Fancy&Happiness

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第7章


空輝ちゃんが戻ってくる。その手には車椅子を押していた。
「一緒にちょっと散歩しようか?」
彼はそう言うと、返事を待たずに私の体を軽々と抱き上げて車椅子に乗せた。
私の気持ち、分かってくれたんだ・・・・
それがすごく嬉しくて、知らず知らず微笑んでいた。
空輝ちゃんが窓を開ける。ふわり、と温かくて優しい風が吹きこんだ。
いつもなら、開けた先には青々とした芝生が広がっている。
しかし今は、散った桜の花びらで所々桃色に染まっていた。
「綺麗だね、桜の絨毯みたいだ。」
空輝ちゃんが多少危なっかしい手つきで車椅子を押してくれる。
「本当だね、・・・でももう終わっちゃったんだね・・・・、」
もう桜の木は緑色の新緑に覆われている。
「来年、また咲くよ」
空輝ちゃんは小さくも、はっきりとして声でそう言った。
「きっと、来年も再来年もずっと咲き続けるよ。」
そっと私の前に立った彼。逆行でその表情は伺えない。
・・・・だけど、泣いているような気がした   

「空輝ちゃん・・・・?」
呼ぶと、彼は膝を折った。
見えた顔は涙でぬれてはいなかった。
空輝ちゃんは不思議なくらいに柔和な表情をしていた。
「華乃、」
一瞬何かを言おうと口を開いて、そのあと彼は何も言わずに口を閉じた。
ふっとため息を付いて、少し細めた瞳で私を見つめてくる。
なんだか、空輝ちゃんの想いが痛かったよ、
すごく想われてるって分かったの。
・・・・だけど、一緒にいられる時間はあと僅か。
「ねぇ、空輝ちゃん!」
私は出来る限りの笑みを浮かべるよ
「来年も再来年も、一緒に桜見てくれる?」
だって、空輝ちゃんは私の笑顔が好きって言ってくれたでしょう?
「・・・・もちろん!」
そう答えてくれた空輝ちゃんの笑顔。
大好きだよ...
「ありがとう」 8へ続く



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