変更が生じたら、きちんと修正したものをシェアするようにしています。メディアの情報などはしょっちゅう変わりますし、スケジュール表などもミーティングのたびに変更していくものです。古いスケジュール表をタテに、「社内プレゼンは来週の月曜日って書いてあるじゃん」などと言われないように、最新のスケジュール表を書面化してスタッフ間でシェアするようにしています。中国でビジネスをされている諸先輩の皆さんには"釈迦に説法"みないなお話になってしまいましたが、社内やスタッフとの間で"書面化"・"文字化"が徹底されていくと、こちらが文字化しなかった指示に対してスタッフが対応しなかった場合、身動きが取れなくなってしまいます。ちょっとした変更だから口頭で済ませりすると、"命取り"になってしまいます。こちらの指示が間違っていたのか、しっかり伝わっていなかったのか、或いはスタッフが指示通り作業をやらなかったのか、客観的に判断できる"証拠"もないわけです。上司づら吹かせて「私はこう指示したはずだ」と怒ったところで解決す売るわけでも無いわけでう、今回のヘマはスタッフへの指示をしっかり書面に残さなかった自分を責めるしか無いと考えるしかありません。
2005.12.05
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8年間中国で仕事をしていますが、ビジネス上長いお付き合いができているのは、第一印象が良くなかった中国の方が多いように思っています。最初の取引で、こちらの希望する納期を保証できない、とかこの料金では受注できないとか、すったもんだして、「感じの悪いヤツ」なんて思った方も、いまでは最も信頼のおけるサプライヤーさんになり、こちらの無理難題も真摯に対応していただいています。最初のプレゼンテーションで、ウチの提案内容をケチョンケチョンに文句をつけた中国企業のマーケティング・ディレクターの方が、いまではウチの大クライアントの広告責任者としてウチのシンパでいてくれたりしています。むしろ日本語がお上手で愛想がよく、ちょっと馴れ馴れしいタイプのほうが、心配です。中国語が不自由な着任したての頃、通訳を介さずに日本語で商談ができるのは魅力的でした。日本語ができるわけですから、日本人や日本企業相手のお仕事を長くされている場合が多く、こちらのツボも抑えています。しかし「だいじょうぶ」とか「何とかします」と言う甘い言葉を真に受けてしまい、トラブルに巻き込まれたことが何度と無くあります。日本語ができなくとも、最初の商談などで、やけに愛想のよい中国の方も心配です。そういうタイプはお役所系や国有企業に多いのです。いきなり宴席を用意して、私たち日本側を煽て上げ、お土産まで用意して、「私たちに任せてくれれば、心配は要りません」などとおっしゃるのですが、その後順調にビジネスが進むことはごく稀だったりします。日本語で商談ができたり、偉い方同席の宴席を用意してくれたりすると、日本人にとっては何となく"心地よい"のですが、ジョイントベンチャーの中国側パートナー選びで失敗したりするのは、案外こういうケースなのではないかなどと想像したりします。特に北京など中国北部では、"愛想笑い"など元々苦手な人種が多いようです。自分の会社や仕事に自信を持っている方は、ある意味"高飛車"な感じです。日本人からすると、気分を害してしまうこともあります。でも案外、そういう"心地よくない"方が、信頼のおけるビジネス・パートナーに成り得たりもします。もちろん、すべてがそうだというわけではありませんが、最初の印象だけで判断するのは考え物かも知れません。
2005.12.01
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中国では多くの企業が社員を1年間の労働契約で雇用しています。特に問題の無い社員については、契約満期時に契約を更新していきます。ですから1年契約とは言え、3年、5年と勤続している社員もいます。とは言え、古くからある国有企業を除き、一般企業に勤める人たちに、「終身雇用」なんて想いはありません。年に1回の労働契約更新は、企業にとって、社員の評価を明確にする機会と言えます。つまり、社員の能力や業績によって昇進・昇格をさせて、つまりお給料も増やしたりします。能力や業績がプアならば、契約更新しなければ良いわけです(実際はそんなに簡単な話ではすまないのですが)。いっぽう、社員にとって、自分が勤めている企業の"見極め"をする機会とも言えます。自信のある社員は、企業の評価に不満があれば、自ら契約更新を拒み、つまり辞めてしまいます。一般的な日本の企業でも昇進や昇格は年に1回です。ですから、中国でも年に一回の労働契約更新のとき昇進や昇格を実施すれば良い、と考えがちですが、決してそうとも言えません。中国の欧米や地元企業の多くは、不定期の昇進や昇格をどんどん行っていますし、半年に一度或いは四半期に一度の昇進・昇格をシステム化している企業もあります。極端な話、毎月業績考課を実施し更改している企業だってあります。ウチの業界のように、20代~30代前半の若い社員が多い場合、年に1回のプロモーションなんて、社員にとってはもどかしくてしょうがないでしょう。"手柄"を立てればスグにでも給料をUPしてもらいたいでしょうし、肩書きも欲しいでしょう。次の労働契約更新の時まで、いまの給料と肩書きのままで働くくらいだったら、よその会社に移ったほうが良い、などと考えてしまうでしょう。というわけで、ウチの会社も3ヶ月に1回昇進・昇格を行っています。ちなみに業績考課は毎月実施していて、営業職でなくとも業績給に反映されます。また特別な業績や功績があれば、随時昇進や昇格を行うこともあります。日本企業に勤める私たちにとって、1年間の月給は固定であるほうが当たり前です。年の途中で給与が上がることなど、あまり期待していません。最近はどの企業もボーナスなどでメリハリをつけていますが、中国の場合1年のうちで給料が2倍や3倍になったりすることも当たり前です。しかも転職ではなく、同じ会社に居たままでもそうした機会を狙っているのです。ですから年に1回の昇進・昇格などという日系企業は、人気がなくなります。ウチの会社では、昇進・昇格の際に、その理由となった業績考課を本人以外のスタッフにも公開しています。しかも、マネージメントがその社員の業績などを発表するのではなく、本人がみんなの前でプレゼンテーションするのです。例えば、マネージャークラス以上であればマネージャー・ミーティングで、平社員であればそのセクションのミーティングで、昇進・昇格を発表するとともに、本人が自分自身で考える昇進・昇格に至った理由を発表するのです。新しいクライアントの獲得にこういう点で貢献した、とか、コストの削減にどう寄与したとか、具体的にみんなの前で発表します。そのあとで、マネージメントが補足説明をします。これはできるだけ透明性を高め、公平な人事考課を目指すと言う姿勢をスタッフに示すためのパフォーマンスでもあります。こうした発表を聞いて、素直なスタッフならば、自分もこういう業績を上げればワンランク・アップする、給料が上がる、だから頑張ろうと思うでしょうし、そうでないスタッフならば、自分のほうがもっと業績上げているのに、と辞めていくかもしれません。完璧な人事考課システムなんてありませんから、自分の評価に不満を抱くスタッフは必ず存在します。私自身、日本の本社に対して、そのような時が多々ありますから....ただ昇進・昇格の理由を公開しなかったり、評価をした側のマネージメントから一方的に公表されるより、評価を受けた本人が自ら発表したほうが、オープンな感じにはなるでしょう。このアイディアも3ヶ月に1回の昇進・昇格も、ローカル・マネージメントの発案です。実施面でまだ問題は残っていますが、年1回の昇進・昇格や業績考課の非公開よりはマシではないか、と思っています。
2005.11.29
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日本では上場していて"その筋"では著名なウチの関連会社が、北京に100%日本資本の法人(事業準備会社)を立ち上げるということで、いろいろ相談を受けています。最初は日本で"中国進出"専門のコンサルタント会社から情報を得ていたようですが、そのコンサルタント会社は製造業の立ち上げ経験はあるようなのですが、北京でサービス業を立ち上げた経験が無いらしく、そのコンサルタント会社が提供する情報と北京の現状に大きな乖離があったそうです。中国は地方政府によって、会社設立や雇用や税務やその他のプロセスが違いますから、その地域で実際に業務を行っているところと相談するのが手っ取り早いのは確かです。その会社は、北京現地法人の総経理(社長)を日本本社の日本人役員、副総経理(副社長)を日本本社の中国人社員とし、日本人総経理は非常勤のため、実質的には中国人の副総経理(仮にAさんとしておきましょう)に現地での会社設立の準備を任せようとしていました。ところが、北京に先乗りして準備を進めているAさんからの報告に対し、本社側がどうも納得していないようで、本社の海外事業責任者から私宛てに頻繁に相談が持ち込まれるようになりました。Aさんの進め方に対する、いわゆる"ウラドリ"に私が利用されているって感じです。例えば雇用形態。本社としては、社員数が少ないうちはFESCO(外資系企業向けのサービス会社)などからの派遣が望ましいと考えていたようです。求人、労務管理をFESCOで引き受けてくれますから、求人コストが節約できますし労務管理のための社員を雇わなくとも済みますし、有能な日本語人材が確保できるのでは、と言う期待もあったようです。ところがAさんは縁故筋から直接雇用しようとしています。Aさんとしては、FESCO経由だと手数料などで高くつくので得策ではない、という意見のようです。そして、Aさんが候補に挙げている現地スタッフのうち、財務(会計担当)と人事(労務担当)が日本語を話せない、ということも、日本の本社が納得していません。社員の個人所得税や法定福利費を算定する労務担当者はともかく、月次決算をまとめ税務対応も行う会計担当者は、実務経験者で無いと務まりませんから、北京で日本語人材を確保するのはかなり困難ではあります。特に中国の場合、財務(会計担当)は多大な権限を持つことになりかねないので、日本語能力よりもまず実務経験と人格を重視して雇用する必要性を私自身感じています。ところが、本社側は財務や人事と直接日本語でコンタクトを取れるような体制を望んでいるようなのです。極めつけは"社用車"について。Aさんはまず社用車が必要だと主張している、本社としては現地法人を立ち上げたばかりで収益も期待できないので、当面は社用車など考えてもみなかった、と言う話です。会社の大きい小さいに拘わらず、北京の企業のトップクラスは、だいたい社用車で移動します。儲かってなさそうな会社のトップでもベンツやBMWで取引先に出向いたりします。一方、東京では大企業の社長でも電車で通勤したりしています。これは公共交通機関の利便性の違いもさることながら、文化の違いが大きいと思っています。社用車を維持しようとすればリースでも月10万円はかかります。毎日死ぬほどタクシーを乗り回したとしてもその半分もかからないでしょう。でも現地の実質的な責任者になる予定のAさんにとって、社用車は欠くことのできない"営業ツール"であるはずなのは、北京で8年も仕事をしている私にとっては理解できる話です。こんな感じの相談を持ちかけられたところで、私としては答えようもありません。この会社をどう運営していくのかこそ重要なのです。日本企業の現地法人なのだから、徹底的に日本式でやってみるのも良いでしょう。ただしこの場合は現地の責任者も日本人にすべきでしょう。中国人のAさんの意見を尊重するのも良いでしょう、彼を現地で日常の会社運営を切り盛りしていく立場に据えたのであれば。現地運営をAさんに任せたい、けど徹底的に日本式でやりたい、という今の本社の方針にはちょっと無理があるような気がします。日本式と現地式のバランスについて、私に相談するよりAさんを含めて社内で徹底的に議論し関係者が納得した上で進めていかないと、これから先が思いやられます。特にこの会社の場合、取引先や折衝相手が中国企業・中国人となる比率が高そうなので、完全な日本式ではうまく行かない感じはしています。
2005.10.16
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OECD(経済強力開発機構)のレポートによると、中国ではびこる贈収賄はGDP(国民総生産の)の3-5%規模らしい(NIKKEI NET)。去年の名目GDPが13兆6,500億RMBですから、約7,000億RMB(日本円だと9兆円)がワイロという計算です。ただ、この数字が公務員を対象とした純粋なワイロなのか、民間を含めたキックバックやリベートも含むのかは定かではありません。中国の大企業には国家が台株主の国有企業が多いわけですから、企業活動向けに差し出された工作資金とお役人のワイロとの境は曖昧です。中国はキックバック天国で、民間企業同士の取引きにも付き物です。いわゆるグローバル・スタンダードの企業統治の倫理からすると当然「イケナイコト」なのですが、この商習慣を根絶やしにするには、まだ相当な時間が必要です。言うなれば"文化"なのですから。つまり、一つの"お礼"の仕方なのです。日本のお中元やお歳暮の"付け届け"と本質的には同じなんだと思います。この季節(中秋節、十五夜ですね)ですと、月餅をプレゼントするという習慣があるのですが、ホントの"菓子折り"だけではうまくコトが進まないなのが、いまの中国です。"お礼"も歩合制でないと不公平なので、発注金額に応じたキックバックこそが、ホントの"お礼のしるし"と言う感じです。そもそも、平等・公平と言うコンセプトが失われた共産国家ですから、現代中国には"稼ぎに応じて報酬を得る"という考え方が浸透しています。成果主義は当たり前です。営業マンから飲み屋の女の子に至るまで、稼ぎに応じた"歩合制"です。発注する側が、歩合でお礼を受けるのも論理的にはおかしくないのでしょう。お役人、公務員、国有企業の社員がキックバックを受けるのは犯罪で、民間企業や外資系企業の社員がキックバックを受けるのは良い、なんてコトにはならないのですが、現実的には"取引きのあるところにキックバックが存在する"と考えたほうが良いでしょう。中国で働く日本人管理者の対応は、フツー次のうちのどれかでしょう。知らないふりをする--故意に見過ごす場合と、ウチの社員に限ってそんな悪さはしないと信じ切る場合と、まったく無頓着な場合があります徹底的に糾弾する--キックバックの禁止、発覚したら処分といったやり方最大限把握して認める--社員が受ける側なら比較的容易なのですが、会社としてキックバックを渡す側であると事情は複雑になります日系企業が独自の販売網を作った場合、買い手に対するキックバック(良く言えばリベート)を中国流にアレンジしたり、会計上処理したりすることが困難なため販売成績が上がらない場合が多い、と言われます。日系企業にとって、キックバックを渡す側になることは、いまのコーポレイト・ガバナンスに照らし合わすなら限りなく不可能なことです。相手先が国有企業の方なら贈賄という犯罪になりかねませんし、何せキックバックを受け取って正式な領収書を出してくれる人はまず居ませんから...ただ私の知る限り、日本の大手総合商社や電機メーカーあたりですら、かつては平気でキックバックを渡す側を演じていました。コンプライアンスとか企業統治とか声高に言われている現在はどうしているのでしょうか.....ウチの会社の商いである広告業界も、中国では例に漏れずキックバックがいわば日常化しています。私としては、ここ数年どちらかと言うと上述3.の方向で対応してきました。仲介業みたいなものですから、受ける側にも渡す側にもなってしまいます。もちろん日系の取引先に対しては、どちらも一切認めないようにしていますが、日本人マネージャーにゴルフや日本食でご接待することを考えると、形は変えても似たようなものだなぁ、などと思ってしまいます。まだ小さなお仕事しかいただいていないクライアントの方にまで、大きな取引先との接待と同じくらいお金がかかることも多いので、"歩合制"のキックバックのほうが合理的かもしれない、なんて思うことすらあります。さて、こちらでは"ホエコウ"(回=リベート)などとキレイに呼ばれたりするキックバックですが、私の8年近い中国経験からして、取引額の3-5%というのが相場なのだなぁ、と感じていました。そう考えると、このOECDのレポート、中国当局の協力が得られただけあって、かなり現実を捉えた内容になっているのかもしれません。
2005.09.12
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初めて日本に出張した中国人社員に日本の印象を聞くと、9割方まず"干浄(ガンジン:gan3jing4)"と答えます。これは日本語だと"清潔"という意味になるのですが、話を聞くと、単にゴミが落ちていないような清潔さだけでなく、"整然としている"と言う印象が強いようです。クルマが来ないのに信号を待ち続ける日本人。無言のまま駅のエスカレータに並び乗る日本人。こんな不思議な風景も含めて、干浄と言っているようです。日本は世界のどの国よりも清潔で整然としているのではないでしょうか。つまり、秩序が高度なレベルで保たれているのです。日本人にとってはごく日常的な当たり前の風景です。でも世界的にみれば異常とも言えるでしょう。東南アジアに遊びに行く日本人は、猥雑とした雰囲気を心地よく受け入れることもできるでしょう。活気やパワーを感じたりもします。ホテルやレストランが少しくらい汚くても、完璧なサービスが得られなくとも、ご愛嬌と言うことになるでしょう。多くの日本人が尊敬しているアメリカですら、都市部で故障していない公衆電話を探すのに苦労しますし、至るところに落書きがあり、裏道に入ればゴミが散乱していたりします。一流ホテルに泊まってもバスタブのお湯が抜け無いこともありましたし、国内線の飛行機なんて911の前からディレイ続きだったでしょう。出張や観光で短期滞在してそんな風景に接しても、これがアメリカだ、などとあっさり受け入れる日本人が多いのではないでしょうか。騒然とした中国から来た人たちには、波紋一つ無く鏡のような透き通った湖水を見るようなものかも知れません。キレイで気持ち良いけど活気が無い。何かに縛られているような緊張感が漂う....そんな日本で自国の如く振舞うものなら、湖水に波紋を投げかけるようなもので、三国人云々と排除されかねません。中国の人々にとって日本の"干浄"さは、心地よい場合もありますが、窮屈な場合もあるのです。日本は"完璧"を求めてきました。そのことが日本を強くしてきたのだと思います。高品質の製品、精密な技術、キレイな街並み、そして割り込みの無い行列を創り出してきました。これは日本人の先天的な性質とともに後天的な努力の賜物でもあると思います。日本の完璧さは清流のようなものでしょう。でも水が清過ぎれば魚は住めません。水草や微生物やプランクトンが存在しなければ、生物連鎖は成り立ちません。完璧さを増し、清くなり過ぎた日本から、魚が逃げていく....資本であったり、技術であったり、人材であったり。これは困ったことではないでしょうか?日本を初めて訪れた中国人社員の違和感もそんなところから来ているのかもしれません。"清濁併せ呑む"。日本に欠け始めているのは、こうした精神かもしれないと、中国で仕事をしていると思います。例えば、コーポレイト・ガヴァナンス面で中国は劣っていると言います。確かにその通りです。日本企業はこの点でも完璧であろうとしています。上場企業は、その社員や顧客よりもまず株主に対して完璧でなければ叩かれます。完璧であるためには、不安材料をすべて潰しておかなければなりません。海外子会社に対しても同様の基準でガヴァナンスしなければならないのです。まだ水が清くない中国では危なっかしくてやってられなくなります。日本がコーポレイト・ガヴァナンス面でお手本としてきた欧米(特にアメリカ)企業は、こうした中国ビジネスのリスクを様々な方法で回避しています。法律上ギリギリのグレーゾーンで中国ビジネスに臨んでいるケースが多いようです。例えば、事業が安定化するまでは、直接投資で連結子会社化せず、名義借りや間接投資で支配力を確保するなど。日本の上場企業なら顧問弁護士や監査役が許さないことを、アメリカの大企業は平気でやったりしているのです。日本の完璧性も時と場合で考え直す必要があるのかなぁ、と想うこのごろです。
2005.08.31
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日中間でビジネスをしていると、「中国ではこうです」とか「日本ではこうします」といった主張をお互いが行い、なかなか収拾がつかなくなることがあります。中国人から「中国ではこうするのがフツーです」とか「中国でそうするのはヘンです」などと言われてしまうと、私たち日本人は"カチン"と来ることがあります。「中国だから、中国だから、とばかり言っていないで、日本側の言うとおりやってくれよ」と言う感じになることが多いでしょう。いっぽう私たち日本人も、中国側に対してたびたび「日本ではこうするのがフツーですから、この方法でやってください」とか「日本ではそんな風にしません」などと言ってしまう事が多いのではないでしょうか。こうした言葉を耳にした中国人は「ここは中国なんだから、"日本では"とか言われても困る。」と怒り出したりします。でも冷静になって考えてみてください。日本人の皆さん、ここは日本ではありません。中国人の皆さん、あなたの取引先(顧客)は、日本人(日本企業)なのです。そのことを受け止められない日本人は、日本でお仕事していれば良いのですし、納得できない中国の方は、日本人(日本企業)と取引きしなければ良いのです。お互いに必要なビジネスであれば、お互いを理解し合いながら進めていかなければ.....日本側は「日本ではこうしているから、兎に角こうしてくれ」と言う風に頭ごなしに言わずに、その背景、理由、メリットなどをしっかりと説明するのが良いと思います。"日本流"のメリットや理由がハッキリしていて合理的である場合は、中国側は積極的に聞き入れるはずです。彼らの反論もしっかり聞きましょう。マーケットやインフラなどバックグランドの違いが、意見対立の要因になっている場合には"日本流"を押し通すのは危険なはずです。良く話し合って、最善策を見つけるべきでしょう。逆に「中国ではこうするのがフツーだから、日本側のリクエストは受け入れられない」様な場合も、しっかり理由を聞き出すべきです。中国でも"日本流"に対応できる糸口が発見できるかもしれません。もちろん、中国固有のバックグランドのため"日本流"で対応することが難しいケースと判断した場合には、妥協も必要でしょう。或いは"中国流"のほうが合理的だったりメリットが大きい場合は、なにも「日本では...」に固執する必要はないので、"中国流"を取り入れることもできるでしょう。「日本ではこうしている!!」と頭ごなしに要求しても、よほど納得する理由が無い限り、中国側は日本側の言うように動いてくれないはずです。どうして「日本ではこう」なのか、"日本流"が正しい或いは合理的な方法だと確信を持っているのであれば、丁寧に説得力のある説明をしたほうが良いでしょう。そうすれば「中国ではできない」合理的な理由も聞き出すことができるはずですし、日中間でより良い解決策を見出せると思うのです。
2005.07.26
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中国の日系企業では、日本人幹部が"決定した"計画を中国の現地スタッフが実行していくケースが多いようです。会社内部の打ち合わせには、中国の現地スタッフも参加する場合も多いでしょう。でも、現地スタッフの参加態度は様々です。積極的に意見を述べるスタッフもいるでしょうし、日本人幹部同士で決定していくプロセスをじっと聞いているだけのスタッフもいるでしょう。或いは議題について結論がもたらされてから、その決定事項について反対意見を述べる輩もいたりします。現地スタッフの社内会議への参加態度は、自分たちの意見がどれくらい尊重されるかで決まるでしょう。打ち合わせのプロセスで有効な発言をしたとしても、そうした意見が活かされず、最終的には日本人幹部の意見が通るような環境でしたら、現地スタッフは発言しても無駄だと思うようになり、日本人幹部同士のやりとりをじっと聞いているだけになってしまうでしょう。結論が出てから、現地スタッフからネガティブな意見が相次いだりするのは、その会議で決定した計画を現地スタッフが中心となって実行していかなければならないような場合です。自分たちが実行していかなければならないという当事者意識に立ち戻ったとき、より具体的な課題が浮かびあがってくることが多いのです。理想的なのは、計画のプロセスに現地スタッフの実施責任者を確実にインボルブして(参加させて)、議論を尽くし、実施責任者が納得できる計画を決定する、ということだと思います。でも、こうした理想は"絵に描いた餅"で、現地スタッフを計画のプロセスに参加させてしまうと、収拾がつかなくなる云々の理由から、日本人幹部中心で計画を決定しまう場合が多いようです。実施にあたる現地スタッフは、その計画の実現性をコミットメント(約束)しているわけでは無いので、何となく無責任になってしまう場合が多いですし、その計画がどんな意味を持ち、どんな効果をもたらす、といった背景を知らされていない場合も多々ありますから、計画の実施はなかなかうまく進まなかったりします。さらに悲惨なのは、日本企業同士が中国で取引関係にある場合です。取引きの骨子については、日本人幹部同士が"勝手に"議論して決めてしまう場合が圧倒的に多くなります。例えばウチは広告関係の会社なのですが、日系企業のクライアントさんの多くは日本人幹部の方がウチの会社の日本人スタッフとの打ち合わせを希望されます。もちろん双方から現地スタッフが参加する場合も多いのですが、最終的にはクライアントさんの日本人幹部の方が判断して決定しまう場合が多くあります。広告戦略だとかメディアの選定だとか、ウチの会社は現地スタッフが現地とクライアントの事情に合わせて計画したモノではありますが、最終的にはクライアントさんのご意向に逆らえませんから、当初のご提案から幾ばくかの変更を余儀なくされ、"最終決定"と言うことになります。そして、「あとはウチのローカル・スタッフの○○さんをアサインしますから、そちらのスタッフの方とやり取りしていただいて構いませんよ。」などという話になったりするのです。それで、いざクライアントさんの現地スタッフが登場すると、その会社の日本人幹部の方が最終決定された計画について、その日本人幹部の方が最終決定した意図が伝えられておらず、ウチの会社の提案そのものだと思ったりするものですから、いろいろ"不満"が爆発します。そしてその"不満"はウチの現地スタッフに向けられるのです。「なぜこんな広告表現の提案をしたのか」とか「なぜこんなメディアを選んだのか」とか...でも、ウチの会社もウチの現地スタッフも、もともとそんな提案はしていないのです。むしろ、クライアントさんの現地スタッフがおっしゃる方向を日本人幹部の方にも強くお勧めしたりしていたのですが、その日本人幹部の方が別な方向で決定してしまったのです...。「ウチの会社としても、あなたと同意見でした。でも、あなたの日本人の上司が別な方向で指示されたのですから、仕方がありません。」なんて、言うわけにもいきませんし、クライアントさんとウチの会社の現地スタッフ同士は、こうしてギクシャクした関係に陥ったりしてしまうのです。そして、クライアントさんの現地スタッフは、自分が納得しない計画を実施管理することになり、モチベーションも大幅低下、と言うわけです。優秀な中国人ほど、自分で納得しないと有効に機能しないと思います。日本人幹部が決めてしまったことでも、しっかり説明して納得してもらうことにより、きちんと対応してくれる現地スタッフもいます。しかし、計画のプロセスにその計画を実行する現地スタッフ幹部をインボルブして(参加させて)、進めていくのが良いと思います。さらに最も理想的なのは、戦略的な部分は日本人幹部も関与するにせよ、戦術的な部分は計画から実施、レビューまで、信頼のおける現地スタッフに任せてしまうことだと思います。
2005.06.30
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「キミんとこは、日本語ができる社員が少ないね」「おタクの会社は、日本語がうまい社員はいないの」日本の本社のお偉いさんや日系企業のクライアントさんから、よくこのように言われてしまいます。ウチの会社には、日本語が話せる社員がほんとに少ないのです。中国の日系企業で働くホワイトカラーの中国人は、日本語でうまく読み書きお話ができるほど、日本人の上司などから"優秀"だと思われる傾向があります。日本での生活経験があり、日本語の文書作成もその辺の日本人よりお上手だったりすると、「まるで日本人みたいだ」とか「日本人より優秀だ」とか言って褒める日本人が多いのですが、そうした思考にこそ、中国ビジネスの"落とし穴"が潜んでいるのだと感じます。だいたい、こうした思考は、と言う潜在意識から発しているような気がします。また、以前も似たようなことを書いたことがありますが、日本語の話せる中国人は、日本や日本人に対する"想い"が一般の中国人より深い場合が多く、大多数のフツーの中国人と異なる行動規範や思考を持っている場合が多いわけです。他の中国人と比べれば、日本や日本人や日本企業には溶け込みやすいですから、日本人や日本企業は"心地よさ"を感じてしまいやすいのですが、そういう中国人との交流から、「中国人はこうだ」とか「中国はこうだ」とか思い込んでしまうと、意外とピントはずれになってしまったりします。そもそも「語学ができるから優秀だ」という発想は、日本人の欧米コンプレックスが影響している気がします。英語を駆使して欧米を飛び回り活躍する外交官や商社マンが羨望の的だったころは、そうだったのかもしれません。けれどそのうち、日本企業の海外事業が当たり前の時代になってきて、英語は完璧だけど、仕事を任せられないような日本人も多いことに次第に気づいてきたはずです。アメリカでご当地の会社と英語で商談したり、アメリカの現地法人スタッフと英語でコミュニケーションするのは"当たり前"だと思っているのに、中国となるとまず日本語を話せる中国人を傍において置きたくなる日本人的発想と言えるでしょう。そうした観点から、中国でのビジネス展開が、あくまでも日本人或いは日本企業を対象にしている場合、日本語が話せる中国人スタッフはたいへん役に立つと思います。中国で日本語の対応が受けられることは、日本人クライアントにとっては、この上ない魅力的なものだからです。ホテルや不動産、医療機関、レストランなど、日本語がしっかり通じるところ、しかも"まるで日本人みたい"なスタッフがいれば、"千客万来"です。ところが多くの日系企業は、日本語を話さない人たちが大多数の、中国の市場を目指し、中国の企業やお役所と折衝し、中国の消費者の心を捉え、社員や工員を管理していかなければならないのです。日本語がうまいスタッフが、中国語による中国人との折衝が得意だとは必ずしも言えないでしょうし、市場分析や人事管理も得意だとは限らないのです。日本語もできて中国でのビジネスにおいても有能な人材ももちろん居ますが、私の経験上、そうでない場合のほうが圧倒的に多かったのも事実です。日本語ができるというだけで日本人社員との"関係"が密になりますから、管理職にずらーっと日本人が並ぶような日系企業では、そうしたスタッフが不当に高い評価を得てしまい、日本語のできない有能な人材のモチベーションを下げてしまうことにもなりかねません。残念なことに日本人に対しても、中国語ができるから優秀だとは限らない、と言えてしまいます。中国語が良くできるから、中国現地法人に派遣しよう、などと安易に考えている本社人事部門の方も多いようですが....ただ、いまだ英語だけが重要視されるような日本の環境で自らすすんで中国語を学んだとすれば、中国に対して相応の"こころざし"がある方なのかもしれませんから、中国での赴任期間を中国語無しで通そうと考えているエリートの方よりも、成果が上げられるかもしれません。日本語が話せないけど"有能な"中国人スタッフと、中国語は話せないけど"優秀な"日本人管理者。どうやってコミュニケーションをとるか?この場合は、専業の通訳に委ねるのが一番だと思います。日本語が完璧な中国人社員には"専業の"通訳として、きちんとした処遇をしてあげるのが良いのではないでしょうか。"有能な"スタッフと"優秀な"管理者が、"完璧な"通訳を通してコミュニケーションできれば、生産性がすごく高まると思います。お互いに言葉もできて、"有能"で"優秀"なのが、一番良いに決まっていますが、そううまくはいかないものですから...私個人としては、できる限り通訳を通さずにビジネスを進めたいと考えていますが....
2005.05.16
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「中国ビジネスはリスクが大きい」と言われます。ビジネスにはリスクがつき物ですから、中国ビジネスにも当然リスクがあります。ただ客観的基準をもって、リスクが"大きい"と言えるかは疑問です。一般にリスクが大きければ、それに見合ったリターン(収益)が期待されるわけで、「中国ビジネスはリスクの大きさに対してリターンが小さい」という意味で言われているのだと思います。でも果たしてそうなのでしょうか?中国で製造・生産を行っている日本企業は、少なくとも日本で製造・生産を行うよりもコスト・カットができていて、つまりリターンを得られているのです。日本で製造・生産を行った場合と比べてリスクが大きいことは折り込み済みのハズです。東南アジアなど中国以外の国での製造・生産と比較したらどうなのでしょう。この10数年、東南アジアなどから製造・生産機能を中国に移転した日本企業は、そのことにメリットを感じたからに違いありません。コスト面はもちろん、販売や消費エリアに近いことなど、より大きなリターンが期待できるから、中国に移転してきたケースが大多数でしょう。であれば、東南アジアなどよりリスクが大きいとしても許容範囲内ではないでしょうか。販売先として中国市場を捉えている日本企業の場合はどうでしょうか。直面するリスクは売掛金の回収だと思いますが、これは論理的にリターンと比例するリスクです。売上高が大きくなれば、代金回収のリスクも大きくなります。他国でのリスク度合いと比較して考えるとすれば、本来は潜在的な市場規模も係数として考慮する必要があるでしょう。感覚的に申しあげれば、日本ほど代金回収のリスクが小さい国は無いように思えます。請求書を提出すれば、督促などせずとも、請求金額どおりのお金が指定期日に入金されます。受け取った手形が不渡りになるようなことは、よほどの場合であって日常的には発生しません。ところが、こうでは無い国がたくさんあります。もちろん中国もその一つですが、私はアメリカや韓国やオーストラリアの企業と取引きをしていますが、請求金額どおり指定期日に入金されることのほうが稀です。キチンと納品したとしても、その後のほうが大変だったりします。潜在市場が大きい分、リスクが大きいのも止むを得ないという考え方もありますが、多くの日本企業にとって中国市場が日本市場よりも大きくなるのか、と考えるとそうとも言えないように思えます。ただ、日本市場が収縮していく状況にあっては、企業成長のためには海外市場の掘り起こしが必要でしょうし、他国と比較して中国のマーケットとしての魅力は大きいと思えます。つまり、中国での製造・生産はそのリターンを考慮した場合、また中国を販売拡大のための新規市場として捉えた場合、他の国や地域と比較して必ずしもリスクが大きいとは言い切れないと思うのです。もちろんリスクはありますから、あとはどう回避するか、縮小するか、分散するか、と言う話になると思います。製造・生産の場合は、拠点を分散することが最も有効な手段でしょうが、その分リターンも縮小してしまいます。まして、中国国内で拠点を分散しても意味がありません。ベトナムやモンゴル、中央アジア諸国あたりでのバックアップ機能も検討すべきでしょう。販売における代金回収リスクについては、腹をくくるしか無いでしょう。"前金商売"や"にこにこ現金取引"にする、と言う選択肢もありますが、これは当然リターンを小さくします。前金払いでも仕入れたいほど、中国市場が魅力に感じる製品を日本企業が揃えられるか、もハッキリ申しあげて疑問です。リスクが小さくてリターンが大きいほうが良いに決まっています。ですからリターンが小さくならないようにリスクを小さくしていけるかが、中国ビジネスにおいても成功のカギであることに間違いはありません。「中国ビジネスはリスクが大きいから....」などと決め付けてしまうのは良くないと思います。リスクを伴わないビジネスなんてありませんから、リスクが怖ければビジネスなど止めてしまうしかありません。
2005.05.11
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上海カネボウの"出勤拒否"と"販売中止"について、だいぶ状況が見えてきました。私の推測どおり、日本の本社と"現地化"された現地法人との"温度差"とコミュニケーション不足が招いた悲劇の様相を呈しています。中国での報道(SOHU=典型例)、知人からの情報を総合すると、事情は以下のようです。本社のゴダゴダもあったのでしょうが、ここ4~5年カネボウは、中国での販売事業を、日本本社籍の中国人総経理(社長)に任せっぱなしにしていました。その中国人総経理のもとで社員も頑張って、業績が上がっていったのです。ところが、日本の本社では、中国の大手製薬会社と組んで北京に新たな現地法人を設立しようとしていたのです。直前になって知らされた中国人総経理の"想い"はいかなるものだったか、容易に想像がつきます。北京での新会社の設立に、上海の上層部はネガティブに反応したことが、日本の本社の不信を買ってしまい、いろいろ調べ始めたようです。そして販売ライセンス問題が発覚して、上海の総経理は更迭(日本の本社に異動ということですが)、日本から新たに日本人の総経理が送り込まれてきたという感じです。こうした日本本社の対応に、上海の上層部だけではなく一般スタッフも強く反発して"出勤拒否"に及んだわけです。日本の企業は、中国事業における"現地化"を口にしています。業種によって意味に若干の違いはあるでしょうが、人材も資材も顧客もできるだけ中国国内で調達していこう、と言う考え方です。この点に関して私はまったく正しい方向だと考えています。特に"人材"について言えば、中国人スタッフのマネージメントは中国人しかできないと思いますし、販売や許認可取得においても日本人がやるよりずっとうまく行くはずですから、"ローカルマネージメント"を推進する日本企業は多いようです。様々な判断も現地に委ねて進めていくほうが、いくら頑張っても中国の状況についていけない日本の本社がいろいろ口出しするより、うまく行くことのほうが圧倒的に多いでしょう。そうした観点から考えると、問題発生前の上海カネボウは理想的に"現地化"を推し進めていた、と言えなくも無いのです。日本の本社の関与度が低ければ低いほど、現地主導で迅速で柔軟な対応が可能です。しかし、日本の本社と現地との意思疎通が疎かになってしまい、日本と現地との考え方が次第に乖離してしまい、日本の本社としては思いもしなかった方向に現地法人が進んでいくことになりかねません。基本戦略は日本と現地とで十分すり合わせを行い両者同意の下で決定しつつ、戦術については現地に決定権を委ねることが"現地化"であるわけで、基本戦略のすり合わせも行われず或いは日本の本社の基本戦略が現地にきちんと伝えないまま、現地に任せっぱなし、では"土着化"を招くことになるでしょう。もちろん戦術以下について現地裁量に委ねるとして、大出資者である日本の本社は定期的に状況をチェックする必要があります。それをチェックもせずに"ほったらかし"にして、問題が明らかになった途端に日本からシャシャリ出てきて、現地の言い分もろくに聞かず、責任だけを現地に押し付ける、ということであれば、優秀な中国の人材は日系企業で現地責任者なんてやりたくなくなるはずです。本社の"言うこと"をきちんきちんと遂行する現地責任者だけが重用されることになり、真の意味での"現地化"とは程遠いものになってしまうでしょう。今回の事件について、日本のマスコミは「ライセンス問題による自主的な販売中止」という基調で報道していますが、中国の報道は「人権侵害」「社員による販売中止」「日本側の圧力」という文字が目立っています。中国のマスコミ対策も現地社員のほうがうまいに決まっています。中国におけるブランド・イメージはがた落ちでしょう....日本の価値基準で言う"問題"は必ず起こるものと覚悟して、その解決にあたっても現地の意見を十分尊重することが大切だと思います。意思疎通と相互理解無くして"現地化"などあり得ないと思うのです。
2005.01.21
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自分に非がないと思っていても、上司の前では自分の主張をせず素直に怒られているのは、日本人くらいではないでしょうか。欧米の映画では、言われも無い文句を言うボスに逆らって即刻クビになる社員のシーンがよく登場します。以前シドニーで働いていたときも、私の意見や小言に対してオーストラリア人は必ず一言二言、自分の言いたいことを言い放したものです。とは言え、中国人の"言い訳"は世界でもトップクラスではないかと、私も思っています。中国でビジネスをしていると、中国人の"言い訳"を聞くことにうんざりしてしてくると思います。気の短い日本人は、「また言い訳!」「もう言い訳なんて聞きたくない!」「"兎に角"ツベコベ言わずやってくれ!」という風になってしまい、相手の"言い訳"を聞くことすら止めてしまいます。しかし、自分の部下であろうが、取引先であろうが、中国人の"言い訳"をじっくり聞く、ということは、決して無駄なことではないと思います。まず第一に、相手の話をじっくり聞いてあげる、ということは、相手を尊重することになりますし、相手のメンツを保つことになります。そして第二に、相手の"言い訳"の傾向を掴むことができます。"言い訳"の傾向が掴めれば、対策を練ることができます。"言い訳"の元を断ち切っていくことで、次第に相手の同様の"言い訳"を封じ込めることも可能です。つまり、だんだんとビジネスがスムースすすむようになる、と言うことです。私の経験上、多くの"言い訳"は第三者が"悪者"に祀り上げられることで完成します。最も多いパターンは、「○○さんに頼んだのに、指示通りやってくれなかった」とか「○○公司がスケジュールどおり動いてくれない」とか。同僚や部下、取引先の会社などに責任を転嫁するような"言い訳"です。この"言い訳"は、当人に責任と権限を与えることによって、封じ込めることが可能です。"言い訳"するスタッフと共同作業を行う同僚を第三者が選んだとしたら、同僚の怠慢はスタッフィングした第三者の責任、と言えてしまうのです。"言い訳"する中間管理職の部下をあなた自身が選んだとしたら、部下の怠慢はその部下を選んだあなたの責任、と言えてしまうのです。一番良い解決策は、仕事を依頼する当人にスタッフィングさせること。それが困難であれば、仕事に取り掛かる前に、共同作業をのスタッフィングについて十分説明し、そのチームの責任者であることの同意をキチンと取り付けることです。取引先の会社にしても、同様のことが言えます。仕事を委ねた社員に取引先を選択する権限を与え、その取引先に対しての責任も持ってもらう。それが困難であれば、事前に同意をキチンと取り付け、納得してもらった上で、仕事に取り掛かってもらう。こうすれば、「○○さんが悪い」とも「○○公司が悪い」とも言いにくくなるはずです。それでも"言い訳"するようでしたら、事前に同意したことを持ち出せば良いでしょう。きっと"言い訳"できなくなります。それでも、あれこれ言ってくるようでしたら、もうその人と仕事をするのは止めましょう。更にヒトや組織ではなく、モノを悪者に祀り上げるケースもあります。ネットがダウンした、とか、プリンタのインクが無くなった、とか、ハードデスクがクラッシュした、とか。この場合、自分の会社の中であれば、それぞれの責任を明確にしてあげる必要があります。自分のPCの管理はどこまで自分で行うのか、IT担当者のサポートの範囲はどこまで及ぶのか、プリンタのインクが無くなった時、誰がどう対応しなければならないのか。IT担当者が退勤後はどうサポートするのか、など。一つ一つ"言い訳"の原因を突き詰めていき、同じような"言い訳"ができないような環境を極め細やかに作り上げて行けば良いのです。社員や取引先の責任と権限を明確に定義していけば、"言い訳"は自ずと減っていくはずです。フツーの神経の中国人であれば、"言い訳"することが恥ずかしくなるはずです。それでも"言い訳"し続けるのは、責任感の無い中国人も、もちろん居るでしょうが....日本企業はとかく責任の所在を曖昧にしたがりますし、日本人は横並びの共同作業を得意としますが、中国人にもそうあって欲しい、と願っても難しいと思います。中国人の"言い訳"をじっくり聞くことは、相手の責任感を推し量る意味でも重要ですし、日本的管理システムの抜け穴を見つけ出すことにも繋がるはずです。管理する側が問題を解決しても尚、「もうキミの言い訳なんて聞きたくない!!」と思うような相手でしたら、もうその人とお付き合いするのは止めればよいのです。中国にはまだまだたくさんの人材と優良な取引先が隠れているはずですから....
2005.01.11
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ウチの業界は半分金融会社のようなものです。仕入れ代金の大半はニコニコ現金前払いで、クライアントからのご入金はサービスの実行が確認されてから平均2ヶ月ほど待たなければなりません。平均すると3ヶ月間ほど代金を「立替」しているのと同じことですから、ある程度余裕を持った資金繰りのためには、毎月の平均売上の4~5か月分くらいの運転資金が必要になります。日本の本社が資本金を低く抑えているので、売上規模の拡大に応じて資金調達をしていかなければなりません。日本の親会社から貸してもらえるか、と言うと、そう簡単にはいきません。いわゆる「親子ローン」には総投資額の何%以内と言う上限が設定されているからです。ウチのような設備投資のほとんどいらないサービス業では、何の足しにもなりません。社債や株式なんていうのは、中国政府の外資系企業に対するハードルが高すぎて、今のところ非現実的です。結局は、銀行からの借入金に頼らなければならないのです。借入にしても担保物件など無いに等しいので、日本の本社から債務保証をしてもらいます。成長著しい中国のことですから、日本の親会社も債務保証には前向きなのですが、額が大きくなっていくと取締役会決裁が必要になってしまい、親会社のオジサマたちに説明するための資料作りに追われることになります。手続きはすっご~く面倒ではありますが、銀行がお金を貸してくれるのだから、ありがたいことです。さてウチの会社の場合、仕入れ元はほとんど中国ですし、クライアントからの入金も大部分中国国内からになるので、当然のことながら、必要な資金は人民元です。ところが、人民元の金利と言うのは驚くほど高いのです。お金持ちが貯金するには有利ですが、お金を借りる側からすると困ったものです。1年の短期借入の金利は5.31%から、この10月には更にアップして5.83%になってしまいました。ウチの会社を含め、中国のこの業界で営業利益率5%台の会社なんて、まずあり得ないハズですから、こんな高金利で資金調達してしまったら、商売が成り立ちません。そこで、これまでは外貨建てで借り入れて、人民元に両替して、資金に組み込んでいたのです。日本の預金金利が驚くほど低いのはご存知の通りでしょうが、お金を借りるときだって年利0.何%かです。人民元の金利と比べるとタダみたいなモノです。でも昨年、調子に乗って日本円建ての借入比率を増やしてしまったら、ヒドイ目に遭ってしまいました。03年の上半期は1ドル=110円台後半だった為替レートが年末の決算時期には107円と円高になってしまったのです。米ドルと人民元はほぼ固定レートですから、人民元に対しても円高になってしまったわけです。具体的には、1人民元=14.5円くらいだったのに、年末には1人民元=13円弱になってしまいました。11%以上アップです。これがどういうことかと言うと、日本円建ての借入残高に変わりが無くとも、人民元建てにすると11%以上も借金の額が増えてしまう、と言うことになるのです。つまり、1人民元=14.5円の時に、5億円借り入れると、約3,450万人民元に両替できるのですが、12月末に1人民元=13円になってしまったので、5億円の借金が会社の帳簿上は約3,850万人民元に膨らんでしまうことになるのです。実際に調達した資金より400万人民元も多く借金していることになってしまうのです。為替リスクについては、もちろん考慮はしたつもりですし、12月の決算時という瞬間の出来事ですから、中長期には何とかつじつまが合うだろう、と思ったものの、ショックはデカかったです。そこで、今年は米ドル建ての借入比率を一気に増やしました。日本円と比べれば高い米ドルの金利ですが、人民元の金利を考えれば、割安感があります。年初は短期借入で1%台でしたから。しかも、前述の通り、人民元レートは米ドルにほぼ固定されていますから、為替リスクの心配もほとんどありません。5月に円安に振れたときに、日本円建ての借金の大部分も米ドルに移行しました。そんな折、6月になって中国の通貨当局は、「外貨建て借入金の人民元への両替を禁止する」と言う措置を急に発表したのです。実質的に人民元建ての借入しかできないようにしたのです。理由はいろいろ取り沙汰されていますが、直感的に「人民元の対米ドル切り上げが近い」と考えたのは私だけではないはずです。人民元が米ドルに対して高くなれば、米ドル建ての借金に関して、さっき述べたことと逆のことが起こるのです。1ドル=8.28人民元の時点で500万ドルを借り入れ両替すると4,140万RMBになるのですが、仮に5%人民元が切り上げになって1ドル=7.87人民元になると借金は3,835万RMBに減ってしまうのです。通貨当局の規制が実施される直前に、ウチの会社では駆け込みで、向こう2年間必要と見込まれる資金をまとめて米ドルで借り入れてしまいました。はっきり言うと、金利のかかる余剰資金を抱え込んでしまったことになります。それでも、金利は年1%台だし、人民元が切り上げされれば、借金してお金が儲かることになるので、人民元の切り上げをまだかまだかと、ウキウキしながら待っていたのです。中国高官の「為替制度の現状維持」発言や「人民元の切り上げ近し」のニュースに一喜一憂しながら...10月のG7会議では各国が中国にがんがん圧力をかけてくれるだろう、と期待していました。ところが、その後も人民元の対ドルレートには何の動きもありません。それどころか、米国の金利がどんどん上昇していくではありませんか。6月時点と比較すると1%アップ、2倍です。これでは余剰資金の金利負担だけ増えてしまって、為替差益は「捕らぬ狸」です....幸いなことに最近、中国の市中金利も上昇しました。余剰資金を1年物の定期にしておけば、何とか米ドル借入分の金利はチャラになりそうですが、そうは言ってもやはり人民元の対米ドル上昇を心待ちにしている今日この頃です。
2004.12.10
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日本企業の多くは中国企業との取り引きで、代金がもらえない、つまり売掛金が回収できない、という心配をされていると思います。歴史的にも、日本のリース会社が700億円以上もの代金を踏み倒されてしまった、しかも中国の地方政府とグルで(!?)、というできごとがありました。中国企業にモノを売っても、代金を支払ってもらえないかもしれない、と考えるのももっともです。ですから、一部の日本メーカーは問屋や小売店に商品を卸すときに、ニコニコ現金取引を原則としたりします。よほど競争力がある商品なら別ですが、フツーは問屋も小売店も現金の前払いなど嫌がりますから、売掛金の回収を心配して現金取引を前提とすると、当然販路が狭くなってしまいます。そもそも、中国企業の財務(フィナンシャル)担当者は、「支払う必要のない代金はできるだけ支払わない、支払う必要のある代金でもできるだけ遅く支払う」という考えを持っています。支払いを少なくし遅くすることは、財務担当者の技量だとすら考えられています。もちろん、どこの国の企業であっても、不必要な代金は払わないでしょうし、支払いも遅ければ遅いほど良いに決まっています。でも、中国の場合は特に顕著なのです。日本企業では、請求書ベースで会計上の処理が行われるのが一般的でしょう。請求書を発行した時点で売掛金になりますし、請求書を受領した時点で買掛金、つまり負債になります。ですから、日本の営業マンは請求書を提出した時点で、入金が保証されたように思い込むことすらあります。でも中国では、請求書など実際は何の役にも立ちません。「発生主義」という国際会計基準を採用しているグローバル化した企業でさえも、心理的には「現金主義」のままです。つまり、現金のやり取りこそすべてで、「お金を払ってください」とお願いする請求書よりも、「実際にお金を支払いました」という領収書のほうが重要になるのです。では中国企業(の財務担当者)が考える「支払う必要があるお金」とはどういうことでしょうか?日本人ならモノを買ったり、サービスの提供を受けたりして、請求書を受け取った時点で「支払う必要がある」と思うでしょう。ところが中国の場合、法律上は別として、現実的には請求書などただの紙切れであって効力がありません。契約書と納品書がしっかり整っていてこそ「支払う必要があるお金」になるのです。契約書は、通常取り引きを始める前に取り交わします。仕事の内容、その対価(金額)、そして支払い時期を両者で約束することは万国共通です。納品書は取り引きが終了した際に取り交わします。仕事が契約書の内容どおり履行されたことを、両者で確認し合った証拠文書になります。中国企業との取り引きでは、どんな些細な場合であっても、この2種類の文書は必ず整える必要があります。取引先の公印がしっかり捺印されており、出金権限のある代表者の署名がなされていなければなりません。とかく疎かになりそうな納品書についても、担当者のサインだけで済ませては危険です。部門責任者以上の署名は必要です。取引先の署名捺印済みの契約書と納品書があって、はじめて支払いを督促できる条件が整います。かと言って、支払期日までただ待っていれば入金が約束されるわけではないのです。ここまで証拠書類が整っていれば、さすがの中国企業も、潰れかかってでもいない限り、そのうち支払わなければならない、とは思うでしょう。でも期日通りに支払おう、とは思っていないかもしれません。ですから定期的に、期日までの支払いを督促し続ける必要があります。これは取り引きの担当部門だけではなく、取引先企業の財務部門にも並行して行う必要があります。支払いの件がで財務部門にまで伝わっていない場合もありますから、場合によっては取引先企業の社内調整までやる必要があります。遠慮がちの日本人には無理な仕事でしょうから、押しの強い中国人スタッフに委ねてしまいましょう。最後の手段は、領収書の発行と提出です。中国では公給領収書の管理が非常に厳格です。発行する側は乱発できませんし、受け取る側も経費処理の際に当然必要になります。お金をいただく前に領収書をお渡しするのは、できる限り避けなければなりませんが、取引先の財務担当者から「領収書をもってこい」と言われたら、しめたもので、支払いの日も近いはずです。契約書に記載された支払期限の日付で公給領収書を用意しましょう。取引先としては、この代金を原価や経費として会計処理する際には、その公給領収書が必要なのです。しかも、3ヶ月ごとに税務当局のチェックを受けますから、日付がズレるといろいろ面倒なことになります。契約書も納品書も完備されている「支払う必要があるお金」で、支払期日付けの領収書も用意されている、とすれば、取引先の財務スタッフも、わざわざ会計処理を面倒にしてまで、支払いを引き伸ばそうとは考えないでしょう....基本の基本と言ってしまえばそれまでですが、しっかり契約書を取り交わし、納品書にも必ず取引先の署名捺印をいただき、期日前であっても絶えずリマインダーをぶち、支払期日付けの公給領収書をちらつかせる....取引先の財務担当者に隙を与えない対応をしていれば、きっと期日通りに代金が支払われる可能性が高くなるはずです。もちろん、取引先に支払い能力が無ければ、何をしようが、裁判で勝とうが、無理です。もうこれは、取り引きを始める前に、わかっていなければならないことですが....
2004.11.27
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中国最大の白物家電ブランドを持ち、世界の白物家電ランキングでも五指に入るこの会社の本社は、山東省青島市にあります。ウチの会社の大きな取引先の一つで、青島のオフィスはこの会社の敷地内にあり、この3年来、私は頻繁にここを訪れています。この会社については、日本でも書籍になったり、映画も公開されたりしていて、いろいろとご存知の方も多いと思います。「役員の評価が毎月貼り出される」というのはホントの話です。本社ビル地下一階のエレベータホールの真正面に、事業部長以上の評価がでかでかと貼り出されています。ここには社外の方を食事に招待するためのレストランと社員食堂がありますから、社員だけではなく取引先の人たちも見ることができる場所です。一人一行の表の中に、各人ごとの100点満点の評点とその理由、前月との比較がヒットチャートのように矢印になって示されています。副総裁以下各事業部長約20名のトップクラスの管理職の評価が曝されているのです。どのような評価方法なのか具体的にはよく分かりませんが、「相互評価」とのこと。この「相互評価」はウチの会社など取引先との間でも行われています。ウチの業界では、ウチの会社を含め同業4社がこの会社と取り引きしていますが、毎月通信簿のような「評価表」が公開されます。ライバル社との比較も数値で示されるのです。この場合の「相互評価」とは、ウチの会社もクライアントであるこの会社の担当部署や担当者について評価する、ということです。取引先つまり外注先を一方的に評価するのではなく、外注先が発注元である担当部署や担当者の指示やオーダーや対応が適切かどうか、も評価するわけです。人が行う評価ですからどこまで真実を表わせるかは別としても、こうした姿勢は素晴らしいことだ思います。私は年に2回ほど、この会社の副総裁と面談します。ウチの仕事に対する評価や要望をお聞きするためです。この会社のトップには映画にもされてしまった著名なCEOがいらっしゃって、次に女性の総裁がいらっしゃいます。その下に副総裁が3人いて、それぞれいくつかの事業を取り仕切っています。私がお会いする副総裁は5つの事業を統括していますから、工場労働者を含めると5万人くらいの部下がいることになります。彼の下には、5人の事業部本部長がいて、それぞれの本部長の下には部長がいて、部長の下には主任がいる、という具合で、ウチの会社の日常業務は部長以下の決裁で行われています。私がこの副総裁と面談する場合、ウチの会社の中国人責任者とこの会社を担当するチームの責任者、少なくとも3人連れになってしまいます。ところが、この副総裁のほうは、いつも一人で応接室に現われます。日本の会社の場合、重役面談ともなると、普通はそのラインの担当役員、部長、課長、担当者が同席するのが一般的でしょう。重役同士の面談となると、双方とも大名行列のように部下を引き連れて、総勢10名くらいになったりします。ところが、この会社のこの副総裁は、いつも一人です。部下や秘書を引き連れて面談に臨んだりしません。それでいてマクロ経済やゴルフの話でお茶を濁す表敬訪問で済ませるのでもありません。現場の実務までしっかり把握していて、実務的な話し合いが成り立つのです。ウチの会社に対しても、評価するところは評価しつつ、改善が必要と思う点は具体的な要望を出してきます。しかもこの副総裁は30代半ばで、私よりも年下です。権威を振りかざすような態度はまったくなく、低姿勢で、体格も小柄なので、初めてこの副総裁に会う人であれば、きっと秘書か何かだろう、と誤解してしまうはずです。この会社の海外事業部の本部長にもお会いすることがあるのですが、20代の女性です。小柄なフツーのOLといった外貌なのですが、お話していると、北米の小型冷蔵庫市場でトップシェアを勝ち取った、彼女の能力が染み出てきます。日本企業の中で、この会社について、金払いが悪い、とか、手を広げすぎて業績が悪化している、とか、ヤッカミとも言えるような評判があるのも事実ですす。でも、ウチの会社にはキチンと契約書どおりに支払っていただいていますし、今年の業績は相当良いようです。訪問するごとに、この会社の将来への期待が増すばかりです。きょうは心地よい青島から、でした。昼休みにサッカーする青島のスタッフ
2004.11.26
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多くの日本企業では、中国事業部門を中心に中国人社員を登用しています。日本に留学して、そのまま日本で就職をした中国人を重用するケースが多いようです。日本の本社で対中国側の窓口を務めたり、本社内で中国の状況をレポートしたり、中国ビジネスを進めるにあたって本社では欠かせない人材になっている方も多いはずです。そうした人材が、中国の現地法人で幹部職や経営職を委ねられる場合があります。もちろん彼(彼女)が有能だからでしょうが、本社としては「日本のことを、日本の会社のことを、日本の商習慣を、良く知っているから」任せられる、というような理由も大きいようです。でもそのような彼(彼女)が、中国に戻って、果たして活躍できるのでしょうか?日本企業や日本人だけを取引先として中国で展開しているような企業は別として、中国の現地法人は中国企業や中国人と日常の商談や取り引きを進めていくことになるのです。「日本を良く知っている」中国人の人材は、「いまの中国をあまり知らない」中国人社員とも言えてしまいます。ご存知の通り、中国の状況は刻々と変化しています。特にビジネスに絡む法令や規制などは特に変化が激しいのです。2~3年、中国を離れて日本で仕事をしていただけで、中国の現状からは取り残されてしまいます。まして、日本留学後「新卒」で日本企業に入社した中国人社員には中国でのビジネス経験がありません。5年も10年も日本で働いていれば、いまの中国人の生活や心理からも遠のいていきます。「人脈」がモノを言う中国において、たとえ彼(彼女)が2ヶ月に1回の中国出張のたびにそのメンテナンスを行っていたとしても、中国に居てビジネスする場合と比較すると「関係」も薄くなってしまいます。これに対して、現地法人採用の有能と言える人材は、中国でビジネスの実経験を積んだ人です。昔の中国もいまの中国も当たり前のように知り尽くしているでしょうし、法令や規制の網を潜り抜ける人脈を確保しているかもしれません。そうした彼(彼女)のボスになる中国人は、日本語がしゃべれて本社とのコミュニケーションは抜群に取れるし、日本の会社のやり方も知っているし、日本人へのゴマのすり方もわきまえているけれども、いまの中国の状況を実践的に把握している人ではない、と言うことになります。待遇にも大きな差異が生じる場合が一般的です。日本の本社から「駐在員」として派遣される中国人幹部職は、通常日本の給与体系に基づき、自国に帰国するのに「海外勤務手当て」が付き、外国人用高級マンションの家賃まで会社持ちだったりすることが多いようです。同クラスの現地採用中国人幹部職と比較すると10倍近い差がついていると考えて良いでしょう。現地採用の中国人社員にとって、「面白くない」「気に入らない」存在になっても仕方の無いことです。「日本を良く知っている」から抜擢された中国人は、大きな希望と意欲を持って現地法人に着任するでしょう。でもそうした彼(彼女)を待ち構えているのは、現地社員の非協力な態度だったり、意地悪だったりする場合が多いのです。よほど優秀な人材で無い限り、こうした状況には耐えられなくなり、パイプの太さを利用して日本の本社との関係だけを深めるような方向になってしまいます。精神的に参ってしまって、日本の本社への「帰任」を強く求めた人も知っています。もちろん、能力が高く、こうした環境を乗り越えて、現地社員の取り込みにも成功し、実績をのばしている、日本の本社所属の中国人幹部職もいます。ただ、こうしたケースは少ないほうです。それともう一つ。こういうワケですから、日本で長年勤めて本社で活躍している中国人社員の中国に関する情報や見方が、必ずしも現況を言い当てている、と考えるのも、少し危険な感じがします。
2004.11.18
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中国をモノを売るためのマーケットとして捉えている日本企業にとって、ここに住む消費者について理解することが真っ先に必要になります。そうした企業の情報源は主として、マーケットの定量型データと周りの中国人消費者から得られる定性型のデータになります。定量型データで注意が必要なのは、中国マーケットではが意味を持ちにくい、と言うことでしょう。例えばエリア戦略を立てる上で、エリアごとの平均月収のような数値ほど意味を持たないデータはありません。各所得層の分布状況にさかのぼる必要があります。定性型のデータの最も簡単な収集方法は、自分の周りの中国人の意見を聞く、と言うことでしょう。中国の消費者を理解するために、普段どんな暮らしをしていて、どんなことに興味があるか...また、売ろうとしている商品が中国人に受け入れられるか、商品を売るための広告表現などが中国人に理解してもらえるか...日本人では判断のつかないことを、消費者である中国人に直接尋ねることは、とても重要なことです。ただ、日本人である自分の周りにいる中国人からだけ情報を得て、その情報を鵜呑みにするのは危険です。例えば、日本語を話す通訳や現地法人の社員。もちろん、日本語を話さないにしても、中国では外資系企業である日本の現地法人の社員の話も、です。彼(彼女)たちは、日本語を話す、という能力を持っていることで、既に特別な消費者なのです。日本に留学経験があったり、日本に興味があるような中国人ですから、日本や日本人や日本企業やその商品に関して、既に何らかのバイアスがかかっています。あなたが商品を売ろうとしている消費者を代表するような意見ではない、と考えるべきでしょう。よくある話ですが、例えば、北京で仕事をしている日本人が、自分の周りの中国人に、「浜崎あゆみ」を知っているか尋ねた場合、恐らく北京の8割方の若者は「知っている」と答えるでしょう。自分の通訳や、現地法人の社員や、日本料理店のフロア係や、行きつけのスナックの女の子に尋ねれば、きっとそうなるはずです。そこで、「北京の若者はみんな、浜崎あゆみを知ってる」と思ってしまうでしょう。でも、真実は違うわけです。「浜崎あゆみ」という名前を聞いたことがある北京の大学生の4分の1程度、という調査結果があるのです(昨年、彼女が中国でテレビCMに登場していたにも拘わらず...)。これと同じように、あなたの会社の商品が、日本で人気が高かったりする場合には、その商品についてあなたの周りの中国人から得られる評判は、あなたが売ろうとしている消費者たちの評判より、高めになってしまう、と考えるべきでしょう。日本人の周りにいる中国人は、むしろ特別な立場と捉えるべきで、一般的な(中国市場に一般的はないのですが)中国消費者を代表するような意見とは言えない、と考えたほうが無難でしょう。もしあなたが中国で売ろうとしている商品が、日本語を話せる中国人に向けた商品であるなら別ですが....
2004.11.13
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北京でビジネスを進めるのですから、商談の相手は中国人ですし、日本企業の現地法人であっても社員はほとんど中国人です。原則として日本語が話せません。日本語の話せる優秀な部下に委ねれば良い、と考えがちですが、日本語が流暢だから仕事もバリバリにできるとは限りません。また、あなたの日本語の指示や考えは、その日本語が話せる部下だけにしか伝わらないのです。その部下が、あなたの指示通りに中国語で伝えたかどうか、あなたは確認ができないのです。では英語でビジネスを進められるか、というと、北京では無理です。そもそも、日本語を母国語にする日本人と、中国語を母国語にする中国人が、どちらの母国語でもない英語で仕事を進めるなんて、小泉さんとブッシュさんが中国語で会談するみたいなものです。しかも、北京の人たちは、英語が流暢で話せる人であっても、積極的に他国の言語を口にしない傾向があるようです。中国でビジネスを進める以上、中国語を基本にする必要があるでしょう。ですから、中国語に自信の無い日本人は、通訳のお世話になるわけです。商談相手が長々と中国語で話していたのに、通訳が短い日本語で通訳してしまう傾向が良くあります。そして、言語能力の高い通訳ほどその傾向があります。商談相手が話したことを逐語訳せずに、結論の部分だけ訳すとこうなるのです。このような場合、商談相手が長々と話していた「前置き」の部分の90%くらいはビジネス上重要ではない内容である場合が多いので、合理的に商談を進めるのであれば、結論の部分のみ要約して訳してもらうのも心地よいのです。前置きの部分は、言い訳だったり非合理的な心情の部分だったりしますから。でも、中国で長く仕事をしていると、商談相手のこうした「前置き」の部分があとになって重要な情報になってしまうことが多いのです。マイナスの場合もプラスの場合もあります。だからと言って、通訳に逐語訳を求めると商談の時間が長引きますし、聞く側の日本人もウンザリしますし、話す側の中国人も話の流れを遮られてしまい、「前置き」の効果が薄れてしまいます。まして、社内の問題を解決しなければならないような場合、通訳も問題の当事者も同僚ですから、通訳に逐語訳を求めても意図的に訳さなかったり、当事者が通訳に知られたくないことは言えなかったりします。通訳を介して、中国ビジネスを進めていくのは、結構難しいと思います。
2004.11.07
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北京で日本人だけでビジネスができると思ったら、たぶん無理なお話です。多かれ少なかれ中国人の力が必要です。北京にある日本企業の現地法人では、相変わらず総経理(社長)も経理(マネージャー/部長)も日本人、というところが結構多いわけで、日本人のマネージャーが中国人スタッフを部下として配下に置く、という構造が主流になっています。日本の会社はオフィスに仕切りの少ないオープンスタイルが主流ですから、部下を部長席に呼びつけてそこでお小言を言ったり怒ったりするのもフツーかもしれません。怒られた同僚を気の毒と思いつつ慰めの言葉をかけたりするのが日本の会社組織です。でも、中国では少なくとも人前では中国人スタッフを怒ってはいけません。怒られる部下に然るべき過失があろうとも、怒る上司に合理的な理由があろうとも、です。一対一になれる場所で、冷静に指導してあげたほうが効果的なはずです。人前で怒られた中国人スタッフはメンツを完全に失うことになります。見ていた同僚に同情はされるかもしれませんが、共感を得られることは少ないでしょう。徹底した競争主義の中国では、競争相手が一人脱落した、ということになります。もちろん、怒られた内容や理由なんて、周りの人には関係ないのです。仮に中国人スタッフに非が無くて、日本人マネージャーの思い過ごしだったりしたら、両者がどう取り繕っても後の祭りです。もし、そのスタッフをクビにしたいのでしたら別ですが....
2004.11.02
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よく言われていることですが、中国人はチームワークが苦手です。サッカーでなかなか勝てないのも、個人個人の能力は高くともチームワークがうまく行かないからだと思います。北京に来たばかりの頃、ウチの会社は日本式システムでやっていました。組織のヒエラルキーよりもチームワークを求めたのです。でもやっぱり無理です。同じようなポジションで同じような待遇の社員が数人集まってプロジェクトを組んでも、チームワークは期待できません。責任の所在が明確でないので、総無責任になっちゃいます。チームの中で突出した成果を挙げようとする社員が出る場合もありますが、それは個人技であって稀なことでしたし、むしろ失敗した際に責任を問われることのほうを恐れて、皆そこそこの働きしかできないのです。それでいまは、完全にヒエラルキー組織で動かしています。総監(Director) - 高級経理(Senior Manager) - 経理(Manager) と明確に上下関係をつけるのです。それぞれの責任範囲と待遇もはっきりさせ無ければなりません。さらに昇格・昇給の頻度も多くしなければなりません。日本でもそうですが、上司より有能な部下は必ず存在しますから、そうした人材を引き上げるシステムが必要です。ウチの会社では月毎にパフォーマンス・レビューを行い、3ヶ月に1回待遇の見直しをしています。
2004.10.30
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このインスタントラーメン会社、純中国企業としては業界トップです。このF会長さんは農家の出身で、10数年前までは小麦を齷齪作っていたのです。会長さんの出身地=この会社の本社所在地は、北京から高速道路を使ってクルマで5時間かかるところにあります。北京から400Km離れていますが、それでも中国では地の利が良いほうだと言えるでしょう。華北平野と呼ばれる豊かな耕作地が広がっていますし、大消費地北京や天津にも比較的近いからです。でもこの方とお会いして実際に会議を共にして、成功する人にはやはりそれだけの素養があるのだな、と納得してしまいました。中国には数え切れないくらいの成金がいます。でも、この会長はどちらかと言うと地味で(ベンツには乗ってますが)、控えめな感じがしました。学歴がない分努力し、起業してからも忙しい中、北京の著名大学の夜間講座に通ったばかりでなく、地元出身の幹部社員にも会社負担で奨励したそうです。中国の成功者は兎角自分を語りたがりますが、この会長は周りの人の意見を聞く事をとても大切にしているようでした。
2004.10.24
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中国のインスタントラーメン市場は年間300億食といわれていて、トップ3のうち2社は台湾系の会社です。市場シェアNo.2で年間100億食近く売っている純中国企業の会長さんにお会いしました。彼は40代半ばで身長が190cm近い大柄ですが決して太ってはいない紳士でした。もともと農家の出身で丁度10年前幼馴染らとインスタントラーメンの会社を始め、10年で中国市場No.2に育て上げたのです。もともと中国の華北エリアは小麦の生産がさかんですが、彼の出身地(この会社の本社もそこにあります)は一面麦畑なのです。そこで、この小麦を製粉して更なる付加価値として10年前中国ではあまりポピュラーでなかったインスタントラーメンとして製品化して販売することを始めたのです。彼の会社は、農村部である彼の出身地の活性化にもつながり、都市部との経済格差の縮小化にも貢献しています。中国の創業経営者は一般的にワンマンで声が大きく恣意的な判断をしたりするものですが、今日初めてお会いした彼は周りの人(社員も取引先も)の意見をしっかり聞いて、意見が出つくたころあいを見計らって、自分の意見を物静かな口調で端的で論理的に話し始めたのです....
2004.10.23
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