confuoco Dalnara

MUSA-武士-


ヨソル(チョン・ウソン)の槍が画面いっぱいに振り回されると
姫(チャン・ツィイー)を守るサナイ(丈夫、ますらお)の道が切り開かれてゆく。

奴隷の身から自由になった立場によるものかどうか
ヨソルの騎士道は縦書きの武士道ではなく
しがらみも負い目もない、自由で剥き出しの騎士道。地平線みたいに水平な騎士道。
ただ姫を守り城に送ろうとするだけの、
名誉も何も求めない、余分なものを削ぎ落とした騎士道。
戦いの場での判断は誰よりも自由で、ためらいなく騎士道を貫いている。
姫や進路をめぐってはヨソルと
チェ・ジョン将軍(チュ・ジンモ)やチンリプ隊正(アン・ソンギ)との立場や意見の相違もあるが
迷いながらも故郷をめざしていく武士たちの思いに心を打たれる映画。

明に派遣された使臣団の1つは高麗に戻った記録がなかった。
砂漠に流刑された後はどうなったのか...。フィクションではあるが、
3つの民族(明、蒙古、高麗)が中国大陸でこのように邂逅し、
高麗の武士たちが砂漠地帯で戦っていたという展開から
現代まで交差する民族や摩擦の来歴を振り返ることができるようで興味深かった。
世界はむかしからこんなふうに戦っていた。

僧が登場すれば、一旦その場がおさまる場面が印象的。
僧はハングルも中国語も話しているが、
バイリンガルであることがその場を収めたのではない。
仏語(仏の言葉)・仏教、仏陀を信じていること、
その時代アジアが共有していた心が
深い部分で3つの民族の共通言語になっているから一旦場が収まったのだと思う。
当時のアジア世界の、仏教を信じるパラダイムのなかでは
僧が剣を納めさせ、容易に民族の恩讐をとびこえて行けたのかもと感じられる場面がおもしろかった。
僧が認知される地理的な広がりがおもしろい。
(仏教を信仰するアジア内だけならよいけれど、
現代に目を移せばイスラム教、キリスト教、ユダヤ教間の争いもある...)。

その点、ヨーロッパの人も
騎士道精神の伝統とキリスト教信仰があり、多民族(アングロ・サクソン系、ラテン系など)が大陸に集まって暮らしているゆえに
この映画に共感できるかもしれないと思う。

ワイヤー・アクションのない地に足の付いた戦いのシーンは迫力があり、
砂嵐や大陸の風景も見どころのひとつ。目を凝らすとシルク・ロードのしっぽも感じられそうな歴史ロマン。2003年12月記。

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