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なまけいぬ
自作の小説を載せています。ツッコミどころ満載ですが…
2006年05月30日
テーマ： 連載小説を書いてみようｖ(10175)
カテゴリ： 楽園に吼える豹
目の前の席にそろって腰をかけた二人を、橘は失礼にならない程度に見つめた。
橘から見て右が、ゴウシ・草島。
今でも現役の指導教官なだけあって、筋骨隆々の体つきだ。エラの張った顔は見る者によっては畏怖を与えるが、気心の知れた者が見れば、厳しそうな顔つきから優しさが滲み出て見える、そんな印象だった。
それに対して、その隣に座っているユキヒロ・カガリは、彼とは正反対の外見である。
おっとりした穏やかな性格だろう、と初対面の橘にさえわかってしまうほどの優しそうな顔つき。GSとは思えないほど華奢な体。全体的に見れば、女性的な印象さえ抱くほどだ。
そんなアンバランスな二人を交互に見つめていると、ゴウシが口を開いた。
「アスカのことについて聞きたいって話だが……」
「あ、ハイ！ え…と、実は…」
アスカの説得を引き受ける経緯を説明しようとしたが、ゴウシは手でそれを制した。
「いい。タランダ博士から聞いてる。その辺は省略してくれ」
マリエだ。彼女はプロジェクトE実行総合本部に科学者として雇われている。一回り以上も年が上のゴウシが敬称つきで呼ぶのはそのためだ。
それにしても根回しがいい。機転の利く友人に、橘は改めて感謝したい気分だった。
「まずアスカの居場所だがな、はっきり言って俺にもわからん。あいつの様子がおかしくなってから、俺も何度か繁華街に繰り出して探してみたが、一向に見つからねえ」
お前はどうだ、とゴウシはユキヒロに水を向けた。
「僕も、草島さんと似たような感じです。アスカさんの居場所に心当たりは……」
そう言って首を振った。
橘は落胆した。この二人ならもしかして、と思ったのだが。しかし、どれほど親しくとも相手が今どこにいるか予想することなど、通常は至難の業だろう。過剰な期待は禁物だ、仕方ない―――そう気を取り直しかけたときだった。
「でも、最近一度だけ彼女に会いました」
「え！？」
「はい…。たまたま夜に大通りを歩いていたら、偶然前からアスカさんが歩いてきて…」
「きて？」
橘は少々緊張しつつ、その当時の映像をイメージしている。
ごくりと唾を飲み込んだ。
彼はアスカから何か聞き出せたのだろうか。
「……逃げていかれました。目にも止まらぬ速さで」
「…だろーな……」
ゴウシは苦笑した。
橘も落胆したが、アスカのその反応は自然なものだ。自分もろくに話もさせてもらえずに逃げていかれたのだから。
（それにあの足の速さじゃ、追いかけることもできないしね……）
それ以来、ユキヒロはアスカに会っていないという。
「でも……友人の君まで避けるっていうのは、どういうことだろう」
先ほどは、アスカがユキヒロから逃げるのは自然なことだと思ったが、真実二人が親しいのなら会った途端に脱兎のごとく逃げるというのは、よく考えれば少々おかしくないか。
橘の質問に、ゴウシがユキヒロに代わって答えた。
「“友人だからこそ”避けたってことなんじゃないのか？」
こともなげにそう言って、ゴウシは懐から取り出した煙草に火をつけた。紫煙がゆらゆらと天井へ上っていく。
「俺たちには知られたくないことがあったんだろ。まあ大体見当はつくが……」
「あの…それって……」
橘もそこまで鈍感ではない。
アスカの狭い世界では、非行の原因など限られている。
友人関係にひびが入ったのでなければ、
『アスカちゃん…家で何かあったの？』
『てめえには関係ねえだろ！！』
―――原因は一つだ。
「やっぱり……家族関係に何か問題が？」
つづく
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橘から見て右が、ゴウシ・草島。
今でも現役の指導教官なだけあって、筋骨隆々の体つきだ。エラの張った顔は見る者によっては畏怖を与えるが、気心の知れた者が見れば、厳しそうな顔つきから優しさが滲み出て見える、そんな印象だった。
それに対して、その隣に座っているユキヒロ・カガリは、彼とは正反対の外見である。
おっとりした穏やかな性格だろう、と初対面の橘にさえわかってしまうほどの優しそうな顔つき。GSとは思えないほど華奢な体。全体的に見れば、女性的な印象さえ抱くほどだ。
そんなアンバランスな二人を交互に見つめていると、ゴウシが口を開いた。
「アスカのことについて聞きたいって話だが……」
「あ、ハイ！ え…と、実は…」
アスカの説得を引き受ける経緯を説明しようとしたが、ゴウシは手でそれを制した。
「いい。タランダ博士から聞いてる。その辺は省略してくれ」
マリエだ。彼女はプロジェクトE実行総合本部に科学者として雇われている。一回り以上も年が上のゴウシが敬称つきで呼ぶのはそのためだ。
それにしても根回しがいい。機転の利く友人に、橘は改めて感謝したい気分だった。
「まずアスカの居場所だがな、はっきり言って俺にもわからん。あいつの様子がおかしくなってから、俺も何度か繁華街に繰り出して探してみたが、一向に見つからねえ」
お前はどうだ、とゴウシはユキヒロに水を向けた。
「僕も、草島さんと似たような感じです。アスカさんの居場所に心当たりは……」
そう言って首を振った。
橘は落胆した。この二人ならもしかして、と思ったのだが。しかし、どれほど親しくとも相手が今どこにいるか予想することなど、通常は至難の業だろう。過剰な期待は禁物だ、仕方ない―――そう気を取り直しかけたときだった。
「でも、最近一度だけ彼女に会いました」
「え！？」
「はい…。たまたま夜に大通りを歩いていたら、偶然前からアスカさんが歩いてきて…」
「きて？」
橘は少々緊張しつつ、その当時の映像をイメージしている。
ごくりと唾を飲み込んだ。
彼はアスカから何か聞き出せたのだろうか。
「……逃げていかれました。目にも止まらぬ速さで」
「…だろーな……」
ゴウシは苦笑した。
橘も落胆したが、アスカのその反応は自然なものだ。自分もろくに話もさせてもらえずに逃げていかれたのだから。
（それにあの足の速さじゃ、追いかけることもできないしね……）
それ以来、ユキヒロはアスカに会っていないという。
「でも……友人の君まで避けるっていうのは、どういうことだろう」
先ほどは、アスカがユキヒロから逃げるのは自然なことだと思ったが、真実二人が親しいのなら会った途端に脱兎のごとく逃げるというのは、よく考えれば少々おかしくないか。
橘の質問に、ゴウシがユキヒロに代わって答えた。
「“友人だからこそ”避けたってことなんじゃないのか？」
こともなげにそう言って、ゴウシは懐から取り出した煙草に火をつけた。紫煙がゆらゆらと天井へ上っていく。
「俺たちには知られたくないことがあったんだろ。まあ大体見当はつくが……」
「あの…それって……」
橘もそこまで鈍感ではない。
アスカの狭い世界では、非行の原因など限られている。
友人関係にひびが入ったのでなければ、
『アスカちゃん…家で何かあったの？』
『てめえには関係ねえだろ！！』
―――原因は一つだ。
「やっぱり……家族関係に何か問題が？」
つづく
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