2011年11月26日
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わたくしには行政解剖に携わる仕事を目指す従姉妹がおります。

行政解剖と呼ばれるシステムは、日本では余り確立されておりません。本来行政解剖とは、事件性がなく死因が不明の遺体に対して行われるものですが、全国でも行政解剖される死因不明の遺体は10パーセントほどだそうです。そのほかの場合は、「心不全」と判断されてしまいます。
専門の監察医も存在しない分野なのです。

しかし敢えて、従姉妹はその分野に携わろうとしております。
もちろん、資格を取ってもなれる職種ではないので、今現在は病理研究者を目指し、国家試験を来年に控えております。

従姉妹は元々、医者一族の中で育ちました。
父も祖父も叔父も伯父も従兄弟達も皆医者です。今現在弟も医者を目指しております。
まさしく「お嬢様」といった描写が相応しい環境で育ったわけですが、そんな彼女が行政解剖に興味を惹かれたのには理由があります。

何不自由なく育った従姉妹。しかしあるときに、自分の育った温室のような環境に疑問を持ち、若い頃に家族の同意を得ないまま家を出たことがあるのです。
もちろん、家を出たといっても、家出などをするような人ではありません。大学を卒業した後しばらくして、家族の金に頼らず、自分一人で社会に飛び込もうとしたのですね。
自らの視野が極めて狭いと察した彼女が考えた末、人生の修行するために飛び込んだのが、あの大阪の西成区でした(ロサンゼルスのスラム街に飛び込んだ自分と、思考回路が極めて似てます/笑)。そして選んだ仕事も、「事件屋」と呼ばれるものでした。

「事件屋」とは何か?
西成区での事件屋とは、不動産の仕事です。借金で首が回らなくなった人々の、立ち退きなどに関わる仕事です。
自業自得の人々もいます。しかし、そうでない人々も沢山いたのです。
彼女はその仕事の中で、自分自身の借金の所為でなく、立ち退きの憂き目にあった人々の状況を沢山みました。身内の借金であったり、借金の保証人になったりしたが為に住処を失った人々です。そして場合によっては、安い市営/県営住宅を紹介するなど、後の世話もしていました。特に、仕事での収入が見込めない老人達です。もちろん、仕事外のボランティアでの行為です。
そう言った仕事柄ですから、何人もの孤独死を目撃したのです。

裕福な医者の家で、皆が金銭的に恵まれ、穏やかな気質の優しい人々しかいない、社会のきれいな部分しか存在しない家から出た彼女は、底辺と呼ばれる社会の片隅での、厳しい現実の出来事を、5年以上に渡り見つめ続けたのです。

そして今彼女は、病理研究者を目指す傍ら、行政解剖が行われる場に立ち合わせてもらってます。

医者の家出身だけれども、敢えて死体と向き合う仕事に惹かれる。
その理由を聞いたことがあります。
彼女の答えは、とてつもなく現実的で、どこか切ない理由でした。

「野垂れ死んだ遺体を調べると、餓死したってこともわかる。そういう遺体は、すごく多いんだよ。」

彼女が教えてくれたことがあります。

餓死した遺体を調べると、骨だけがしっかりとしていることがある。筋肉組織を調べたりすると、その人が育った環境が、とても健康的だということが分かる。
幼い頃から大人に成長するまで、誰かに大事にされて、ご飯を沢山食べさせてもらって、幸せな日常を送っていたことが分かる。

そんな風に、満ち足りた人生で育ったのに、その人はどこかの地点で人生を踏み外し、身内も知り合いも失い、全てを失い、食べるものすら得ることが出来ず、餓死したのだということが、その人が遺した体から、知ることができるのだ。

「袖すりあうも何かの縁って言うでしょ?たとえ身内がもういなくても、きっとこの世のどこかには、この人のことを覚えている人がいるんだよ。それが、飲み屋で隣に座った人でもいいし、毎日買い物に行ってた店の店員でもいい。この世のどこかには『あの人元気にしてるかな。』って、思う人だっているんだよ。だって、どんなに孤独な死に方をしたって、生きてたときには様々な出会いや出来事があったんだから。」

誰も弔ってくれる人がいないから、誰も看取ってくれないから、身内も知り合いもいないから、たった独りで死んでしまったからといっても、名前も分からないその人は、「人間」なのだ。

それが彼女の信念なんですね。

「生きてたら、心配してもらえる。皆が世話してくれる。医者は沢山いて、生きてる限り人は面倒を見てもらえる。でも、私は独りで死んでしまった人々のことを、世話してあげたいんだよね。せめて、弔いの気持ちを込めて、その人が生きてきた証に気づいてあげたい。その人が、どんな人生を歩んできたのか、理解してあげたい。」

孤独死をした身元不明の人にも、様々な人生があった。
今幸せに生きてる人々と同じような日々だってあった。
幸せなときには、その人を気遣う人だっていたはず。だけど、そんな人々はその人を弔うことは出来ないから、その人のかつての知り合いたちの代わりに、彼女は遺体の持ち主の人生の片鱗に触れて、弔ってあげたいのですね。

彼女は、「死体が怖い、気持ち悪いなんてナンセンスだ」といいます。
誰しもがいずれ、通る道なのですから。
誰しもが死んだら、死体になるんです。

「何ヶ月も放置されて、腐って解け始めてる遺体だってあるけど、でもね、それは『人』なんだよ。皆気持ち悪いとか言うけど、だけど彼らは人だったし、死んだって人であることには代わりは無いんだよ。」

誰かに見取ってもらうこと、弔ってもらうことはとても幸運なことです。だけどそんな人ばかりではない。

「事件屋やってたときに、孤独に耐え切れず自殺したお婆さんがいる。自殺するとき、私に連絡してきたんだよ。もし私がいなかったら、彼女は身元不明の遺体になってたよね。彼女は息子の借金で全てを失うまでは、裕福でお金持ちのご婦人だったんだよ。彼女みたいな善良なのに、身を持ち崩した人だっているんだよね。私は恵まれた環境で育ったけど、社会の底辺からは目を反らすことはないよ。」

どんな人にも人生がある。
その人生は、亡くなった後も、その身体に記憶される。
全身の細胞全てが、生きてきた過程の全てを覚えている。それは、骨になっても変わることはない。

死体は声を持たないけれど、様々なことを語るのです。
そして彼女は、様々な人生を見てきたからこそ、人が遺す最後のメッセージに触れる仕事に携わりたいと願っているのです。

裕福で恵まれた彼女ですが、自ら社会の底辺に目を向け、思い遣りをもって接します。
こう言う身内がいることで、私自身も恵まれているなと思います。





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最終更新日  2011年11月26日 12時03分50秒
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