CATのアメリカ東海岸留学

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アメリカの大学認可制度と無認可大学

このページは残念ながら現在は廃止されているある方のHPにあった内容を、ご本人の了承を得て転載したものです。これもご本人の了承を得て、オリジナルに多少手を加えてあります。またタイトル(「アメリカの大学認可制度と無認可大学」)はオリジナルのままとしましたが、他のフリーページの内容(州によるLicensing = 認可、民間認定団体によるAccreditation = 認定)との整合性をとるために、本文内でもそれに沿った表現とさせていただいています。

1.日本とアメリカの大学認可認定制度の違い

日本の大学は、通信過程などを含め、すべて文科省が最低限の質を保証しています。
一部、文科省管轄外で大学同等と認められている類似機関はありますが(防衛大学校など)、基本的に文科省に認可されずに大学を開設・運営することはできません。今は閉校した酒田短期大学という学校が、閉校前に文科省の認めていない形のサテライト授業を行い、文科省に改善指導されました。このように日本の大学は、その教育研究の質にばらつきはあるとは言え、文科省が最低限の教育の質を保証しており、基準に見合わないと指導・改善を要求されます。

さて、アメリカの大学は違います。例えば、もしこのような広告があれば、あなたはどう思いますか?

これからの時代はアメリカの大学!
高校卒業後、最低6ヶ月でアメリカの正規大学の学位を授与します。
完全通信制・スクーリング不要。渡米不要。
英語がまったくできない人でも入学・卒業できます。
※本学はアメリカの正規大学であり、日本の大学ではありません。


この広告はパッと考えて作ったものですが、望むならこういう怪しい宣伝も可能なのがアメリカの大学です。これはどういうことなのでしょうか。というわけで、その背景にあるアメリカの大学の認可認定制度について説明してみます。

アメリカの正規大学

アメリカで正規に大学を開設・運営する場合、各州の条例(School Licensing Law)に沿った形で州政府に申請・登録することが必要十分条件です。州によって条例が違うので、規制の強い州、弱い州がありますが、Bears'Guide* によると、いわゆる無認定大学(Unaccredited schools)が集まるハワイ州の場合、条例は:

最低1人の雇用者と最低 25人のフルタイム学生がハワイに常駐していること

これだけです。この条例は1999年にハワイ州議会を通ったもので、99年以前は規制自体がなかったようです。

*Bears' Guide to Earning Degrees by Distance Learning 14th Edition, Bear, J.B. and M.P.Bear, 2001

すなわち、受付兼教官1人と、学生25人さえハワイに常駐させてハワイ州に大学登録申請すれば、アメリカ(ハワイ州政府登録)の正規大学が出来上がります。アメリカでは日本のように政府が大学の質に直接関与しません。法律上では6ヶ月で学位を出そうがどうしようが自由なようで、例のBears' によると実際そういう「大学」もちらほらあるようです。

ただ、ここで僕の言う「正規大学」というのは、 アメリカの法律上または書類上は大学となっている 、 というだけの意味です。もちろん慣習上、社会通念上は上記のような州の規制を満たしただけの「大学」は 大学として認められていません 。社会的にも大学と認められるためにはもう一つ大事な要素があるのです。

認定制度

日本と違ってアメリカでは、基本的に政府が私立大学の教育・研究上の質に直接関与しません。その代わり、より複雑な方法で客観的に大学の制度的、教育的な質を保証する仕組みがあります。

アメリカで大学教育の質を保証するのは、 アメリカ教育省が公認した民間の認定団体 (accrediting agencies)です。アメリカで一般的に、法律上ではなく、慣習として「大学・学位」という場合、これらの教育省公認の認定団体に認定された大学と、 その大学から出された学位のことを指しています。このように、慣習や社会通念上、大学であるかどうかを判断する基準を GAAP 基準 (GAAP: Generally Accepted Accounting Principles)と言います。日本では文科省が各大学の教育の質にまで関与しているため、自動的に法律上の大学 = GAAP 基準での大学ということになっているので問題が無いのですが、アメリカの大学、特に名前を聞いたことのないようなマイナーな大学の場合、この GAAP 基準を意識する必要が出てきます。

さて、アメリカ教育省公認の認定団体には以下の3種類あります。

地域団体( Regional Accrediting Agencies
専門団体( Professional Agencies
その他( National Accrediting Agencies :通信教育用)

3番目の「通信教育用」は少し特殊な団体ですが、一般的な大学の場合、(1)地域団体に大学全体の制度的な質の認定を受けた上で、(2)専門団体に各学部・学科の専門的な質に対して認定を受ける、という2段階の認定手続きが行われます。

例としてアイダホ大学の場合について説明します。

アイダホ大学は、地域団体である Northwest Commission on Colleges and Universities から学校全体に対しての認定を受けています。地域団体は学校全体の教育システムを評価し、認定します。教育省が公認する地域団体は全米で6団体あり、全リストは 「未認定校 学位工場 学位商法」 にあります。

地域団体は大学全体の総合的な評価・認定に関わりますが、大学の各学科個別の専門的な質の評価は対象外です。そこで例えば工学部なら、 Accreditation Board for Engineering and Technology (ABET)という教育省公認の専門団体に専門プログラムの質について認定を受けることになります。専門団体は約80団体あり、工学部ならABET、経済学部なら American Association of Collegiate Schools of Business というふうに、学部や専門分野ごとに個別の専門団体から認定を受けることになります。

専門団体からの認定は国家試験などの受験資格にも関わることの多いとても大切なものですが、地域団体の認定を受けている大学は適切な専門団体の認定も受けていることがほとんどです。そこで、「きちんと認定を受けたアメリカの大学」を見分けるには教育省公認の地域団体から認定を受けているのかどうかがキーとなります。

2.認定を受けていない大学の不利な点

州の規則を満たしただけで適切な認定を受けていない大学はアメリカでは社会通念上は大学として認められていない、というように書きました。

それでは どのようなところが認められていないのでしょうか? ハワイ州の無認定大学であるホノルル大学のホームページ(2005/1/21)では以下のように説明されています:



要点を整理すると、無認定大学からの単位・学位が不利な点は:

・ アメリカでは資格取得の際に、認定大学からの学位を要求される(無認定大学からの学位は認められない)ことが多くある。
・ 無認定大学から認定大学に進学・編入しようとする場合、無認定大学発行の単位や学位は認められない場合がある。
・ 就職する際に、無認定大学からの学位は認められない場合がある。

次に、いくつか実例を紹介します。工学系の準国家資格であるFE(Fundamentals of Engineering)テストの例を出すと、例えばミシシッピ州では:

In order to qualify for this exam, Mississippi law and Board regulations require an ABET accredited B.S. degree in engineering, or an acceptable equivalent, or a B.S. degree in engineering, engineering technology, or a related science that is not ABET accredited plus a graduate degree in a curriculum that is ABET accredited at the undergraduate level.

と、ABET(教育省公認の工学系の専門団体)が認定する大学からの学士学位か、それを持っていない場合は ABET に学部が認定されている大学からの院の学位が必要となっています。EF資格は州によって少し規定が変わりますが、おそらくどの州も ABET の認定を要求しているのではないかと思います。

工学系の専門団体である ABET では、認定する学位レベルは1大学に付き1種類だけと決められています。どういうことかというと、学士レベルの学位(BS)を認定したら、その大学の修士(MS)・博士(PhD)の学位は審査しない(認定もしない)ということです。習慣的にほぼすべての大学が学士(BS)を認定してもらっているので、どの大学でも工学部系の修士・博士のプログラムは専門団体からの認定は得られないのです。一般的には、上記のミシシッピー州の例のように、学部レベルで認定されている大学が出した院の学位は大丈夫、というふうに判断されます。

このように、アメリカの大学の「認定」という習慣はかなりややこしいんです。

編入の例として、アイダホ大学では基本的に認定されている大学からしか転学を受け付けていません:

How do I transfer to the UI from another college or university?
All students with 14 or more transferable semester credits from accredited colleges or universities are considered for admission to the UI as a transfer student.


ワシントン州立大学の例でも同じです:

6. TRANSFER CREDIT. (See Rule 114, Requirements for Undergraduate Degree.)_(a) Colleges and universities must be regionally accredited for transfer credit to be awarded.

このように、無認定大学からの単位や学位は、一般のアメリカ社会では、大学の単位や学位として認められていないのです。

3.認定を受けていない大学は悪いのか?

アメリカにはたくさんの 無認定大学 があります(Bears'によると約200校)。

アメリカでは認定は義務ではないので、認定を受けていない大学が一概に悪いとはいえません。その大学独自のポリシーがあり、そのポリシーがたまたま認定団体のポリシーと合わないような場合、大学側が認定団体にすりよる必要性はないからです。でも、少しの「良心的な」無認定大学がある中で、多くの悪質な大学、特にDegree millやDiploma mill (学位製造所)と呼ばれるようなお金で学位を売るタイプの無認定大学がたくさん存在しています。例えば、 オレゴン州 テキサス州 メイン州 ミシガン州 などが公表している、同州内で学位等の使用を認めない大学のリストには Diploma mill がいくつも登場しています。

悪い大学の中にはあの手この手で客をだまそうとしている大学も多くあるようです。例えばアメリカ教育省公認の認定団体からは認定を取れないけれど、自分の大学は無認定だと言ってしまえば客(=学生)が集まらなくなる。そこでどうするか?

自前で教育省非公認の認定団体を作って、その自前の非公認認定団体に自分の無認定大学を認定させて、ホームページで「この大学はXXという認定団体に認定されてます」と宣伝する大学があります。 特に日本人を含むアメリカ国外の学生からしたら、どれが公認されている認定団体でどれが非公認の認定団体か区別をつけるのは難しいので騙されがちです。

無認定大学の中には日本人をターゲットにしているものもいくつかあり、「この大学はアメリカのXX州に認可された正規大学です」という感じの 日本語による宣伝 を前面に出したホームページ構成になっているものを見かけます。

日本では文科省が最低限の大学の質的な保証をしているので、日本人ならその常識をアメリカにも当てはめて、「州の政府に認可された正規大学なら何らかの質的審査はクリアーしているんだろう」と思うのは当然ではないでしょうか? 一般の日本人には、正式にアメリカの州政府に認可されている大学が、25人の学生と1人の受け付けだけで、教育の質の公的審査の無い可能性がある(しかもその学位は社会的に通用しないものである)とは想像 できないでしょう。

多くの日本人がアメリカの大学の認可認定制度のシステムを理解していないのは明らかです。少なくとも無認定大学の日本語での日本人向けの宣伝には「この大学はアメリカの正規大学です」だけではなくて、次の3つを明確に書くべきだと考えます:

(1)アメリカでは民間の認定団体による認定制度が一般的になっていること
(2)アメリカの一般的な大学と違って無認定であること
(3)無認定大学からの学位はアメリカではさまざまな局面で学位と認められない場合があること

こういうネガティブな情報を明確にしない上で日本人の学生を募っている「アメリカの大学」がいくつもある以上、宣伝の受け手自身が賢くなって判断していくしかありません。

2001年からハワイ州では無認定大学に対して「無認定であることを明示する義務」が課されました。 そこで現在は、前述のホノルル大学のホームページのように、ハワイ州本拠の無認定大学のホームページにはことごとく、わかりやすいところに無認定であることが明記されています。Bears'によると、無認定大学の中では、「明記をしたら学生(=客)が集まらなくなる」とハワイ州に法改正を訴える大学も出ていて、ハワイ州議会では今後、無認定表記の義務を取り消すべきかの審議をする予定のようです。

ただこういう記述があるのは英語ページのみです。日本人向けの日本語ページでは認定に関する記述が見つけれなかったり(イオンド大・2002/12)、認定に関する記述はQ&Aの中にあるけれど、どう読んでも「本大学は認定されていないけれど、そもそも認定制度自体が公的なものではないので不認定である不都合はない」という風にしか受け取れない記述がされていたり(PWU大・聖パウロ国際大・2002/12)と、アメリカの認定制度を知らない日本人にとってはずいぶん誤解をまねきやすい日本語ページになっています。

このページではアメリカの大学の認定制度と無認定大学について解説しました。もちろん全ての無認定大学が悪質なわけではありません。しかし、無認定大学は 教育省公認の認定団体による最低限の質の保証がされていないこと、単位・学位は社会的に認められない場合が多々あることは前述したとおり全ての無認定大学に当てはまることです。

個人的には、日本語のホームページを持っている無認定大学で、無認定であることのデメリットを全く、もしくはきちんと日本語で説明せずに学生勧誘を行うのはそれ自体が悪質だと思っています。無認定大学は一般のアメリカの大学ではありません。アメリカの大学の中でも特殊な存在です。しかも一般の日本人がアメリカの大学の認定制度を知らないのは当然なので、学生勧誘を伴う日本語ホームページを持つのなら、無認定大学の特殊性やデメリットの情報も明確に提供すべきです。

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(2007年8月31日更新)

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