ドラゴン・龍平

ドラゴン・龍平

美食とインテリア


その名のとおり、壁には本物のピカソ作品が十数点。ほんと怪盗ルパンも真っ青のお宝の天こ盛りなのである。人気シェフのジュリアン・セラノが腕を振るう料理の値段は、フランを使った逸品の数々を味わうお試しコースで80ドルだ。ハリウッド映画のテーマレストランが「プラネット・ハリウッド」なら、ここはさしずめ「プラネット・アフルエンス(富貴の惑星)」とでも呼びたくなる店か…。総額5000万ドル相当もの美術品に囲まれてフォアグラを食する、という趣向がすんなりと似合ってしまいそうな素敵な店だ。顔の片側に両目がある青い女の絵を見ながら食事なんて、という人もいるかもしれない。でも少なくとも「プラネット・ハリウッド」のように、超肥満体のエディ・マーフィ(映画『ナッティ・プロフェッサー』)を見せつけられる心配はない。ベラジオがラスベガスの未来を先取りしたものだとしたら、「ピカソ」はレストランの未来を形づくるトレンドを体現している。そのトレンドとは「独自のコンセプトをもった超高級レストラン」だ。これまで何十年もの間、アメリカのシェフたちは、「レストランの装飾は生花だけで十分」と考えてきた。だが今や、アメリカ人の生活に広がるエンターテインメント化の波は、食の世界にも広がっている。素朴でシンプル好きのオイラ的には生花だけで十分であるが「ピカソ」では、美術品に飽きたら、ガラスの壁越しに水と光のページェントを楽しむことができる。一定時間ごとに60メートル噴き上がる噴水の向こうには、ラスベガスの目抜き通り「ストリップ」が見える。「レストランに出かける目的は食事だけではない」と言うことなのかアメリカ人よ。「おなかがすいたのなら、冷蔵庫を開ければすむ。でも、それだけじゃ楽しくない」10年前、チャーリー・パーマーがニューヨークのイーストサイドの優雅なタウンハウスに開店した「オリオール」は、ニューヨークでも屈指の人気レストランになった。ご存知だろうかラスベガス店がマンダレーベイホテル内にオープン。パーマーはラスベガス進出に際して、優雅さに多少の派手さをつけ加えようと考えた。そこで、デザインを担当したティハニーは、正面玄関に4階建てのガラス張りの塔を造り、そこにワイン1万本を収納することにした。客がワインを注文すると、レオタード姿の「ワインエンジェル」のパツキンのお姉ちゃんがワイヤで空中につり上げられ、塔のわきを昇っていく。『ミッション・インポッシブル』でトム・クルーズが天井からぶら下がる場面を見て思いついたという。ショー的な演出としてはもちろん、「ワインは地下のセラーにあるもの」という常識を覆すものでもあるが、このオヤジの破天荒な発想は偉大である。ワインに対する冒涜と叩かれつつも、このオヤジまったく気にする様子はないとか…。レストランの機能的部分をデザインの要素として利用する。それをティハニーにもまして大胆に打ち出しているのが、俳優兼デザイナーのマイケル・チャウだ。ロンドンとニューヨーク、ビバリーヒルズにレストラン「ミスター・チャウ」をもつ彼は最近、ロサンゼルスのウェストウッドに超ヒップな「ユーロチャウ」を展開してるのである。室内に600以上の照明をあしらったこの店では、客まで演出の要素に取り込んでいる。思いっきりおしゃれして出かければ、中2階の正面テーブルに案内されて店中の視線を浴びることになるのだろう。目立つの大好きなアメ公にはたまらないシチュエーションだ。バーのわきにあるモニターテレビには、常に店内の映像が映し出されているとか。普通のレストランでは「前に座っている奥方様しか見えない」が、この店では有名人がシャツにプラムソースをこぼす姿も見られる確率大だ。ミーハーにはたまらない店だが、有名人目当てや怪しいヤツァー多分店に入れないのである。オレが何を言いたいかというと要するにインテリアが料理の味わいを決めることもあると言うわけだな。その証拠にフィラデルフィアのレストラン「ブッダカン」では、流れる滝と日本庭園風の石のわきを通ってテーブルへ辿り着く。それだけで、奥に主のようにそびえる高さ3メートルの仏像を見るまでもなく、「ショウガでも味噌でも何でもこい」という気分になる。
DOG


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