― 碧 虚 堂 ―

― 碧 虚 堂 ―

常― All my life ―

『常』― All my life ―





 「―――てめェ、ここんとこずっと料理しっぱなしだな」

 「ん~~?そうか?」

 キッチンに立って何やら料理の腕を振るうサンジに、椅子に腰掛けてテーブルに頬杖付いたゾロは話し掛けた。



 W7に戻ってきた麦わら海賊団はガレーラカンパニーから仮宿舎を提供され、長く続いたように感じた闘いの傷痕を癒していた。

 またもやルフィより先に、だが他メンバーより最後に目が覚めたゾロは「クソ剣士はまたブービー賞だな」なんて憎まれ口叩くサンジの

第一声と共に、他のメンバーにも笑われた。

 今回も包帯でグルグル巻きになってる自分の姿にため息を零し、他のメンバーも自分と同じく包帯やらバンソウコウだらけの、そして

嬉しそうな表情を見てゾロも破顔した。



 今現在、寝ながら食事を取るなんて凄い技を身につけたルフィの為に、サンジは食事の用意をしている。

 部屋には買い物に出掛けなかったゾロとサンジ。そして未だに目が覚めないルフィ。

 寝ているルフィのイビキは酷く、サンジが料理をする物音すら僅かに聞こえる程度だ。

 「ルフィがまた直ぐに腹減らすだろうからな。少しは作り置きしとかねェと……」

 少し嫌そうな声でサンジは呟くが、内心は食事を作るのが楽しいのだろう。話し掛けたゾロの方には振り向かず、せっせと新しい料理に

取り掛かってる。

 それを見ていて楽しくないのがゾロだった。

 「さっき、ナミ達が居た時も給仕してやがったし、その前は昼メシの用意……」

 サンジの後ろ姿を見ながらゾロは珍しく口数多く話した。

 ゾロの言う通り、サンジはずっと食事を用意したり、オヤツやお茶を出したりと、一人で忙しそうに働いていた。

 今は海上生活でもないし、ガレーラの社員に頼めば食事くらいは用意してくれるだろう。しかし、サンジは自分が料理したいと言い

出した。

 サンジも、他のメンバーと同様に傷だらけで身体はボロボロだった。重い物を持った時など、辛そうに顔を歪めたのをゾロは見ている。



 「てめェも。今の内に少しは身体、休めとけ」

 「お!クソ剣士が俺の心配するなんざ、明日は雹でも降りそうだな!」

 「アホか。……今回の事に海軍が黙っちゃいねェだろうからな。また直ぐに慌ただしい毎日に戻るぞ」

 真面目な話をしているのに、サンジは冗談を言ってゾロに返す。ムっとしてゾロは今後の事も考えろと諭した。

 「―――何つーか、嬉しくてな」

 「あ?」

 不意にサンジは声のトーンを落とし、言葉を紡ぐ。相変わらず、手元は忙しなく食事の用意をし、ゾロの方にも振り向かないままで。

 「―――やっぱよ、俺はコックだから。皆がメシ食ってくれんの見てっとホッとすんだよ。また冒険できんだなとか、また皆一緒なんだな、

とか……」

 「………」

 「クルーが増えて、並べる皿の数が増えてくのが妙に嬉しいんだ。もっと腕を振るいたくなっちまうんだよ。料理作って、それ食って笑って

もらうのがもう、俺にとっちゃ普通の毎日なんだろうな。……まぁ、そんなのガキくせェから、絶対に言わねェけど」

 『ガキくさい』事をサンジはいつも嫌がる。バラティエでは一番の年下だったから、いつまで経っても子供扱いされてムカついたと、ゾロに

話した事があった。

 ゾロに言わせれば、ルフィ達といつもバカ騒ぎしてはしゃいでるサンジはどう見ても、『ガキっぽい』のだが。

 だが、そんな『ガキくさい』自分を自覚して、サンジはゾロにだけ吐露する。

 「ガキくせェのは嫌いじゃなかったのか?」

 態とサンジに訊ねてみた。

 言ってしまった事を恥ずかしく思ったのか、サンジは一瞬だけ黙り込む。不意に横顔だけを見せ、笑った顔で答えた。

 「只の独り言だ。俺の独り言はクソ剣士にしか聴こえねェから、な」

 自分達にはそれだけの、『本音』の独り言を零すくらいの繋がりが存在しているのだろう。





 「―――じゃあ、今度は俺の独り言だ。“俺を安心させろ”」

 「は?」

 席を立ったゾロはサンジの背後に近づき、後ろから抱き寄せた。触れられて怪我だらけの身体が痛んだのか、驚いたサンジのリアク

ションがいつもより大きかった。

 「うわっ!アホ!料理中は触ってくんな!」

 「ウルセェ」

 突然の事にサンジは怒鳴ったが、ゾロは一言でサンジを黙らせた。

 「……んだよ、俺がじっとしてる方が剣豪サマは嬉しいのか?」

 からかう素振りでサンジは笑う。自分の首筋に顔を寄せるゾロの頭を片手で撫でた。

 「ああ、安心する」

 「!……お前、人に甘えるクセあるよなァ」

 「俺が?」

 「アラバスタでもそうだったじゃねーか。急に……」

 言いながらアラバスタであった事を思い出したサンジは言葉を途切らせた。

 後ろに居るゾロにはサンジの今の表情は窺えないが、赤面してるのだろうと分かる。

 手に持っていた菜箸を置き、サンジはゾロの方へ振り向く。

 「しょーがねェな、甘えたがりのクソ剣士は」

 言いながらゾロの背中に腕を回し、肩口に顔を寄せる。

 暫くそうしてると、急に顔を上げてサンジは

 「じゃあ、すっか?」

 「へへっ」と、楽しそうに笑いながらゾロに訊ねる。そうして軽くゾロの頬に唇を寄せた。

 「……料理は?」

 少し意外なサンジからの誘いにゾロは驚きつつも訊き返した。チラリと目の前の料理に視線を置く。もう殆んど出来上がっていた。

すると、サンジがゾロの顔を両手で掴み、自分の方へムリヤリ向かせた。ゾロにスネた顔を見せる。

 「今くれェは、てめェの方が優先順位も先だろ?」

 「―――まァな」

 ゾロも笑い返す。




 「取り敢えず、バスルームに移動な」

 「ここで良いだろ?」

 「良くねーよ!ルフィがそこで寝てんだぞ!?」

 「まだ起きねェよ」

 「ナミさん達が帰ってきたらどうすんだよ!?」

 「……ったく、喧しいアヒルだな」

 「んだと!?……つーか、俺をじっとさせたいんじゃなかったか?」

 「ああ、後でな」


 パタン。


 ルフィのイビキ声が響く部屋に、バスルームへのドアの閉じる音が一つ。


End.





⇒後書き

 じっとしてろよ、サンジ!!(←取り敢えず、自分でツッコんでおく)

 私、こんなのばっか好きですね。甘えるゾロ(自覚なし)と、あやすサンジ(ツンデレ)。ええ、大好きだともっっ!!

 前回のアラバスタの時より進展した仲を書きたくて、態と接触を少なくしたんですが……う~む、難しい。


 タイトル『常』は「常日頃」、「日常茶飯事」、「いつもの感じが好き」、そんな解釈でお願いします。


 2006.12.16



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