出張大魔王

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お代官と越後屋日記 13



派遣社員の元松は四国藩に採用になって半年ほどである。
お代官の赴任と同時期であった。
契約時の業務内容は営業支援である。
白川がいた頃は彼と彼の補佐役の笠野の指示の元、
紆余曲折はありながらも真面目に仕事をこなし
彼女の活発な性格は藩内を明るくしていた。

「お代官様のおっしゃることに疑問を述べたりしてはいけません。お代官の指示は絶対です。何の仕事を差し置いても優先しなさい。」
さすが越後屋である。こんな部下を持った上司は幸せである。
だが、やり過ぎると理不尽な事が頻出してくる。

「元松さん、営業戦略に送る資料を大至急作って私にメールで送ってください。1時間でできるかなぁ。」
越後屋から指示を受けた元松は資料作りに追われていた。
「元松さん、ちょっと・・・」
お代官のお呼びである。
「悪いけど、明日の出張のホテルの手配と食事する場所探しといてくれませんか。できたら地図も印刷しといてくださいね。」
お代官は自分でPCを使いこなせない。
「わかりました」
元松は普通に仕事の優先順位を考えた。
『ホテルの予約は1時間後でもOKだから、資料作りが先よね。』
20分後・・・
「元松さん、ホテルの予約取れた?」
「申し訳ありません。いま急ぎの資料を作っていてもう少しでできますので、お待ちください」
「まだ取れてないの?」
お代官、尾田川の顔が真っ赤になった。
「越後屋!越後屋!ちょっとどうなっているの?元松さんそんなにいそがしいの?私、あと1時間で出かけないといけないのに・・・」
「は、は~ぁっ、直ぐに手配させます」
「元松さん、なんの仕事してるんか知らんけど支店長から頼まれた仕事、大至急やってよ!」
元松は目が点になった。
『まだ出かけるまで時間あるやん。営業戦略への資料は後回しでいいのかしら・・・』
そう思いながらもお代官のホテルを検索した。
「○○ホテルと××ホテルが取れますが、いかがいたしましょう」
大手有名チェーンホテルを2つほど選んだ。
「そんな格が低いホテルに泊まれないよ。△△ホテルは取れないの?」
△△ホテルといえば大阪ではトップクラスのホテルである。
自分自身に関する経費節減など彼の頭の中には存在しないのだ。
「一泊○万円ですが・・・」
つい最近、藩士の出張の際のホテル代の上限が一泊1万円から8千円に下がったばかりである。△△ホテルはその何倍もする宿泊費がかかる。
元松はその事を気にしていたので一応確認してみたのである。
「いいんじゃないですか。早く予約とって地図出してね。」
やはり彼の頭の中に経費節減はなかった。
呆れながらもホテルの予約を取っている時に越後屋が向かいの席から叫んだ。
「元松さん、頼んだ資料まだできへんの?何やっとん。営業戦略から催促の電話かかってきたわ。はよして!」

元松に殺意が芽生えたとしても責めることはできない。


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