なまけいぬの、お茶うけをひとつ。  

なまけいぬの、お茶うけをひとつ。  

2006年06月09日
XML
カテゴリ: 楽園に吼える豹
どさりという音を立てて、若い男が路地の隅に崩れ落ちた。

年のころは高校生くらいだろうか。顔面は血だるまになっており、顔はあちこち腫れて変形してしまっている。

息をするのも苦しそうなその男を、アスカは血だらけの拳をさすりながら冷たく見下ろした。


喧嘩の原因は些細なものだ。


夜道を歩いていたところ、そのあたりにたむろしていた高校生のグループが、いいカモを見つけたとばかりに近寄ってきた。こちらはリョウジとアスカの二人連れだったし、彼らよりも明らかに年下なので、ちょっと脅せば金をもらえると思ったのだろう。

図々しくも軽い調子で、やんわりと金を出すよう要求する男たち。

だが、



「失せろよ。誰にもの言ってんだ」



リョウジはアスカがついていると思って、居丈高な態度に出た。実はこういうことは珍しくない。

かくして、四対二の喧嘩が始まった。



勝負はすぐについた。
ほとんどアスカが一人で倒したようなものだ。

四人のうち三人はほうほうの体で逃げていったが、逃げ遅れた一人は半殺しの憂き目に遭った。
リョウジは既に立ち上がる力もない相手の頭を、更に思いっきり蹴飛ばした。

「フン、いい気味だ」

彼自身は、喧嘩が嫌いではないらしい。アスカと組んだことで喧嘩に負けることがなくなったためであろう。

リョウジは自分を恐喝しようとした男の服を探り、財布を探し当てると満足げに笑った。

「ラッキー♪」

「…………」

そんな彼に、利用されていると思わないでもなかった。

だが彼は、自分を対等の人間として扱ってくれている。「化け物」などと思わずに、話し相手になってくれる。
そう思えるからこそ、アスカはリョウジとつるんでいる。ぬるま湯に浸かるように。

(人間なんて、心のどこかじゃ他人を利用してるもんだ)

それならば、多少リョウジが自分の利用価値を見出そうとしたところで、それが何だという気がしてくる。

「この金で遊ぼうぜ」

血みどろになった男から奪い取った財布をひらひらと振りながらリョウジが言った。

頭が痺れたように、罪悪感は湧かなかった。自分の身に降りかかる出来事も、自分がなす行動も、全て意味がない。



そう、母に拒絶された、あの日から。








つづく


ネット小説ランキング、人気ブログランキングに参加しました。
ワンクリックしていただければ小躍りして喜びます♪

ネット小説ランキング>異世界FTシリアス部門>「楽園(エデン)に吼える豹」に投票

人気ブログランキングバナー





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2006年06月09日 21時54分40秒
コメント(4) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

お気に入りブログ

いつかのご飯@大阪 アイネスターゲスさん

black obelisk black_obeliskさん
Emy's おやすみ前に… emy&acoさん
~*合縁奇縁*~ 桜嶺みすずさん
日月の聲 渡瀬 悠宇さん

コメント新着

まよいねこ@ Re:凛花9号 「櫻狩り」最終回感想(01/14) なまけいぬ様、初めまして。 「櫻狩り」…
なまけいぬ @ Re:男子っ!!(03/26) アイネスターゲスさん 高橋選手、モチベ…
アイネスターゲス@ 男子っ!! 大輔くん頑張りましたね! テンション低い…
なまけいぬ @ Re[1]:2010年世界フィギュア 男子(03/26) black_obeliskさん 何となく、今年の世界…
black_obelisk @ Re:2010年世界フィギュア 男子(03/26) オリンピックでファンも燃え尽き症候群・…

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: