OLYMPUS OM-4
OLYMPUS OM-4 + ZUIKO 40mm F2 MC
勝手にインプレッション
「OMのレンズは良いかもしれない」
エンゾーがそんな感想を持ったのは、エイ出版のムック本で、往年の傑作コンパクトカメラ・XAによって撮られた一枚の写真を見たことに始まる。そこには、薄曇りの高原で横たわる、一頭のヤギが写し取られていた。驚いたのは、一見なんの変哲もないネイチャーフォトから伝わってくる「湿度」である。丘陵の緑、どんよりとした空、ヤギの座る大地、そしてそれらを取り巻く空気。そのすべてから、確かな湿り気を感じることが出来た。
とはいえ、見たのが雑誌のグラビア印刷で、しかもコンパクトカメラの描写であるから、それが「あの」ズイコーの傾向だと断じるのもいささか性急な気がして、その時は深く追求しなかった。
そんな時、このブログの古い常連さんである 慈恩さんのページ
で、ズイコーによる作例が多数掲載されていることを知り、さっそく拝見した。そこにはあの、一枚の写真に封じ込められていたのと同じみずみずしさが、確かに存在していた。やはりズイコーは「湿度」を写し取ることの出来る稀有なレンズだったのである。
すっかりズイコーの魅力にはまったエンゾーだったが、それを使うにはボディが必要だ。が、コンパクトな一眼レフにあれほど目がないエンゾーが、唯一OMにだけは手を出さなかったのには理由があった。独特なシャッターダイヤルの形状である。
OMシリーズは、オリンパスを象徴する開発者である米谷美久氏とそのチームが、一眼レフの小型軽量化の極限に挑んだ知彗の結晶と言える。バルナックライカにファインダーを載せただけに等しいミニマムサイズを実現するために、普通なら軍艦部にあるはずのシャッターダイヤルは定位置を追い出され、なんとマウント基部に移動している。いわば必然により導き出されたレイアウトなのだが、エンゾーにはこれが生理的に違和感を覚えるデザインであったため、今までOMに食指が動かなかったのである。
ライカM4との比較。軍艦部の高さは、むしろOM-4の方が低い。
とはいえ、そこに拘泥していては話が先に進まない。思い切って、OMボディを手に入れることにした。OM一桁シリーズは、奇数(1&3)のフルメカニカル機と偶数(2&4)の電子シャッター機に大別される。このうち、1と2はシャッターの最高速が1/1000secで、3と4が1/2000secとなっている。エンゾーのようなぐうたらスナッパーは、出来るだけ自分の仕事を減らしたいので、必然的にOM-4が候補に残った。
OM-4には、前期型と後期型が存在する。外観上の違いは、巻き戻しクランクに白い指標が入り、ベースプレートの電池室カバーとワインダー接点カバーにシルバークロームメッキが施されているのが後期型である。前期型は、両方とも黒い。
両者の違いは電池の持ちで、後期型ではOM-4Tiと同様の電子回路に刷新され、大幅な省エネが実現している。そういうわけで、エンゾーの手元には後期型OM-4がやってくることになった。
まず手に持って驚くのが、そのサイズである。とにかく小さい!もちろんいたずらに小さい訳ではなく、コンタックス139やニコンEMで感じる玩具のような軽さとは無縁で、みっちりと中身が詰まった凝縮感がある。ナリは小さくてもフラッグシップなのである。
そのあたりは、使ってみてもすぐに感じることが出来る。ミラーが盛大にバタつくためスローシャッターが怖くて使えないEMあたりと違い、OM-4は極めて挙動が穏やかである。横走り布幕シャッターのシルキーな感触や、よく抑制されたミラーショック、上品な作動音などは、どこを取っても間違いなく高級機のそれだ。
また、視野率97%・倍率0.84倍を誇るファインダーは、像の大きさとピントの山の掴みやすさ共に申し分なく、マニュアルでのフォーカシングになんの不安もない。よくぞ、あの小さなペンタ部の中にあれだけのファインダーを仕込んだものだと感心してしまう。
露出制御は、ダイレクト測光とマルチスポット測光の二本立て。中でも特徴的なのが、「多分割測光を人間が自分の意思でやるとこうなる」という、マルチスポット測光によるハイライト・シャドーコントロールである。使いこなしには習熟を要するが、馴染めば操りやすい方式と言える。
ただし、マルチスポットにしろダイレクトにしろ、現代の多分割測光と同じような感覚で撮ると、ポジでは結構露出を外す。特に画面内に強い点光源が入るようなシチュエーションでは要注意だ。
レンズを付けて操作してみると、あれほど気になっていたシャッタースピードダイヤルは何の障害にもならなかった。と言うのも、AUTOモードで撮っている限りは普通の絞り優先AE機であり、当たり前だがまったく触る必要がないからだ。さらにズイコーレンズでは、シャッターダイヤルとの混同を避けるため、絞り環がレンズの先端に位置するように設計されている。これはレンジファインダーに慣れ親しんだ者には大変分かりやすく、実際にも使いやすいので、何の違和感もなかった。
マウント基部にあるシャッターダイヤル。ニコマートなどとも類似している。
35mm銀塩一眼レフというジャンル全体から俯瞰してみると、OMはかなり独特なポジショニングのカメラだ。小さいけれど真鍮ボディだから軽くはなく、むしろ必要な頑丈さと信頼性を備え、レンズは小型でも十分明るく高性能で、システムをコンパクトにまとめることが可能である。(そういう意味では、ペンタックスに似ている)
こういう「山椒は小粒でピリリと辛い」というような凝縮感を大事にする製品作りは、日本人の美意識によくマッチしていると思うし、これからも大切にされるべき考え方ではないだろうか。
近年、オリンパスは低迷を続けており、決して楽な経営状況ではない。銀塩時代にAF化に乗り遅れたこと、レンズ交換式一眼レフの市場から一時撤退してしまったことなど、振り返れば寂しい話が多い。フォーサーズ規格もユーザーに広く浸透しているとは言いがたく、前途多難な状況は変わっていない。
しかし最近(2006.10現在)EU圏限定で発売されたフォーサーズの超小型機・ E-400
は、往年のOMシリーズを髣髴とさせるようなコンパクトで薄型のボディに仕上がっていた。今まで「デジタル一眼は銀塩と比較したら分厚くて当たり前」という暗黙の了解があったところに待ったを掛けたE-400は、かの地で高い評価を受けていると聞く。「ないものは作ってしまえ」という米谷イズムが、今も社内に脈々と受け継がれているのを感じるエピソードだ。
家電メーカーに圧されて老舗の光学メーカーが次々と姿を消していく時代にあって、オリンパスにはしぶとく生き残り「他にはない、価値のあるもの」を送り出し続けて欲しいと切に願う。
長所
○レンズも含めて、とにかく小さい。それでいて頑丈な真鍮ボディ。小さくてもフラッグシップ。
○ファインダーの見え味が良い。現代のデジカメでは適うべくもない、ピント合わせの醍醐味がある。
○操る楽しみ満載のギミック。マルチスポット測光は、ぜひ使いこなしたい。
○落ち着いた発色としっとりとした味わいが持ち味のズイコーレンズは、はっきり言ってハマリます。
短所
●OM-1~2までと比較すると、巻き上げの感触などは劣る。
●測光には独特の癖があり、慣れるまではなかなか手ごわい。
●メンテナンスが利かない!!特に電子系が壊れたらd(>◇< )アウト。
●横走りシャッターなので、三脚に固定し電車や車を縦位置で撮ると、平行四辺形に写ってしまう。
超個人的オススメ度
(10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆
偏愛度
(10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆
Yahooオークション出現率
(10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆
*美品はあまり出てこないが気にしないこと。買うなら後期型。