私の沼

私の沼

愛されたかった




        愛されたかった





       愛されたかった
       わたし
       壊れた
       粉々に砕け散った
       もうどこにもいない
       探しても
       見つからない
       まるで4階から
       地面に
       パソコン本体を
       落っことしたみたい
       音は聞こえなかった
       ゆっくり落ちて行ったよ
       ダメになった
       ダメに
       もう
       元には戻らない

       何度も何度も抱き合って
       好きだよって
       言ってくれた
       わたしあなたの体中
       愛したよ
       気持ちも繋がったと
       思ったよ
       もう離れないって
       二人は
       ずっと
       一緒だって
       思ったよ
       思ってた

       ねえ
       わたしは変ったよ
       いろんなことは
       もう昔のことだよ
       恨んでなんかいないよ
       わたしはもう
       おとなになったよ
       30歳を過ぎたし
       結婚したよ
       赤ちゃんも産んだよ
       普通の主婦で
       普通の母親だよ
       毎日くだらないことで
       笑ってる
       友達もいるよ
       掃除
       洗濯
       お料理
       こどもの世話
       ペットの世話
       ガーデニング
       そして
       わたしは
       時折

       隅っこにぽつんと置いてある
       水瓶を
       覗く

       わたしの水瓶の中は
       どんよりと腐った水が
       悪臭を放っている
       わたしは
       眺めずにはいられない
       そして
       その中で
       いろんなものが
       腐ったまま沈んでいる
       腐っているものを見るのは
       気持ち悪いけど
       面白いから
       わたしはじっと見る
       明るい日差しも
       ここまでは届かない


       あなたのせいだよ
       二度と
       わたしは

       無防備に誰かを愛したり
       しない










     初出 現代詩フォーラム 2004.7.16


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