Busters-EN BLOG

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.hack//Artificial vol.1


序章『始まり』

((ゲームデータ、インストール))

 CPUによってプログラムされた機械的な音声と供に
 パソコンに、今まで何度と無く見てきた文字が浮かぶ。

((システム起動……処理に時間が掛かります。残り2分51秒))

 さっきと同じ声が、再び告げる。
 データの処理状況を示す、横向きの青いバーが、徐々に伸びていく。やがて、そのバーが処理時間終了と供に上限へ達する。

((リンク先にアクセスします))

 また、同じ声が感情の無い声で告げる。
 バーナーと小さな文字が表れ、そしてすぐに画面が変わる。
 廃坑の様な錆びれた背景が写され、タイトルロゴが表示される。

『The World R:2』

 今現在、全世界で大流行しているネットゲーム。
 同じく全世界に名を広めている『サイバーコネクト社』、通称CC社、による運営で、前作「R:1」に継ぐ人気を誇っている。
 画面にはタイトルロゴのほかに、下部にログインの文字。別段迷うことなく、その文字にカーソルを合わせ、決定する。再び、画面が切り替わる。
『キャラクターデータ作成』
 The Worldは、『PC』と呼ばれるキャラクターを作り、モンスターなどと戦闘することでキャラを強くしたり、任務を達成したりする、オンラインRPGである。
 ゲームのプレイヤーは、自身が使うキャラを自由に作ることができ、他社以上の自由度が、また売りなのである。
「…………」
 PCのディスプレイの前で沈黙する少年。表情も変えず、作業的にPCのデザインエフェクトを決定していく。外見的には無表情でも、内面的には全てをスムーズに行っている自分に呆れていたりする。
 PCの見た目は、形から大きさ、色まで細かく選択することができる。次に、PCの職業を決定する。
 職業とは、PCはモンスターなどと戦う際に武器を使用するが、各種存在する武器はその武器の専門職でなければ使うことができず、それを決定するものである。
 代表的なのは『双剣士』と呼ばれる、小さな二本の剣を扱う職業。
 他にも、大きな剣を使い、圧倒的な破壊力を持つ『撃剣士』や攻撃が苦手な変わりに、仲間の回復や補助を得意とする『呪療士』など、様々で個性的な職種が揃う。
「ん。マルチ、ウエポン」
 マルチウエポン、つまり『錬装士』は、少し難癖のある上級者向けの職業で、数種類の武器を操ることができる、特別な職業である。
「武器……」
 錬装士には、少し特別な仕様があり、その規定を守って武器を選択する。
 錬装士の特徴は複数の武器の所持だが、強い武器ばかり選べてしまうと、極端に強くなってしまうからだ。
 武器選択画面に入ると、少年はさほど迷わずに『双剣』『刀剣』『大鎌』を選択する。すると画面に、『4/4P』と表示され、選択できる規定をしっかりとクリアしている。
 武器ごとにポイントが設定され、その合計が4P以内になるようにしなければならない。今回の場合、双剣が1P、刀剣も1Pで、大鎌が2Pで、合計4Pとなっている。このポイント制限をオーバーする武器選択はできない、ということだ。故に武器を3種持つものも居れば、2種持つものも居る。
 そのまま『キャラデータ作成完了』のボタンを押す。錬装士の制限は満たしているため、何の問題も無く確認画面へ移る。
 そうやって完全にゲームをプレイする状態が整い、いざ、ゲームをスタートする。ディスプレイ上の画面が暗転し、数秒後、真っ暗な画面上に文字が表れる。

『Welcome to The World』

 少年――神楽清は、錬装士『シン』となって。
ネットゲーム、『The World R:2』を、スタートする。

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第二章『友達』


((悠久の古都 マク・アヌ))

 画面上に、そう表示される。画面中央右には、夕暮れに染まる街が、画面右下には『The World R:2』という表示が。シンには、何もかもが懐かしい。やがて、画面が切り替る。
 『カオスゲート』と呼ばれる転送装置から、青白い光に包まれて、さっき作製したばかりのPCが姿をあらわす。
人族の男性型PC。髪は白く、少し長め。華奢なボディは白を基調とし、アクセントとしてか所々に黒いラインが走る。肌は白く、ルックスの良い外見と、合うような合わないような。
 そして、端正な顔立ちの中に2つ浮かぶ、その左右の瞳は深く透き通る碧に染まっていた。
「セーブ、と」
 とりあえずデータ保存のためすぐ横にある、セーブ屋へ向かう。今日は実際にゲームを遊ぶのではなく、PCを作成するのが目的だった。
『セーブが完了しました』
 画面にそんな文字が浮かび、セーブが終了する。画面にはセーブデータの大まかな情報が表示されるが、作成したばかりなので当然レベルは1。
 レベル上げをし、キャラクターを強くするためには戦闘を行うのだが、PCのレベルでは行くことのできるエリアが限られるため、初心者用エリアのワードを入手しなければならない。
 その情報を得るため、キャラだけを作っておいて、ログアウト、後でBBSにでも行こうと考えていた。
 いざ、メニューを開き、ログアウトしようとした時―――
「ねえ、君って初心者さん?」
 若い、男性のものらしき声が掛かった。声からは、純朴さを感じるほど明るく透き通っていた。
「え?」
 それが、知人の物のように聞こえ、少々の驚きとともに振り返る。
 そこには、緑色の人族男性型PCと、オレンジ色の獣人男性型PCが並んでこっちへと向かっていた。後者はどちらかというと幼い印象で、男の子、というほうが合っているかもしれない。
「そう、そこの君。ええと……シン君?」
 自分の前まで近づき、カーソルを合わせたのだろう、名前を確認してくる。
「あ、ん……」
 曖昧に答える。突然声を掛けられたことと、こちらは向こうを知らないことから、当然の緊張によるものだ。
「もしかして緊張してる? あのさ、もし初心者さんなら、ボクが色々サポするよ(^^)/」
 なんて、緑の青年PCは顔文字付の文字と元気な声でそう告げる。その声は、無遠慮ではない親しみの物。
 どうやら、シンを初心者だと思い、声をかけてくれたようだった。
「サポ……サポート?」
 確認するように聞き返す。その単語はこのゲームでは頻繁に用いられる単語で、当然シンも耳にしたこともあれば、使用したこともある。
「そうなんだぞぉ、おいらたちは、初心者支援ギルド『カナード』って言うギルドのメンバーなんだぁ♪」
 緑の青年の横にいた獣人PCが発言する。こちらは、見た目どおりの幼さを感じさせる、しかしやはり元気の溢れた声だった。どこか間延びした声からは、のんびりした人格を想像せざるを得ない。
「『カナード』……初心者支援……」
 繰り返すようにつぶやく。聞いたことはあるような響きだが、記憶を探ってもそれらしいものは出てこない。
「そう。これでも、結構有名なんだよね。どうかな? 良かったらこのゲームのこと、色々教えるよw」
 どうやら彼らは中級者。ないしそれ以上のゲーム経験者のようだ。ギルドの活動として何度か同じ事を繰り返しているのだろう、手馴れた様子で話しかけてきていた。
「ん……」
 とはいっても、シンは悩む。
「……」
 正直な話、自分はサポートが必要な身ではない。ゲームの操作から細かい仕様まで把握しているつもりだった。しかし、せっかく声をかけてくれた2人に、断るのもどうかとも思っていた。さらに自分は見た目は完全に初心者だ。断るにも不自然すぎる。
「どうかな?」
「どうかなぁ?」
 2人同時に聞いてくる。実のところ、「2ndキャラなんだ」といえばそれでいいのだろうが、いまさらそれをいうのも憚られる。何しろ、向こうはこちらのことを気遣ってくれているのだから。
「それじゃあ、お願い、します」
 2ndとは言っても、キャラが違う以上、勝手が違ってくるかもしれない。ウォーミングアップのつもりで教えを請うのもいいかもしれない、と思ったのだ。
「ホントに!? 僕たちでいいのかな?」
「よかったぁ、これでおいらも少しは役に立てるぞぉ」
 心底嬉しそうに言う2人。事実、嬉しいのだろうが――
(誘ったのは、そっちなのに)
 誘ったほうが喜んでいる。
 そんな光景に思わず笑みが出る。友人の前ではほとんど、家族の前ですら時々しか笑わない自分が、である。

まごうことなく、本当に純粋に微笑んでいた。




「じゃあ、そろそろエリアに行こうか」
 マク・アヌを詳しく案内してくれた後、ドーム内の施設の説明、他のPCとのトレードなど、とてもわかりやすく、かつ友人のように接しながら教えてくれた。そこに、教える側と教えられる側、という隔たりは感じられなかった。
(なるほど)
 シンは納得する。これだけ人のいいキャラなら、安心して初心者も身を任せられるはずだ。
 緑の青年、―――PC名はシラバスと言った―――は、学校の先輩、または兄というような、頼れる親近感があり、
 獣人PC、―――PC名はガスパーと言う―――は、その特徴的な間延びした喋り方と、他でもない、そのぽてっとした体型がなんともいえない癒しを与えてくれる。
 どんな人間でも、よほどの人間不信でもない限り、この2人を見て『ガラが悪い』とは絶対に思わないだろう。人間不信がネットゲームなどやらないだろうが。
「そうだなあ、やっぱり初心者さんにぴったりなエリアは……」
 考え込むそういって、数秒の間をおいて
「Δ 勇み行く 初陣の 夢の果て あたりでどうかな」
 という、エリアワードを提示した。なんとも、皮肉なワードだった。
「……ん」
 声に少しだけ戸惑いの色が乗る。不覚だったが、致し方ないことだろうとも思ったりする。
「どうかしたの、シン君?」
 流石に不振に思ったのか、シラバスが問いかけてくる。
「あ、いや、その」
 と、曖昧に答える。言い訳というか、理由を取り繕うことができない。実は言ったことのあるエリア、などといえるわけが無いのだから。
「……?」
 ガスパーが、不思議そうにこちらを見ている。
 それに対し、シンは答える。苦し紛れに思いついたことだったが、それなりに筋が通る言い訳になっていると思う。
「『初陣』ってそのまま……」
 という、初心者らしい冗談にしてみたのだ。
「ははっ、確かにそうかもw」
「そっかぁ、そういうことかぁ」
 一応、2人は納得してくれたようだった。とりあえず人をいちいち疑うような人柄ではないのだろう。いい加減騙しているようで気分は良くないが、これも仕方が無いと自分に言い聞かせる。
「えっと、行こう」
 さっきから事を任せすぎだったので、シンから行動を促す。初心者講座をはじめてくれれば、こちらもボロを出すことは無い。戦闘のコツを思い出せたとしても、なかなか筋がいい初心者、程度で済むだろう。そも、自分が初心者でなくてもPCはまるっきり初期の状態なのだから。
「そだね。行こうか。アイテムはボクとガスパーが揃えてあるから、心配しないでね」
「おいらも、精一杯頑張るぞぉ」
 そうして、2人のメンバーアドレスを貰い、パーティに誘う。パーティを組む際は、このメンバーアドレスが必要となる。これを持っていれば、互いがゲームをプレイしていればメッセージをやり取りすることもできる。
 先ほど教えてもらったエリアワードを選択し、カオスゲートより転送を開始する。
「それじゃあ、僕たちの最初の冒険へ!」
「レッツ・ゴー!!なんだぞぉ」
 威勢のいい元気な声とともに、エリアへ、シン、シラバス、ガスパーは転送された。

新しい頼れる仲間を連れて、『世界』を踏む。



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第三章『繋がり』

「すごいよ! レンゲキ決まったね!」
「いっけぇ、なんだぞぉ!!」
 後方で、シラバスとガスパーが応援してくれている。今はレンゲキを決めたところだ。
 レンゲキによってパワーアップしたスキル『疾風双刃』の強力な一撃に、モンスターは力なく倒れた。
「やったぁ! やったねシン!」
「初心者とは思えないんだぞぉ!」
 2人が褒めてくれている。いくらなんでも褒めすぎだと思うほどに。たかがレンゲキを一回決めただけなのだが、ここまで褒められると、さすがに照れてしまう。
「そう、かな」
 こういったとき、どういう顔をすればいいか良くわからないし、なんていえばいいのかもわからないので、ぎこちない声になってしまう。
「そんなことないよ、ホントに上手い!」
「ホントに初めてなのかぁ?」
 本当に褒めすぎだと思うのだが、褒めるな、などというわけにも行かず、
「こういうのはたくさんやったことあるし……」
 まさか今更2ndだとばらす訳にもいかないので、適当な言い訳をする。言い訳だが、事実でもあるので嘘ではない。
「そなの?」
 とガスパー。
「へぇ、どんなのやったことあるの?」
 とシラバス。
「えと……」
 シンはパソコンの横にいくつも積まれた、ゲームソフトのパッケージを見て、そのうちのひとつを挙げる。母親以外の家族はゲームは上級者といえるほどに腕が立つ、というゲーム好きなのである。シンも例外なく含まれ、今や学校のクラスメイトにシンにかなう相手は居ない。
「ん、えっと……」
 適当にソフトの名前を挙げると、シラバスはそれを知っていたらしく、食いついてきた。ガスパーは知らなかったらしく、シラバスに説明を受けながら聞いている。
「へぇ、じゃあゲーム自体は結構得意なんだね、シン君は」
 意外な風で言うシラバス。しかし、それはそれでさっきまでのプレイが上手く言っていることにも納得してくれている様でもある。予期せずさらに言い訳ができたようだ。
 そこから、なんとなしに3人の話題に話が広がり、シラバスとガスパーはこのゲームであった出来事や、思い出なんかを、シンが聞く、という形になる。
 話をしばらく聞いていると、シラバスとガスパーには仲のいいメンバーが数多く居ることがわかる。その相手の名前は知ることができなかった。意図的に名前を出すことを避けているようにも感じた。だがその人物には大きな信頼と尊敬の念があることは間違いないといいきれるくらい知ることはできる。まあ隠そうとしているなら聞かないし、こちらも隠し事をしているのでおあいこだ。
「でさ、そのときクーンさんがね」
 しかし、そんな中でも何度も名前の出てくる人物が居た。クーンというらしいその人は、この2人にずいぶんと信頼されているとよく分かった。きっと、兄貴分のような存在なのだろう。クーンという人物の話をするときは、2人とも、自然に、無意識に微笑んでいる。ただ、その内容が女性関係の話ばかりなのが、2人が時々呆れるような表情をする理由だろう。
 しばし、そんな話を繰り返していると、ふとシンが気づく。
「あ、あの……さ」
 気づいた事が気づいた事だったので、言いにくいのだが、気づいてしまった以上言わなくてはならない。
「え? どうしたの?」
「何かあったのかぁ?」
 シンも、話に入り込んでしまったのは気づいていた。気づいていたのだが、この会話を楽しんでいたのだろう。もうずいぶんと、時間が過ぎていた。
「……そろそろ、ミッションクリア、したほうが、いいん、じゃ、ないか、な」
 途切れ途切れで何とか言い終えるが、言い終わった瞬間、はっとしたように場が固まる。言いにくいことを言っただけに、言葉が続かない。
「…………」
 しばし、沈黙が流れる。
 そっと、パソコンの横にある小さなデジタル時計に目をそらす。すでに、エリアへと転送してから、2時間が経過していた。最初のうちは、しばらくモンスターを倒していたので、30分は経っていたとしても、かれこれ1時間以上は話し込んでいたことになる。
「……えと」
 シンがもう一度遠慮がちに言う。この場を動かす言葉が見つからない。気まずい雰囲気、というものではなく。これは、そう。
「えっと、どしよか?」
 3人が3人とも、自分たちに心底呆れかえっているのだ。
「と、とりあえず、ミッションだけはぁ、クリアしないと」
 ガスパーがとりあえずやるべき案を出す。それは正論で、間違いなく今からしなくてはならないこと。
「そ、そだね、それだけやっちゃおうか」
 3人は、ぎこちなく話しながら、立ち上がり、近くの祭壇へと向かう。この後のシラバスとガスパーの説明も、どこかぎこちなかった。
「よし、これで2つ目の『証の欠片』ゲットだね!」
「ガンガンいっちゃうんだぞぉ」
 それでも、持ち前の明るさからか、2人はすぐに持ち直した。そんな2人と一緒に居るのだから、シンもすぐにぎこちなさは消える。
 そして。


「じゃあ、僕たちはこれで」
「またねぇ~、なんだぞぉ」
 エリアのミッションをクリアし、マク・アヌへ戻り、しばし話をした後、シラバスとガスパーが手を振りながらログアウトしていく。これから2人は用事があるらしい。
「……また」
 シンは、手を振り、短く言う。たぶん、2人には聞こえなかっただろう。
「さて、と」
 シラバスとガスパーとは別れたが、シンにはレベル上げをする必要がある。
さっきのエリアで、レベル5には達したものの、十分な行動をするには、まだまだである。
 ふと、シンはメニューを開き、アイテム画面を見る。
「なんか、貰っちゃったな」
 そこには、今日インしたばかりの初心者(だとする)には少々豪華なアイテムが並んでいた。
内容は、癒しの水、平癒の水、気魂、匠の気魂、個黄泉返りの薬が各種数個、である。
 本来は、モンスターと戦闘、倒して所持金を増やし、ショップでアイテムを買う。とするのだが、戦闘でアイテムが必要になってくるという、無限ループに悩まされるのが初心者なのである。パーティを組めば倒しにくい敵も倒せるのだろうが、レベルの低い初心者では組んでくれる相手などそう多くは無い。シラバスとガスパーのような初心者支援を目的とするPCも、少なくはないが多くもないのだから。それからすればこのアイテムの数は、かなり助かる量である。
 これらは、シラバスに譲ってもらったものであるのだが、シンは初心者ではないため、騙し取ったような罪悪感が残る。
「せっかくくれたし、応えないと」
 とりあえずポジティブに捉え、レベル上げの為のエリアへ向かうため、エリアワードを入力する。


「ん」
 エリアに着くと、さっそくモンスターを発見する。ゴブリンと呼ばれる、メジャーな種類。正直に、悪く、遠慮なしに言ってしまえば、単なる雑魚モンスターである。
「南……」
 方角の確認をしつつ、モンスターの背後へとまわる。モンスターに気付かれず、背後から攻撃することができれば、不意打ちとして、先制攻撃することができ、戦闘を有利に運ぶことができる。
「はっ」
 狙い通り、不意打ちは成功する。ついでに狙っていた、吹っ飛んだ一体をもう一体に当てることにも成功する。
『疾風双刃』
 画面上に大きく表示され、見事にモンスターにヒットする。こういった戦闘を、何度か繰り返し、確実にレベルを上げていく。
「……」
 シラバスたちに貰ったアイテムは、活躍しない。
 シンはまったくの無傷のまま、双剣を振るい、モンスターを殲滅する。
 他のPCは誰もいない。一言もしゃべらず、戦闘を繰り返す。
 エリアワードを入力し、モンスターと戦闘をし、タウンへ戻り、すぐにエリアワードを入力する。

 レベルは少しづつ、確実にあがっていく。8、10、13、19、22、30……
 時折ログアウトして、BBSでワードを集める。

 どうせ、送って来る相手はいない。だから、メールチェックはほとんどしない。
 どうせ、組んでくれる相手はいない。だから、パーティは組もうとしない。
 どうせ、トレードする相手はいない。だから、アイテムは溜まれば捨てていく。
 どうせ、喜び合ってくれる、仲間はいない。だから、レベルが上がっても喜ばない。

 延々とレベル上げを繰り返す。36、39、42、47、50、そして、55……
 時折ログアウトして、BBSでイベントの情報を集める。

 どうせ、送ってやる相手もいない。だから、メールチェックはイベントがある時のみ。
 どうせ、組んでやる相手もいない。だから、パーティは組もうとしない。
 どうせ、プレゼントする相手はいない。だから、アイテムは溜まれば捨てていく。
 どうせ、スキルで守ってやれる、仲間もいない。だから、スキルを習得しても、嬉しくない。


数日後には、レベルは1stに追いついていた。

シラバスたちに貰ったアイテムは、活躍しない。


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