水野文博の『日々の思考』

水野文博の『日々の思考』

2004/11/20
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
 パリでのコンサートを聴きながら演奏マーケティングと演奏家マーケティングを考えました。

■パリのコンサート

 11月5日~7日のパリ滞在で3回クラシックコンサートに行った。さすがは音楽の都だけあってチケットは安く当日でも手に入る。今回はチェロリサイタル、バイオリンリサイタル、バロックオーケストラを聴きに行った。

 チェロはパリ中心にある小さな教会でのリサイタル。パリ音楽院で一等賞(プルミエプリ)を取った若き女性チェリストがバッハの無伴奏チェロ組曲を奏でた。僕はパリの教会が会場のコンサートに5回行ったことがあるが、内3回は無伴奏チェロ組曲だった(他はナヴァラ、ロストロポーヴィッチ)。人気のある演目らしい。そういえばカザルスがソルボンヌの講堂で行ったコンサートのアンコールもバッハの無伴奏だった(感動的なCDが残っている)。

 バイオリンは名手ピエール・アモワイヤル。しばらく見ないうちに若手からおじさんバイオリニストに変身していた。彼の演奏には職人芸を感じる。職人芸の意味は、ひたすら音階などの基礎的練習を積み上げていくイメージ。昔パリに住んでいた時に知り合ったパリ音楽院の友人も泣きながら地道な練習を繰り返していた。フランスの職人芸の伝統は長くて深い。このあたりに興味のある方は森有正の「ルオー」を読まれたい。画家ですけど。

 最後はジョン・エリオット・ガーディナーが連夜繰り広げたパーセルのコンサート@パリ音楽院の隣のホール。古楽器によるバロックが見直されているようで、音楽院のプログラムを見ると古楽に関する多くのレクチャーが企画されていた。

■演奏マーケティングと演奏家マーケティング

 ハイデルベルクでアンネ・ゾフィー・ムターのチャイコフスキーのバイオリン協奏曲のCDを買った(カラヤンではなくプレヴィン指揮のもの)。これはこの曲の決定版!スゴイ!です。興味のある方はぜひお聴き下さい。ムターはもともとグイグイと飛ばす演奏家で、87年にパリで聞いたデュトワ指揮モントリオール交響楽団とのこの曲の演奏でもスリル溢れる演奏を展開した。ところが後に出たカラヤンとのCDでは超スローテンポ。それはそれでよいのだがムターらしさがない。プレヴィンとのものは本来のムターが聴けます。断然こっちの方が良い!

 ここから本題。演奏家の間では、パリの聴衆に認められたら一流との見方がある。東京ではなくパリの聴衆。なぜか。外タレ来日時によく見られる現象だが、東京では来日前の評判で評価が決まってしまう。もし自分が感動しなかったら、それは演奏家が悪いのではなく自分の耳が未熟だと考える。前評判の高い演奏家だと100%の聴衆から喝采を受ける。一方、パリの聴衆は一人一人が自分の感覚で判断する。だから、100%の喝采はあり得ない。アバドでさえ酷評されることがある。そんな中で、70%の聴衆を感動させられたら大成功となる世界である。その演奏家は世界に通用する。

 ムターの演奏を念頭にガーディナーの演奏会でチケット売り場に並んでいる人々を眺めながら考えた。演奏家は、この耳の肥えたお客様をセグメンテーションしてターゲットを定め、自分をポジショニングし、提供価値を創出するためにスキルのトレーニングをする・・・といったマーケティング的行動はしていないのではないかと。むしろ孤独に自分の中を深く深く掘り下げて鍛錬した結果、人々を圧倒的に感動させられることが出来たのではないかと。無意識の次元で人々は繋がっているというユングの共通感覚論モデルがマーケティングモデルよりうまくこの現象を説明できると思う。共通感覚まで掘り下げた演奏家は全ての聴衆に訴えかける演奏ができる。

 一方で音楽プロモーターは極めてマーケティング的思考をする。いいタレントを取り揃えてイベントを企画し強烈にプロモーションする。そして金融の世界のように、タレントのポートフォリオを取り揃えたり、プロダクトライフサイクル初期に位置して将来大成しそうなタレントの発掘に血眼になる。

 どっちの役割が面白いかな???





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2004/11/20 06:25:22 PM
コメント(2) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X

Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: