― 碧 虚 堂 ―

― 碧 虚 堂 ―

No title -はじまる波-




― 融解点への要因と、複雑多様なその理念 ―





 (興味があるかないかで言うなら、多分ある―――)

 と、ゾロは思う。



 船尾の甲板に座り込み、手すりに背中を預けたままでゾロはミカン畑を眺める。

 そこには陽光に照らされ、キラキラとはぜる金色があった。

 (珍しいヤツだ―――)


 ゾロが珍しいと称す金色。

 同じ船に乗るコック、サンジの金髪だった。


 金色の髪をした女は何度となく見た事もあったゾロだったが、男であんなに眩しい髪を見たのはサンジが初めてだった。

 加えて、青白いくらいの白い肌。海の上で船上生活していたらしいのに日焼けもしないのかと疑問に感じる。

 背丈は自分と同じだったが、体つきも自分に比べればはるかに細い。

 その割に得意の蹴りは強烈だし、丈夫そうだから筋肉もそこそこ備わっているのだろうとゾロらしく考えてみる。


 だが、ゾロには掴み所のないコックの正体が幾つかある。

 同じくミカン畑に居るナミの隣りに来るや、メロメロとし出すサンジ。

 何であんなにも女に締まりが悪く、デレデレしてしまう性格なのかと首を傾げる。

 でもって女を見れば、砂を吐きたくなるような台詞を何処から製造してくるのか口から止め処なく零れてくる。

 あんな性格は一生、自分には理解できないであろうと、いつも思う。



 ゾロが真剣な顔をしてそんな事を考え込んでいると、ウソップが前を横切る。

 「……」

 チラっと見たゾロの視線がサンジを追い駆けていると察したウソップは足を止めてゾロに話し掛けた。

 「―――あのよ……。サンジと仲悪ィのか?」

 急な質問にゾロは何の事か分からないと言った風に、「あ?」と返す。

 「いや、何つーか……あんましお前らが仲良くしてんの、見た事ねーからさ」

 “偉大なる航路”に突入して直ぐ、大国の王女様も諸々の理由で船に同乗する事になった。

 そしてトナカイの船医も加わり、仲間が7人と1匹に増えて数日。

 傍から見たら仲良しな麦わら海賊団の面々だが、ゾロとサンジの仲があまり宜しくない事をウソップも知っている。

 その事を気にしてウソップなりに心配して声を掛けたのだろう。

 「……そうだな」

 だが、2人の仲の悪さは本当の事なのでゾロは否定しなかった。

 コックを仲間にした!と、船長のルフィがサンジを連れて来て早々にゾロとサンジは喧嘩をしている。

 初めて会った時は何とも思わなかったが、言葉を交わしてみると明らかに2人の性格は真逆だった。ウマが合わないとは、きっとこの

2人の事を言うのだろう。

 それに、

 「話すようなネタも無ェし」

 と、ゾロは言葉を付け足す。

 「―――ホホ~」

 「何だよ?」

 意味深な相づちをされて今度はゾロが訊き返した。

 「話す話題でもあれば話してみてェとか思ってるワケだ」

 暫く考えてから、言葉を紡ぐ。

 「別に。そーゆー意味でも無ェが」

 「喧嘩ばっかしてっから、サンジの事は嫌ってんのかと思ったからよ」

 「―――――」

 その言葉にゾロは黙り込む。

 (……“嫌い”……とは、また別な気がすんだが……)

 定まらない自分の感情にスッキリしないまま腕を組んで視線をサンジに戻すと、視線に気付いたのかサンジと目が合う。

 ヘラヘラしていたサンジの顔がゾロを見るや瞬時に引き締まり、眉間に皺が寄る。

 飛んできたかのようにゾロの前まで早足で来ると、

 「何だ、クソ剣士。ガンくれてんじゃねーぞ、コラ」

 と、非常に口の悪い台詞がゾロへと向けられた。その間にウソップは2人の喧嘩が始まりそうな気配を感じて素早く逃げて行った。

 ゾロはもう、それに慣れきっていたので平然としたままだ。

 「ああ、てめェの髪が珍しいからよ。見てた」

 実に何でもなかった感じにゾロが正直に話すと、サンジは髪の事を言われて褒め言葉と取ったのか、表情が明るくなる。

 「へェ!てめェでもこの艶やかで手入れが行き届いた俺サマの髪の良さが分かるってか!」

 一転して嬉しげに語るサンジを横目に、ゾロは余計な感想まで口にした。

 「―――ちっこいのが飛び跳ねててヒヨコみてェだよなぁ」

 「んだと!?」

 直ぐさま、サンジが激昂する。喧しく文句を言い出した相手を余所に、ゾロは軽く笑みを零す。その笑みを自分への挑発と勘違いした

サンジは益々、声を荒げた。


 全くもってコックの性格は掴めないものの、こうして相手をからかうのは楽しいと言う事だけは覚えた。

 自分も、気づけばコックの馬鹿馬鹿しい悪口に乗せられて怒る事もしばしば。


 (そうか、こんな感じも初めてかもな)


 気づけばゾロの周りには肩を並べるような仲間は居なかった。


 大剣豪を目指して海へと出てから仲間も居らず、向き合うのは自分が強くなる為だけの標的でしかない。

 だから、こうして歳相応といった感じに口喧嘩したりするのが楽しいし、面白い。

 他のメンバーとは取れない、単に馴れ合うとも違う距離感があるのだ。


 言い合って、言い返されて、この距離が心地いいと感じる。


 珍しい感情が自分に芽生え始めた事を、ゾロは少しずつ自覚していった。




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