Fancy&Happiness

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第3章


「あの、吉村さんの部屋ってどこですか?」
僕が尋ねると、受付らしき場所にいた女性は愛想良くにっこりと微笑んだ。
「お見舞いですか?でしたら、こちらの用紙にお名前と住所などお書きください。」
用紙とボールペンが僕の前に置かれる。僕はとりあえず言われるままに用紙に記入して彼女に返した。
「ありがとうございます。吉村さんの病室は、そちらの廊下の途中、101号室ですよ。」
示された方向へ足を向ける。
白い内装や広めの廊下、働いている人たちの格好を見ても、どうやらここは病院のようだった。
ゆっくり歩いていくと、すぐに101号室を発見できた。
101号室 吉村 華乃
そう書かれたプレートを見やる。
・・・・よしむら、 はなの・・・?って読むのかな・・・。
僕は意を決して閉められていた扉に手をかけた。

開けた扉の向こう側は、この年の少女がいる場所にしてはあまりに殺風景で。
そんな中、彼女の長い黒髪だけが妙に鮮やかに映った。
ドアの開いた音に彼女が振り返って、僕の顔を見て微笑を浮かべた。
やっぱり、何て愛らしい子なんだろう・・・・
「すいません、足止めをさせてしまって・・・」
少女が本当に申し訳なさそうに頭を下げた。黒髪がさらさらと動く。
「いや、別に用事があったとかじゃないから気にしてなくていいよ」
僕は四葉のクローバーのしおりを彼女に差し出した。彼女はそれを受け取ると、そっと机の上の本に挟んだ。
「それならよかった。・・・あ、申し遅れました。私、吉村 華乃[よしむら かの]って言うんです。」
少女は真っ直ぐに笑みを向けてくる。それがあまりに純粋で、僕にはすごく眩しく見えた。
「僕は、飯沢 空輝[いいざわ あき]。この辺、引っ越してきたばかりでまだよく分からなくてさ・・・・」
僕は改めて室内を見回す。白い壁と天井の広めの部屋にはベットが1つ、冷蔵庫と洗面台。来客用なのか椅子と机もある。
「・・・・・ここって・・・・、病院なの?」
話す話題が無くて、思ったことを口にしてしまった。彼女は一瞬顔をこわばらせたような気がしたが、すぐににっこりと微笑を浮かべた。
「ホスピスですよ。」
「ホスピス・・・・。僕には病院に見えるんだけど、どう違うの・・・?」
彼女は少し悲しそうな顔をした。
その顔が妙に大人びている理由を、僕は彼女の次の言葉で理解した。 4へ続く


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